挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第170話 懐かしい部屋

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「「お帰りなさいませ、エルザ様」」

離れの屋敷に到着し、ルークを抱いて辻馬車から出迎えてくれたのは執事のチャールズさんとメイドのクララだった。

「ありがとうございます。まさかそんな言葉で出迎えられるとは思ってもいませんでした」

礼を述べると、チャールズさんは首を振った。

「いいえ、当然でございます。まだエルザ様はこのお屋敷の方ですから」

「チャールズさん……」

「申し訳ございません。人手が足りず、エルザ様のお出迎えが最低人数になってしまいまいした」

「いいえ、とんでもありません。むしろお忙しい時間にお出迎えをして頂き、心苦しい限りです」

申し訳無さげに頭を下げてくるチャールズさんに首を振る私。

「ではお荷物をお持ち致しましょう。クララ」

チャールズさんはクララに声を掛けた。

「はい」

「2人でエルザ様のお荷物を運ぼう」

「分かりました」

チャールズさんとクララは2人で手分けして私の荷物を持つと、チャールズさんが声を掛けてきた。

「では参りましょうか?エルザ様」

「はい」

そして私は2人に連れられて、数カ月ぶりに離れの『ラベンダーの部屋』へと戻ることになった――。



****


「それでは私はお茶の準備をしてまいりますので、一旦失礼させて頂きますね」

クララは部屋の入り口の前にやってくるとチャールズさんに荷物を託すと、去って行った。

「エルザ様、どうぞお入り下さい」

チャールズさんが扉を開けてくれると、目の前には懐かしい『ラベンダーの部屋』が目に飛び込んできた。

「まあ……」

部屋の中に足を踏み入れ、中をぐるりと見渡した。

「懐かしいわ……」

そこは何一つ、変わりない部屋だった。
壁紙も、カーテンも、家具も何もかも……。

「部屋の内装が何も変わっていないのですね」

チャールズさんに質問した。

「はい、そうです。セシル様に申し使っていましたから」

「え?セシルから?」

それは意外な話だった。
てっきりフィリップからの遺言だと思っていたのに……。

「はい、そうです。ですが、セシル様が仰っておりましたが、どうやらフィリップ様から遺言状を預かっているご様子でした」

「え?セシルから?」

「はい、そうです」

何故セシルに……?私には遺言状は無いのだろうか?

「でも、今のセシルには遺言状の話をしても無理でしょうね……」

「そうですね……ですがセシル様も屋敷に戻られましたので、今に記憶が戻るのでは無いでしょうか?」

「ええ、そうですね。それならいいのですけど……」

「それではエルザ様。本日の昼食はどうされますか?よろしければこちらのお部屋に御用意致しましょうか?」

「ルークもいるので、出来ればこちらのお部屋に用意して頂けますか?」

「はい、かしこまりました。それでは一度下がらせて頂きますね。失礼致します」

チャールズさんは頭を下げると部屋を出て行った。


パタン……

扉が閉ざされると、ようやく一息着くことが出来た。


「私…いつまでセシルの妻のフリをすることなるのかしら……?」

部屋に置かれたソファに身を沈めると、ついため息が口から漏れてしまった――。





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