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7-10 2人で朝食を

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 翌朝、目を覚ました朱莉は自分がいつの間にか滞在先のホテルのベッドの上で眠っている事に驚いた。
慌てて飛び起き、昨夜の事を思い返してみる。

「え・・・と・・・昨夜は確か九条さんと居酒屋へ行って・・・・。」

グレープフルーツサワーを飲んだところまでは記憶がある。けれど、その後の記憶が朱莉には全く無かった。

「ひょとして・・私酔っぱらって・・お店で寝ちゃった・・・?」

そう言えば何となく記憶がある。
琢磨に背負われてタクシーに乗った曖昧な記憶が・・・。

「た、大変っ!九条さんにとんでもない迷惑を・・・!」

朱莉は部屋の時計を見た。時刻は午前6時を指している。

「この時間なら、まだ寝てるかも・・・。」

朱莉はキャリーケースから着替えを取り出すと、すぐにバスルームへ向いシャワーを浴びた。

そして部屋へ戻るとスマホを手に取り・・。

(7時になったら九条さんにメッセージをいれよう。)

そして朱莉はまず先に母親にメッセージを書いた。

『お母さん、おはよう。今朝の具合はどう?昨日はメッセージ送れなくてごめんね。昨日お店で綺麗な絵ハガキを見つけて買ったから、手紙出すね。』

そして送信すると、ベッドを直してカーテンを開ける。

「・・・私、本当に沖縄に来ちゃったんだ・・・。」

ポツリと言うのだった—。


 その頃琢磨はもう起きていた。そして翔から届いたメッセージを読んでいた。
そこには朱莉の事を心配する内容が書かれていたのだが・・・。

「全く・・・心配しているなら初めからあんな台詞言うなよっ!時々朱莉さんを労わるような言葉を言っておきながら・・・結局最後は冷たい言動を取るから・・よけい朱莉さんを傷付けているって事にあいつは気付いてないのか?」

朝からイライラした気分になった琢磨は部屋に備え付けのコーヒーメーカでブラックコーヒーを淹れながら呟いた。

「朱莉さん・・。もう起きているかな?起きていれば・・ホテルに迎えに行ってここのホテルの朝食を一緒に食べれるんだが・・・。よし、試しに声を掛けてみるか。」

琢磨はスマホを握りしめると、朱莉に電話をかけた。


丁度その頃、朱莉はネットで通信教育を受けていた時、琢磨から着信が入って来た。

「え?九条さん?」

朱莉は慌てて電話に出た。

「もしもし、おはようございます。九条さん。」

『お早う、朱莉さん。良かった・・・起きていたんだね。まだ寝ていたらどうしようかと思っていたんだ。』

「いえ、もう6時には起きていましたから。それで・・。」

朱莉が言いかけると琢磨が遮るように言った。

『それより、朱莉さん。もう朝食は食べた?』

「いえ、まだですけど?」

『それなら良かった。今からそっちのホテルに迎えに行くから準備をしてロビーで待っていてくれるかな?一緒に朝食を食べよう。』

「は、はい。いいですよ。」

『多分30分位で到着できると思うから、悪いけどそこのホテルの朝食はキャンセルしておいて貰えるかい?』

「はい、分かりました。それではお待ちしていますね。」

朱莉は電話を切ると、手早く出掛ける準備を始めた—。

 
 ホテルのフロントで朝食のキャンセルを伝え、ロビーで沖縄の海をぼんやり眺めていると、背後から琢磨に声を掛けられた。

「お待たせ、朱莉さん。」

琢磨は朱莉の元へ急いでやってきたので、少し息切れしながら朱莉に挨拶をした。

「あ、九条さん。昨夜は私、とんでもないご迷惑を・・・。本当に申し訳ございません。」

立ち上がって朱莉は琢磨に頭を下げた。

「いいんだよ、そんな事はちっとも気にしなくて。俺は迷惑なんて少しも思っていないんだから。」

琢磨は笑顔で答える。その姿を見て朱莉は思った。

(九条さん・・・どうして私にそこまで親切にしてくれるんですか・・・?やっぱり翔先輩の・・契約妻・・・だから?)

朱莉は琢磨が自分に好意を寄せているなどという考えは全く頭に浮かばなかった。何故なら25年間生きてきて、異性から好意を寄せられる・・そんな経験が今迄一度も無かったからである。

「それじゃ、行こうか?朱莉さん。」

「はい。ところで・・・何処へ朝食を食べに行くんですか?」

「うん、実は・・・俺が宿泊しているホテルの朝食ビュッフェだよ。」

「それは楽しみですね。嬉しいです。お誘いして頂いて。」

「よし、それじゃ行こうか?」

「はい。」


そして2人は琢磨の宿泊しているホテルへ向かった―。


「す・・・すごい・・・。こんな立派なホテル・・初めて見ます。」

ホテルに到着した朱莉はその豪華な造りに目を見開いた。それを見た琢磨が申し訳なさそうに言う。

「朱莉さん・・・ごめん。俺だけ、こんな立派な部屋へ泊って・・何なら今夜は朱莉さんと俺の宿泊先を交換してもいいよ?」

レストランに向って歩きながら琢磨が言った。

「な、何言ってるんですか、九条さん。そんな・・・とんでもないですよ。私は今のホテルで十分満足しています。だから全然気にされなくて大丈夫ですからね?」

「・・そうかい?」

琢磨は少し目を伏せながら朱莉に言った。



「ほら、ここで朝食を取るんだよ。」

琢磨に案内されたレストランはとても広く、天井からは豪華なシャンデリアが吊り下げらていた。

「な、何だか気後れしてしまいます。私・・こんなカジュアルな服装をしているのに。」

朱莉は自分の服装を見直しながら言った。朱莉の今日の服装は柄の入った白いTシャツにデニムのロングスカートにサンダルとういうスタイルである。

「ハハハ。そんな事無いよ、良く似合ってる。それに俺だってポロシャツ姿だ。他のお客も似たような服装をしているだろう?」

「言われてみれば確かにそうですね・・・。」

「よし、それじゃここのテーブル席にしようか?」

琢磨は窓側の座席を示した。

「はい、そうですね。」

朱莉が座ろうとすると琢磨が言った。

「朱莉さん。ここビュッフェスタイルなんだ。だから好きなメニューを選んで取って来るんだよ。俺はここで待っているから先に行って来るといいうよ。」

「え?でもそれでは・・・。」

朱莉が言いかけると琢磨が言った。

「朝、部屋でコーヒーを飲んでるからそれ程お腹が空いてるわけじゃないんだよ。」

琢磨の言葉に朱莉は納得した。

「そうですか?それではお先に行ってきますね。」



カウンターには様々なおいしそうな料理が並び、どれも目移りするものばかりだった。取りあえず琢磨を待たせてはいけないと思った朱莉は、パンに卵料理、サラダにスープ、ヨーグルトを選んで琢磨の元へ戻りかけた時、2人の女性が琢磨の側で話をしてる姿が目に止まった。

(え?九条さん・・・?あの女の人達は誰だろう?・・・ひょっとして知り合いなのかな?)

どうしよう、席に戻っていいのかどうか朱莉は迷って立ち止まっていると、琢磨が朱莉に向って手を振ってきた。

「朱莉、こっちだ!」

(え??あ、朱莉?!)

いきなり呼び捨てされ、笑顔で呼ばれたので朱莉はすっかり面食らってしまった。そして同時に感じたのは2人の女性の自分を見つめる刺すような視線。

(な、なんであの人達は・・・私を睨んでるんだろう?)

しかし・・・琢磨に呼ばれたからには席に戻るしかない。
朱莉は観念してトレーを持って側に寄るといきなり琢磨が女性達に言った。

「ほら、これで分かりましたか?俺には彼女がいると言いましたよね?どうです?ともて美人でしょう?」

「!」

朱莉はびっくりして、琢磨を見たが彼の視線は女性達の方を向いている。

すると1人の女性が言った。

「本当に彼女さんと一緒だったんですね・・・・。」

「お、お邪魔しました・・・。」

女性達は交互に言うと、足早にその場を立ち去って行く。その姿を見送った琢磨は溜息をついた。

「ありがとう、朱莉さん。お陰で助かったよ。あ、先に食べてて。ちょっと翔から電話がかかって来てるんだ。」

琢磨は朱莉が何か言う前に席を立ってしまった。

「はい。分かりました。」

朱莉が言うと、琢磨は後でねと言って足早にレストランを出て行く。

「食べないで待っていたら・・きっと気をつかうよね?」

朱莉はポツリと言うと、朝食に手を伸ばした。


「お・・・美味しい・・・。」

するとそこへ琢磨が戻って来た。手には朝食の乗ったトレーがある。

「九条さん、電話・・・終わったんですね?」

「ああ、全く・・・参ったよ。朱莉さん、翔から呼び出しだ。朝食が済んだら病院へ来てくれって。」

溜息をつきながら琢磨は言う。

「・・・。」

一瞬朱莉の脳裏に昨日の話が頭をよぎる。そんな朱莉の意図を感じ取ったのか、琢磨が言った。

「朱莉さん・・・嫌なら・・・断ったっていいんだよ?幾ら何でも翔はそこまで朱莉さんを言いなりにする権利は無いんだから。」

琢磨が心配そうに尋ねて来たが、朱莉は言った。

「いいえ、大丈夫です。朝食後、病院へ行きます。」

だって・・・。

朱莉は思った。

それでも・・・翔先輩に会いたい—
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