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10-2 連れて来られた場所は

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「いつもコーヒばかりだったので、こういう飲み物は新鮮さを感じていいものですね?」

京極はトロピカルアイスティーを飲みながら朱莉に言う。

「そうですね・・・。」

朱莉の前にあるのはパッションフルーツのスムージーである。

今2人はオープンカフェに来ていた。京極は美味しそうにトロピカルアイスティーを飲んでいたが、朱莉は飲み物を楽しめるような気分にはとてもなれなかった。
京極に尋ねたい事は山ほどあるのに・・・でも朱莉はそれを尋ねる勇気も無かった。

京極は朱莉が先程から飲み物に手を付けていない事に気が付き、声を掛けた。

「朱莉さん・・・・飲まないのですか?」

「あ、い・いえっ!飲みます。」

朱莉は京極に言われるままにストローに口を付けて飲む。

「・・・。」

黙ってドリンクを飲む朱莉の様子をじっと見つめていた京極が口を開いた。

「美味しいですか?」

「は、はい。美味しいです。」

「朱莉さん・・・。何だか東京にいた時と様子が変わりましたよね。」

何処か寂しげにポツリと京極は言った。

「そんな事は・・・ありませんけど・・・。」

朱莉は俯き加減に言う。

「迷惑でしたか?」

「え?」

「僕が・・・黙って沖縄へ来た事・・ひょっとして朱莉さんは・・迷惑に思っていますか?」

その顔は酷く悲し気だった。

「め、迷惑だなんて・・・・。」

どうして、そんな答えにくい事を京極は尋ねて来るのだろう?京極が何もかも話してくれれば・・・朱莉もこんな不安な気持ちになる事も無かったのに。

「あ、あの京極さん。沖縄には・・・。」

そこで朱莉は言葉を切った。
<何故、沖縄に来たのですか?>
朱莉は本当はそう尋ねたかった。だが・・・多分、京極はこの場では答えてくれないだろう。

「朱莉さん?どうしましたか?」

「い、いえ。京極さんは・・いつ沖縄へいらしたんですか?」

「そうですね・・・。今回の事を言えば・・2日前ですね。」

今回の事を・・・。またしても京極は意味深な言い方をした。

「あ、あの・・今回の事・・・と言うのは・・?」

すると京極が立ち上ると言った。

「では、朱莉さん。そろそろ行きましょうか?これから案内致しますから。」

「案内・・・?」

一体京極は何処へ案内すると言うのだろうか?徐々に朱莉は不安に思って来たが・・・仕方なく席を立った。
カウンターで会計を支払おうとすると、京極がそれを止めた。

「朱莉さん。ここの支払いは僕がします。」

そして京極はスマホを店員に見せ、あっという間に会計を済ませてしまった。
店を出ると朱莉は言った。

「あ、あの・・・すみません。私の分までお支払いして頂いて・・・。」

すると京極は目を丸くして言う。

「何を言ってるのですか?朱莉さん。僕からお誘いしたのですから、当然支払いをするのは僕です。それに・・・。」

言いながら京極は再び朱莉の手を取ると言った。

「朱莉さんからお金を取ろうなんて・・・僕は一度も思った事はありませんから。」

じっと自分の目を見詰める京極に朱莉はどうしたら良いのか分からず困ってしまった。ただ・・・。

「あ、あの・・・京極さん。別にはぐれたりしませんから・・・手を・・離して頂けますか・・・?」

「駄目・・・でしょうか?」

「駄目というか・・・困ります。わ、私は・・・。」

「鳴海翔の妻・・・だからですか?」

「!」

朱莉は思わず顔を上げて京極を見た。

「そんな困った顔・・・しないで下さい。分かりました・・・。手を離します・・
すみませんでした、朱莉さん。」

京極の手が緩んだので、朱莉は遠慮がちに手を引っ込めると言った。

「こ、こんな所・・・もし誰かに見られでもしたら・・お、お互いが困る事になると思うんです。・・・すみません。」

朱莉は申し訳なさそうに頭を下げると言った。

「いえ・・すみません。僕がどうかしていました。南国という場所で・・・つい開放的な気持ちになってしまったのかもしれません。では・・行きましょう。」

京極はクルリと朱莉に背を向けると先に立って歩き出した。朱莉は何となく隣を歩くには気が引けて、京極の後からついて歩く事にした。

 お互い無言のまま、気まずい雰囲気で歩く事、約5分。
京極はあるビルの前で足を止めた。

「着きましたよ、朱莉さん。」

京極はビルを見上げながら言った。

「え・・?ここですか・・・?」

そのビルは小型の3階建てのビルであった。出来て間もないのだろ。ビルにはめられているガラスも光り輝き、外から見える内装も立派なものだった。

「あの・・このビルは一体・・・。」

「中に入りましょうか。」

京極はエントランスの中へと入って行くので、朱莉も慌てて後を追う。

次の瞬間、朱莉は目を見張った。正面エントランスにはビル名が刻まれており、1階から5階までは各フロアに入っている社名が刻まれている。
そして5階には見覚えのある社名が刻まれていた。その名は・・・。

「リベラルテクノロジーコーポレーション・・・?」

ま、まさか・・・。

朱莉は驚いて背後にいた京極を振り向いた。

「あ、あの・・・京極さん・・・。この会社って・・・。」

朱莉は声を震わせて尋ねた。

「ええ、そうです。ここは僕の会社の・・・沖縄支部です。来月からここで稼働予定です。」

京極は笑みを浮かべながら朱莉を見た。

「中へ入りましょう。まだ社員は誰もいないので。」

京極は朱莉の返事も待たずに、エレベーターホールへと向かう。そして5階行のボタンを押すと言った。

「朱莉さん。僕以外でここへ来るのは・・・貴女が初めてですよ。中でコーヒーでも淹れますから、そこでお話をしましょう。」

エレベーターの中で語る京極の話を朱莉は複雑な気持ちで聞いていた。

(分からない・・・東京に住んでいるはずの京極さんが・・何故、沖縄に会社を建てたのですか・・?京極さん・・・貴方は一体何を考えているのですか・・・?)

「朱莉さん、どうしましたか?エレベーター着きましたよ?」

京極に声を掛けられて、朱莉は気が付いた。

「あ、すみません。降ります。」

降りた先は広い廊下が広がり、木目調の壁には大きなドアがあった。

「さあ、どうぞ。朱莉さん。」

京極がドアを開けると、開放感あふれる大きな窓に、広い室内にはオフィス用のデスクと椅子が並べられている。
観葉植物が各ブースに置かれ、居心地の良い洗練されたオフィス空間のように朱莉は感じた。
思わず見惚れていると、背後から京極に声を掛けられた。

「もう、電気や配線、Wi-Fiなども全てセッティング済みなんです。いつでもここで仕事をする事が可能になっています。朱莉さん。こちらへどうぞ。」

京極に促され、朱莉が案内された先はドア付きのパーティーションが置かれている。
壁の一部がガラス張りになっているので、外側から中の様子がうかがえた。
そこはソファが置かれた応接室となっていた。

「こちらでコーヒーでも如何ですか?」

京極はドアを開けると、朱莉に言う。

「は、はい・・・分かりました・・・。」

朱莉は京極に言われるまま、中へと入りソファに座るのを京極は見届けると、少しだけその場を離れた。

そして次に朱莉の元へ戻ってきた時には両手にアイスコーヒーの入ったカップを握りしめていた。
そして朱莉の前に置くと、席に座ると言った。

「やはりここは沖縄ですからね。社内にアイス用のコーヒーサーバーを設置したんですよ。」

京極はにこやかに言うが、朱莉は早く本題に入って欲しいと思い、ついに我慢が出来ず顔を上げて京極を見ると言った。

「お願いします。京極さん・・・どういうことなのか・・教えて頂けませんか?」

「ええ・・・。最初からそのつもりで・・・昨日僕は朱莉さんの前に現れたんです。」

京極はコーヒーを飲むと、朱莉の顔をじっと見つめた—。






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