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マルセル・ハイム 20
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この国の王族達は謎に包まれている。何故なら幼少期からその存在は隠され、成人年齢に達してから突如として現れるからだ。彼等はその間、何処で何をして過ごしていたかは一切が謎に包まれている。そんな王太子が何故俺に会いに来たのだろうか…?
「本当にその方は王太子様で間違いないのかしら?」
疑い深い母がエドモンドに尋ねた。何しろその人物は身なりは良かったものの、供も連れずに1人でハイム家に来たとあれば疑って当然だろう。
「はい、間違いありません。乗ってきた馬車にも王族の家紋が入っておりましたし、そのお方が見せて下さった身分証明書にもはっきりと王族の家紋が入っておりました」
「そう…噂によるとこの国の王族の方々は身分を隠し、平民として市井で生活していると言う話を耳にしたことがあるわ。ひょっとするとお一人で外出される事に慣れてらっしゃるのかも知れないわね…マルセル」
「はい」
「いい?決して失礼の無いようにするのよ」
「分かりました…」
そして俺と母は王太子が待つ応接室へと向かった―。
****
室内に入ると、ソファには1人の青年が座っていた。ダークブロンドの髪に青い瞳の優しげな顔立ちの青年だった。
「お待たせ致しました。私がマルセル・ハイムです。こちらにおりますのは私の母であるジャクリーヌ・ハイムです」
「はじめまして、ジャクリーヌ・ハイムです」
母がロングスカートの裾をつまみ、挨拶をする。
「はじめまして。カイザード・アークライトと申します」
王太子はソファからわざわざ立ち上がり、深々と頭を下げてきた。何て腰の低い人物なのだろう。俺も慌てて頭を深く下げた。
「それではマルセル・ハイムさんと2人きりにさせて頂けますか?」
カイザード王子は人懐こい笑みを浮かべて母に言った。
「はい、承知致しました」
母は一礼すると部屋を出ていった。2人きりになるとカイザード王子は言った。
「座って話をしませんか?」
「え、ええ。そうですね」
彼が座ったのを見届け、俺も席に座った。
「すみません、早速ですがマルセルとお呼びしても良いですか?」
「え、ええ。それは構いませんが…」
まさか王族の方からファーストネームで呼ばれる日が来るとは思ってもいなかった。
「それはどうもありがとうございます。それでは僕の事はどうぞカイと呼んで下さい」
「そ、そんな!王族の方をファーストネームで呼ぶなんてとんでもありません!」
慌てて言うと、カイザード王子が言った。
「王族と言っても僕はずっと一般市民の中に紛れて生活していたんですよ。むしろ普通に接してもらったほうがいいんです。お願いします」
頭を下げられてしまった。
「わ、分かりました…。そこまで仰るのであれば…カイ王子様」
「カイでいいですよ」
「は、はい。カイ…」
…まさか王太子を敬称無しで呼ぶことになるとは思わなかった。
「それで…一体どの様なご要件でいらしたのでしょうか?」
「ええ。アゼリアの事についてですよ。貴方の元婚約者ですよね?」
カイ王子は笑みを浮かべながら俺を見た。
「え?!」
何故、アゼリアの名前がカイ王子の口から出てくるんだ?!
「な、何故…アゼリアの事を知っているのですか?」
「それは僕が2年前までフレーベル家で御者として働いていたからですよ」
「何ですってっ?!」
思わず身を乗り出す。
「この国の王位を継ぐ者は18歳までは他の国で教育を受けることになっています。そして帰国後は4年間一般市民に紛れて、働いて生活することが義務付けられているんですよ。そこでたまたま就職した先がフレーベル家だったのです。そこでアゼリアと知り合ったのですが…まさか彼女があの屋敷であんな酷い目に合わされているとは思いもしませんでしたよ。なので僕は彼等に罰を与えました」
カイ王子の目元は笑っていたけれども、その声は何処か冷たい響きを持っていた―。
「本当にその方は王太子様で間違いないのかしら?」
疑い深い母がエドモンドに尋ねた。何しろその人物は身なりは良かったものの、供も連れずに1人でハイム家に来たとあれば疑って当然だろう。
「はい、間違いありません。乗ってきた馬車にも王族の家紋が入っておりましたし、そのお方が見せて下さった身分証明書にもはっきりと王族の家紋が入っておりました」
「そう…噂によるとこの国の王族の方々は身分を隠し、平民として市井で生活していると言う話を耳にしたことがあるわ。ひょっとするとお一人で外出される事に慣れてらっしゃるのかも知れないわね…マルセル」
「はい」
「いい?決して失礼の無いようにするのよ」
「分かりました…」
そして俺と母は王太子が待つ応接室へと向かった―。
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室内に入ると、ソファには1人の青年が座っていた。ダークブロンドの髪に青い瞳の優しげな顔立ちの青年だった。
「お待たせ致しました。私がマルセル・ハイムです。こちらにおりますのは私の母であるジャクリーヌ・ハイムです」
「はじめまして、ジャクリーヌ・ハイムです」
母がロングスカートの裾をつまみ、挨拶をする。
「はじめまして。カイザード・アークライトと申します」
王太子はソファからわざわざ立ち上がり、深々と頭を下げてきた。何て腰の低い人物なのだろう。俺も慌てて頭を深く下げた。
「それではマルセル・ハイムさんと2人きりにさせて頂けますか?」
カイザード王子は人懐こい笑みを浮かべて母に言った。
「はい、承知致しました」
母は一礼すると部屋を出ていった。2人きりになるとカイザード王子は言った。
「座って話をしませんか?」
「え、ええ。そうですね」
彼が座ったのを見届け、俺も席に座った。
「すみません、早速ですがマルセルとお呼びしても良いですか?」
「え、ええ。それは構いませんが…」
まさか王族の方からファーストネームで呼ばれる日が来るとは思ってもいなかった。
「それはどうもありがとうございます。それでは僕の事はどうぞカイと呼んで下さい」
「そ、そんな!王族の方をファーストネームで呼ぶなんてとんでもありません!」
慌てて言うと、カイザード王子が言った。
「王族と言っても僕はずっと一般市民の中に紛れて生活していたんですよ。むしろ普通に接してもらったほうがいいんです。お願いします」
頭を下げられてしまった。
「わ、分かりました…。そこまで仰るのであれば…カイ王子様」
「カイでいいですよ」
「は、はい。カイ…」
…まさか王太子を敬称無しで呼ぶことになるとは思わなかった。
「それで…一体どの様なご要件でいらしたのでしょうか?」
「ええ。アゼリアの事についてですよ。貴方の元婚約者ですよね?」
カイ王子は笑みを浮かべながら俺を見た。
「え?!」
何故、アゼリアの名前がカイ王子の口から出てくるんだ?!
「な、何故…アゼリアの事を知っているのですか?」
「それは僕が2年前までフレーベル家で御者として働いていたからですよ」
「何ですってっ?!」
思わず身を乗り出す。
「この国の王位を継ぐ者は18歳までは他の国で教育を受けることになっています。そして帰国後は4年間一般市民に紛れて、働いて生活することが義務付けられているんですよ。そこでたまたま就職した先がフレーベル家だったのです。そこでアゼリアと知り合ったのですが…まさか彼女があの屋敷であんな酷い目に合わされているとは思いもしませんでしたよ。なので僕は彼等に罰を与えました」
カイ王子の目元は笑っていたけれども、その声は何処か冷たい響きを持っていた―。
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