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第167話 主治医との話
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5分程待っていると、扉がカチャリと開かれた。
「お待たせして申し訳ございません」
セシルの主治医の男性医師が現れた。
「いえ、こちらこそお忙しいところ申し訳ございません」
立ち上がって挨拶する。
「どうぞ掛けて下さい」
男性医師に声を掛けられ、着席すると医師も席に座った。
「随分早急ですが、セシルさんは明日退院することに決まりました。まぁ、こちらに入院していても安静にして頂く位ですからね。むしろ退院して自宅に戻られたほうが
記憶が戻る可能性があるかもしれませんから」
「本当にそうだといいのですけど……」
「アンバーさん…」
「先生、私は明日アンバー家にセシルと一緒に戻ることが決まっています。セシルに取って私は彼の妻と認識されているのです。実際は違うのに……。セシルは私に妻として接してくるでしょうけど、私は彼の気持ちに応えることは出来そうにありません。場合によっては突き放してしまうことがあるかもしれない…。セシルを傷つけてしまいそうで…怖いのです」
「エルザさん、でもそれもある意味セシルさんに取っては必要なことかもしれませんよ。何故自分を拒絶するのか原因を考えることで、ふとしたはずみで記憶が戻るかもしれませんから」
「そうなのでしょうか……」
「恐らくセシルさんは馬車事故に遭う前から、何かを忘れたい、逃げたいという現実逃避の気持ちが強かったのではないでしょうか?馬車事故は記憶喪失になるきっかけに過ぎないと思います。現実に向き合う事により、記憶が戻るかもしれません。焦らないことです」
現実逃避の気持ち……。
セシルは一体何から逃げたかったのだろう?フィリップが死んでしまったこと?
それとも…?
「エルザさん」
「はい」
名前を呼ばれて顔を上げた。
「セシルさんは頭部に外傷を負ってはいませんでした。きっとじきに記憶は戻ると思いますよ」
「分かりました。先生」
私は先生に深々と頭を下げた。
やっぱり先生に面談を申し込んで良かった。
少しだけ、落ち込んでいた気持ちが楽になれたから――。
****
病室に戻ると、セシルの為に義母がりんごを剥いているところだった。
「あ、お帰りなさいエルザ」
「ただいま戻りました」
義母に声を掛けられ、返事をした。
「丁度良いところへ戻ってきたわね。これからセシルの車椅子を病院から借りて来こようと思っていたところだったのよ。ちょっと行ってくるわね」
義母が立ち上がったので、私は慌てて声を掛けた。
「あの、車椅子なら私が借りてきます」
「いいのよ、私が行って来るから。それより貴女はセシルを頼むわ」
「は、はい…」
返事をすると、義母はすぐに部屋を出て行ってしまった。
パタン…
扉が閉じられると、広い個室に私とセシル2人きりになった。
気まずい……。
セシルにどう接すればいいか分からなかった。けれど、セシルはそんな私の気持ちなど意に介せず、笑顔を向けてくる。
「エルザ、りんごを食べさせてくれないかな?」
「え?」
「手がまだ痛くてね。いいだろう?」
この間、1人で新聞を読んでいたのに?
その言葉が喉まで出かかったけれども私はそれを飲み込んだ。
セシルは怪我人…労ってあげなければ。
「ええ、分かったわ」
セシルの側に座るとりんごをフォークで刺し、口元に持っていった。
「はい、どうぞ」
「ああ」
セシルはりんごを口に入れ、咀嚼すると笑みを浮かべた。
「うん、美味い。ありがとう」
「食欲はあるようで良かったわ」
私は当たり障りのない返事をしながら、その後もセシルにりんごを食べさせてあげた。
義母が車椅子を持って部屋に戻ってくるまでの間――。
「お待たせして申し訳ございません」
セシルの主治医の男性医師が現れた。
「いえ、こちらこそお忙しいところ申し訳ございません」
立ち上がって挨拶する。
「どうぞ掛けて下さい」
男性医師に声を掛けられ、着席すると医師も席に座った。
「随分早急ですが、セシルさんは明日退院することに決まりました。まぁ、こちらに入院していても安静にして頂く位ですからね。むしろ退院して自宅に戻られたほうが
記憶が戻る可能性があるかもしれませんから」
「本当にそうだといいのですけど……」
「アンバーさん…」
「先生、私は明日アンバー家にセシルと一緒に戻ることが決まっています。セシルに取って私は彼の妻と認識されているのです。実際は違うのに……。セシルは私に妻として接してくるでしょうけど、私は彼の気持ちに応えることは出来そうにありません。場合によっては突き放してしまうことがあるかもしれない…。セシルを傷つけてしまいそうで…怖いのです」
「エルザさん、でもそれもある意味セシルさんに取っては必要なことかもしれませんよ。何故自分を拒絶するのか原因を考えることで、ふとしたはずみで記憶が戻るかもしれませんから」
「そうなのでしょうか……」
「恐らくセシルさんは馬車事故に遭う前から、何かを忘れたい、逃げたいという現実逃避の気持ちが強かったのではないでしょうか?馬車事故は記憶喪失になるきっかけに過ぎないと思います。現実に向き合う事により、記憶が戻るかもしれません。焦らないことです」
現実逃避の気持ち……。
セシルは一体何から逃げたかったのだろう?フィリップが死んでしまったこと?
それとも…?
「エルザさん」
「はい」
名前を呼ばれて顔を上げた。
「セシルさんは頭部に外傷を負ってはいませんでした。きっとじきに記憶は戻ると思いますよ」
「分かりました。先生」
私は先生に深々と頭を下げた。
やっぱり先生に面談を申し込んで良かった。
少しだけ、落ち込んでいた気持ちが楽になれたから――。
****
病室に戻ると、セシルの為に義母がりんごを剥いているところだった。
「あ、お帰りなさいエルザ」
「ただいま戻りました」
義母に声を掛けられ、返事をした。
「丁度良いところへ戻ってきたわね。これからセシルの車椅子を病院から借りて来こようと思っていたところだったのよ。ちょっと行ってくるわね」
義母が立ち上がったので、私は慌てて声を掛けた。
「あの、車椅子なら私が借りてきます」
「いいのよ、私が行って来るから。それより貴女はセシルを頼むわ」
「は、はい…」
返事をすると、義母はすぐに部屋を出て行ってしまった。
パタン…
扉が閉じられると、広い個室に私とセシル2人きりになった。
気まずい……。
セシルにどう接すればいいか分からなかった。けれど、セシルはそんな私の気持ちなど意に介せず、笑顔を向けてくる。
「エルザ、りんごを食べさせてくれないかな?」
「え?」
「手がまだ痛くてね。いいだろう?」
この間、1人で新聞を読んでいたのに?
その言葉が喉まで出かかったけれども私はそれを飲み込んだ。
セシルは怪我人…労ってあげなければ。
「ええ、分かったわ」
セシルの側に座るとりんごをフォークで刺し、口元に持っていった。
「はい、どうぞ」
「ああ」
セシルはりんごを口に入れ、咀嚼すると笑みを浮かべた。
「うん、美味い。ありがとう」
「食欲はあるようで良かったわ」
私は当たり障りのない返事をしながら、その後もセシルにりんごを食べさせてあげた。
義母が車椅子を持って部屋に戻ってくるまでの間――。
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