目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第4部 第1章 1 『門』の扉が開かれるとき・・・ ※<第4部~大人向け内容多め>

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1

ギイイ~ッ・・・・。
私は門をゆっくりと開いた。門を開けた瞬間に聖剣士達が襲い掛かって来るのでは無いかとビクビクしながら開けてみたのに、全く人の姿が見当たらない。
私の次にノア先輩が門をくぐって『ワールズ・エンド』へ足を踏み入れた。

「おかしいね・・・。聖剣士の姿が何処にも見当たらないなんて。」

ノア先輩も異様な光景に眉を潜める。
するとアンジュが意外な事を言った。

「大丈夫、今ボクがこの辺一帯を異次元空間に変えてるんだ。だから実際に聖剣士達は君達の近くにいると思うよ。ただ、お互いの姿は見えていなだけなんだよ。」

「そうだったんだ・・・。」
そう言えば、第1階層でもあの城の迷宮の中では私と魔物達の空間が別になっていたっけ・・・。
そんな事を考えていると、突然背後で恐ろしい悲鳴が起こった。

「キャアアアアアッ!!」

「ウワアアアアッ!!」

え?驚いて振り返ると、なんと門を超えようとしたフレアとヴォルフの身体の一部がまるで熱い炎で熱せられたガラスの様に溶けている。

ヴォルフは右足のつま先部分を、そしてフレアは左手の指先が溶けていた。

「フレアッ!!」

咄嗟にノアが駆けつけようとするとアンジュが叫んだ。

「駄目だ!来るなっ!彼等に触れては駄目だっ!」

言うとアンジュは苦しみながら地面でのたうち回るフレアとヴォルフの身体に手をかざした。
途端にアンジュの身体から光り輝く粒子が現れ、フレアとヴォルフの身体に注ぎ込まれる—。そして見る見るうちに2人の溶けてしまった体の一部が元の通りに戻っていく。
それを門の外で見守る私とノア先輩。

「す、すごい・・・。これが癒しの魔法・・・。」

ノア先輩が感嘆の声を上げた。

やがて、2人の傷は完全に元の通りに戻ったのに、未だに苦しそうに呻いている。

「ね、ねえ!傷は元の通りに戻ったのに、何故まだフレアは苦しがってるのさ!」

ノア先輩はアンジュに食って掛かった。

「それは仕方が無いよ。傷は治ったけど・・・彼等は呪いに触れてしまったんだから。この呪いはそう簡単には身体から消えていかないよ。・・・そもそも消えるかどうかも良く分からない。」

「そ、そんな・・・!」

私は苦しそうに呻いているヴォルフを見下ろした。

「だ、大丈夫・・・だ・・・。ジェシカ・・し、心配するな・・・。」

ヴォルフは苦しくてたまらないのに無理に笑顔で私に言う。

「フレア・・・フレア・・・ッ!」

ノア先輩は苦しむフレアを見て涙を流して彼女の名前を呼んでいる。するとフレアは言った。

「ノ・・・ノア・・・わ、私にかまわず『人間界』へ戻って・・・。」

「何言ってるんだ!そんな事・・・出来るはず無いだろう!」

しかし次の瞬間、フレアの言葉に私は耳を疑った。

「だ・・・だって・・どうせ、貴方は・・す、すぐに忘れるから・・・。」

「え・・?忘れるって・・・一体どういう事?!」

するとアンジュが言った。

「言葉通りの意味だよ。君は・・・もうすぐ、魔界へいた時の記憶を無くす。」

「え・・・?」

ノア先輩が息を飲む気配を感じた。

「この世界の均衡を保つためにね・・・。異世界に行って、元の世界に戻って来ると、その時の記憶は全て失われるんだ。」

アンジュの説明を聞いて、ノア先輩はフレアに話しかけた。

「フ・・・フレア・・き、君・・・その事・・・もしかすると・・知ってた…の・・・?」

「あ・・当たり前・・・じゃない・・・。」

「だ・・・だったら、何故!僕と一緒に人間界へ行くなんて・・・!例え無事に人間界へ行けたとしても・・僕は君の事を忘れてしまうのに?!」

ノア先輩はボロボロ泣きながらフレアに訴える。

「決まって・・・るでしょう・・・。ノア・・・・貴方を・・・愛して・・いるから・・・。例え、私の事を・・・・忘れてしまっても・・・・それでも側に・・いたかったから・・・」

フレアもノア先輩も・・・そして私も泣きながら話を聞いていた。
そんな・・フレアはノア先輩が自分の事を忘れてしまうのを承知の上で、ついてきたなんて・・・!

「ジェ、ジェシカ・・・だから・・お前は・・泣くなって・・・。」

ヴォルフが言う。

「だけど・・・だけど・・・!」
私は泣きながら頭を振った。
アンジュだけは苦悶の表情で、黙っていた。

「ジェ・・ジェシカ・・・聞いて・・・。」

突然フレアが話しかけて来た。

「な、何ですか?フレアさん。」

私はフレアの側に来ると返事をした。

「いい・・・貴女に・・・大事な話が・・・。マ、マシューの事よ・・・。」

「え?!マシュー?!」
いきなりフレアの口から出てきた・・・その名前に驚いた。

「マシューは・・・生きているかも・・・しれない・・わ・・・。あの日彼が剣で胸を貫かれた時・・・私は時を止めて・・『七色の花』をマシューに与えたの・・・。私は・・・掟を破ってしまったけど・・・それでもマシューには死んで欲しくは無かったの・・・よ・・。」

嘘・・・あのマシューが・・・ひょっとすると・・生きているかもしれない・・・?
私の目からは益々涙が溢れて来る。

「い、今まで・・黙っていてごめんなさ・・・い・・・。た、只・・マシューが生き返った・・姿を確認出来ていなかったから・・・。貴女に言えなかった・・の・・。ゆ、許して頂戴・・・。ノアを奪った事も・・・地下牢へ・・閉じ込めた事も・・。」

フレアは苦しそうに言いながら私をじっと見つめている。

「そんな・・・そんな事無いです!マシューの為に・・・あの大切な花を・・!」

しかしフレアは首を振った。

「いいえ・・全て私のせい・・よ・・。ノアを魔界へ・・つ、連れ去らなければ・・そもそも・・・・こんな事にはならなかった・・・のだから・・。」

もう、そこにいる誰もが口を閉ざしてフレアの話を聞いている。
ノア先輩の顔は涙で濡れていたし、ヴォルフは苦しげな顔で目を閉じている。

突然アンジュが叫んだ。
「ま・・まずい!そろそろ次元の封印が解けてしまう・・・!早くこの場を去らないと・・・!」

「く・・・っ!」

すると突然ヴォルフが私とノア先輩に向けて衝撃波を放った。
たちまち遠くへ飛ばされる私達。その時・・・ヴォルフとフレアの思念が流れ込んでくる。


<ジェシカ・・・もし、呪いを解く方法が見つかったら・・その時は・・必ず・・人間界へ・・行くからな・・・っ!>

<ノア・・・元気でね・・・・。ジェシカ・・・ノアの事を・・・お願い・・。>

「フ・・・フレアーッ!!」

ノア先輩のフレアの名を呼ぶ声が『ワールズ・エンド』へ響き渡る。
そして・・・最後に私はアンジュの声を聞いた。

<ハルカ・・・。君は門を開けた人間だ。だから・・・君は魔界の記憶も、狭間の世界の記憶も失う事は無いよ。君の危険を知らせる警報がますます強くなってくる・・。今は呪いで苦しむ2人の側を離れる事が出来ないけど、彼等を救えたら、次は必ずハルカの元へ行くからね—>

アンジュ・・・ありがとう。


ドサッ!
私は地面の上に投げ出された。
「いった・・・。」
でもここは緑が生い茂る『ワールズ・エンド』だ。
少し、手を擦りむいた位程度でどこも怪我はしていない。私は立ち上がって辺りを見渡した。
「ノア先輩?」

辺りをキョロキョロ見渡すも、何処にも姿が見えない。ひょっとすると・・ヴォルフの衝撃波で、お互い離れた場所に放り出されてしまったのだろうか。
ふと、前方に森が見えた。

「森・・・。」

私が口に出して呟いたその時・・・。

ヒヒイイーン・・・・

遠くで馬の嘶きが聞こえた。・・・馬・・・・?
見ると遠くの方に馬にまたがった兵士達の姿が見える。あれは・・・・聖剣士達では無い。一体彼等は・・・?

その瞬間・・・これはあの時見た予知夢の夢の続きなのだと、はっきり自覚した—。



2

馬に乗った兵士達の騒ぎ声が風に乗って聞こえてきた。

「ん?何だ?この男は・・・?」

「どうやら気を失っているようですね。」

きっとノア先輩だ!彼等に見つかっては
まずい・・・。私は前方に見える森に目をやった。あの森に逃げ込めば見つかりにくいはず。幸いにも彼等の注目はノア先輩に向いている・・・。
よし、い・今のうちに・・・私は身を翻して森に向かって駆け出した。

「ハアッハアッ・・・」

息が切れる。相変わらずジェシカの身体は軟弱だ。ちょっと走っただけで、こんなに息切れしてしまうのだから。
深い森の中を走る。何とか逃げ切って・・・でも逃げてどうする?どうせ門番は常にいるのだ。他に門等あるはずが無い。アンジュの言う通りいっそ『狭間の世界』に戻った方が良いのだろう。だけど・・・人間界に戻ればひょっとしたらマシューが生きていて・・・彼に会えるかもしれない。
会いたい。
本当に彼が生きているのなら・・・・会いたい、そして・・・自分の気持ちを伝えるんだ。私は貴方を愛していると・・・。けれど掴まったら、もう二度と彼に会う事は叶わないかもしれない・・・!
何とか逃げ切って、アンジュが助けに来てくれるまで、この『ワールズ・エンド』の何処かに隠れて・・・。
その時、背後で犬の吠え声が聞こえてきた。
え?!い、犬?!
背後を振り返ると2匹の猟犬が物凄いスピードで追ってくる。
こ、怖いッ!

「いたぞっ!!ジェシカ・リッジウェイだっ!!」

「待て!ジェシカ・リッジウェイ!貴様・・・この学院から逃げられるとでも思ったか?!」

あの台詞は・・・夢の中で聞いたのと同じだっ!!
馬を駆る音と、兵士たちの声、犬の吠え越えがどんどん近付いてくる・・・。
その時、木の幹に足を取られてしまった。

「キャアアッ!!」

激しく転び、私は夢の中で体験した通りに右足を痛めてしまった。足首に激しい痛みが走り、立ち上がる事すら出来ない。


「ついに捕らえたぞ!この悪女め!!」

鉄仮面を被った兵士が馬上から乱暴に私の腕を掴み、無理矢理腕を引っ張って立たせられる。
「ウッ!!」
余りの激痛に顔が歪み、一瞬気が遠くなりかけた。

「ハッハッハ!!いいざまだ!ジェシカ・リッジウェイ!やはり聖女様の言った通り、この道を通って逃げ出したか!」

私の耳元でわざと大声で笑い声を上げる兵士。
そう・・・これはまさにデジャブだ。夢の中で見た事を追体験している・・・。となると、次に現れるのは・・・。

「ジェシカさん、逃げるとより一層罪が重くなりますよ。どうか学院に戻ってご自分の犯した罪を償って下さい。」

 ああ・・・やはり・・・。顔を上げて私はその人物を確認する。そこには夢で見たのと同じ光景が繰り広げられていた。
まるでプリンセスのようなドレスに身を包み、白い馬に乗ったソフィーがアラン王子と共に現れる姿を私は絶望的な気持ちで見つめるしか無かった・・・・。

 ソフィーは出立ちこそ、物語のヒロインそのものであったが、私を見下ろす冷たい目、勝ち誇ったかのような顔は・・・まるで悪女そのものだ。アラン王子は今、どんな顔を見せているか・・もう完全にソフィーの虜になってしまったのだろうか・・・?一筋の望みをかけて私はアラン王子を見た。だが・・・アラン王子のアイスブルーの瞳は輝きを失い、濁った目をしている。
だ、駄目・・・もう完全にアラン王子は・・・。
私が夢で見たのはここまで。ここから先の展開は全く分からない。けれども・・・私は今掴まっている。足の怪我のせいで隙をついて逃げる事すら私には出来ない。
アンジュ・・・・きっと今頃私の身の危険を知らせる警報が鳴りっぱなしに違いないだろう・・・。 
嫌だ・・・こんな所で捕まったら、もう二度と私はマシューに・・・。
まだ貴方に何も伝えていないのに・・・・!
アンジュ・・・。マシュー・・・助けて・・・。思わず目に涙が浮かんでくる。

「ジェ・・・ジェシカ・・・。」

突然馬上のアラン王子が私の名前を呼んだ。ハッとなって顔を上げると、アラン王子が苦痛の表情を浮かべながら私を見つめていた。

「ア・・・アラン・・・王子・・・?」

腕を掴まれたままの私はアラン王子をじっと見つめた。その時、突然私の左腕が熱を帯びたように熱くなり、光り輝きだした。
え?な、何これは?!
するとそれに反応したかのように今度はアラン王子の右腕が光り輝き、2つの光が互いに反応し合うかのように、交互に点滅し始めたのである。
「え・・・・?な、何これは・・・・?」

他の兵士達も唖然としている。しかし、ソフィーだけは違っていた。今までにない程の怒りを込めた目で私を睨み付けると名前を呼んだ。

「ジェシカッ!」

う・・・うわ・・は、初めて呼び捨てで名前を呼ばれてしまった・・・っ!

「お前・・・・ま、まさか・・・アラン王子と・・・・?!」

「え?い、一体何の事なの?」
ソフィーが何を言いたいのか、私にはさっぱり訳が分からない。

「胡麻化さないで!2人に刻まれた印が反応し合うと言う事は・・・・聖女と聖剣士の誓いの契りを交わした証なのよっ!!」

う・・・うわああああっ!こ、公衆の面前で・・・・ソフィーがとんでもない事を言ってしまった。
当然他の兵士たちは私とアラン王子の顔を交互に見つめている。

「ジェシカ・・・・。」

アラン王子は正気に戻ったのか、いつものアイスブルーの瞳で私をじっと見つめている。

「アラン王子っ!」

ソフィーが嫉妬の入り混じったような声で自分の背後にいるアラン王子の方を振り向くと、何やら呪文のようなものを唱え始めた。
途端にアラン王子の顔が苦し気に歪む。・・・あんな辛そうな顔のアラン王子の顔を見るのは初めてだ。
「やめて!ソフィーッ!アラン王子が・・・あんなに苦しんでいるじゃ無いのっ!」
私は思わず叫んでしまった。

「煩いっ!アラン王子の心配より、まずは自分の心配をしたらどうなの?!お前なんか・・・捕まえて、裁判にかけて・・・重い罪を被せてやるんだから・・・!でもその前に・・・お前の『魅了』の魔力を奪ってやる・・・・!」

最早完全に悪役の魔女の様な台詞を吐くソフィー。マシューの言った通り・・・目の前にいるソフィーが聖女のはずは無い。それでは本物の聖女は一体どこにいると言うの・・・?

「や・・・・やめろ・・・ソフィー・・・ッ!」

アラン王子必死にソフィーを止めようとしているが、ソフィーは乱暴にアラン王子の手を振りほどくと、私に向かって右手を差し出して叫んだ。

「サクションッ!!」

呪文と同時に黒いホースのようなものがソフィーの掌から現れた。その様はあまりにも不気味で・・・背筋に寒気が走った。な・・何・・この魔法は・・まるで魔族が使うような魔法だ・・・っ!
しかし、それと同時に私は瞬時に思った。この魔法に触れると・・・命を落としかねないかも・・・!

「い・・・嫌・・・やめて・・・ッ!!」
助けて・・・マシューッ!アンジュ・・・・ッ!
私は心の中で2人に助けを求めた。すると・・・私の額が突然熱くなり、光輝き始めた・・・。
え・・?こ、これは・・魔界の・・・あの時と同じ・・・!
光り輝いた途端、あれ程痛んでいた右足首の痛みは完全に消失していた。そして、光は寄り一層強くなる。

終いに、私を除くその場に居た全員があまりの眩しさに耐え切れなくなったのか。呻きながら顔を両手で覆い隠した。
え・・・?そんなに眩しいの・・・?
私にはちっともこの光が眩しい等とは感じない。その時、頭の中でアンジュの声が日響き渡った。

<ハルカッ!彼等が油断している今のうちにこの場所から逃げるんだっ!>

何処へなんて聞かなくても分かる。恐らく今、門の周囲には見張りが誰もいないはず・・。

私は背を向けると『門』を目指して走り出した―。
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