タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
4 / 152

序章 3

しおりを挟む
 どこまでも長く続くと感じていた薄暗い石畳の廊下は意外なほど短かった。私の前を歩くオスカーが突然立ち止まると、そこにはアーチ型の古びた木のドアがある。

「さあ、悪女アイリス。このドアの向こう側が<裁きの間>だ。代々、この王国で重罪を働いた罪人たちが正義の名の元、裁きを受ける神聖な場所になっている。おや?何だ・・・その生意気そうな目は・・。」

私は無意識のうちにオスカーを睨み付けていたらしく、私を見下ろすオスカーの目に再び暴力的な色が宿った。

「罪人のくせに王族であるこの私にそのような目を向けるとは・・・生意気なっ!」

言うが否や、再び私は頬を思い切り強く引っぱたかれた。あまりの痛みに目から火花が飛び、意識が一瞬飛びそうになる。衝撃でぐらりと大きく後に傾いた所を背後から誰かがささえてきた。その人物は私の幼馴染のレイフ・ランバートであった。

「オスカー様、まだこの者は裁きを受けておりません。あまり顔を腫らした状態で人々の前に連れ出してしまうと、我等の心証を悪くしかねませんのでこの辺でいたぶるのはやめにしておくべきかと存じます。」

オスカーは私を背後から支えたまま言う。

「フン・・・お前、その罪人が幼馴染だから庇いだてしようとしているのか?そんな事をすればお前もこの女の仲間として投獄されるぞ?」

オスカーは腕組みをしたままレイフを睨み付けた。

「いえ、庇うなどと滅相もございません。」

 淡々と話すレイフの言葉に私は絶望した。オスカーに叩かれた時、私を後ろから支えてくれたので、彼は助けになってくれるのでは無いかと淡い期待をしていたが、それは叶わぬ願いだと言う事が今のレイフの発言で分かった。
私はこれ以上何か口を開けば、さらにオスカーから暴力を振るわれそうで怖くて言葉を発する事が出来なかった。
鼻からは血の匂いと、何かが垂れている感覚があるし、口の中もさび付いた鉄のような味がする。今の私には鏡も無く、両手を後ろに縛られているので触れて確認することも出来ないが、多分叩かれたショックで私の鼻と口から血が流れているだろう。
それを拭う事すら許されず、こんな無様な姿で観衆の前に引きずり出されるのは屈辱以外の何物でもない。いっそ誰か私を殺してと叫びたくなるくらいだ。

「さあ、行くぞっ!悪女アイリス・イリヤッ!ついに2年に及ぶ悪事が白日の下に晒され、いよいよ裁きの日がやって来たのだっ!」

オスカーの声と同時に目の前の扉が開かれ、首の鎖を強く引っ張られながら私は円形状の部屋の中央まで引きずられてきた。部屋の中心部に立たされると、私の側にいたオスカーやレイフ、その他の騎士達が一斉に身を引き、階段状になっている椅子に座った。
視線をグルリと動かして周囲を見渡すと、大勢の見知ったアカデミーの学生達が集まり、階段状になっている椅子に座り、誰もが冷たい視線で私を見下ろしていた。

「見ろよ・・・あれがアイリス・イリヤだってよ?」
「まあ・・見る影も無いわね・・。」
「とうとうあの女が裁かれるのか。」
「それにしてもあの傷はやりすぎじゃないかしら・・。」

等々彼等のざわめき声が私の耳にも届いてくる。
壇上には神官のような服を身に着けた高齢男性が座っている。そして手にした木槌をカンカンと大きい音を立てて叩くと一斉に周りは水を打ったように静まり返った。その様子を満足げに見る高齢男性。
やがてゴホンと咳ばらいをすると高齢の割に良く響き渡る声で言った。

「では、これより元公爵令嬢アイリス・イリヤの断罪裁判を始めるっ!」

え・?元公爵令嬢・・?私は耳を疑った。その次に続く断罪裁判なんてもうどうでも良いと思えるほどに。

「ま・・待って下さいっ!元公爵令嬢とは一体どう言う事ですか?!私は・・イリヤ家は一体どうなってしまったのですかっ?!」

私は口の中が切れて血が流れているのも構わず叫んだ。すると物凄い勢いでオスカーが立ち上り、私の元へ来ると、首に取り付けられた鎖を強く引っ張った。

「ゴ、ゴホッ!!」

首がしまり、思わず血の混じった咳をしてしまい、オスカーの服に血が飛んだ。

「クッ!こ、こいつ・・・っ!」

オスカーは私に襟首を掴み、手を上げようとして・・周囲の観衆の視線に気づき、手を降ろした。

「お前には今から一切の発言をする事を禁ずるっ!」

オスカーは言うと自分のポケットから布を取りだし、ねじり上げると私の口に猿ぐつわの様にかませると首の後ろで強く結んだ。

「ん~っ!」

もう口を開ける事すら敵わない。オスカーは満足気だった。それらの一連の出来事を黙って見ていた高齢男性が言った。

「それではこれからアイリス・イリヤの罪状を読み上げていく!」

その男の読み上げる罪状はどれもこれも見に覚えの無い物ばかりだった。例えば自分よりも爵位の低い学生を脅迫して町で盗みをはたらかせたり、テスト用紙を盗ませて、事前に内容を知り、常に学年トップを維持してきた・・等々で、その罪は実に30以上あげられた。
しかし、これらの罪は全く身に覚えが無い事ばかりで、まだ可愛げのある罪状であった。だが、次に読み上げられた罪状はあまりにも衝撃的な物だった。

「では・・最後の罪状を読み上げる。今から半年前、罪人アイリス・イリヤはフリードリッヒ3世の次男であり、オスカー王太子の弟君であられるアンソニー王太子と当時お世話係として城に呼ばれていたタバサ・オルフェンを川に突き落として溺れ死なせようとした殺人未遂罪により、その責任としてイリヤ家から公爵家の称号を没収する事とするっ!」

!そ、そんな・・・私には全く何の事か分からない。でもそう言えば・・まだ幼い王子が川に落ちて流されたが無事に助かったという話を聞いた事がある。だけど私は川に等近付いてもいないし、アンソニー王太子の顔すらしらない。こんないい加減な裁判・・・認める訳にはいかないっ!

「うう~ッ!!」

猿ぐつわをかまされた顔を皆に向け、この場を逃げようと、背を向けた途端・・・

「皆の者っ!罪人を逃がすなっ!」

オスカーの声と共に何人もの兵士が私に飛び掛かり、あっという間に床に組み伏せられてしまった。

「さあ・・・お前は今から大罪人の烙印をおされるのだ・・。」

見上げるとオスカーがいつの間にかそこに立っており、熱く熱せられた焼き印を握りしめていた。そして有無を言わさず、いきなり私に右腕に押し付けてきた!

ジュウッ!

一気に皮膚が焼け、あまりの痛みと熱さで私は気を失ってしまった・・。

そして次に目を覚ました時には私は地面の上に転がされていた。

「う・・・。」

ズキズキする腕の痛みに耐えながら見上げると、そこにはオスカーが兵士を連れて立っていた。

「ようやく目が覚めたか?この罪人め。」

「こ、ここは・・・?」

「フンッ!ここはお前のような罪人が送られてくる島だ。死罪にならなかっただけ、ありがたく思え!いいか・・?お前はこの島で一生1人で生きていくのだ。誰の助けも借りずにな・・・。」

「そ、そんな・・・っ!お願いですっ!私は何もしていませんっ!今すぐイリヤ家に返してくださいっ!」

必死でオスカーにしがみ付き・・・私は身体を蹴り飛ばされた。

「ええいっ!触るなっ!汚れるっ!」

「ゴ、ゴホッ!」

あまりの苦しさに思わず咳き込む。

「馬鹿めっ!まだ分からんのか?お前は王族である我が弟アンソニーを殺そうとした謀反の罪でイリヤ家は全員処罰されたっ!最早この国にイリヤという名の公爵家は存在しないのだっ!」

「そ、そんな・・・。」

未だに蹴られたショックで起き上がる事が出来ない。そんな私を冷たい視線で一瞥するとオスカーは兵士達を連れて私を1人残し、島を去って行ってしまった・・・。

そしてここから私の罪人としての長い人生が始まる―。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

[完結]困窮令嬢は幸せを諦めない~守護精霊同士がつがいだったので、王太子からプロポーズされました

緋月らむね
恋愛
この国の貴族の間では人生の進むべき方向へ導いてくれる守護精霊というものが存在していた。守護精霊は、特別な力を持った運命の魔術師に出会うことで、守護精霊を顕現してもらう必要があった。 エイド子爵の娘ローザは、運命の魔術師に出会うことができず、生活が困窮していた。そのため、定期的に子爵領の特産品であるガラス工芸と共に子爵領で採れる粘土で粘土細工アクセサリーを作って、父親のエイド子爵と一緒に王都に行って露店を出していた。 ある時、ローザが王都に行く途中に寄った町の露店で運命の魔術師と出会い、ローザの守護精霊が顕現する。 なんと!ローザの守護精霊は番を持っていた。 番を持つ守護精霊が顕現したローザの人生が思いがけない方向へ進んでいく… 〜読んでいただけてとても嬉しいです、ありがとうございます〜

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

処理中です...