愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと

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24.近づく距離③

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彼が未婚の女性達に囲まれている姿を想像してしまい、なぜか心が落ち着かなくなる。

彼が誰といようとそれは彼の自由であって、自分には関係がないことなのにどうしたのだろうか。

 彼にはこれから相応しい出会いがあるわ。
 邪魔はしたくない。
 私ではない誰かと…いるべきだわ。


彼は侯爵家の嫡男なのだから、いつか相応しい人が彼の隣に立つのは当たり前のこと。

それはきっと遠くない未来に起こる現実。

ちゃんと理解している、それは侯爵家にとっても彼にとっても必要なことだと。

それなのに…その姿を見たくないと思ってしまう。

無関係な自分がそんなことを考えること自体が意味のないこと。

それにヒューイには幸せになって欲しいと思っているのに、なぜ彼の幸せな姿を見ることを私は拒むのだろうか。


なんだか今日の私は変だ。貴族令嬢の私らしくない。

彼の幸せを願いながらそれに反する思いも抱くなんて。


だからなのか口から出てきたのは気の利いた断りの台詞ではなく、自分の過去を考えての後ろ向きな発言だった。


「…離縁した私なんかを連れて行かなくてもヒューイと一緒に参加したい素敵な令嬢はたくさんいるわ」

なんだか拗ねているような言葉。
気遣ってくれた彼に返す言葉ではない。

伯爵令嬢としても人としても失礼な言い方だった。

 こんなことを言うつもりなんてなかったのに…。
 私ったらどうかしているわ。


我に返り言い直そうとするが、その前に彼が口を開いた。

「つまりマリアは噂がある一緒に夜会へは参加したくはないのかな…?
口数の少ない男だと言われている俺と一緒ではつまらないだろうから、断られても仕方がないな…。
残念だが俺はまた一人寂しく夜会に参加しよう」

彼は私を見つめたまま、がっかりした表情を浮かべる。

そんな風に思ってなんかいない。
彼の口から出た『俺となんか』という言葉を今すぐに否定したい。
私が断ったのは彼ではなく、私のほうの問題。
『私なんか』では釣り合わないから断わっただけ。


『本当は彼の…隣にいたい』


私の気持ちを誤解されたくなんかない。



「そんなこと思っていないわ、『俺となんか』と言わないちょうだい。そんな貶めるような言い方は貴方自身であっても許さないわ。だってヒューイは素晴らしい人よ、いつでも真っ直ぐで誰に対しても態度を変えないし、媚もしない。ちゃんと自分自身を持っている。
それに貴方との会話はとても楽しくていつまでも話していたいぐらい。今まで伝えてはいなかったけど、いつも私はそう思っていたのよ。

ヒューイにエスコートして貰えたらとても嬉しいし、貴方となら夜会にだって参加したいと思っているわ!」

思わず大きな声でそう言ってしまった。
人は慌てると偽りではなく本音が出てしまう。

ハッと我に返った時にはもう遅かった。
口から出た言葉は取り返しがつかないのだから。






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(作者のひとり言)
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