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72.束の間の夢③
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私はそんなアンに甘えてしまい、ただ子犬を渡して去るだけのはずが一緒に子犬の世話をする為に会う約束までしてしまった。
そして私は笑っていた。自分では気づかなかったがアンから『笑っている顔も素敵だね』と言われて自分が笑っている事に気がつき驚いた。
今まで笑わなかったのではない、笑えなくなっていたのだ。それにもし笑えていたとしても私は笑わなかっただろう、笑うなど人生を楽しむなどもう許されない。
誰かが許しを与えようとしても私は拒絶したはずだ。
『笑っていいんだよ、私が許すから大丈夫』
アンが魔法の言葉を口から紡ぐと、涙が零れ落ちてくる。
いいのだろうか…。
アン、君と一緒に笑っても…。
許してくれる…のか‥‥、こんな私を。
ああ、ア‥ン、君はどれほど周りを幸せにするんだ。
アンの眩しいほどの笑顔が良く見たいのに目の前が霞んでよく見えない。私は泣きながら笑っていたのだ。
それから私とアンはゆっくりとした時間を一緒に過ごすようになった。アンはとにかく真っ直ぐで前をしっかりと見て生きている。自分の想いを素直に言葉にして伝え、誤魔化したりせず分からないことはもう一度訪ねてくる。
『エド』と嬉しそうに呼ばれるのが、好きだった。
番として結ばれることはもうないが、このままの距離で穏やかな時間を過ごせたらと思っていた。
アンの気持ちには気づいていたけれども、それに対して応えることは出来ない。だがこの緩やかで心地よい時間を手離したくもなかった。
‥‥勝手だった。
曖昧な関係を続けて期待を持たせ、自分の満足の為だけに彼女の時間を奪っていた。
そしてそれに気づかないふりをしていた。
だがある日、久しぶりに王宮騎士達の鍛錬に参加しようと騎士団の訓練場に足を運んだ時に騎士達の会話を聞いてしまった。
『なあ、最近働き出した新入り侍女のアンちゃん知っているか?あの子可愛いよな、それに素直で元気でいい子だ』
『そうそう、あんな子をお嫁さんにしたら幸せなんだろうな。いったい誰があの子を射止めるだろうな?』
『俺も立候補したいな。でも競争率凄く高そうだよなー』
『はっはっは、そりゃそうだ。あんないい子はみんな狙っているからな』
それは騎士達の他愛もない会話だった。アンを狙っていると知って怒りに我を忘れそうになる。
何を言っているっ!
‥‥アンは、誰のものでもない!
そうだ、アンは私の‥‥。
その後の言葉に自分を当てはめることは出来ないと我に返る。
そうだ…私はアンを自ら手離した。今更アンに愛を告げる資格はない、この先の未来を一緒に描けないから幸せにすることもない。
私の存在がアンの未来を邪魔している。
そして気づく、自分以外の誰かならアンを幸せに出来ることに。互いに愛を告げ一緒に歩いて行く未来があることに。
このまま私といたらアンはどうなる?私はアンに応えられないくせにアンの未来をこの手でまた潰そうとするのか?
違うと言いたいが、私のやっていることはアンから輝かしい未来を奪うことに他ならなかった。
その場から静かに離れて執務室に籠っているとワンが遊んでくれと膝に乗って顔を舐めてくる。
「なあ、ワン。私はアンにもう会うのは止める、今日で最後にするつもりだ。すまんな、お前もアンに会えるのは今日が最後だ。
アンはこのままだと幸せになれない。
愛を返さない私の傍ではいつか笑えなくなるだろう。そんなアンは見たく…。ワンもそう思うだろう」
「キャンキャン、キャン」
「そうだな潮時だ、もう終わりにしよう。アンには眩しいほどの笑顔が似合う、いつまでも笑っていられるようにしなくてはな…」
‥‥その時隣にいるのは私ではない誰かだ。
そして私は笑っていた。自分では気づかなかったがアンから『笑っている顔も素敵だね』と言われて自分が笑っている事に気がつき驚いた。
今まで笑わなかったのではない、笑えなくなっていたのだ。それにもし笑えていたとしても私は笑わなかっただろう、笑うなど人生を楽しむなどもう許されない。
誰かが許しを与えようとしても私は拒絶したはずだ。
『笑っていいんだよ、私が許すから大丈夫』
アンが魔法の言葉を口から紡ぐと、涙が零れ落ちてくる。
いいのだろうか…。
アン、君と一緒に笑っても…。
許してくれる…のか‥‥、こんな私を。
ああ、ア‥ン、君はどれほど周りを幸せにするんだ。
アンの眩しいほどの笑顔が良く見たいのに目の前が霞んでよく見えない。私は泣きながら笑っていたのだ。
それから私とアンはゆっくりとした時間を一緒に過ごすようになった。アンはとにかく真っ直ぐで前をしっかりと見て生きている。自分の想いを素直に言葉にして伝え、誤魔化したりせず分からないことはもう一度訪ねてくる。
『エド』と嬉しそうに呼ばれるのが、好きだった。
番として結ばれることはもうないが、このままの距離で穏やかな時間を過ごせたらと思っていた。
アンの気持ちには気づいていたけれども、それに対して応えることは出来ない。だがこの緩やかで心地よい時間を手離したくもなかった。
‥‥勝手だった。
曖昧な関係を続けて期待を持たせ、自分の満足の為だけに彼女の時間を奪っていた。
そしてそれに気づかないふりをしていた。
だがある日、久しぶりに王宮騎士達の鍛錬に参加しようと騎士団の訓練場に足を運んだ時に騎士達の会話を聞いてしまった。
『なあ、最近働き出した新入り侍女のアンちゃん知っているか?あの子可愛いよな、それに素直で元気でいい子だ』
『そうそう、あんな子をお嫁さんにしたら幸せなんだろうな。いったい誰があの子を射止めるだろうな?』
『俺も立候補したいな。でも競争率凄く高そうだよなー』
『はっはっは、そりゃそうだ。あんないい子はみんな狙っているからな』
それは騎士達の他愛もない会話だった。アンを狙っていると知って怒りに我を忘れそうになる。
何を言っているっ!
‥‥アンは、誰のものでもない!
そうだ、アンは私の‥‥。
その後の言葉に自分を当てはめることは出来ないと我に返る。
そうだ…私はアンを自ら手離した。今更アンに愛を告げる資格はない、この先の未来を一緒に描けないから幸せにすることもない。
私の存在がアンの未来を邪魔している。
そして気づく、自分以外の誰かならアンを幸せに出来ることに。互いに愛を告げ一緒に歩いて行く未来があることに。
このまま私といたらアンはどうなる?私はアンに応えられないくせにアンの未来をこの手でまた潰そうとするのか?
違うと言いたいが、私のやっていることはアンから輝かしい未来を奪うことに他ならなかった。
その場から静かに離れて執務室に籠っているとワンが遊んでくれと膝に乗って顔を舐めてくる。
「なあ、ワン。私はアンにもう会うのは止める、今日で最後にするつもりだ。すまんな、お前もアンに会えるのは今日が最後だ。
アンはこのままだと幸せになれない。
愛を返さない私の傍ではいつか笑えなくなるだろう。そんなアンは見たく…。ワンもそう思うだろう」
「キャンキャン、キャン」
「そうだな潮時だ、もう終わりにしよう。アンには眩しいほどの笑顔が似合う、いつまでも笑っていられるようにしなくてはな…」
‥‥その時隣にいるのは私ではない誰かだ。
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