55 / 85
55.別れ①
しおりを挟む
穏やかな顔で眠っているアンの枕元に寄り添い髪を何度も優しく梳いている。人払いしたので今この部屋には私とアンの二人しかいない。
最初で最後となる二人だけの時間、番であるアンの甘い香りに惹きつけられ心が温かくなる。
二人だけで仲睦まじく過ごせる時を夢に見ていたあの頃が懐かしい。
狂気に囚われることを恐れ、アンに会えない日々を自傷で紛らわしていた時でも、確かに希望はあった。
『アンが成人したら番として真摯に愛を伝え、寄り添い一緒に歩んで行こう』と。
そうなると信じて疑うことなどなかった。
今考えるとあの時の私は正気ではなかったのだろう。大切な番を殺めてしまう恐怖に取り憑かれ正常な判断をせず、時が経つのをただ待つだけだった。
『なんで…』という後悔しかない。
眠っているアンに優しく話し掛ける。
「最初にあった時を覚えているか?アンは家族に向かって無邪気に笑っていたんだ。本当に嬉しそうにな…。私の番は天使なのかと思ったよ。
この笑顔を守ってあげたい、絶対に幸せにするとその瞬間心に誓ったんだ。
はっはは…もうアンに一目惚れで夢中だったんだ。
番として惹かれたのは私にとって始まりで、この出会いから愛を深めていけることに歓喜していた。アンが私の番として生まれて来てくれたことに心から感謝していたんだ。嘘じゃない…」
微かにアンの瞼が震えたような気がしてそっと閉じられた瞼に口づけを落とすが、目覚めることはなかった。
アンの頬を私から流れ落ちる涙がポツリ、ポツリと濡らしていく。
「それなのに、なんでアンを失うことになったのか…。私が間違えたのは分かっているんだ、…分かっている。
アン、‥‥本当にすまなかった。
愛してしまって…、苦しめてしまって…。
もう終わりにするから、次に目覚めたら苦しいことは何もないから。だから安心してくれ。
温かい家族がアンを待っているんだ、彼らは心から君を愛している。
もう大丈夫だよ、君を傷つけたものは取り除く。
心から笑えるはずだ、最初に会った時の無邪気な笑顔で。
…っ、アン愛している、幸せになってくれ」
アンとの別れを決めたのは自分自身だ。決断に迷いはない…はずなのに嗚咽と涙が止まらない。
見たことがない、これから見ることも無い16歳のアンの無邪気な笑顔を考えると胸が苦しくなる。
早く…アンに笑顔を取り戻さなくては。
誰よりも笑っていて欲しい。
もう少しだからな、…アン。
…待っていてくれ、すぐに終わらせる。
……アン…アン…、幸せになれ…。
アンの傷が開かないようにそっと身体を抱き上げ膝に乗せ、柔らかいその身体を片手で支える。そしてもう片方の手で自分の左の眼孔に指を差し込み竜眼を無理矢理抉り出そうとする。その痛みに顔が歪むが手を止めることはない。
アンに振動が伝わらないように細心の注意を払いながらことを進めていく。
最初で最後となる二人だけの時間、番であるアンの甘い香りに惹きつけられ心が温かくなる。
二人だけで仲睦まじく過ごせる時を夢に見ていたあの頃が懐かしい。
狂気に囚われることを恐れ、アンに会えない日々を自傷で紛らわしていた時でも、確かに希望はあった。
『アンが成人したら番として真摯に愛を伝え、寄り添い一緒に歩んで行こう』と。
そうなると信じて疑うことなどなかった。
今考えるとあの時の私は正気ではなかったのだろう。大切な番を殺めてしまう恐怖に取り憑かれ正常な判断をせず、時が経つのをただ待つだけだった。
『なんで…』という後悔しかない。
眠っているアンに優しく話し掛ける。
「最初にあった時を覚えているか?アンは家族に向かって無邪気に笑っていたんだ。本当に嬉しそうにな…。私の番は天使なのかと思ったよ。
この笑顔を守ってあげたい、絶対に幸せにするとその瞬間心に誓ったんだ。
はっはは…もうアンに一目惚れで夢中だったんだ。
番として惹かれたのは私にとって始まりで、この出会いから愛を深めていけることに歓喜していた。アンが私の番として生まれて来てくれたことに心から感謝していたんだ。嘘じゃない…」
微かにアンの瞼が震えたような気がしてそっと閉じられた瞼に口づけを落とすが、目覚めることはなかった。
アンの頬を私から流れ落ちる涙がポツリ、ポツリと濡らしていく。
「それなのに、なんでアンを失うことになったのか…。私が間違えたのは分かっているんだ、…分かっている。
アン、‥‥本当にすまなかった。
愛してしまって…、苦しめてしまって…。
もう終わりにするから、次に目覚めたら苦しいことは何もないから。だから安心してくれ。
温かい家族がアンを待っているんだ、彼らは心から君を愛している。
もう大丈夫だよ、君を傷つけたものは取り除く。
心から笑えるはずだ、最初に会った時の無邪気な笑顔で。
…っ、アン愛している、幸せになってくれ」
アンとの別れを決めたのは自分自身だ。決断に迷いはない…はずなのに嗚咽と涙が止まらない。
見たことがない、これから見ることも無い16歳のアンの無邪気な笑顔を考えると胸が苦しくなる。
早く…アンに笑顔を取り戻さなくては。
誰よりも笑っていて欲しい。
もう少しだからな、…アン。
…待っていてくれ、すぐに終わらせる。
……アン…アン…、幸せになれ…。
アンの傷が開かないようにそっと身体を抱き上げ膝に乗せ、柔らかいその身体を片手で支える。そしてもう片方の手で自分の左の眼孔に指を差し込み竜眼を無理矢理抉り出そうとする。その痛みに顔が歪むが手を止めることはない。
アンに振動が伝わらないように細心の注意を払いながらことを進めていく。
274
あなたにおすすめの小説
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
【完結】消えた姉の婚約者と結婚しました。愛し愛されたかったけどどうやら無理みたいです
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベアトリーチェは消えた姉の代わりに、姉の婚約者だった公爵家の子息ランスロットと結婚した。
夫とは愛し愛されたいと夢みていたベアトリーチェだったが、夫を見ていてやっぱり無理かもと思いはじめている。
ベアトリーチェはランスロットと愛し愛される夫婦になることを諦め、楽しい次期公爵夫人生活を過ごそうと決めた。
一方夫のランスロットは……。
作者の頭の中の異世界が舞台の緩い設定のお話です。
ご都合主義です。
以前公開していた『政略結婚して次期侯爵夫人になりました。愛し愛されたかったのにどうやら無理みたいです』の改訂版です。少し内容を変更して書き直しています。前のを読んだ方にも楽しんでいただけると嬉しいです。
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる