英雄の平凡な妻

矢野りと

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27.つかの間の休息①

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屋敷に戻った私達は、泣き疲れて眠ってしまったルイを子供部屋には運ばず、私達の寝室に寝かせることにした。
あんな事があった後では、到底ルイと離れる気持ちになどならなかったからだ。

二人とも寝ているルイの額にそっと口づけをしてから、部屋にあるソファの方へと移動する。

馬車の中でもエディはルイがいるからと何も話してはくれなかった。ルイを寝かしつけた後は二人で話しをすることになるだろう。聞きたい事もあるし、聞いて欲しい事もたくさんある。

---さあ、ちゃんと向き合わなくてわ。

いつもなら隣に座るエディがなぜか私を膝の上に乗せて、しっかりと腕を私の腰に巻き付かせている。…これはちょっと恥ずかしいし話をする体勢でもない。

「エディ、私達は襲われた事やこの三か月間の事など色々と話し合った方がいい事がたくさんあるわ。
ちゃんと話をしましょう」

「……ああ、そうだな」

私が膝の上から降りようと、彼の腕を腰から外すとすぐさまもう片方の腕がなぜか巻き付いてくる。

---……?

『ちょっと恥ずかしいから降ろしてね』と言いながら、また腕を外すと、やはり違う方の腕がすぐに巻き付く。
無言のままそんなやり取りが数回続いている。

…あれ…、エ、エディ?

彼は無茶な事でなければたいがい私の言うことは聞いてくれる。それなのに今はなぜかこんな簡単な願いも聞いてくれない。これは全然無茶なお願いではないはずよね…。

窺うようにエディを見るが、彼は顔を俯かせているので表情は分からない。
だから両手で彼の顔を押さえて上を向かせ私と目が合うようにしてみる。

---えっ、泣きそう…?なのかな。

エディは今まで見たこともないような辛そうな表情で私を真っ直ぐ見つめてくる。

「エディ、大丈夫?」

彼は黙ったまま首を横に振る。そして更に私を抱く腕に力が入る。

「色々と大変な一日だったよね。それに私は知らないけどこの三ヶ月の間に沢山嫌なこともあったのでしょう?
話は後でもいいわ、まずはゆっくり休んで。そうしましょう、ねっ、エディ」

彼の只ならぬ様子が心配で休ませようするが、また首を横に振って下を向いてしまう。

「エディ、どこか怪我をしているの?痛むの?
まずはお医者様に診てもらいましょうか?」

私の問い掛けに、

「…大丈夫だ。キャッシー、聞いて…もらいたい事があ、る」

と言って、私の胸に顔を埋めて声を絞り出すように話しを始めた。

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