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第163話 義母の頼み
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その日の夕方のことだった。
眠っているルークの傍で私はスタイの刺繍、母はルークのケープを編んでいたその時、扉がノックされる音が聞こえた。
「あら?誰かしら?」
母が顔を上げて扉の方を向いた。
「私が見てくるわ」
縫いかけの刺繍をテーブルの上に置くと、扉へ向かって声を掛けた。
「どちら様でしょうか?」
すると……。
「私よ、デボラよ」
デボラとは義母の名前だ。
「え?お義母様?」
驚いて扉を開けると、そこにはどこか思いつめた義母が扉の前に立っていた。
「ごめんなさい、エルザ。ちょっといいかしら?」
「は?はい……どうぞ?」
義母を部屋に招き入れると、母も驚いた様子で椅子から立ち上がった。
「まぁ……夫人。どうされたのですか?」
「ええ、ちょっと……セシルのことで話があって……」
「どうぞお掛け下さい」
私は部屋に置かれたソファを義母に勧めた。
「ええ。ありがとう」
義母がソファに座ると、テーブルを挟んで私と母がその向かい側に座る。
そして早速尋ねることにした。
「お義母様、セシルのことでお話って‥‥どのようなことでしょうか?」
「ええ。突然なのだけど、明後日セシルは退院することになったのよ」
「え?退院ですか?でもまだセシルはギプスが‥‥」
まさかこんなに早くセシルの退院が決まるとは思ってもいなかった。
「ええ、私も驚いたのだけど‥‥セシルの目も覚めたし、後は骨折の治療をするだけらしいのよ。どのみち入院していても安静にしているだけだし、ギプスは1カ月半は外れないそうだから、自宅療養に切り替えましょうと主治医の先生に言われたのよ。自宅に戻った方が、早く記憶も戻るかもしれないと先生が仰っていたわ。我が家には専属の主治医もいる事だし……それで、明後日退院することが決定したのよ」
「そうだったのですか。でも良かったではありませんか。入院しなくても自宅で治療できるということは、それほど身体の具合が悪くないという事なのでしょうから」
「え、ええ‥‥。そうなのだけど……」
そこで義母は言葉を切り‥‥何か言いたげに私の方をチラチラと見ている。
「あの?お義母様?どうかされましたか?」」
「実はエルザ。貴女に頼みがあるのよ‥‥。セシルが退院したらアンバー家に戻って貰いたいの。あの子は…セシルはエルザのことを妻だと信じて疑っていないのよ。どうかお願い」
義母は頭を下げて来た。
「そ、そんな‥‥夫人!セシルさんはエルザのことを妻と思っているのですよ?それなのにエルザをアンバー家に戻すなんて‥‥!」
母は青くなって義母に訴えた。
「え?ええ‥‥。でも、ただ以前のようにあの屋敷で暮らして欲しいだけなのよ。難しい事かしら?」
義母は首を傾げている。
「そ、それは‥‥…」
けれど、セシルからすれば夫婦なのだから一緒に暮らして当然だ。
逆に別居していれば不自然だと思うに決まっている。
「お願いよ、エルザ。私たちを助けると思って…。この通りよ」
再び頭を下げてくる義母。
私の姓はまだアンバー家なのだ。アンバー家に戻るのが当然なのかもしれない。
「お義母様……」
義母の頼みを……私には断ることは出来なかった――。
眠っているルークの傍で私はスタイの刺繍、母はルークのケープを編んでいたその時、扉がノックされる音が聞こえた。
「あら?誰かしら?」
母が顔を上げて扉の方を向いた。
「私が見てくるわ」
縫いかけの刺繍をテーブルの上に置くと、扉へ向かって声を掛けた。
「どちら様でしょうか?」
すると……。
「私よ、デボラよ」
デボラとは義母の名前だ。
「え?お義母様?」
驚いて扉を開けると、そこにはどこか思いつめた義母が扉の前に立っていた。
「ごめんなさい、エルザ。ちょっといいかしら?」
「は?はい……どうぞ?」
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「まぁ……夫人。どうされたのですか?」
「ええ、ちょっと……セシルのことで話があって……」
「どうぞお掛け下さい」
私は部屋に置かれたソファを義母に勧めた。
「ええ。ありがとう」
義母がソファに座ると、テーブルを挟んで私と母がその向かい側に座る。
そして早速尋ねることにした。
「お義母様、セシルのことでお話って‥‥どのようなことでしょうか?」
「ええ。突然なのだけど、明後日セシルは退院することになったのよ」
「え?退院ですか?でもまだセシルはギプスが‥‥」
まさかこんなに早くセシルの退院が決まるとは思ってもいなかった。
「ええ、私も驚いたのだけど‥‥セシルの目も覚めたし、後は骨折の治療をするだけらしいのよ。どのみち入院していても安静にしているだけだし、ギプスは1カ月半は外れないそうだから、自宅療養に切り替えましょうと主治医の先生に言われたのよ。自宅に戻った方が、早く記憶も戻るかもしれないと先生が仰っていたわ。我が家には専属の主治医もいる事だし……それで、明後日退院することが決定したのよ」
「そうだったのですか。でも良かったではありませんか。入院しなくても自宅で治療できるということは、それほど身体の具合が悪くないという事なのでしょうから」
「え、ええ‥‥。そうなのだけど……」
そこで義母は言葉を切り‥‥何か言いたげに私の方をチラチラと見ている。
「あの?お義母様?どうかされましたか?」」
「実はエルザ。貴女に頼みがあるのよ‥‥。セシルが退院したらアンバー家に戻って貰いたいの。あの子は…セシルはエルザのことを妻だと信じて疑っていないのよ。どうかお願い」
義母は頭を下げて来た。
「そ、そんな‥‥夫人!セシルさんはエルザのことを妻と思っているのですよ?それなのにエルザをアンバー家に戻すなんて‥‥!」
母は青くなって義母に訴えた。
「え?ええ‥‥。でも、ただ以前のようにあの屋敷で暮らして欲しいだけなのよ。難しい事かしら?」
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「そ、それは‥‥…」
けれど、セシルからすれば夫婦なのだから一緒に暮らして当然だ。
逆に別居していれば不自然だと思うに決まっている。
「お願いよ、エルザ。私たちを助けると思って…。この通りよ」
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「お義母様……」
義母の頼みを……私には断ることは出来なかった――。
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