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第6章 4 ジェシカ、悪女と呼ばれる

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アダムと王都へ出掛けてから5日が経過した。
あの日以来、私は徹底的にマリウスを避け続けていた。と言うか、アリオスさんに釘を刺しておいて貰ったのだ。
私がいいと言うまではマリウスが私に近付くのを禁止して欲しいと。
やはりあの時マリウスがメイドの女の子からの手紙を燃やし、その事について全く反省もしていなような事が許せなかったからだ。
 時折、マリウスを城の中で見かける事があったが、目に見えてやつれた様子で元気が無い。けれどもそんな事は私の知った事では無い。ただ私はマリウスが自分の取った行動がどれだけ相手を傷つける行為だったのかを分かってもらいたかっただけなのだ。たまに視線を感じて、そちらを振り向くとマリウスが私をじっと見つめている。
けれども私は知らんふりをし続けていた。

そして、いよいよ後1週間でダンスパーティーという日の事・・・。

「ジェシカ、ダンスパーティーに着ていくドレスはどうするのかしら?」

突然母に呼ばれて最初に言われた。

「え・・あ、そう言えばそうでしたね。私・・どんなドレスを持っていたのでしょう?」

「まあ、ジェシカッ!折角今年はフリッツ王太子が参加されるダンスパーティーなのに、ドレスを新調しないつもりなの?!」

母は驚いた様に目を見開いた。

「え、ええ・・・。だって1年に1回くらいしか袖を通さないドレスを新調するのは、非常に無駄と言うか・・・。」

「まああっ!ジェシカッ!無駄と言う事は決してありませんよ?!いかに今年流行のドレスを着て、素敵な殿方に見初められるかが、女が幸せになる為の道しるべなのですからっ!」

「で、ですが・・・と、取り合えず今あるドレスを見てから検討したいと思います・・・。」


 私はジェシカのクローゼットに入っているドレスを絶望的な思いで眺めていた。
無理だ、こんなドレス着れるはずが無い。どれもこれも露出が激しすぎる。
確かにジェシカは小柄ながら、抜群のプロポーションをしてはいるが、こんな胸元を強調したり、背中が大きく開いたドレスなど着れるはずが無い。
すっかり忘れていた・・・。ジェシカは妖艶なイメージのドレスが大好きだと言う事を。いやだ、こんな恥ずかしいドレスなど着れるはずが無い・・・。

「お母様・・・。今から・・・ドレスを作るの・・間に合うでしょうか・・?」
私は涙目で母に訴えるのだった—。

結局私はドレスを新調するには時間が足りないと言う事もあり、また絶対に目立ちたくないという理由から、シンプルな自分の瞳の色に合わせた既製品の薄紫色のAラインのワンピース風ドレスにした。恐らく貴族社会の世間一般的に見ると、余りにも地味過ぎるドレスかもしれないが、ドレスの裾部分にたっぷりのフリルをあしらったり、レースやパールを縫い付けたり、背後にバッスル風にフリルを縫い付ける事によって、大分見栄えのするドレスに早変わりした。
・・・それでもまだまだ地味ではあったのだが、私にはこれで十分。
だって目立ちたくも無いし、踊りたくも無いからね。

 マリウスのエスコートなんて当然お断りだし、兄のアダムからの申し出も断った。
結局私は送迎はして貰うものの、1人でパーティー会場に入る事に決めたのだった。
そう、目立たないようにささっと会場入りした後は人混みに紛れて、立食コーナーで好きなだけ食事やアルコールを楽しんでいれば目立つ事も無いだろう。
そう思えば、気が随分楽になった。
 
 一方のマリウスは自分に全く声がかかって来ないのをやきもきしている様ですよとアリオスさんに教えて貰ったが、冗談じゃないっ!マリウスにエスコートされる位なら馬を引いて会場へ入った方がマシだ。

 私はダンスパーティーでダンスを踊るつもりは微塵も無かったので、練習すらしなかった。一方の家族は私はダンスの腕前が素晴らしいので、練習の必要は無いだろうと見ていたので、練習をするように言われなかったのはある意味私にとっては非常にラッキーだったと言える。


 そして、ついにダンスパーティーの開催日がやってきた。

「ジェシカ、本当にエスコートしなくてもいいのかい?」

いつもとは違う化粧をし、髪を緩やかなアップにした私が車に乗り込むと、アダムは心配そうに声をかけて来た。

「ええ、いいんです。お兄様。エスコートされれば必然的にダンスを踊らなくてはなりませんよね?でしたら私は1人で会場へ入って人混みに隠れています。」

「本当にそう、うまくいくかなあ・・・。」

アダムは心配そうに私を見ると言った。

「どうしてそう思うのですか?」

「ジェシカは自分の魅力にちっとも気が付いていないようだね。きっと誰もがパーティー会場でジェシカを一目見たら放って置かないと思うけどね・・。」

「?」
私はアダムの言っている意味が良く分からなくて首を傾げた。

「まあいいよ。実際に行けばすぐに分かる事だから。」

こうして私は兄の運転する車で王都の城へと向かった—。


「それじゃ、ジェシカ。0時になったら迎えに来るからね。」

 兄と城の入口で別れ、私はさっそうと人々に紛れて城の中へと入って行った。
う~ん・・確かに目立ちまくってるかな?エスコートなしで来ているのは私1人だ。でもそんなの、構うものか。私の今夜の目的は取りあえず呼ばれたパーティーに参加をし、リッジウェイ家の体面を保つのが目的なのだから。
 う・・・それにしても必要以上に注目を浴びている気がする・・・。何故皆私の事をジロジロと見ているのだろう?気付けば女性達のみならず、若い男性達まで私の事を見ているでは無いか。
やはり1人で来るとここまで目立つものなのか・・・。

 私が立食する為のテーブルに辿り着いた時、何やら玉座が騒がしくなった。
ふ~ん・・・いよいよフリッツ王太子様とやらが登場するのかな?アラン王子みたいな俺様王子じゃ無ければいいね。
 私は挨拶を聞くのもそっちのけで、早速美味しそうな料理に手を伸ばしてパクリ。
何、これ。すっごく美味しい!どれどれ、次はこの料理を試してみようかな・・・?


時折、人々の会話が耳に入って来る。

「ねえ、知ってます?今夜は他国の王子様もこのパーティーに参加されているそうよ?」

「まあ・・・その方もひょっとしてお相手を探しにいらしたのかしら?」

「どんな方なのかしら・・・。お顔を拝見したいわ・・。」

ふ~ん。今夜のパーティーには他の国の王子様も参加しているのか。
それ程すごいパーティーだったんだ~。お酒を飲みながら会話に耳を傾ける。

そして私はダンスが始まっても夢中になって美味しい料理に舌鼓を打っていると、突然声をかけられた。

「ジェシカ。」

え?私の名前を呼ぶのは一体誰?
振り向くと、そこに立っていたのはこの間カフェで私の前の席に座って来た・・・。

「え・・・と・・チャールズさん・・・でしたっけ?」

「ああ、そうだ。何だ、やっぱり俺の事覚えていたんだろう?」

「いえ、兄から話は伺いました。」

「ジェシカ・・・お前、踊らないのか?それにエスコートして来た男は何処だ?」

「私は踊りませんし、1人で来ましたよ。踊るつもりなど全く無かったので。」

するとチャールズは大袈裟なほど驚いた。

「ええ?!お前・・・1人でここへ来たのか?・・ひょっとすると、エスコートしてくれる男がいなかった・・のか?」

あ、何かこの人勘違いしてるよ。

「いえ、別にそういう訳では・・・。」

「それで、踊ってくれる相手も居なくて、こんな所で一人寂しく料理を食べていたんだな?」

・・・何だかチャールズの顔がますます私に同情している表情になってきている。
勘違いも甚だしいのに。

「よし、いいだろう。俺がお前と踊ってやるよ。」

言うと、チャールズは強引に私の腕を掴むと引き寄せて来た。
え?ちょっと!どういう事よ?!

「あ、あの!チャールズさんっ!この間話していた御令嬢と一緒に来たのでは無いですか?!」

「ああ、そうだ。」

「だったら、その方と一緒に踊ってくださいよっ!」

「彼女は今、別の男性と踊っている。」

チッ!何て最悪なタイミング・・・。私は心の中で舌打ちした。そしてチャールズは嫌がる私を無理やりホールの真ん中まで連れて行こうとし・・・。

「「ジェシカッ?!」」

私は2人の男性に同時に声をかけられた。
「え・・・?」
だ・・誰よっ!この人たちは?!全く見覚えのない男性2人が私の方をじっと見ている。
「まさか・・ジェシカか・・?見違えたよ・・。こんなに魅力的になっていたなんて・・・。」

「ああ、まるで別人のように見える・・・。」

何故か2人の男性もうっとりしたような眼つきで私を見ている。
ハッ!も・・・もしかして『魅了』の魔力が発動しているのでは?!

「何だ、お前達。ジェシカは今から俺と踊るんだが?邪魔をしないでくれ。」

「何だと?お前・・・・ジェシカを悪女と罵って婚約を結ぶのを断ったくせに。」

「そう言うお前だって、お見合いしたその場で断ったよな?ルーカス?」

ああ、それじゃ、この男性がトビーで、先程の男性がルーカス。そして私の腕を掴んでいるのがチャールズか・・・。ややこしいな。

「見た所・・・ジェシカは嫌がっているように見えるぞ?チャールズ。」

トビーが言った。

「ああ、俺もそう見えるな。」

ルーカスが同意する。

「煩いっ!俺が最初にジェシカに声をかけたんだっ!」

チャールズが吠えるとルーカスが噛み付いた。

「黙れっ!チャールズッ!お前はジェシカを捨てて婚約しただろう?!」

辺りは凄い騒ぎになってきた。何でよっ!どうして私が騒ぎに巻き込まれないとならないの?!ただ、1人で食事とお酒を楽しんでいただけなのにっ!

 そして・・・運が悪い事は続くものである・・・。

「チャールズ様?!」

私達が一斉に振り向くと、そこにはクリーム色のドレスを着た見知らぬ女性が立っていた。目には涙を一杯に貯めている。

「エ、エリーゼッ?!」

チャールズの声に焦りが見られた。

「ひ・・酷いじゃ無いですか・・。ジェシカ様とは別れて私と婚約したのに・・・何故またジェシカ様を?」

そして、エリーゼと呼ばれた女性は私をキッと睨み付けると言った。

「ジェシカ様は・・・やっぱり酷い方・・・悪女ですわっ!!」

言うなり、エリーゼは近くに立っていたボーイが持っていた水の入ったグラスを掴むと、私に向かって投げつけて来た。

「ジェシカッ!!」

咄嗟に誰かが私の前に飛び出し・・・・。

パリーンッ!!グラスが男性の右腕に当たり、床に落ちると粉々に砕け散った。

「ジェシカ・・・大丈夫だったか?」

そう言って振り向いた男性は・・・う、嘘でしょう・・・?

「ア、アラン王子・・・・。」

私の前に立っていたのはアラン王子だった—。






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