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5-14 夜の話し合い
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20時―
京極の億ションのインターホンが鳴った。モニター画面を見るとそこには帽子を目深に被った姫宮の姿がある。
「やはり来たか。」
小さく呟くと京極は黙ってカギを開けると姫宮の正面の自動ドアが開いた。
「・・・。」
姫宮は無言のまま、中へと入って行った―。
「一体、どういうつもりなの?正人っ!」
開口一番、姫宮は京極をなじった。
「どういうつもりも何も・・・鳴海翔を少し揺さぶりをかけただけだが?」
「何が揺さぶりをかけただけよ・・・。正人のやってる行為は完全な脅迫よ。一歩間違えば犯罪になりかねないわ。」
「そうか?大げさだな?」
京極はコーヒーを淹れると姫宮に差し出した。
「・・・。」
姫宮は黙ってコーヒーを受け取ると、一口飲んで言った。
「副社長に言われたのよ。このメールの出所を探って欲しいって・・しかもこの私に。どう責任を取ってくれるの?このままでは私は秘書の仕事もを辞めざるを得ない・・それどころかもうあの会社にもいられなくなるかもしれない。そうなると正人・・・貴方に情報を流せなくなるわよ?それでもいいの?」
「何だ・・・?静香。お前が俺を脅迫するのか?」
京極は肩をすくめながら言う。
「脅迫?正人は私の言葉を脅迫と捕らえているの?私は一般論を語っているだけよ?」
「そうか・・・。」
京極はコーヒーを手にPCの前に座ると、姫宮がその後を追った。
「ねえ、正人・・・貴方最近おかしいわよ?やり方がエスカレートしているし・・大胆な行動に出始めているわ。一体何をそんなに焦っているの?」
「焦っている・・?俺が?」
「ええ、そうよ。まるで・・・朱莉さんを奪われたくない為に・・邪魔な人間を次々と排除しよとしてるようにしか見えないわ。あの九条琢磨と言い・・安西航と言い・・・・。」
「そうだな・・・でも2人共、俺の思惑通り去って行ってくれた。なのに・・。」
京極はギリリと歯を食いしばった。
「・・・俺の予定では明日香と鳴海翔は愛に溺れ、それが鳴海会長の知る処となり、翔は失脚させられるはずだったのに・・・そして朱莉さんには多額の慰謝料を取らせてあげる様に働きかけ、無事に離婚させたのち、明日香と翔のスキャンダルを世間に公表して鳴海グループのスキャンダルを世間にさらしてやろうと思っていたのに・・まさか2人して俺の思惑とは違う方向に進んでいくとは・・飛んだ誤算だった。」
「何でも自分の思うように事が運ぶとは思わない事ね。いくら人間観察に優れてたって・・・人の心は変わるものよ。」
「そうだな・・・あの安西航が・・・あれ程朱莉さんにほれ込んでいたのに・・まさか前田と付き合う事になると思わなかったよ。」
クックッと笑いながら京極は言う。
「だから・・明日香さんが他の男性に好意を抱くのもおかしくは無いわ。それに・・・翔さんが朱莉さんに惹かれるのも・・ね。」
それを聞くと京極は再び険しい顔になった。
「鳴海翔・・・あいつが一番許せない。朱莉さんをあそこまで酷い扱いをしておきながら・・・急に朱莉さんの魅力に目覚めたのか・・図々しく彼女に触れたり・・挙句に家族になろうと考えてるなんて・・。」
「ねえ・・・正人。貴方のそれは・・・私から言わせると、ただの嫉妬にしか見えないわよ。」
「え・・?嫉妬・・?俺が・・?」
「ええ、そうよ。正人・・貴方は誰よりも朱莉さんの傍にいられる翔さんに嫉妬しているのよ。だから何も見えなくなっている。完全に今の正人は暴走してるわ。」
「暴走・・。」
「いい?私たちはどのくらい時間をかけて・・・鳴海グループに近づいてきたと思ってるの?それを正人の朱莉さんに対する個人的感情で・・今まで築き上げてきた物を全て壊すつもり?もっと冷静になってよ・・・。」
「俺は・・そんなに変わったか?」
京極はポツリと言った。
「そうね・・・。でもある意味人間臭くなったのかもね。」
「そうか。褒め言葉と受け取っておくよ。それで・・・そのメールの出所の件・・・だよな?」
言うと京極はPCを操作すると、プリンターから印刷物が出てきた。
「これを持って行け。」
京極は姫宮にプリントされたA4用紙を渡した。
「これは・・何?」
「俺のPCのダミーのIPアドレスだ。二重三重にダミーを掛けているからこれ以上は調べられない、そう言って手渡せ。これを防ぐにはさらにセキュリティを強化するしかないとでも言っておけばきっと納得するだろう。」
「・・・最初からこうなる事を予想してたの?」
「一応な。でも・・静香には迷惑かけたくないからな。」
「・・・有難う。貰っていくわ。」
そして姫宮は上着を着るのを見ると京極は言った。
「もう帰るのか?」
「ええ、だってもう21時になるもの。」
「・・・ここで一緒に暮らすか?」
「は・・?何を言ってるの?そんな事出来るはずないでしょう?それともどこか別の場所に引っ越してくれるなら考えてもいいけど?」
「・・悪かった、今の話は忘れてくれ。」
京極は肩をすくめながら言った。
「・・・余程朱莉さんの傍を離れたくないのね・・。」
「そうかもな・・・。」
「それじゃ、帰るわ。」
「ああ、気をつけてな。」
そして姫宮は京極の部屋を後にした―。
同時刻―
オハイオ州 朝7時
「え?何だって?航。今何て言った?」
琢磨はモーニング珈琲を飲みながら言った。
『だからー、俺はもう完全に朱莉を諦めたって言ってるんだよ。』
受話器越しの航はどこか投げやりに言う。
「嘘だろう?お前あれ程朱莉さんに惚れ込んでいたじゃないか?」
『まあな・・・色々あって、今は別の女と付き合い始めたんだよ。琢磨は一応俺のライバルだからな。伝えて置こうと思ったのさ。』
「へえ~ライバルねえ・・・。ところで最近そっちで何か変わった事は無かったか?」
『あ!そうだ・・大事な事を思い出した!鳴海翔だよっ!あいつ・・・この間バレンタインの時に朱莉でも明日香でもない別の女と高級レストランで食事してたんだよっ!』
「なに?その話本当か?」
『ああ!それで俺はその店を急いで出て、朱莉の元へ向かったんだ。そして朱莉にその話をしても・・・意外と無反応だった・・・というか、関心が無いみたいだった。』
「何だって?」
琢磨はその話に反応した。
『ああ、自分は書類上の夫婦とういうだけの関係で、鳴海翔に何も言う資格は無いって言ってた。あいつが何処でどんな女性と会っていても・・口を挟める立場では無いって言ってたぞ。』
「まさか・・・信じられないな・・・。朱莉さんは翔の事が好きだったはずなのに・・。」
『だろう?それでついでに明日香の事を話したんだよ、京極に頼まれて調べたって話したら・・・朱莉の奴・・真っ青になって、もう京極とは連絡を取り合わないでと言ってきたんだ。』
「そんなに・・・朱莉さんは怯えていたのか・・・?」
『ああ、かわいそうな位怯えていた・・・。だが、もう俺は朱莉とは・・係われない。大事な奴が出来たからな。・・これ以上泣かせるわけにはいかないんだ。』
「へえ・・・随分その彼女に入れ込んでるんだな?そんなに素敵な彼女なのか?」
『いや、全然。いたって普通だ。朱莉の方が10倍はいい女さ。だけど・・・俺の事、1人の男として見てくれてるし・・俺のせいで沢山傷つけてしまった。だから放っておけなくなったんだよ。』
「そうか・・・。何だ、結局のろけか。」
『そんなんじゃねーよ。だけど・・・俺にはもう朱莉を助けてやれない。だからお前が何とかしてやれよ。』
「・・・お前、今俺が何所にいるのか分かって言ってるのか?」
『オハイオだろう?だけど・・離れていたって・・何かしら助けてやれる事あるんじゃないのか?』
「・・・考えて置くよ。それじゃ、そろそろ切るぞ。こっちはこれから仕事なんでね。」
『ああ、悪かったな。それじゃ。』
そうて航からの電話が切れた。
「くそっ・・・!京極の奴め・・・。」
悔し気に言うと、琢磨は二階堂にメールを打ち始めた―。
京極の億ションのインターホンが鳴った。モニター画面を見るとそこには帽子を目深に被った姫宮の姿がある。
「やはり来たか。」
小さく呟くと京極は黙ってカギを開けると姫宮の正面の自動ドアが開いた。
「・・・。」
姫宮は無言のまま、中へと入って行った―。
「一体、どういうつもりなの?正人っ!」
開口一番、姫宮は京極をなじった。
「どういうつもりも何も・・・鳴海翔を少し揺さぶりをかけただけだが?」
「何が揺さぶりをかけただけよ・・・。正人のやってる行為は完全な脅迫よ。一歩間違えば犯罪になりかねないわ。」
「そうか?大げさだな?」
京極はコーヒーを淹れると姫宮に差し出した。
「・・・。」
姫宮は黙ってコーヒーを受け取ると、一口飲んで言った。
「副社長に言われたのよ。このメールの出所を探って欲しいって・・しかもこの私に。どう責任を取ってくれるの?このままでは私は秘書の仕事もを辞めざるを得ない・・それどころかもうあの会社にもいられなくなるかもしれない。そうなると正人・・・貴方に情報を流せなくなるわよ?それでもいいの?」
「何だ・・・?静香。お前が俺を脅迫するのか?」
京極は肩をすくめながら言う。
「脅迫?正人は私の言葉を脅迫と捕らえているの?私は一般論を語っているだけよ?」
「そうか・・・。」
京極はコーヒーを手にPCの前に座ると、姫宮がその後を追った。
「ねえ、正人・・・貴方最近おかしいわよ?やり方がエスカレートしているし・・大胆な行動に出始めているわ。一体何をそんなに焦っているの?」
「焦っている・・?俺が?」
「ええ、そうよ。まるで・・・朱莉さんを奪われたくない為に・・邪魔な人間を次々と排除しよとしてるようにしか見えないわ。あの九条琢磨と言い・・安西航と言い・・・・。」
「そうだな・・・でも2人共、俺の思惑通り去って行ってくれた。なのに・・。」
京極はギリリと歯を食いしばった。
「・・・俺の予定では明日香と鳴海翔は愛に溺れ、それが鳴海会長の知る処となり、翔は失脚させられるはずだったのに・・・そして朱莉さんには多額の慰謝料を取らせてあげる様に働きかけ、無事に離婚させたのち、明日香と翔のスキャンダルを世間に公表して鳴海グループのスキャンダルを世間にさらしてやろうと思っていたのに・・まさか2人して俺の思惑とは違う方向に進んでいくとは・・飛んだ誤算だった。」
「何でも自分の思うように事が運ぶとは思わない事ね。いくら人間観察に優れてたって・・・人の心は変わるものよ。」
「そうだな・・・あの安西航が・・・あれ程朱莉さんにほれ込んでいたのに・・まさか前田と付き合う事になると思わなかったよ。」
クックッと笑いながら京極は言う。
「だから・・明日香さんが他の男性に好意を抱くのもおかしくは無いわ。それに・・・翔さんが朱莉さんに惹かれるのも・・ね。」
それを聞くと京極は再び険しい顔になった。
「鳴海翔・・・あいつが一番許せない。朱莉さんをあそこまで酷い扱いをしておきながら・・・急に朱莉さんの魅力に目覚めたのか・・図々しく彼女に触れたり・・挙句に家族になろうと考えてるなんて・・。」
「ねえ・・・正人。貴方のそれは・・・私から言わせると、ただの嫉妬にしか見えないわよ。」
「え・・?嫉妬・・?俺が・・?」
「ええ、そうよ。正人・・貴方は誰よりも朱莉さんの傍にいられる翔さんに嫉妬しているのよ。だから何も見えなくなっている。完全に今の正人は暴走してるわ。」
「暴走・・。」
「いい?私たちはどのくらい時間をかけて・・・鳴海グループに近づいてきたと思ってるの?それを正人の朱莉さんに対する個人的感情で・・今まで築き上げてきた物を全て壊すつもり?もっと冷静になってよ・・・。」
「俺は・・そんなに変わったか?」
京極はポツリと言った。
「そうね・・・。でもある意味人間臭くなったのかもね。」
「そうか。褒め言葉と受け取っておくよ。それで・・・そのメールの出所の件・・・だよな?」
言うと京極はPCを操作すると、プリンターから印刷物が出てきた。
「これを持って行け。」
京極は姫宮にプリントされたA4用紙を渡した。
「これは・・何?」
「俺のPCのダミーのIPアドレスだ。二重三重にダミーを掛けているからこれ以上は調べられない、そう言って手渡せ。これを防ぐにはさらにセキュリティを強化するしかないとでも言っておけばきっと納得するだろう。」
「・・・最初からこうなる事を予想してたの?」
「一応な。でも・・静香には迷惑かけたくないからな。」
「・・・有難う。貰っていくわ。」
そして姫宮は上着を着るのを見ると京極は言った。
「もう帰るのか?」
「ええ、だってもう21時になるもの。」
「・・・ここで一緒に暮らすか?」
「は・・?何を言ってるの?そんな事出来るはずないでしょう?それともどこか別の場所に引っ越してくれるなら考えてもいいけど?」
「・・悪かった、今の話は忘れてくれ。」
京極は肩をすくめながら言った。
「・・・余程朱莉さんの傍を離れたくないのね・・。」
「そうかもな・・・。」
「それじゃ、帰るわ。」
「ああ、気をつけてな。」
そして姫宮は京極の部屋を後にした―。
同時刻―
オハイオ州 朝7時
「え?何だって?航。今何て言った?」
琢磨はモーニング珈琲を飲みながら言った。
『だからー、俺はもう完全に朱莉を諦めたって言ってるんだよ。』
受話器越しの航はどこか投げやりに言う。
「嘘だろう?お前あれ程朱莉さんに惚れ込んでいたじゃないか?」
『まあな・・・色々あって、今は別の女と付き合い始めたんだよ。琢磨は一応俺のライバルだからな。伝えて置こうと思ったのさ。』
「へえ~ライバルねえ・・・。ところで最近そっちで何か変わった事は無かったか?」
『あ!そうだ・・大事な事を思い出した!鳴海翔だよっ!あいつ・・・この間バレンタインの時に朱莉でも明日香でもない別の女と高級レストランで食事してたんだよっ!』
「なに?その話本当か?」
『ああ!それで俺はその店を急いで出て、朱莉の元へ向かったんだ。そして朱莉にその話をしても・・・意外と無反応だった・・・というか、関心が無いみたいだった。』
「何だって?」
琢磨はその話に反応した。
『ああ、自分は書類上の夫婦とういうだけの関係で、鳴海翔に何も言う資格は無いって言ってた。あいつが何処でどんな女性と会っていても・・口を挟める立場では無いって言ってたぞ。』
「まさか・・・信じられないな・・・。朱莉さんは翔の事が好きだったはずなのに・・。」
『だろう?それでついでに明日香の事を話したんだよ、京極に頼まれて調べたって話したら・・・朱莉の奴・・真っ青になって、もう京極とは連絡を取り合わないでと言ってきたんだ。』
「そんなに・・・朱莉さんは怯えていたのか・・・?」
『ああ、かわいそうな位怯えていた・・・。だが、もう俺は朱莉とは・・係われない。大事な奴が出来たからな。・・これ以上泣かせるわけにはいかないんだ。』
「へえ・・・随分その彼女に入れ込んでるんだな?そんなに素敵な彼女なのか?」
『いや、全然。いたって普通だ。朱莉の方が10倍はいい女さ。だけど・・・俺の事、1人の男として見てくれてるし・・俺のせいで沢山傷つけてしまった。だから放っておけなくなったんだよ。』
「そうか・・・。何だ、結局のろけか。」
『そんなんじゃねーよ。だけど・・・俺にはもう朱莉を助けてやれない。だからお前が何とかしてやれよ。』
「・・・お前、今俺が何所にいるのか分かって言ってるのか?」
『オハイオだろう?だけど・・離れていたって・・何かしら助けてやれる事あるんじゃないのか?』
「・・・考えて置くよ。それじゃ、そろそろ切るぞ。こっちはこれから仕事なんでね。」
『ああ、悪かったな。それじゃ。』
そうて航からの電話が切れた。
「くそっ・・・!京極の奴め・・・。」
悔し気に言うと、琢磨は二階堂にメールを打ち始めた―。
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