余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
54 / 73
連載

ケリー ①

しおりを挟む
「2人きりにして大丈夫なのだろうか…」

応接室でマルセル様がコーヒーを飲みながら2階を気にしている。

「アゼリアは病人です。カイザード王太子様は良識ある方でしょうから…多分大丈夫だとは思いますが」

そう言いながら、ヨハン先生も天井の方をチラチラと見ている。私の中ではアゼリア様とカイザード王太子様はお互いに両思いだと信じている。アゼリア様はずっと勉強やお稽古ごとばかりで恋愛小説も療養生活に入ってから読み始めたような方だから、男の人の気持ちや自分の恋心にすら気付いていないように見えるけれど。
だから私は言った。

「ようやくお互いの念願が叶って再会出来たのですから、お2人だけにさせておいてあげませんか?」

するとマルセル様が驚いたように私を見た。

「え?!念願叶って再会出来た?!一体どういう事だ?」

まさかマルセル様はあの場に流れた2人の雰囲気に気付かれなかったのだろうか?

「…」

ヨハン先生も驚いたようにマルセル様を見ている。ひょっとするとマルセル様も恋愛には疎いのだろうか

「マルセル様、ひょっとして…」

私が口を開きかけた時…。

「あ、カイザード王太子様」

扉の方を向いていたヨハン先生が口を開いた。

「「え?」」

私とマルセル様は同時に声を上げ、扉の方を見るとそこには青ざめた顔でどこか落胆した様子のカイザード王太子様が立っていた。

「カイザード王太子様、一体どうされたのですか?顔色が悪いですよ?」

ヨハン先生が慌てて立ち上がると声を掛けた。

「アゼリアとは話が出来たのですか?」

マルセル様が尋ねる。

「アゼリアとは話は…出来たよ。だけど少し…疲れているようなので休ませて上げることにしたんだ…」

ここへ来た時は元気があったカイザード王太子様は今にも倒れてしまうのではないかと心配になるくらい、青ざめている。…ひょっとするとアゼリア様の余命を聞かされてショックを受けてしまったのかもしれない。

「カイザード王太子様、少し休んでいきませんか?お茶をお淹れします」

私が声を掛けると首を振った。

「いや…今日のところはもう帰るよ。アゼリアに会わせてくれてありがとう」

カイザード王太子様は笑ったけれど、無理をして笑っているのは私の目から見ても明らかだった。

「送りましょう」

マルセル様は立ち上がったけれど、カイザード王太子様は言った。

「大丈夫、馬車なら診療所の前に停めてあるし…1人で帰れるよ」

「それならせめて外まで送らせて下さい」

ヨハン先生の言葉に私もマルセル様も立ち上がった―。



****

「どうぞお気をつけてお帰り下さい」

ヨハン先生が馬車の前に立っているカイザード王太子様に声を掛ける。

「はい…。ところでアゼリアはまだこの診療所にいますか?」

「そうですね…恐らく後数日はいると思います。まだあまり体調が良くはないので。マルセル様のお父様の診察も入っていますし」

ヨハン先生はチラリとマルセル様を見ると言った。

「そうですか…ではまたアゼリアのお見舞いに来ても良いですか?」

カイザード王太子様は遠慮がちに尋ねてきた。

「ええ、アゼリアに確認してみますね」

「…」

マルセル様はそんなお2人の会話を神妙な面持ちで聞いている。

カイザード王太子様は私達が見守る中、馬車に乗り込んだ。

「アゼリアに宜しく伝えて下さい」

最後にその言葉を残し、扉は閉じられて走り去って行った。

「一体…何があったのだろう?」

事情を何も分かっていないマルセル様が走り去る馬車を見守りながら首を傾げた。

「「…」」

何となく事情を察していた私とヨハン先生は黙ってお互いに目をチラリと合わせるのだった―。



****

「私、アゼリア様の様子を見てきます」

診療所に戻ると私は2人に言った。

「ああ、そうだね。頼むよ」

ヨハン先生の言葉に私は頷くと、2階へ向かった。



ギシギシと鳴る木の階段を踏みしめながら2階に登り、私はアゼリア様の部屋の前で足を止めた。

「アゼリアさ…」

その時…。

「ウ…ウウ…ご、ごめんなさい…カイ…」

部屋の扉は少しだけ開かれていて、そこからアゼリア様のすすり泣く声が聞こえてきた―。

しおりを挟む
感想 1,487

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。