タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
27 / 152

第2章 9 オスカーの心情

しおりを挟む
「どうだ?アイリス・イリヤ・・・いや、アイリス。少しは具合良くなったか?」

学生食堂に面したテラスの人気のないベンチに2人並んで座り、オスカーが私に尋ねてきた。

「はい、お陰様で大分良くなりました。」

言いながら私は学生食堂の方をチラリと見た。タバサは・・・・まだ学食にいるのだろうか?
それにしても危ない所だった。あの時私がオスカーを連れ出していなければ・・もし70年前の私と今のタバサの立場が完全に入れ替わっていたとしたら・・・・あの後タバサはオスカーの激しい怒りを買い、突き飛ばされて床に倒れ込んで足をくじき、全治2週間の怪我をしてしまっていただろう。それに何より大勢の学生達の前で飛んだ恥をかかされてしまう事になっていたはずだ。
あれは・・・・屈辱的な出来事だった。

 すると、少しだけ沈黙していたオスカーが口を開いた。

「あの・・・タバサとか言う女・・・。気に入らない。」

「え?」

そんな・・嘘でしょう?
私は信じられない気持ちでオスカーを見上げた。だって70年前はオスカーは私を捨て、タバサを選び・・・そして2人であらぬ罪を被せて私を島流しにしたのに?
私は自分の考えが顔に出ていたのだろうか?オスカーが怪訝そうな顔で語りかけてきた。

「何だ?その意外そうな顔は・・・?」

「い、いえ・・・。てっきり私は・・。」

そこで言葉を切るとオスカーは言った。

「言いたい事があるなら、はっきり言え。」

ここで変に胡麻化せばオスカーの機嫌を損ねかねない。だから私は慎重に言葉を選びながら言った。

「あの・・・タバサ様は・・まだ入学したばかりなのに『天使の美声』を持つ者達しか入れない貴重な聖歌隊のメンバーの1人ですよ・・?それに・・とても外見も可愛らしくて・・た、大抵の男の人なら・・・皆好意を持つのでは無いかと思いまして・・。」

言いながらチラリとオスカーを見た。今の言い方・・気に障らなかっただろうか?
緊張していると、オスカーがため息をついた。

「アイリス・・・。」

18歳とは思えないバリトンの落ち着いたトーンでオスカーは私を見た。

「は、はい。」

「お前の目には・・・俺があの女に興味を持っている用に見えるのか?」

じっと私の目を見て語りかけて来る。
知らなかった・・・。今迄オスカーの荒々しい部分しか見てこなかったので、今目の前にいる落ち着いたオスカーがまるで別人のように私の目に映っている。

「わ、私は・・・。」

どうしよう・・・何と答えれば良いのだろうか・・・?だが、今のオスカーになら自分の素直な気持ちを語っても大丈夫な気がしてきた。

「私には・・・よく分かりません。」

「分からない?何故だ?」

「それは・・・私がオスカー様の事を・・まだ殆ど知らないからです・・。お会いしたのも・・今日が初めて・・ですから・・・」

最期の方は消え入りそうな声になりながら私は制服のスカートをギュッと握り締めた。

「本当は・・・ずっと会いたいと・・思っていたのだ・・・。婚約が決まった時から・・・。」

オスカーは正面にある温室をじっと見つめながら口を開いた。

「え?」

私は思わず耳を疑った。嘘・・・・?オスカーが私に会いたがっていた・・?13年間も・・?
思わずオスカーを見つめると、その視線に気づいたのか私の方を振り向いた。

「信じられないような目で・・俺を見ているな?だが、嘘ではない。本当の事だ・・・。俺は知らなかったんだ。王族より身分が下の者はこちらから声をかけない限り、城に来てはいけないのだと言う事を。誰もそんな事は教えてはくれなかったからな。それなのに・・・あいつ等は・・大事な事は告げずに、俺にこう教えて来たんだ。『婚約者には男の方からは絶対に会いに行ってはいけない』と。そんな決まりは無かった事だって・・アカデミー入学直前に父と家臣達の会話を偶然立ち聞きして知った位だからな。俺は・・・赤毛に生まれたと言うだけで・・・忌み嫌われて来たんだ。だからこそ・・・尚更自分の婚約者に会ってみたいと、ずっと願ってきたのだ。王族では無いお前なら・・俺の事を少しは理解してくれるのでは無いかと思ったんだ・・。」

オスカーはじっと私の目から視線をそらさずに言った―。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

[完結]困窮令嬢は幸せを諦めない~守護精霊同士がつがいだったので、王太子からプロポーズされました

緋月らむね
恋愛
この国の貴族の間では人生の進むべき方向へ導いてくれる守護精霊というものが存在していた。守護精霊は、特別な力を持った運命の魔術師に出会うことで、守護精霊を顕現してもらう必要があった。 エイド子爵の娘ローザは、運命の魔術師に出会うことができず、生活が困窮していた。そのため、定期的に子爵領の特産品であるガラス工芸と共に子爵領で採れる粘土で粘土細工アクセサリーを作って、父親のエイド子爵と一緒に王都に行って露店を出していた。 ある時、ローザが王都に行く途中に寄った町の露店で運命の魔術師と出会い、ローザの守護精霊が顕現する。 なんと!ローザの守護精霊は番を持っていた。 番を持つ守護精霊が顕現したローザの人生が思いがけない方向へ進んでいく… 〜読んでいただけてとても嬉しいです、ありがとうございます〜

悪役令嬢は間違えない

スノウ
恋愛
 王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。  その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。  処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。  処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。  しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。  そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。  ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。  ジゼットは決意する。  次は絶対に間違えない。  処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。  そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。   ────────────    毎日20時頃に投稿します。  お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。  

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

みおな
恋愛
 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・

処理中です...