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マルセル・ハイム 1
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今日はあまり気分が良い1日では無かった。
昨夜は激務で帰宅してきたのは23時を過ぎていた。今日は土曜日、家でゆっくり出来ると思っていたのに…。
明るい日差しの差すダイニングルームで1人、メイドが用意してくれた食事をしていた時の事だった。
「おはようマルセル。今朝は随分のんびりだったのね」
母がふらりとダイニングルームに現れ、俺の向かい側に座って来た。
「おはようございます」
スープを飲みこむと挨拶を返した。母は黙って頷くと給仕として控えていたフットマンに命じる。
「私に濃いブラックコーヒーを入れて頂戴」
「かしこまりました」
フットマンは頭を下げると、手早くコーヒーの準備を始めた。母はその様子をチラリと見ると俺の方に向き直った。
「マルセル。朝食後、フレーベル家に行きなさい」
「え…?」
思わず食事をしていた手が止まる。今日は1日家でゆっくり過ごしたかったのに?大体あの屋敷に行くと、夕方まで開放してくれないので、正直行きたくはなかった。
「母さん…どうしても本日行かなければなりませんか?昨夜は仕事が忙しく、寝たのは深夜1時を回っていました。出来れば家でゆっくり過ごしていたいのですが」
その時。
「お待たせいたしました」
母の前に淹れたてのコーヒーが静かに置かれた。途端に部屋の中にコーヒーの良い香りが漂う。
「ありがとう、食事が終わるまで席を外しておいて頂戴」
「かしこりました」
フットマンは頭を下げると退出して行った。それを見届けると母はコーヒーカップを手に取ると匂いを嗅いだ。
「いい香りね…」
そして一口飲むとカップをソーサーの上にカチャリと置く。
「…何故人払いをしたのですか?」
再び食事を進めながら母に尋ねた。
「何か噂になっては困ることでも?」
すると母は溜息をついた。
「最近…アゼリアから手紙が来ないのよ」
「…手紙…ですか?」
「ええ、もう3ヶ月は来ないわ。それまでは月に数回の手紙のやり取りをしていたのに。しかも滅多にこちらにも来なくなってしまったのよ。マルセル。大体貴方は毎週フレーベル家に行ってるでしょう?一体どうなっているのかしら?」
母は眉間にしわを寄せながら俺を見ている。
「仕方ないじゃありませんか…フレーベル家に行くとモニカ嬢とアビゲイル様が会わせてくれないのですから」
俺は半分嘘と半分事実を織り交ぜて話した。会わせて貰えないと言うのは事実でもあるが、正直会いたいとも思っていなかった。何故ならアゼリアは義理の妹のモニカを虐めているとずっと以前から聞かされていたからだ。モニカ本人の話しだけなら耳を疑うが、アゼリアの母君のアビゲイル様、その上フレーベル家の使用人達からも同様の話を聞かされていた。アゼリアはフレーベル家の人間を全て嫌い、食事を一緒に取ることすら拒んでいると言う。
俺はアゼリアを気に入っている母にはその事を伝えたくは無かった。アゼリアがこの家に嫁いできた時に厄介な嫁姑問題が起きて欲しくなかったからだ。
「会わせてくれない、では無いでしょう?大体貴方の結婚相手なのよ?」
「アゼリアは父さんと母さんが勝手に決めた相手でしょう?」
俺とアゼリアの婚約の話が突然浮上したのはアゼリアがアカデミーを卒業する年の事だった。母はアカデミーの客員教授をつとめている。そして彼女は母の優秀な生徒であり、一番のお気に入りでもあった。そこでどうしてもアゼリアを嫁として、ハイム家に迎え入れたいと考えていたのだ。恋愛には何の興味も無かった俺は特に断る理由は無かった。例え恋愛感情が無くても、一緒に暮らしていけばいずれ情も沸いて来るだろう…。
そこで母からの提案を受け入れたのだった―。
昨夜は激務で帰宅してきたのは23時を過ぎていた。今日は土曜日、家でゆっくり出来ると思っていたのに…。
明るい日差しの差すダイニングルームで1人、メイドが用意してくれた食事をしていた時の事だった。
「おはようマルセル。今朝は随分のんびりだったのね」
母がふらりとダイニングルームに現れ、俺の向かい側に座って来た。
「おはようございます」
スープを飲みこむと挨拶を返した。母は黙って頷くと給仕として控えていたフットマンに命じる。
「私に濃いブラックコーヒーを入れて頂戴」
「かしこまりました」
フットマンは頭を下げると、手早くコーヒーの準備を始めた。母はその様子をチラリと見ると俺の方に向き直った。
「マルセル。朝食後、フレーベル家に行きなさい」
「え…?」
思わず食事をしていた手が止まる。今日は1日家でゆっくり過ごしたかったのに?大体あの屋敷に行くと、夕方まで開放してくれないので、正直行きたくはなかった。
「母さん…どうしても本日行かなければなりませんか?昨夜は仕事が忙しく、寝たのは深夜1時を回っていました。出来れば家でゆっくり過ごしていたいのですが」
その時。
「お待たせいたしました」
母の前に淹れたてのコーヒーが静かに置かれた。途端に部屋の中にコーヒーの良い香りが漂う。
「ありがとう、食事が終わるまで席を外しておいて頂戴」
「かしこりました」
フットマンは頭を下げると退出して行った。それを見届けると母はコーヒーカップを手に取ると匂いを嗅いだ。
「いい香りね…」
そして一口飲むとカップをソーサーの上にカチャリと置く。
「…何故人払いをしたのですか?」
再び食事を進めながら母に尋ねた。
「何か噂になっては困ることでも?」
すると母は溜息をついた。
「最近…アゼリアから手紙が来ないのよ」
「…手紙…ですか?」
「ええ、もう3ヶ月は来ないわ。それまでは月に数回の手紙のやり取りをしていたのに。しかも滅多にこちらにも来なくなってしまったのよ。マルセル。大体貴方は毎週フレーベル家に行ってるでしょう?一体どうなっているのかしら?」
母は眉間にしわを寄せながら俺を見ている。
「仕方ないじゃありませんか…フレーベル家に行くとモニカ嬢とアビゲイル様が会わせてくれないのですから」
俺は半分嘘と半分事実を織り交ぜて話した。会わせて貰えないと言うのは事実でもあるが、正直会いたいとも思っていなかった。何故ならアゼリアは義理の妹のモニカを虐めているとずっと以前から聞かされていたからだ。モニカ本人の話しだけなら耳を疑うが、アゼリアの母君のアビゲイル様、その上フレーベル家の使用人達からも同様の話を聞かされていた。アゼリアはフレーベル家の人間を全て嫌い、食事を一緒に取ることすら拒んでいると言う。
俺はアゼリアを気に入っている母にはその事を伝えたくは無かった。アゼリアがこの家に嫁いできた時に厄介な嫁姑問題が起きて欲しくなかったからだ。
「会わせてくれない、では無いでしょう?大体貴方の結婚相手なのよ?」
「アゼリアは父さんと母さんが勝手に決めた相手でしょう?」
俺とアゼリアの婚約の話が突然浮上したのはアゼリアがアカデミーを卒業する年の事だった。母はアカデミーの客員教授をつとめている。そして彼女は母の優秀な生徒であり、一番のお気に入りでもあった。そこでどうしてもアゼリアを嫁として、ハイム家に迎え入れたいと考えていたのだ。恋愛には何の興味も無かった俺は特に断る理由は無かった。例え恋愛感情が無くても、一緒に暮らしていけばいずれ情も沸いて来るだろう…。
そこで母からの提案を受け入れたのだった―。
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