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第3章 2 満月の夜
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結局、この日はオスカーを交えた4人で夕食を取ることになった。
オスカーは酷く上機嫌で我が領地で作られたワインを美味しそうに飲みながら口数は多くは無かったけれども、城での暮らしぶりをぽつりぽつりと語りながら食事を進めていた。
一方、一番困っていたのは他でも無い私だった。何せ前回の生では私は一度もオスカーと食卓を共にしたことが無かったのだからこれ程緊張した食事を経験するのは今世が初めての経験だった。
何とか胃に食事を収めているような状況で、胃もたれを起こしそうになりながら頑張って食事を終える事が出来た。
やがて食後の紅茶も飲み終えた頃、オスカーが腰を上げた。
「今夜は随分長居をしてしまったな。そろそろ俺はお暇する事にしよう。」
すると、それを聞いたい父と母があからさまにほっとした様子で言った。
「そうだ、アイリス。オスカー様を門までお見送りしてあげなさい。」
「ええ。そうですわね、それがいいわ。」
父と母はとんでもないことを言ってきた。しかし、ここで私は露骨な態度を取るわけにはいかない。
「それではオスカー様、お見送りさせて下さい。」
本当はここで遠慮してもらいたい処だが、オスカーは私の言葉に笑みを浮かべた。
「そうか、アイリスが見送ってくれるのか?」
その笑顔は今まで見たことも無い、無邪気な笑顔で私は一瞬、不覚にもドキリとしてしまった。
父と母はついて来ようとせず、その場で丁寧にオスカーに頭を下げていた。
・・・どうやら父と母は私だけに見送らせようと思っているらしい。しかし本来であればその屋敷の主だけではなく、使用人達も失礼に当たぬように挨拶をしに外へ出るべきだと思うのだが・・・他の使用人たちも明らかにオスカーに怯えているのが分かったので、ここは私1人で見送るべきなのかもしれない。
「そ、それでは・・・オスカー様。参りましょうか・・・。」
オスカーの隣に立ち、エントランスへ向かって長い廊下を歩いていると、オスカーが声を掛けてきた。
「アイリス・・・。」
「はい、何でしょう?」
「明日も迎えの馬車をよこす。これからは毎日俺と一緒にアカデミーへ通うんだ。」
え・・?一体オスカーは何を言い出すのだろうか・・・?私はついうっかり、露骨に嫌そうな顔をしてしまったらしく、オスカーが眉をしかめた。
「何だ・・・?その表情は・・ひょっとすると・・・嫌なのか・・・?」
「い、いえっ!そんな事は決してございません!た、ただ・・戸惑っているだけです・・。私が王族のオスカー様と同じ馬車に乗るのは分不相応では無いかと思ったからです。」
私は咄嗟に嘘をついた。
「戸惑う・・・?何故戸惑う必要がある?お前は俺の婚約者なのだ。まあ・・一応仮の婚約者ではあるが・・。だから別に一緒にアカデミーへ通っても、おかしなことは何もあるまい。」
ここまで言い切られてしまえば、もう私はオスカーの言いなりになるしか無かった。
もし、仮にここで反論でもしようものなら途端にオスカーの怒りを買い、又前世のような結果を招きかねない。
私は・・もう同じ過ちは繰り返さない。
今世の私の目標は、オスカーと円満に婚約破棄を行う事なのだ。そうすれば私は島流しにされる事も無く、父は殺されずにすむ。母だって国王に無理やり奪われる事も無いのだ・・・。
そして今は兵士として戦地へ派遣されている私の2人の兄に・・全寮制の学校へ通っている可愛い弟が・・王族に反旗を翻す事も当然無くなる。
全ては・・・私の行動1つでイリヤ家の未来が変わってしまう事になる。
だから・・何か対策を練らなければ・・・。
「アイリス。」
その時、私はオスカーに名前を呼ばれた。
「はい、オスカー様。」
顔を上げるといつの間にか私達はエントランスを抜け、馬車の前に立っていた。
それはオスカーの馬車であった。
「また・・・明日会おう。」
大きな満月を背にオスカーは私を見て笑みを浮かべ、身をかがめると私の額にキスをしてきた。
「!」
あまりの突然の出来事に私は驚いてオスカーを見た。
するとそこには月明かりの下でもはっきり分かる程に赤く頬を染めたオスカーが私をじっと見下ろしていた―。
オスカーは酷く上機嫌で我が領地で作られたワインを美味しそうに飲みながら口数は多くは無かったけれども、城での暮らしぶりをぽつりぽつりと語りながら食事を進めていた。
一方、一番困っていたのは他でも無い私だった。何せ前回の生では私は一度もオスカーと食卓を共にしたことが無かったのだからこれ程緊張した食事を経験するのは今世が初めての経験だった。
何とか胃に食事を収めているような状況で、胃もたれを起こしそうになりながら頑張って食事を終える事が出来た。
やがて食後の紅茶も飲み終えた頃、オスカーが腰を上げた。
「今夜は随分長居をしてしまったな。そろそろ俺はお暇する事にしよう。」
すると、それを聞いたい父と母があからさまにほっとした様子で言った。
「そうだ、アイリス。オスカー様を門までお見送りしてあげなさい。」
「ええ。そうですわね、それがいいわ。」
父と母はとんでもないことを言ってきた。しかし、ここで私は露骨な態度を取るわけにはいかない。
「それではオスカー様、お見送りさせて下さい。」
本当はここで遠慮してもらいたい処だが、オスカーは私の言葉に笑みを浮かべた。
「そうか、アイリスが見送ってくれるのか?」
その笑顔は今まで見たことも無い、無邪気な笑顔で私は一瞬、不覚にもドキリとしてしまった。
父と母はついて来ようとせず、その場で丁寧にオスカーに頭を下げていた。
・・・どうやら父と母は私だけに見送らせようと思っているらしい。しかし本来であればその屋敷の主だけではなく、使用人達も失礼に当たぬように挨拶をしに外へ出るべきだと思うのだが・・・他の使用人たちも明らかにオスカーに怯えているのが分かったので、ここは私1人で見送るべきなのかもしれない。
「そ、それでは・・・オスカー様。参りましょうか・・・。」
オスカーの隣に立ち、エントランスへ向かって長い廊下を歩いていると、オスカーが声を掛けてきた。
「アイリス・・・。」
「はい、何でしょう?」
「明日も迎えの馬車をよこす。これからは毎日俺と一緒にアカデミーへ通うんだ。」
え・・?一体オスカーは何を言い出すのだろうか・・・?私はついうっかり、露骨に嫌そうな顔をしてしまったらしく、オスカーが眉をしかめた。
「何だ・・・?その表情は・・ひょっとすると・・・嫌なのか・・・?」
「い、いえっ!そんな事は決してございません!た、ただ・・戸惑っているだけです・・。私が王族のオスカー様と同じ馬車に乗るのは分不相応では無いかと思ったからです。」
私は咄嗟に嘘をついた。
「戸惑う・・・?何故戸惑う必要がある?お前は俺の婚約者なのだ。まあ・・一応仮の婚約者ではあるが・・。だから別に一緒にアカデミーへ通っても、おかしなことは何もあるまい。」
ここまで言い切られてしまえば、もう私はオスカーの言いなりになるしか無かった。
もし、仮にここで反論でもしようものなら途端にオスカーの怒りを買い、又前世のような結果を招きかねない。
私は・・もう同じ過ちは繰り返さない。
今世の私の目標は、オスカーと円満に婚約破棄を行う事なのだ。そうすれば私は島流しにされる事も無く、父は殺されずにすむ。母だって国王に無理やり奪われる事も無いのだ・・・。
そして今は兵士として戦地へ派遣されている私の2人の兄に・・全寮制の学校へ通っている可愛い弟が・・王族に反旗を翻す事も当然無くなる。
全ては・・・私の行動1つでイリヤ家の未来が変わってしまう事になる。
だから・・何か対策を練らなければ・・・。
「アイリス。」
その時、私はオスカーに名前を呼ばれた。
「はい、オスカー様。」
顔を上げるといつの間にか私達はエントランスを抜け、馬車の前に立っていた。
それはオスカーの馬車であった。
「また・・・明日会おう。」
大きな満月を背にオスカーは私を見て笑みを浮かべ、身をかがめると私の額にキスをしてきた。
「!」
あまりの突然の出来事に私は驚いてオスカーを見た。
するとそこには月明かりの下でもはっきり分かる程に赤く頬を染めたオスカーが私をじっと見下ろしていた―。
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