タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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序章 2

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 あれからどれくらい時間が経過したのだろう・・・。石作りの牢屋の窓は壁のかなり高い位置にある為に外の景色を見る事は不可能だし、昼夜の区別もつかない。鉄格子に阻まれた私の目の前には数本の松明が揺らめいているが、薄暗く、揺れる明かりはますます不安な気持ちになって思わず泣きたい気持ちになって来そうになるが、私は誇り高き公爵令嬢アイリス・イリヤ。決して泣き言は言わずに、常に気高く生きろと父から言われて20年間生きてきた。
その代償として自分が可愛げのない女になってしまったのは認めざるを得ない。

この牢屋に入れられた時、自分の着ていた女兵士達にドレスは脱がされ、アクセサリーも靴も何もかもを奪われてしまった。
彼女たちは私のドレスやアクセサリーを目の色を変えて見ていたので、恐らく全て女兵士達に奪われてしまったに違いない。
代わりにあてがわれたのは下着と灰色の膝丈までの囚人服だけであった。靴を履くことも許されず、与えられた尾は薄い毛布1枚のみ。牢屋には衝立があり、その奥にはトイレ替わりに深い穴が掘られている。粗末な木のベッドは藁が敷かれ、シーツ代わりの布が敷かれている。
貴族令嬢として育ってきた私にはとても耐えられる環境では無かったが、どうする事も出来ず、今の状況を受け入れるしかなかった。
食事は多分1日2回。堅いパンに、とっくに冷めて冷たくなってしまったスープのみ。こんな粗末な食事は食べられたはずも無く、私は水だけ飲んで飢えをしのいでいた。

「寒い・・・。」

私は身を縮こませ、薄い毛布にくるまってベッドの上に横たわっていた。いくら季節は春と言っても、石造りの牢屋はひんやりと冷え、どこからかピチャンピチャンと水が垂れて来る音が響き渡っている。

「いつまでここに入っていなければならないの・・・?両親や弟、そしてお兄様は今どうしているの・・・?」

思わず誰に言うともなしに呟くと、カツーンカツーンと何人かの足音がこちらに向かって話声と共に近づいてくる音が聞こえてきた。

そして牢屋の前に現れたのは・・・。

「何だ・・・しぶとい女だな?まだ生きていたのか?まあこのまま牢屋で死なれても困るのだがな・・・。」

思わず背筋が寒くなるくらいの冷たい視線で私を見下ろすのは・・・。

「オ・・・オスカー様・・・。」

震えながらかつての婚約者の名前を呼んだ。

「アイリス、お前を今ここから出してやろう。これから裁判を始めるからな?大罪を犯した悪女アイリス・イリヤを裁くための・・・。」

オスカーの話を私は信じられない思いで聞いていた。

裁判・・?大罪を犯した悪女・・この私が・・・?

「ま、待って下さいっ!オスカー様っ!私には何の事かさっぱり分かりませんっ!」

しかしオスカーは無常に言い放った。

「うるさいっ、黙れっ!貴様には今から一切の弁明を許さない!お前達、ここにいる悪女を<裁きの間>へ引きたてろっ!」

するとオスカーの周りにいた護衛の兵士たちがカギを開けて中へと入って来ると1人の兵士が私の両腕を後ろにねじ上げ、麻のロープで縛り上げた。


「うっ!」

無理矢理ねじり上げられた痛みと、食い込んでくるロープの痛みに思わずうめき声が漏れてしまった。
それを聞いたオスカーの顔が嬉しそうに歪む。

「ほう・・・どんなに悪女でも人並みに痛みは感じるらしいな?」

婚約式の日からあまりにも酷い扱いばかり受けてきた私の心はもう完全に麻痺してしまっていた。今気になるのは自分の家族の事だけだった。

私がこんなところに捕まって・・家族はさぞかし心配しているに違いない・・。

「ああ、これを付けるのを忘れていた。」

突如オスカーが兵士から鎖の付いた首輪を受け取ると、あろう事か私の首に腕を回し、ガチャンと取り付けてしまった。
鉄で出来た首輪は重く、冷たかった。しかし・・仮にも私は公爵令嬢。これでは罪人の上、まるで奴隷のような扱いだ。思わず恨めしそうな目でオスカーを見た。

「何だ?その生意気な目は・・・。」

そして再び激しく平手打ちされ、その衝撃で床に倒れてしまった。

「・・・っ!」

叩かれた頬の痛みと、全身を強く打ち付けた痛みで身体が悲鳴を上げた。目がくらみながらもなんとかオスカーを見上げると、流石に何人かの兵士は眉をしかめて私の事を見下ろしているが、当の本人は冷めた視線で私を見下ろすと言った。
 
「立て。罪人アイリス。」

後ろ手に縛られた身体で立つのは困難だったが、これ以上床に転がっていれば、今度は蹴り飛ばされるかもしれない・・。そう思った私はよろめきながらも何とか必死で立ち上がった。

「よしっ!では行くぞ!」

そして私は首に取り付けられ鎖をオスカーに捕まれ、まるで引きずられるように冷たい石畳を裸足で歩かされた。
身に覚えの無い裁判を受けさせられるために―。


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