目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第2章 2 青いオオカミとの出会い (イラスト有り)

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1

「お願いします。私を『鏡の間』まで案内して下さい。」
誰か分からないが声の主に頼んだ。すると声は答えてくれた。

「いいよ、勿論・・・。ただし、覚悟は出来てる?今君はその城の中の迷宮に囚われてしまっているんだ。今からその封印を解いてあげるけど・・・その代わり、魔物達に遭遇する羽目になってしまうよ・・・?それでも構わない?」

私はその言葉に衝撃を受けた。そうか・・・だから今まで一度もこの城の内部に入ってから魔物達に遭遇してこなかったのか。だけど、封印を解かなければ私は永遠にこの迷宮に閉じ込められ、ノア先輩を助けに行く事すら出来ない。でも・・・封印が解ければ魔物達が・・・・!
それでも・・・行かなければならない。私はノア先輩と、マシュー。そして・・皆と約束したのだ。必ずノア先輩を助けて戻って来ると・・・。
私は一度目を閉じると、マシューの顔を思い浮かべた。お願い、マシュー。
どうか・・・また私を守って・・。

「ええ、構いません。お願いします、封印を・・・解いて下さい。」

「本当に・・・構わないんだね?」

再度声は尋ねて来た。

「ええ、お願いします。覚悟は・・・出来ています!」

「分かったよ・・・。それじゃあ封印を・・・解くね・・・。」

すると徐々に今迄城に漂っていた靄が消え初め・・・辺りの景色がはっきりし始めて来た。
そして、それと比例するかのように獣のような臭いと、まがまがしい雰囲気が一層濃くなってきた。

「!!」

 私は危うく悲鳴を上げそうになった。今まであれ程何の姿も見せなかった魔物達が大勢あちこちにうろついている姿がはっきりとその姿を表したのである。
その魔物達は、やはり人間界の動物達並の知性しか持ち合わせていないのだろうか?
あちこちで咆哮を上げながら仲間同士で戦いを繰り広げていたり、辺りに寝そべっているだけの魔物達・・・彼等の誰もが皆恐ろしい異形の姿をしていた。しかし、獣の姿に似た魔物ならまだまともに見える。最も見るに堪えかねないのは身体が半分以上朽果てているかのような恐ろしい生き物達・・・。
私はすっかり恐怖で足がすくんでしまっていたが、前方に一筋の明るい光が見えた。
あれは・・・きっとあれこそ、『鏡の間』に違いない。
そして、幸いにも彼等は視力が弱いのだろうか・・・魔物達は誰もが私の姿に気付いていない様だった。それともマシューが付けてくれた守りのお陰か・・・。
私は勇気を振り絞って光の差す方向へ向かって歩き始めた・・・。

「や・・・・やったわ・・・。ついに『鏡の間』へ辿り着けた・・・。」
その部屋は床から壁、天井に至るまで全て石造りで、かなり広い部屋になっていた。周囲の壁には松明が幾つも灯され、部屋を明るく照らしている。
そして私の目の前には全身が映る大きな鏡が置かれていた。恐らくあれが…第2階層へ続く鏡になっているのだろう。
ごくりと息を飲むと私はゆっくり鏡へ近づこうとした時・・・。

<誰だ・・・・。この鏡を通り抜けようとする愚かな者は・・・。>

まるで地の底から響くような恐ろしい声が鏡の後ろから聞こえた。
「!!」
驚いて、一瞬足を止めた時・・・その鏡の後ろから一匹の魔物が現れたのである。
その魔物は人間と同様に鎧を付けて、剣をかまえていたが・・・・唯一人間と違っていたのは・・・その魔物は骸骨だったのだ。
骸骨の姿をした剣士はこちらを見た。目が・・・目が無いはずなのに、何故か赤く光っている。
「が・・・骸骨・・・・。」

<貴様のようなか弱き生き物が、この鏡の奥へ行く事が出来ると思うのか・・・?貴様のような愚か者はこの場で息の根を止めてやろう・・・。>

骸骨の剣士は剣を握りしめながら、ゆっくりとこちらに近付いてくる。
そ・・・そんな・・・!アンジュも魔女もこんな番人がいるなんて・・教えてくれなかった・・・!

 私は恐怖で足がすくみ、一歩も動く事が出来ない。どうしよう・・怖い怖い怖い!

<フハハ・・・・!随分怯えているな・・・っ!よし、苦しまぬように一瞬で死なせてやろう・・・っ!>

骸骨は恐ろしい笑い声を上げながら、私に向かって近付いてくる。
も・・・もう駄目・・・。

と、その時・・・。

突然私の背後から怖ろしい咆哮と共に大きな4本足の魔物が風のように現れ、私を守るかのように立ち塞がると、骸骨剣士に向かって巨大な炎を吐きだしたのだ。

<グワアアアアアッ!!>

耳を塞ぎたくなるような恐ろしい悲鳴と共に、一瞬で燃える骸骨の剣士。
私は炎に包まれる骸骨と突然現れた魔物を呆然と見ていた。
やがて・・・その魔物は私の方を振り向いた。

「え・・・?ど、どうして・・・?」

振り向いた魔物は、最初に出会ったオオカミだったのだ—。

「な・・・何故・・・?」

私はオオカミを見上げた。すると私を導いてくれた先程の声が再び聞こえて来た。

「そのオオカミは必ずジェシカを守ってくれる。彼と共に第3階層までおいで。君が来るのを・・・待っているよ・・・。」

「あ、あの!貴方は一体誰なのですか?!私の事を知ってるのですか?!」
私は声に呼びかけたが、もう答える事は無かった・・・。

 オオカミは私の側に黙って座って見下ろしている。
私は語りかけてみた。
「あの・・・私を第3階層まで連れて行ってくれる・・・の?私を守ってくれる?」

オオカミはじっと私の顔を見つめている。不思議な事にその瞳は今はとても優し気に見えた。城の入口で初めて会った時は、あれ程恐怖を感じたのに・・・。




「私はジェシカと言うの。どうか・・・よろしくね・・。」

私はオオカミの身体にそっと触れると、突然オオカミは身体を低くし、顎で自分の背中を見た。
「ひょっとして・・・背中に乗れと言ってるの?」

すると驚いたことに、オオカミは頷いたのである。
「う、嘘?!貴方・・・ひょっとして人間の言葉が通じるの?!」

コクリ。
またしてもオオカミは首を振る。
「そうなんだ・・・・。貴方・・・言葉が通じるのね・・・。」
どうしよう、すごく嬉しい。あれ程誰も助けてくれる人が居なくて、怖くて怖くて堪らなかったのに、今私の側にはこんなにも頼りになる魔物が付き添ってくれる。
今迄の恐怖と、あまりの嬉しさにいつしか私は目に涙を浮かべていた。
すると、それを不思議に思ったのかオオカミが私の身体にその巨体を擦り付けてきたのである。
その様子はまるでわたしを慰めてくれているようにも思えた。

「あり・・・がとう・・・。オオカミさん・・・。」
私は大きな首に両腕をまわすと、そのふかふかとした毛に顔を埋めて、暫く泣き続け、オオカミはじっと身じろぎもせずに私が泣き止むまで大人しく座っていた・・・。


 ひとしきり泣いた後、私は顔を上げてオオカミを見た。
「ごめんね。それじゃ・・・行こうか?」

オオカミは私の問いに頷くと、先頭に立ち鏡の前へ歩み寄った。そしてためらうことなくオオカミは鏡の中へ入ってゆく。
それは信じられない光景だった。見かけは本当に只の鏡なのに、抵抗も無くズブズブと中へ入ってゆく事が出来るのだから。
オオカミは私の方を振り向いた。まるでその様子は、早く私にも後を付いて来るようにと言っているようにも感じられた。

「いよいよ、第二階層へ行くのね・・・。」
私は自分を勇気づけるように言うと、オオカミの後に続いて鏡の中へと歩みを進めた・・・。

待っていてくださいね。ノア先輩―。




2

青いオオカミと鏡の中を通り抜けると、そこにはまた別の城が眼前にそびえ立っていた。鬱蒼とした森に覆われた城ではあったが、先程の第一階層の城に比べると随分マシに見えた。城全体にツタが張り巡らされてはいたが、先程の城のように朽果ててはいなかったからである。
空を見上げると、相変わらず昼なのか夜なのかも分からない陰鬱な雰囲気の色をしている。

「寒い・・・。」
私はブルリと震えながら自分の両肩を抱きしめた。
本当に・・・何て寒い世界なのだろう。夢の中でノア先輩が話していた通りの寒さだ。
すると上から視線を感じた。
見上げるとその視線の先にはオオカミが私の事をじっと見降ろしていたのである。
まるで中に早く入らないのかと目で訴えられているようにも感じられる。
「あ、ごめんね。うん・・・。いつまでも突っ立っていても何も始まらないものね。
それじゃ・・・中に入ろう・・。」
私は城門にそっと触れてドアを開けた—。


 城の中はところどころに松明が灯されていたので、歩くのに不便は無かった。
ヒタヒタヒタヒタ・・・・・。
私とオオカミの足音が石の回廊に響き渡ってこだましている。私達は無言で城の回廊を歩いている・・・が、それにしても・・何故だろう?ここには全く魔物の気配が感じられない。ひょっとすると第2階層には魔族が住んでいないのだろうか・・?
だけど・・・私の側には今とても頼りになるオオカミがいる。なので恐怖心は全く感じる事は無かった。
どの位歩いただろうか・・・・。遠くの方が薄っすら光っている。出口が見えて来たのだ。
え?こんなに早く第2階層を抜ける事が出来るの?あまりにもあっさりで拍子抜けしそうになり・・・。城の外を出た私は目を見張った。
 なんと城を抜けると目の前に見えたのは城下町だったのだ。最も町と言ってもかなり小規模な町で、どことなくさびれた印象がある。いや、むしろ町というよりは村に近いかもしれない。
そしてその村の中を行き交う魔族達・・・。
第2階層に住む魔族達は2足歩行の人型魔族と4本足歩行の獣型が入り混じったような世界であった。
 私は彼等を注意深く観察した。
2本足歩行の魔族達は、皆簡単な布で出来た洋服を着用している。外見は様々。
普通の人間と同じ2つの目を持つ魔族も入れば、3つ目、四つ目を持つ魔族もいる。
肌の色も様々で緑色の肌や赤い肌、時には青い肌を持つ魔族達もいて、体型や体格もみなバラバラである。でもよく見ると、この第2階層でもやはり階級社会があるのだろうか?
割と身なりの良さそうな格好をした魔族もいるし、ぼろ布だけを身に纏ったかのような魔族もいる。
 
 一方、獣タイプの魔物は村から外れた場所でそれぞれ同じ種族同士で群れを成している。・・・その光景は何だかテレビで見た事があるアフリカのサバンナに住む野生動物達を彷彿とさせた。
ただ、違う点はここに住む獣たちは全て魔族であると言う事。
その証拠に、獣なのに言葉を交わして会話をしているのだからっ!
 
 それにしても・・・先程から私達は随分注目されている様だ。
けれど、多分注目されている原因は私の隣に立つオオカミだろう。何せ、彼ほど大きな姿を持ち、強そうな魔族は今のところ一度も見かけていないからだ。
 
 だけど・・・私はここに来て不思議に思った事がある。ここ、第2階層の魔族は獣タイプでも言葉を話している。このオオカミはどう見ても上級魔族に属していると思うのだが・・・獣のような咆哮以外で言葉を発するのを聞いたことが無い。

「ねえ・・・・貴方は言葉を話さないの・・?」
私はダメもとでオオカミに話しかけてみるが、彼はチラリと私を見ただけでそっぽを向いてしまう。
う~ん・・・やはり言葉を話す事は出来ないのかな・・・?

 その時、私達の近くにいた獣タイプの魔物が近づいて来た。え・・・?い、一体何・・?
この魔物は全身が真っ黒に光り輝き、その姿はどことなく豹に似ている。
ただ違う点と言えば、頭部に1本の巨大な角が生えているというところだろうか?

 何やら血走った目でこちらにやって来た魔物に恐怖を覚えた私はオオカミの前足の後ろに隠れた。

 すると突然魔物が話しかけてきたのである。

「珍しい事もあるものだ・・・・。このように魔力の高い魔族が第2階層の我らの所へ姿を見せるなど・・・。もしよければ一体何故この場所へやって来たのか理由を教えてくれないか?」

ど、どうしよう・・・。これは私に話しかけているのだろうか・・・?でも今の私は猫の姿をしているはず。猫が勝手に話す訳にはいかない。私はだんまりを決め込む事にして、オオカミをチラリと見上げたが相変わらずの無反応だ。

「・・・おい、無視するのか・・・確かにお前は上級魔族の様だが・・・ここは俺達魔族が住む第2階層だ。いわば、俺達の縄張り。勝手に入ってこられては困るんだがなあ?しかも俺はこの階層の長だぞ?」

 グルルル・・・・と低い唸り声と共に言う魔物。
え・・?う、嘘でしょう・・・?この階層の長・・・・?
そしてふと気が付くと私達は大勢の魔族達に取り囲まれていた。その数は・・・100以上はあるだろうか・・?
そ、そんな・・・!私はてっきり凶暴な魔族達は第一階層だけにしか生息していなものだとばかり思っていたのに・・・・。
 彼等の誰もが、血走った目で此方を睨みながらジリジリと距離を詰めて来る。

そして人型タイプの魔族が口を開いた。

「・・・大体、お前ら上級魔族はいつも俺達を馬鹿にしやがって・・・。魔力が弱い俺達を奴隷として連れ去って行くのはもう我慢出来ないんだよ。」

え・・・?上級魔族が彼等を奴隷に・・?
私はその言葉に耳を疑った。
そして、この魔族の訴えに触発されたのか、次々と魔族達が私達に文句を言い始めたのだ。

「そうだ!俺達を奴隷のようにこき使って働かせ、死んでしまえば、死体を勝手に投げ捨てていくのはあまりに勝手だっ!」

「自分達ばかり、いい暮らしをしやがって・・・!」

「ちょっと外見が良い女がいれば強奪までしていきやがって・・・!俺の妻を返せっ!!」

もう、物凄い騒ぎになってきた。とんでもない事になってしまった。私は自分の正体がバレてはいけないので、無言を通し続けているが・・それも良く無かったのかもしれない。
ある一匹の魔物に目を付けられてしまったのだ。

「ん?なんだ・・・。あの猫は。随分あの上級魔族に気に入られてるようだな?大事そうに守ってるじゃ無いか・・・。」

「そうだ!あの猫はきっとあいつらの大事な飼い猫なのかもしれない、よく見ると素晴らしい毛並みをしているし・・・。」

「よし!あの猫を捕えて、見せしめに殺して奴らに送り付けてやれ!!」

え?こ、殺す・・・?!
な、なんて怖ろしい事を言いだすのだ・・・・。やはり、所詮は魔族。このような恐ろしい思考能力しか彼等には無いのだろうか・・・?

 するとオオカミがグルルル・・・と低い唸り声をあげると、突然私の頭の中で声が響いた。
〈ジェシカ!!耳を塞げっ!!〉
え?今の声は―?!
見るとオオカミが私を見下ろしている。ま、まさか・・・今私の頭の中に話しかけてきたのは・・・?!
私は言われた通りに両耳を塞いだ。

すると恐ろしい程の地響きが起こり、地面にのたうち回る魔族達の姿がそこにあった。
そして呆気に取られていた私をオオカミが咥えると、物凄いスピードで走り始めたのだ。

 背後を振り向くと、先程の攻撃で難を逃れた魔族達が武器を手に追いかけてくる。
それと同時に放ってくる魔法攻撃。
オオカミはそれ等の攻撃を振り切って走り抜け・・・気が付くと、目の前には巨大な洞窟があった。
オオカミは私を降ろすと、その鼻先で私を押した。

「中へ入れば良いの・・・?」
尋ねると、頷くオオカミ。

私は恐る恐る中へ入ると、オオカミも後から付いてきて・・・。

ドサリッ!!

背後で大きな音が聞こえた。
驚いて振り向くと、そこには倒れているオオカミの姿があった―。


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