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4-8 もう少し、このままで・・・

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 朱莉は航の事は口に出さず、京極の事をポツリポツリと語りだした。空港まで見送りに来てくれた事から、沖縄で会った話を・・・。
翔はその話を聞きながら京極に対して激しい怒りを覚えて来た。

(京極・・・!あいつ・・・一体どういうつもりだ?朱莉さんの周りをつきまとって・・怯えさせて・・。あいつのやっている事は・・ストーカーと同じ・・犯罪じゃないか?)

「翔さん・・・・な、何故京極さんが・・沖縄に来た事をご存知だったのですか・・・?」

話し終えると、朱莉が躊躇いがちに翔に尋ねて来た。

「勘だよ。」

「勘・・・?」

「ああ・・・。実はね、朱莉さんが面会に行っている間・・京極正人について少し調べてみたんだよ。起業家だったんだな。リベラルテクノロジーコーポレーションというIT企業を経営している。」

「その通り・・・です。」

「その会社の事を少し調べてみたんだよ。京極は大学2年の時にあの会社を起業していた。今迄自社ビルは持っていなかったようだが・・・今年の夏、突然本社も無いのに支社を立ち上げた。しかも・・・沖縄で・・この季節、朱莉さんは沖縄にいたよね?これは単なる偶然かと思うかい?」

「あ・・・。」

言われてみれば翔の考えを辿って行けば・・・朱莉に行きつくのは必然なのかもしれない。でもこのままでは・・・!朱莉は思った。

「あ、あの・・・翔さん。で、でも信じて下さい・・・。」

朱莉は顔を上げた。

「え・・?信じる・・?何を・・。」

「わ、私と京極さんは・・・何でも無い仲ですから・・。」

「朱莉さん・・・。」

(本当に何でも無いと思っているのか?少なくとも・・・俺から見れば京極はどう考えても朱莉さんに好意を持っているとしか思えないぞ?琢磨の様に・・。ん・・・?待てよ・・・ひょっとすると琢磨も京極の事を・・知っていたのか・・?)

「あ、あの・・・翔さん?」

朱莉は不意に黙り込んでしまった翔を見て不安に思い、声を掛けた。すると翔は言った。

「朱莉さん・・・。突然だけど・・・琢磨とは連絡を取り合っているのかい?」

「い、いいえ・・・。全く取っていません・・。」

「京極と・・琢磨はひょっとして顔見知りだった?」

「え・・・?な、何故それを・・・?」

朱莉の顔が青ざめるのを見て翔はある事を確信した―。

(間違いない・・・!京極は・・きっと朱莉さんに好意を寄せる琢磨が邪魔で・・何らかの手を使って排除したに決まっている!そうでなければ琢磨が自分から朱莉さんと連絡を絶つはずが・・・。)

そこまで考え、翔は思った。

(そう言えば・・・俺も似た様な手を使って・・琢磨を朱莉さんから遠ざけたことがあったな・・。何だ・・やってる事は俺と京極・・・何も変わらないじゃないか・・。)

しかし、次の瞬間朱莉は翔が思ってもいなかった事を口にした。

「翔さんは・・ひょっとすると・・・わ、私と京極さんの仲を疑っているかもしれませんが・・・決して・・・翔さんが疑うような仲ではないと言う事です・・。どうか信じて下さい・・・、お願いです。どうか・・ペナルティだけは・・・。」

朱莉は頭を下げて来た。

「え・・?」

(ペナルティ・・・ペナルティだって・・・?朱莉さんは今迄そんな事を考えてきていたのか・・?確かに最初の契約書では浮気や浮気を疑うような行動は絶対に取らないように書いてあったが・・・、まさかその事を気にして・・浮気だと俺に疑われたくない為に・・今まで京極の事をずっと俺に黙っていたのか?)

未だに俯いて身体を震わせている朱莉に翔は言った。

「朱莉さん、顔を上げてくれ。」

恐る恐る顔を上げた朱莉に翔は言った。

「俺は朱莉さんの事を何も疑ったりはしていない。どうせ京極が勝手に朱莉さんに付きまとっているだけだろう?ただ俺が心配しているのは・・・あの男がどれだけ俺達の秘密を知っているかって事だ。そしてそれをネタに・・・朱莉さんを揺すって来ないか・・それが一番気がかりなんだよ。」

「翔さん・・・・。」

「教えてくれ、朱莉さん。一体京極と言うあの男は・・何者なんだ?彼と朱莉さんはどういう関係が・・・。」

「関係は・・何もありません!」

「朱莉さん・・?」

「信じて下さい・・・。私と・・・京極さんは何の関係もありません。初めて京極さんに会ったのは・・ここに引っ越してからなんです。ドッグランで・・・初めて飼った仔犬を遊ばせていた時に・・出会ったのです・・・。」

真っ青になっている朱莉はとても嘘をついている様には見えなかった。

「そうか・・・ごめん。別に・・・疑っていた訳じゃ無かったんだ。それで・・京極と琢磨も知り合いだったんだな?」

「知り合いと言うか・・偶然会ったんです・・。一緒にネイビーを買って連れ帰ってきた時に・・偶然ここの敷地で出会って・・京極さん・・最初は九条さんの事を翔さんだと勘違いされて・・・。」

「そうか。その時2人は初めて出会ったんだな?」

「はい・・・。初めて会った時から・・・何となく険悪な雰囲気はあったのですが・・・。」

「そうだったのか・・・。」

(琢磨・・・俺には何も言わなかったが・・まさか朱莉さんとウサギを買いに行っていたなんて・・何故黙っていたんだ?お前・・・そんな以前から朱莉さんの事を好きだったのか・・・?)

途端に酷い罪悪感が込み上げて来た。琢磨は今迄どんな気持ちで朱莉に接して来たのかと思うと、申し訳ない気持ちで一杯になってしまった。

(俺と言う偽装夫がいなければ・・・琢磨。お前・・・多分朱莉さんに告白していたんだろうな・・・。)

再び黙り込んでしまった翔を朱莉は不安げな気持ちで見つめていた。

(翔さん・・・何を考えているんだろう・・?)

朱莉はいたたまれなくなり、翔に声を掛けた。

「あ、あの・・・翔さん・・・。」

すると突然翔は立ち上がると言った。

「ご馳走様、朱莉さん。食事も・・コーヒーも・・とても美味しかったよ。」

「あ、は・はい。こちらこそ本日はお世話になりました。ありがとうございます。」

翔が玄関へ向かったので、朱莉も付いて行った。

「朱莉さん・・・。戸締りはしっかりして寝るんだよ?」

「はい、分かりました。あの・・・翔さん・・・。」

朱莉は翔の顔を見上げた。

「何だい?」

「あ・・明日香さんの事なんですけど・・・。」

「明日香?ああ・・・明日香か・・・。」

(何て事だ・・・。明日香との関係が今あやふやになってしまっているのに・・・今後の事を話し合わなくてはならないのに・・・朱莉さんに指摘されるまで俺は明日香の事を忘れていた・・・。京極と琢磨の事・・そして・・・。)

翔は目の前にいる朱莉を見下ろした。

「翔さん?」

朱莉は首を傾げた。

「い、いや。何でも無い・・。そうだな。明日香の事・・何とかしなければ・・。」

髪をかきあげながら翔はため息をつくと朱莉が言った。

「あの・・・長野へ・・直接行かれてみてはいかがですか?電話で話すよりも・・まずは直接行ってお話をするのが一番早い解決方法だと思うのですが・・・。」

「・・・。」

しかし翔は返事をせず、黙って話を聞いている。

「翔さん・・?」

その時、翔は思った。明日香の事は・・・もうこのままにしておいてもいいのでは無いだろうか・・・?今は朱莉とこのままの関係が続けばいいのに・・・と。

「朱莉さん・・・。」

翔は朱莉の肩に手を置くと言った―。

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