12 / 29
12.シンデレラは困惑する…②
しおりを挟む
継母と義姉達はどちらが舞踏会で見初められたのかと考えながら、王子の言葉を今か今かと待っていた。
その目は輝き、自分達が王子妃または王族の親戚になることを疑ってはいない。継母にとってはどちらの娘が王子の妻になろうと喜ばしいことには変わりがないのだから。
「突然の訪問で申し訳ない。訪問の目的は噂で察しているとは思うが、その通りだ。今日は運命の相手を訪ねてここまで来た」
スナイル王子の口から出た言葉は継母達の期待通りのものだった。継母は『まあまあ光栄ですわ』と喜びながら義姉達に前に出るように促す。
二人が我先にと王子の前に出ようとするが、スナイル王子は義姉達の横を通り過ぎ、部屋の隅へと歩いていく。
そこにはことの成り行きを観察している私が立っていた。
私の目の前には完璧な王子の仮面を被ったスナイル王子が微笑みながら立っている。
なぜ彼が前に???
まさかこの前のことを話していないか心配になったのだろうか。
どうやら王子は心配症なのかもしれない。
『大丈夫ですから』という意味を込めて笑顔を浮かべて軽く頷き、そっと右に3歩ずれて立ち位置変える。
すると彼も私の動きに合わせてサッサッとずれる。
む、むむっ…。
どうしてついてくるの??
あっちに行ってください、大丈夫ですから。
また3歩右にずれると彼も間髪入れずについて来る。
困ったことにもう右には壁しかないのでずれることは出来ない。
どうしたものかと思っていると、いきなり王子が跪き私の手を取って話し出す。
「探しましたよリリミア嬢。あの日私の心を奪ったくせに名前も告げずに去ってしまうなんて狡い人ですね」
「え、ええーーー?!」
おかしい、絶対におかしいわ!
名前も告げずどころかしっかり名乗ったのに。
それにグサッと言葉の刃で……。
そもそも心を奪うなんていう甘い雰囲気は一切なかった。痛いところをついた記憶はあるけれども…。
困惑するリリミアと同じく、継母も戸惑っていた。
「スナイル王子様、なにかのお間違いではないですか!リリミアはあの日、お肉を買い…ではなく大切な用事があって出掛けておりました。なのであの舞踏会には参加しておりません、参加していたのはこちらにいる二人の娘です。どうかよくご覧になってくださいませ!!」
継母の言葉が正しいかどうかこの際どうでもいい。とにかく訳が分からないこの状況から逃れようと私は何度も頷く。
「ムーア子爵夫人、間違いではありません。私の想い人はリリミア嬢です。その証拠にきっとあの日落としていったガラスの靴がピッタリと合うことでしょう」
一体なんのことだろう。
私はあの日ちゃんと革靴を履いて帰ってきたし、そもそもガラスの靴なんて持っていないので一度だって履いたことはない。
「あの…、私はガラスの靴なんて持っていないませんけど…」
とにかく本当のことを伝える。
「リリミア嬢、君はなんて奥ゆかしいんだ。子爵令嬢だからってそんなに遠慮することはないんだ、身分なんて関係ない。さあ履いてみてくれ」
『お前が言うなっですわ』と心のなかでつっこんでみる。
なぜか全然話が通じない。というか聞くつもりはないようで、この状況についていけない私に構うことなく『ケイ、靴を出してくれ』と言ってガラスの靴を受け取り、王子自ら私の右足にはめていく。
まるでおとぎ話のようにすんなりと入りピッタリで…とはならなかった。
すんなりとは入ったけれども、明らかにサイズが大きい。
ぶかぶかとまではいかなかけれども、歩けばパカッと脱げてしまうだろう。
ふふん、これで決まりね♪
私ではないとはっきりしたわ。
王子の意図は分からないままだけれども、これでこの茶番も終わるとほっとする。
「これではっきりしましたね」
にっこりと微笑みながらそう言うと王子も微笑みを返してくる。
「ああそうだな、君のもので間違いない。
こんなにサイズがピッタリなんだから」
はい???
ちょっと待って、本当に分からないの?
全然合ってないから!
何を言ってるのだろう?
どう見てもサイズは合っていないのは王子にも分かっているはずだ。だって彼が履かせているのだから。
もしかしたら女性の靴のサイズ感は男性には分からないかもしれない。
それならばみんなの前で歩いて、自分のものではないことを証明してみせようと思い歩こうとするが、その前に王子はガラスの靴をさっと脱がせてしまう。
そして立ち上がると『あっ、手が滑った』という言葉とともにガラスの靴を叩きつけるように落とす。
『ガッシャーンーー!!』
床には砕け散って原型を留めていないガラスの靴の破片。
「あっ、すまない。君に再び逢えた喜びから緊張しているようだ」
しれっとそう言う王子。
その表情はすまないと思っているようには見えない。それに緊張なんて微塵も感じられない。
これはうっかりではなく、明らかに故意だろう。
な、なにをしてるのよーーー!
この馬鹿王子ーーーー。
その目は輝き、自分達が王子妃または王族の親戚になることを疑ってはいない。継母にとってはどちらの娘が王子の妻になろうと喜ばしいことには変わりがないのだから。
「突然の訪問で申し訳ない。訪問の目的は噂で察しているとは思うが、その通りだ。今日は運命の相手を訪ねてここまで来た」
スナイル王子の口から出た言葉は継母達の期待通りのものだった。継母は『まあまあ光栄ですわ』と喜びながら義姉達に前に出るように促す。
二人が我先にと王子の前に出ようとするが、スナイル王子は義姉達の横を通り過ぎ、部屋の隅へと歩いていく。
そこにはことの成り行きを観察している私が立っていた。
私の目の前には完璧な王子の仮面を被ったスナイル王子が微笑みながら立っている。
なぜ彼が前に???
まさかこの前のことを話していないか心配になったのだろうか。
どうやら王子は心配症なのかもしれない。
『大丈夫ですから』という意味を込めて笑顔を浮かべて軽く頷き、そっと右に3歩ずれて立ち位置変える。
すると彼も私の動きに合わせてサッサッとずれる。
む、むむっ…。
どうしてついてくるの??
あっちに行ってください、大丈夫ですから。
また3歩右にずれると彼も間髪入れずについて来る。
困ったことにもう右には壁しかないのでずれることは出来ない。
どうしたものかと思っていると、いきなり王子が跪き私の手を取って話し出す。
「探しましたよリリミア嬢。あの日私の心を奪ったくせに名前も告げずに去ってしまうなんて狡い人ですね」
「え、ええーーー?!」
おかしい、絶対におかしいわ!
名前も告げずどころかしっかり名乗ったのに。
それにグサッと言葉の刃で……。
そもそも心を奪うなんていう甘い雰囲気は一切なかった。痛いところをついた記憶はあるけれども…。
困惑するリリミアと同じく、継母も戸惑っていた。
「スナイル王子様、なにかのお間違いではないですか!リリミアはあの日、お肉を買い…ではなく大切な用事があって出掛けておりました。なのであの舞踏会には参加しておりません、参加していたのはこちらにいる二人の娘です。どうかよくご覧になってくださいませ!!」
継母の言葉が正しいかどうかこの際どうでもいい。とにかく訳が分からないこの状況から逃れようと私は何度も頷く。
「ムーア子爵夫人、間違いではありません。私の想い人はリリミア嬢です。その証拠にきっとあの日落としていったガラスの靴がピッタリと合うことでしょう」
一体なんのことだろう。
私はあの日ちゃんと革靴を履いて帰ってきたし、そもそもガラスの靴なんて持っていないので一度だって履いたことはない。
「あの…、私はガラスの靴なんて持っていないませんけど…」
とにかく本当のことを伝える。
「リリミア嬢、君はなんて奥ゆかしいんだ。子爵令嬢だからってそんなに遠慮することはないんだ、身分なんて関係ない。さあ履いてみてくれ」
『お前が言うなっですわ』と心のなかでつっこんでみる。
なぜか全然話が通じない。というか聞くつもりはないようで、この状況についていけない私に構うことなく『ケイ、靴を出してくれ』と言ってガラスの靴を受け取り、王子自ら私の右足にはめていく。
まるでおとぎ話のようにすんなりと入りピッタリで…とはならなかった。
すんなりとは入ったけれども、明らかにサイズが大きい。
ぶかぶかとまではいかなかけれども、歩けばパカッと脱げてしまうだろう。
ふふん、これで決まりね♪
私ではないとはっきりしたわ。
王子の意図は分からないままだけれども、これでこの茶番も終わるとほっとする。
「これではっきりしましたね」
にっこりと微笑みながらそう言うと王子も微笑みを返してくる。
「ああそうだな、君のもので間違いない。
こんなにサイズがピッタリなんだから」
はい???
ちょっと待って、本当に分からないの?
全然合ってないから!
何を言ってるのだろう?
どう見てもサイズは合っていないのは王子にも分かっているはずだ。だって彼が履かせているのだから。
もしかしたら女性の靴のサイズ感は男性には分からないかもしれない。
それならばみんなの前で歩いて、自分のものではないことを証明してみせようと思い歩こうとするが、その前に王子はガラスの靴をさっと脱がせてしまう。
そして立ち上がると『あっ、手が滑った』という言葉とともにガラスの靴を叩きつけるように落とす。
『ガッシャーンーー!!』
床には砕け散って原型を留めていないガラスの靴の破片。
「あっ、すまない。君に再び逢えた喜びから緊張しているようだ」
しれっとそう言う王子。
その表情はすまないと思っているようには見えない。それに緊張なんて微塵も感じられない。
これはうっかりではなく、明らかに故意だろう。
な、なにをしてるのよーーー!
この馬鹿王子ーーーー。
87
あなたにおすすめの小説
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる