17 / 20
第17話 家に行きましょう
しおりを挟む
明日も店で最後のマッチ販売の為に来店する約束をオーナーと交わし、私とハンスは店を出た。
「アンナ。今夜も何処かホテルに泊まるの?」
「いえ? 流石に2晩連続では泊まれませんよ。一応、父親と一緒に暮らしているので心配していると思うので」
真冬の夜に娘をマッチを売らせに家を追い出すような父親が心配しているとは思えない。けれども、さすがに連泊は出来ない。
それに売上金を約半分渡しているのだから、薪ぐらいは買っているだろう。
「そうなんだ……それじゃ、今夜はあの家に帰るんだね? なら送るよ」
「え? でもそれでは悪いですよ。ほら、まだ今夜は21時にもなっていないですし」
「何言ってるんだい? もうすぐ21時になるんだよ? 女の子が1人で歩くような時間じゃないから」
そういうハンスだって、お坊ちゃまが1人で出歩いていいような時間には思えないけれど。
「でも、私を送れば帰りがハンスさんの帰りが遅くなるんじゃありませんか?」
「僕なら大丈夫だよ。父は毎晩仕事で深夜を過ぎないと帰ってこないから」
「そうなんですか?」
知らなかった……市長の仕事って大変なんだ。
「うん、こんなところで立ち止まって話している間にアンナの家に向かったほうがいいよ。行こう」
ハンスは私の手をつなぐと、歩きはじめた。
「え? ちょ、ちょっとハンスさん!?」
私の手を繋いで歩くハンスは顔が赤くなっている。彼は恥ずかしいくせに、私を早く家に帰すために手を……。
「分かりました。では送っていただきます」
すると、私の手を握りしめるハンスの手に力が込められた――
「それにしても市長さんのお仕事って忙しいんですね」
手を繋いで歩きながらハンスに話しかけた。
「え? 何でそう思うの?」
「だって、さっきお父さんが帰宅するのは深夜を過ぎないと帰って来ないって言いましたよね?」
「……あぁ、あの話か。仕事なんかじゃないよ。父はね、毎晩愛人の家に入り浸っているんだよ」
「あ、愛人……?」
聞いてはいけない話をしてしまったようだ。
「それで母は愛想をつかして、当時まだ10歳だった僕を置いて家を出てしまったんだよ」
「は、はぁ……そう……だったのですか……」
まずい、何だか重たい話になってきた。
「あ。ついでに言うと、母も若い愛人を作ってね。その男性の元へ行ったんだよ。だから子供の僕はお荷物だったから置いていかれたってわけ」
「それは……大変ご苦労されたのでしょうね……」
ぎゃ~っ!! こんな話を聞かされるとは……とんでもない墓穴をほってしまった! もはやここまで重い内容は、お悔やみの言葉しか出てこない!
「だから、僕がどんなに遅く帰ろうが帰るまいが……心配してくれる人は誰もいないんだ。使用人は大勢いるけど、誰も僕のことを気にもかけないからね」
ポツリと寂しげに言うハンス。その目はまるで捨て犬のようにも見える。
彼は、ひょっとするとすごく寂しい少年なのかもしれない。
……かくなる上は……
「ではハンスさん! 私の家に少し寄っていきませんか? 家はとっても貧しくてボロ屋ですけど……家族の、その……団らんのようなものを味あわせてあげます!」
あの父親程、家族団らんという言葉が合わない人はいないだろう。
けれど、私はどうしても寂しげなハンスを見過ごすことができなかったのだった――
「アンナ。今夜も何処かホテルに泊まるの?」
「いえ? 流石に2晩連続では泊まれませんよ。一応、父親と一緒に暮らしているので心配していると思うので」
真冬の夜に娘をマッチを売らせに家を追い出すような父親が心配しているとは思えない。けれども、さすがに連泊は出来ない。
それに売上金を約半分渡しているのだから、薪ぐらいは買っているだろう。
「そうなんだ……それじゃ、今夜はあの家に帰るんだね? なら送るよ」
「え? でもそれでは悪いですよ。ほら、まだ今夜は21時にもなっていないですし」
「何言ってるんだい? もうすぐ21時になるんだよ? 女の子が1人で歩くような時間じゃないから」
そういうハンスだって、お坊ちゃまが1人で出歩いていいような時間には思えないけれど。
「でも、私を送れば帰りがハンスさんの帰りが遅くなるんじゃありませんか?」
「僕なら大丈夫だよ。父は毎晩仕事で深夜を過ぎないと帰ってこないから」
「そうなんですか?」
知らなかった……市長の仕事って大変なんだ。
「うん、こんなところで立ち止まって話している間にアンナの家に向かったほうがいいよ。行こう」
ハンスは私の手をつなぐと、歩きはじめた。
「え? ちょ、ちょっとハンスさん!?」
私の手を繋いで歩くハンスは顔が赤くなっている。彼は恥ずかしいくせに、私を早く家に帰すために手を……。
「分かりました。では送っていただきます」
すると、私の手を握りしめるハンスの手に力が込められた――
「それにしても市長さんのお仕事って忙しいんですね」
手を繋いで歩きながらハンスに話しかけた。
「え? 何でそう思うの?」
「だって、さっきお父さんが帰宅するのは深夜を過ぎないと帰って来ないって言いましたよね?」
「……あぁ、あの話か。仕事なんかじゃないよ。父はね、毎晩愛人の家に入り浸っているんだよ」
「あ、愛人……?」
聞いてはいけない話をしてしまったようだ。
「それで母は愛想をつかして、当時まだ10歳だった僕を置いて家を出てしまったんだよ」
「は、はぁ……そう……だったのですか……」
まずい、何だか重たい話になってきた。
「あ。ついでに言うと、母も若い愛人を作ってね。その男性の元へ行ったんだよ。だから子供の僕はお荷物だったから置いていかれたってわけ」
「それは……大変ご苦労されたのでしょうね……」
ぎゃ~っ!! こんな話を聞かされるとは……とんでもない墓穴をほってしまった! もはやここまで重い内容は、お悔やみの言葉しか出てこない!
「だから、僕がどんなに遅く帰ろうが帰るまいが……心配してくれる人は誰もいないんだ。使用人は大勢いるけど、誰も僕のことを気にもかけないからね」
ポツリと寂しげに言うハンス。その目はまるで捨て犬のようにも見える。
彼は、ひょっとするとすごく寂しい少年なのかもしれない。
……かくなる上は……
「ではハンスさん! 私の家に少し寄っていきませんか? 家はとっても貧しくてボロ屋ですけど……家族の、その……団らんのようなものを味あわせてあげます!」
あの父親程、家族団らんという言葉が合わない人はいないだろう。
けれど、私はどうしても寂しげなハンスを見過ごすことができなかったのだった――
82
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
醜悪令息レオンの婚約
オータム
ファンタジー
醜悪な外見ゆえに誰からも恐れられ、避けられてきたレオン。
ある日、彼は自分が前世で遊んでいたシミュレーションRPGの世界に転生しており、
しかも“破滅が確定している悪役令嬢の弟”として生きていることに気付く。
このままでは、姉が理不尽な運命に呑まれてしまう。
怪しまれ、言葉を信じてもらえなくとも、レオンはただ一人、未来を変えるために立ち上がる――。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿しています。
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
公爵閣下のご息女は、華麗に変身する
下菊みこと
ファンタジー
公爵家に突然引き取られた少女が幸せになるだけ。ただのほのぼの。
ニノンは孤児院の前に捨てられていた孤児。服にニノンと刺繍が施されていたので、ニノンと呼ばれ育てられる。そんな彼女の前に突然父が現れて…。
小説家になろう様でも投稿しています。
予言姫は最後に微笑む
あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。
二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
イジメられっ子は悪役令嬢( ; ; )イジメっ子はヒロイン∑(゚Д゚)じゃあ仕方がないっ!性格が悪くても(⌒▽⌒)
音無砂月
ファンタジー
公爵令嬢として生まれたレイラ・カーティスには前世の記憶がある。
それは自分がとある人物を中心にイジメられていた暗黒時代。
加えて生まれ変わった世界は従妹が好きだった乙女ゲームと同じ世界。
しかも自分は悪役令嬢で前世で私をイジメていた女はヒロインとして生まれ変わっていた。
そりゃないよ、神様。・°°・(>_<)・°°・。
*内容の中に顔文字や絵文字が入っているので苦手な方はご遠慮ください。
尚、その件に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる