挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
159 / 204

第157話 目覚めたセシル

しおりを挟む
 翌朝9時――

ホテルで朝食を取り、ルークの授乳とおむつ交換を済ませると私はセシルの入院している病室に行く準備を始めた。

セシルの病室では手持ち無沙汰にならないように、本や刺繍の道具、ルークのおむつを作る材料をボストンバッグに詰めると母に声を掛けた。

「お母様、それではセシルの病室に付き添いに行ってきますね」

「ええ、分かったわ。たった今授乳したばかりだから後3時間は大丈夫ね?お昼頃に連れて行くから一緒に食事をしましょう?」

「はい、お母様。ルークのことを宜しくお願いね」

そして眠っているルークにキスをすると、私はボストンバッグを持ってセシルの入院する病室へ向かった――。


****

 病院の総合受付でセシルの病室を尋ねると、やはり義父母が話していた通り特別個室に移動していた。

そこで場所を尋ねた私は早速特別個室へ行くことにした。



「ここがセシルの入院している病室なのね」

特別個室は3階の一番奥の部屋にあり、入り口の扉から他の病室とは別格だった。
重厚そうな木の扉は両開きになっている。

「一応…ノックはした方がいいかしら……?」

セシルは今も眠りについてはいるものの、ノックをするのは礼儀だろう。

コンコン

「失礼します……」

カチャリと扉を開けると、目の前には広々とした部屋が広がり、大きな窓からは病院に植えられた木々が揺れている様子が見えた。

壁も床も真っ白で、寄木張りの床は美しいモザイク柄を描き出している。
病室内には応接セットに、大きなクローゼットが備え付けられていた。

「何て…立派な部屋なのかしら。本当に……ここは病室なのかしら?」

私が今宿泊しているスイートルーム並みの部屋の造りに思わず気後れしてしまいそうになった。

部屋の中に入ると、左奥にベッドが置かれていることに気付いた。

「ひょっとすると…‥‥あのベッドの上にセシルは眠っているのかしら?」

ボストンバッグを持ったままベッドに近付いてみると、やはりそこには体中に包帯を巻かれたセシルがベッドの上に寝かされていた。

「セシル……」

セシルの名を呟くと、私は病室に置かれたソファに座った。

そしてルークのオムツを縫う為に持参してきた裁縫セットと、上質なリネンの生地をボストンバックから取り出すと、早速縫物を始めた。


カチコチカチコチ……

時計の音が静かに秒針を刻んでいる。
私はこの静かな空間で、集中して布おむつを縫っていた時‥‥。


「うぅ~ん‥‥」

セシルの呻く声が聞こえた。

「セシル?!」

まさかこんなに早く目が覚めたのだろうか?

急いでセシルの眠っていたベッドに近付くと、そこには目を開けてボンヤリした表情で天井を見つめているセシルの姿があった。

「セシル?まさか……目が覚めたのね?良かった‥‥」

思わず安堵と嬉しさで目に涙が浮かんだ。

「エルザ‥‥?どうして泣いているんだ?それに一体ここは…?うっ!」

セシルは身体を起こそうとして、痛みに呻いてベッドに身体を沈めた。

「駄目よ!セシル!いきなり起きようとしたら……貴方は馬車事故に遭って大変だったのよ?」

「馬車事故……?俺が……?一体、いつ事故に遭ったんだ?」

「そ、そんな……だって、貴方はコレット様を庇って事故にあったのよ?」

「コレット‥‥誰だって?」

「え……?」

私はセシルの言葉に息を呑んだ――。
しおりを挟む
感想 171

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...