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第1章 2 私は指名手配犯?
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1
ハアッ!ハアッ!
私は必死で後ろを振り返らず、セント・レイズ学院へ繋がる『門』を目指して走り続けた。
幸い、まだソフィー達が追いかけてくる様子は無い。走り続けていく内に『門』が見えて来た。
早く、早く中へ・・・!
しかし、その瞬間脳裏に嫌な予感がした。そう言えばあそこにも見張りがいた・・・。どうしよう、今も・・・やはり見張りがいるのだろうか?
その時私は自分の指にはめている指輪に気が付いた。
そう言えば・・・この指輪はいつかケビンがプレゼントしてくれたマジックアイテムだ。使用できる回数は限られているものの・・・・身体を消す事が出来る。
だけど、幾ら身体を消したからと言って『門』が勝手に開けば、当然不審がられてバレる可能性がある。
でも・・今は一縷の望みにかけるしかない。
私は走りながら指輪に祈りを込めた―。
神殿では5名の聖剣士と、同じく5名の神官達が話をしている。
「そう言えば・・・今日は何だか騒がしいぜ。聖女様はわざわざ白馬を調達して、アラン王子と一緒に馬に乗ってここを通って行ったし・・。実はな、ここだけの話だけど、あの姿を見た女子学生達からはかなり白い目で見られていたらしいぞ。」
「確かに・・・俺もあの姿を見た時は・・正直引いたよ。でも聖女様のお告げで、『門』の封印を解いた、女子学生が『ワールズ・エンド』に現れるらしいから、それなりの衣装を着て舞台を整えようと考えたんじゃないのか?」
「ああ、大勢の兵士達と向かって行ったからな・・・。しかし・・たかが、たった1人捕まえるだけだからと言って、この『門』を解放しっぱなしでいいのか?」
「まあ、馬を連れて行ったから仕方ないんじゃないか?何せ馬って生き物は臆病だからな。突然『門』が開いて、こことは全く別の世界が現れたら、それこそ馬がパニックを起こしかねないだろう?にそれにしても・・・俺達『聖剣士』がいるっていうのに、何故今度は学院内で兵士まで起用したんだ?俺達だけじゃ不満だっていうのかよ。」
「おい!滅多な事言うな!聖女様の怒りに触れたいのか?」
「だけどな・・・あの兵士達って、全員爵位が低い連中ばかりだろう?おまけに皆柄が悪いし・・・。それなのにあいつ等ばかり引き連れて、俺達聖剣士と神官を残していくなんて・・・。何を考えているのか全く分からん。」
「まあ・・・仕方無いさ。聖女様の命令は絶対だ。誰一人歯向かう事出来ないさ。」
「それにしても・・本当にその女子学生は『門』の封印を解いたのか?聖女様はああ言ってるけど・・・何も異変が起きなかったぞ?あの封印を解けば魔界から魔族達が溢れかえって来る話じゃ無かったか?」
「ああ、確かにおかしな話だ。相変わらずこの世界は平和だしな・・・。」
「そう言えば・・・その女子学生って・・・何て名前だったっけ・・・?」
「確か・・・ジェシカ・リッジウェイだ。」
ドキッ!!
そこで私は初めて自分の名前が聖剣士の口から飛び出し、危うく声を上げそうになってしまった。
ここは神殿の中。
今から10分程前の事だ・・・。
姿を消して中を覗き込むと入り口の門が解放されており、合計10名の聖剣士と神官達の姿が目に入った。
しかし、誰もが話に夢中になっている為か、姿を消した私の気配を誰一人察知する人物がいなかったので足音を立てないようにソロリソロリと歩いてきたのだ。
その間に彼等の会話が耳に入って来たのだが・・・・。
何だか、彼等の話を聞く限りでは、セント・レイズ学院にはちょっとした異変が起こっていたようだ。
学院に兵士?私の物語の設定ではそんな制度は作っていなかった。おまけにその兵士達は全員が爵位の低い者達ばかり。・・・道理で粗暴な兵士だったわけだ。
でも、彼等がいたお陰で少しだけ情報を仕入れる事が出来た。
私が一番安堵した事・・・それは、やはり魔族が人間界に現れていなかったという事だ。それなら私が魔界の門を開けたという証拠が出てこない。ひょっとすると、罪に問われる事はないのでは・・・?
いや、駄目だ。ソフィーは私を裁判にかけて重い罪を被せてやるとはっきり言っていたでは無いか。
取りあえずはこの神殿を抜けて・・・一旦この学院を離れよう。
私は慎重に歩みを進めて、神殿を脱出する事に成功した—。
神殿を抜けると、私はすぐに茂みに身を隠した。何故なら徐々に自分の姿が見え始めてきたからである。果たして、「ジェシカ・リッジウェイ」という人物はこの学院の生徒達に認識されているのだろうか?
私は魔界に入ったので、その間に私に関する記憶は消え失せているはず。だけど、今はこうして戻って来た。・・・果たして皆、どれくらいの期間を得て、私に関する記憶を取り戻すのだろうか・・・。だけど、悩んでいても仕方が無い。
私はフード付きの防寒着を纏うと、目深にフードを被り、辺りを伺いながら慎重に茂みから這い出て来た。
さて・・・これからどうしよう。
私はブラブラと学院の敷地を歩き始めた。確か、芝生公園に時計があったはず・・・。
私は芝生公園で時計を確認した。
今の時刻は午前11時半。もうすぐ昼休憩に入る時間だ。ベンチに腰を降ろし、私は今後の計画を考えた。
取りあえず、ソフィー達に見つかる前に一度この学院を離れた方が良さそうだ。
けれども、生憎今日は週末では無いので『セント・レイズシティ』の門は開かれていない。
転移魔法の使える人に町まで連れて行って貰うようにお願いするのが良いのだろうが・・・。
でも誰に頼めばいい?
一番身近にいる人物で真っ先に思い浮かんだのがマリウスであったが、彼だけは絶対にお断りだ。例え、私に関する記憶を持っていようがいまいが。
となると・・・駄目だ・・・。町まで連れて行って貰える相手が見つからない・・・。
誰か・・・誰か適任者がいないだろうか・・・。
そこまで考えて、私は1人の人物を思い出した。
そうだ・・・・ジョセフ先生にお願いしてみよう―。
コンコン。
フードを被り、顔を隠した状態で私は講師室の控室をノックした。
「・・・。」
しかし返事は帰って来ない。ひょっとすると今は授業中なので、全ての講師の先生は皆で払っているのかもしれない。けれど・・・今の私は授業に出る気はさらさら無かった。
それに・・・講師室を出ると、白い息を吐きながら空を見上げた。
「一体・・・私がいなくなっていた間に・・・何が起こったの・・?」
思わず口に出していた。この学院に来てから、私は青空しか見た事が無かった。
なのに・・・今のこの空は一体どうしたというのだろう?
灰色に濁った空はところどころ、太陽の光の筋が差してはいるが、その空には青い空の片鱗すら見えない。そして日が差していない為か・・・とにかく寒かった。
魔界の寒さを体験して来た私が実感する程なので、恐らく誰もが今までとは比較にならない位に寒いと感じているに違いない。
その時、授業終了を知らせるチャイムアが鳴り響いた。
授業が終わったのだ—!
講師室の校舎がある付近の茂みに身を隠すと、私はひたすらにジョセフ先生がやって来るのを待っていた・・・。
おかしい、幾ら何でも遅すぎる。
他の講師の先生方は講師室に戻ってきていると言うのに、ジョセフ先生だけが一向に戻ってくる気配が無い。
「・・・一体、先生・・・どうしたんだろう・・・?」
何だか徐々に嫌な予感が沸き起こって来る。こんな所にいつまでも居たって何も始まらない。
私は当たりを慎重に見渡しながら茂みから這い出て、再度講師室を訪ねた。
「ああ・・・ジョセフ・ハワード君だね・・・。彼ならこの学院を辞めたよ。」
「え?辞めた?」
講師室を尋ねた私は、対応してくれた初老の講師の先生から思いもかけない台詞を聞かされて驚愕した。
「そ、そんな・・・何故ですかっ?!」
聞き間違いでは無いだろうか。
「それが・・・詳しい事は私も知らないんだよ・・・。でも噂によると、個人的に学生と交流を深めた事が問題視されて・・・聖女の進言で・・学院長からクビを言い渡されたらしいのだが・・・。」
ま、まさか・・・交流を深めた学生って・・・ひょっとすると私の事?!
思わずその場でへたり込む私。
また1人、私のせいで誰かを不幸にしてしまった—。
2
これからどうすれば良いのだろう・・・。講師室を出た私はトボトボと当てもなく歩いていた。
本当なら真っ先に訪ねるべき人はダニエル先輩なのかもしれない。でも・・私の事を忘れていたら?ソフィーに洗脳されていたら?
そう考えると、怖くて訪ねる気がしなかった。他に・・・他に誰なら信頼出来る・・?
だけど、考えれば考える程に今の私の味方になってくれそうな人物が誰も思いつかない。
グレイやルーク・・・それにエマ、クロエ、リリス、シャーロット・・・マリウスや生徒会長ならまだ何とかなりそうな気もするが、あの2人にだけは絶対に頼りたくない。そして公爵・・・・恐らく彼は今は間違いなく私の敵となっているはずだ。
何故あの場に現れなかったのか謎が残るが、絶対に彼にだけは見つかってはいけないと私の中で警鐘が鳴っている。
それに気がかりなのが私を手助けしてくれたライアン、レオ、ケビン、テオ・・・そして・・・。
「マシュー・・・・。」
私はいつしか愛しい彼の名を呟いていた。
目に涙が浮かんでくる。マシュー・・・貴方は本当に生きてるの?今・・・一体何処にいるの・・・?
本当は彼の行方を捜したいのに、何故か私が持っているマジックアイテムの手鏡は何の反応も示さない。学院について真っ先にマシューの居場所を知る為に鏡を覗きこんだのに、映る姿は私の顔だけだったのだ。
・・・ひょっとすると・・やはり助からずに、あの場で死んでしまったのだろうか・・・。私は恐ろしい考えを振り切る為に首を振った。
ふと気が付いてみると、いつの間にか私は初めてマシューと出会った旧校舎の中庭へ来ていた。無意識にここへ足を運んでしまったようだ。
馬鹿だな・・・私。こんな所へ来たって彼に会えるとは限らないのに・・・。
溜息をついてベンチに座って空を見上げる。
相変わらず気が滅入るような空だ。そう、まるで魔界で見上げた空のような・・・。
あれからノア先輩はどうなったのだろう。だけど・・・ノア先輩ならきっと大丈夫。何故かは分からないが、私はそう思えた。恐らく、ノア先輩は魔界へ誘拐されたセント・レイズ学院の学生が『ワールズ・エンド』で見つかった・・・とでもきっと世間から認識されるに違いない。
今、一番まずい状況に立たされているのが私だ。
魔界へ行くと、人間界から記憶どころか、最初から存在しなかったように認識されてしまうのに、何故ソフィーは私の記憶を無くしていなかったのだろう?それに・・・どうして私が今日『ワールズ・エンド』へ現れる事を予測出来た?これも全て聖女による力なのだろうか?だけどソフィーの使う魔法はまるで魔族の使う闇の魔法にしか見えなかった。
私は今すごく孤独だ・・・・・。初めてこの世界にやって来た時もそう感じたが、今はその時の比では無い。この学院にいる人達誰もが、全員私の敵にしか思えないのだから。私は大分精神を病んでしまっているのかもしれない。
本当は『ワールズ・エンド』で夢の通り、大人しく掴まるつもりでいた。だけど、フレアからマシューが生きているかもしれないと聞かされたら・・・どうしても一目彼に会うまでは流刑島へ送られたくないという重いが強く、私はとうとうここまで来てしまった。
その時、旧校舎へ誰かが入って来る足音が聞こえ、私は咄嗟に校舎の中へ逃げ込んだ。そして窓からそっと中を伺うと、そこには腕章をつけた2人の男子学生が掲示板に何かを貼っている姿を目撃した。
・・・何やら話声が聞こえて来る。一体何を話しているのだろう・・・。気付かれないように身を縮め、ソロリソロリと外へ向かい出口付近で身を沈めた。
「・・・後、何箇所にこのポスターを貼ればいいんだ?」
「う~ん・・・残りまだ100枚以上はあるぞ・・・。一体聖女様様はどれくらいこのポスターを作ったんだよ・・・。」
「しかし・・・凶悪そうな顔しているよな・・・。このジェシカ・リッジウェイって女は。」
な、何?わ、私?!一体どういう事なの?!もしかして・・・あのポスターは私の事が書かれているの?
2人の会話はまだ続いている。
「それにしても・・・聞き覚えが無い名前だよな。本当にこの学院にいたのか?」
「何でも聖女様の話によると魔界に行った者は、その報いが来るらしいぜ。この世界からそれまでの存在を消されてしまうらしい。だけど、魔界から戻って来るらしいから・・・それで捕まえる為にこのポスターを作らせたんだろう?」
「よし、それじゃ残りのポスターを貼りに行こうぜ。」
言いながら2人の学生はその場を後にした。
彼等の足音が完全に聞こえなくなってから、私はフードをより一層目深に被ると、急いで掲示板を確認しに行った。
「え・・・う、嘘でしょう・・?何、この絵は・・・。」
そのポスターにはデカデカと私の絵が描かれていた。が・・・しかし、その絵はとても私と似ても似つかないものだった。
紫色の瞳はあっているが、この人物は目が細く、まるで狐のように吊り上がっている。口も一文字に締まり、口角の端が上がってずる賢そうな笑みを浮かべている。これはどこからどう見ても・・・意地の悪い悪女にしか見えない。
この絵の唯一似ている所と言えば、長く、ウェーブのあるこの髪型位だ。
「な、何て酷い絵なの・・・。で、でも・・・髪型が・・・こ、これはまずいわ・・・」
ジェシカの髪はこの学院でも珍しい位に長い。私が書いた小説のジェシカは自分の長く美しい栗毛入りの髪が一番のお気に入りで、とても大切にしていた。だけど・・・私はジェシカでは無い。今はこの髪型のせいでピンチに追いやられている。な、何とか・・・しなければ・・・!
私は肩から下げていたリュックをベンチに降ろすと、何か使えそうなものは無いか探し始めた。
あった!
念の為にと荷物の中に入れてあった鋏が見つかった。私は自分の髪の毛をひとまとめにして左手で持つと、迷うことなく鋏を入れた―。
「これで・・よしと。」
私は余っていたリネンの生地に先程自分が切り落とした髪の束をを入れて縛るとリュックの中にしまった。
そして改めてフードを目深に被ると、人目を避けるようにしながら「セント・レイズ学院」の門に向かって歩き始めた。
この学院とセント・レイズシティを繋ぐ『門』は閉ざされている。そして私には他の人達のように転移魔法を使う事が出来ない。そうなると・・・
「歩くしか無いわ。」
私は自分を奮い立たせるために口に出した。大丈夫、根性があればきっと・・・町まで歩いて行ける・・はず・・・。
兎に角、セント・レイズシティに着いたらジョセフ先生の家を訪ねてみよう。それに気がかりなのはレオの事だ。何とかウィル達のいる島へ渡る方法も考えて・・・。
ブツブツ言いながら下を向いて歩いていると、急に前方から声をかけられた。
「おい、そこのフードを被った女。何処へ行くつもりなんだ?」
し、しまった!考え事をしながら歩いていたから・・・堂々と学院の敷地内を歩いていた!今の私はお尋ね者なのに・・・・・。
そう、実はあのポスターには驚くべきことに懸賞がかけられていたのだ。商品はお金ではなく、何と単位のプレゼント。この私を捕えた人物には自分が一番苦手とする科目の単位を無試験で貰えるのだ。こんな事、許されるはずが無い!
絶対にソフィーの仕業に決まっている。しかし、ソフィーのこんな無茶苦茶な要求を呑む学院も十分問題がある。もはや・・・この学院はソフィーによって支配されているに違いない。
等と・・・めまぐるしく考えていたら、再び声を掛けられた。
「おい、お前の事だよ、聞いてるのか?」
男性の声が先程よりもイラつきを見せているので私は慌てて下を向きながら返事をした。
「い、いえ。大丈夫です。ちゃんと聞こえてますから・・・。」
言いながら私は相手に自分の顔が見えない程度に顔を向けた。
え・・・・この人は、確か—?
ハアッ!ハアッ!
私は必死で後ろを振り返らず、セント・レイズ学院へ繋がる『門』を目指して走り続けた。
幸い、まだソフィー達が追いかけてくる様子は無い。走り続けていく内に『門』が見えて来た。
早く、早く中へ・・・!
しかし、その瞬間脳裏に嫌な予感がした。そう言えばあそこにも見張りがいた・・・。どうしよう、今も・・・やはり見張りがいるのだろうか?
その時私は自分の指にはめている指輪に気が付いた。
そう言えば・・・この指輪はいつかケビンがプレゼントしてくれたマジックアイテムだ。使用できる回数は限られているものの・・・・身体を消す事が出来る。
だけど、幾ら身体を消したからと言って『門』が勝手に開けば、当然不審がられてバレる可能性がある。
でも・・今は一縷の望みにかけるしかない。
私は走りながら指輪に祈りを込めた―。
神殿では5名の聖剣士と、同じく5名の神官達が話をしている。
「そう言えば・・・今日は何だか騒がしいぜ。聖女様はわざわざ白馬を調達して、アラン王子と一緒に馬に乗ってここを通って行ったし・・。実はな、ここだけの話だけど、あの姿を見た女子学生達からはかなり白い目で見られていたらしいぞ。」
「確かに・・・俺もあの姿を見た時は・・正直引いたよ。でも聖女様のお告げで、『門』の封印を解いた、女子学生が『ワールズ・エンド』に現れるらしいから、それなりの衣装を着て舞台を整えようと考えたんじゃないのか?」
「ああ、大勢の兵士達と向かって行ったからな・・・。しかし・・たかが、たった1人捕まえるだけだからと言って、この『門』を解放しっぱなしでいいのか?」
「まあ、馬を連れて行ったから仕方ないんじゃないか?何せ馬って生き物は臆病だからな。突然『門』が開いて、こことは全く別の世界が現れたら、それこそ馬がパニックを起こしかねないだろう?にそれにしても・・・俺達『聖剣士』がいるっていうのに、何故今度は学院内で兵士まで起用したんだ?俺達だけじゃ不満だっていうのかよ。」
「おい!滅多な事言うな!聖女様の怒りに触れたいのか?」
「だけどな・・・あの兵士達って、全員爵位が低い連中ばかりだろう?おまけに皆柄が悪いし・・・。それなのにあいつ等ばかり引き連れて、俺達聖剣士と神官を残していくなんて・・・。何を考えているのか全く分からん。」
「まあ・・・仕方無いさ。聖女様の命令は絶対だ。誰一人歯向かう事出来ないさ。」
「それにしても・・本当にその女子学生は『門』の封印を解いたのか?聖女様はああ言ってるけど・・・何も異変が起きなかったぞ?あの封印を解けば魔界から魔族達が溢れかえって来る話じゃ無かったか?」
「ああ、確かにおかしな話だ。相変わらずこの世界は平和だしな・・・。」
「そう言えば・・・その女子学生って・・・何て名前だったっけ・・・?」
「確か・・・ジェシカ・リッジウェイだ。」
ドキッ!!
そこで私は初めて自分の名前が聖剣士の口から飛び出し、危うく声を上げそうになってしまった。
ここは神殿の中。
今から10分程前の事だ・・・。
姿を消して中を覗き込むと入り口の門が解放されており、合計10名の聖剣士と神官達の姿が目に入った。
しかし、誰もが話に夢中になっている為か、姿を消した私の気配を誰一人察知する人物がいなかったので足音を立てないようにソロリソロリと歩いてきたのだ。
その間に彼等の会話が耳に入って来たのだが・・・・。
何だか、彼等の話を聞く限りでは、セント・レイズ学院にはちょっとした異変が起こっていたようだ。
学院に兵士?私の物語の設定ではそんな制度は作っていなかった。おまけにその兵士達は全員が爵位の低い者達ばかり。・・・道理で粗暴な兵士だったわけだ。
でも、彼等がいたお陰で少しだけ情報を仕入れる事が出来た。
私が一番安堵した事・・・それは、やはり魔族が人間界に現れていなかったという事だ。それなら私が魔界の門を開けたという証拠が出てこない。ひょっとすると、罪に問われる事はないのでは・・・?
いや、駄目だ。ソフィーは私を裁判にかけて重い罪を被せてやるとはっきり言っていたでは無いか。
取りあえずはこの神殿を抜けて・・・一旦この学院を離れよう。
私は慎重に歩みを進めて、神殿を脱出する事に成功した—。
神殿を抜けると、私はすぐに茂みに身を隠した。何故なら徐々に自分の姿が見え始めてきたからである。果たして、「ジェシカ・リッジウェイ」という人物はこの学院の生徒達に認識されているのだろうか?
私は魔界に入ったので、その間に私に関する記憶は消え失せているはず。だけど、今はこうして戻って来た。・・・果たして皆、どれくらいの期間を得て、私に関する記憶を取り戻すのだろうか・・・。だけど、悩んでいても仕方が無い。
私はフード付きの防寒着を纏うと、目深にフードを被り、辺りを伺いながら慎重に茂みから這い出て来た。
さて・・・これからどうしよう。
私はブラブラと学院の敷地を歩き始めた。確か、芝生公園に時計があったはず・・・。
私は芝生公園で時計を確認した。
今の時刻は午前11時半。もうすぐ昼休憩に入る時間だ。ベンチに腰を降ろし、私は今後の計画を考えた。
取りあえず、ソフィー達に見つかる前に一度この学院を離れた方が良さそうだ。
けれども、生憎今日は週末では無いので『セント・レイズシティ』の門は開かれていない。
転移魔法の使える人に町まで連れて行って貰うようにお願いするのが良いのだろうが・・・。
でも誰に頼めばいい?
一番身近にいる人物で真っ先に思い浮かんだのがマリウスであったが、彼だけは絶対にお断りだ。例え、私に関する記憶を持っていようがいまいが。
となると・・・駄目だ・・・。町まで連れて行って貰える相手が見つからない・・・。
誰か・・・誰か適任者がいないだろうか・・・。
そこまで考えて、私は1人の人物を思い出した。
そうだ・・・・ジョセフ先生にお願いしてみよう―。
コンコン。
フードを被り、顔を隠した状態で私は講師室の控室をノックした。
「・・・。」
しかし返事は帰って来ない。ひょっとすると今は授業中なので、全ての講師の先生は皆で払っているのかもしれない。けれど・・・今の私は授業に出る気はさらさら無かった。
それに・・・講師室を出ると、白い息を吐きながら空を見上げた。
「一体・・・私がいなくなっていた間に・・・何が起こったの・・?」
思わず口に出していた。この学院に来てから、私は青空しか見た事が無かった。
なのに・・・今のこの空は一体どうしたというのだろう?
灰色に濁った空はところどころ、太陽の光の筋が差してはいるが、その空には青い空の片鱗すら見えない。そして日が差していない為か・・・とにかく寒かった。
魔界の寒さを体験して来た私が実感する程なので、恐らく誰もが今までとは比較にならない位に寒いと感じているに違いない。
その時、授業終了を知らせるチャイムアが鳴り響いた。
授業が終わったのだ—!
講師室の校舎がある付近の茂みに身を隠すと、私はひたすらにジョセフ先生がやって来るのを待っていた・・・。
おかしい、幾ら何でも遅すぎる。
他の講師の先生方は講師室に戻ってきていると言うのに、ジョセフ先生だけが一向に戻ってくる気配が無い。
「・・・一体、先生・・・どうしたんだろう・・・?」
何だか徐々に嫌な予感が沸き起こって来る。こんな所にいつまでも居たって何も始まらない。
私は当たりを慎重に見渡しながら茂みから這い出て、再度講師室を訪ねた。
「ああ・・・ジョセフ・ハワード君だね・・・。彼ならこの学院を辞めたよ。」
「え?辞めた?」
講師室を尋ねた私は、対応してくれた初老の講師の先生から思いもかけない台詞を聞かされて驚愕した。
「そ、そんな・・・何故ですかっ?!」
聞き間違いでは無いだろうか。
「それが・・・詳しい事は私も知らないんだよ・・・。でも噂によると、個人的に学生と交流を深めた事が問題視されて・・・聖女の進言で・・学院長からクビを言い渡されたらしいのだが・・・。」
ま、まさか・・・交流を深めた学生って・・・ひょっとすると私の事?!
思わずその場でへたり込む私。
また1人、私のせいで誰かを不幸にしてしまった—。
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これからどうすれば良いのだろう・・・。講師室を出た私はトボトボと当てもなく歩いていた。
本当なら真っ先に訪ねるべき人はダニエル先輩なのかもしれない。でも・・私の事を忘れていたら?ソフィーに洗脳されていたら?
そう考えると、怖くて訪ねる気がしなかった。他に・・・他に誰なら信頼出来る・・?
だけど、考えれば考える程に今の私の味方になってくれそうな人物が誰も思いつかない。
グレイやルーク・・・それにエマ、クロエ、リリス、シャーロット・・・マリウスや生徒会長ならまだ何とかなりそうな気もするが、あの2人にだけは絶対に頼りたくない。そして公爵・・・・恐らく彼は今は間違いなく私の敵となっているはずだ。
何故あの場に現れなかったのか謎が残るが、絶対に彼にだけは見つかってはいけないと私の中で警鐘が鳴っている。
それに気がかりなのが私を手助けしてくれたライアン、レオ、ケビン、テオ・・・そして・・・。
「マシュー・・・・。」
私はいつしか愛しい彼の名を呟いていた。
目に涙が浮かんでくる。マシュー・・・貴方は本当に生きてるの?今・・・一体何処にいるの・・・?
本当は彼の行方を捜したいのに、何故か私が持っているマジックアイテムの手鏡は何の反応も示さない。学院について真っ先にマシューの居場所を知る為に鏡を覗きこんだのに、映る姿は私の顔だけだったのだ。
・・・ひょっとすると・・やはり助からずに、あの場で死んでしまったのだろうか・・・。私は恐ろしい考えを振り切る為に首を振った。
ふと気が付いてみると、いつの間にか私は初めてマシューと出会った旧校舎の中庭へ来ていた。無意識にここへ足を運んでしまったようだ。
馬鹿だな・・・私。こんな所へ来たって彼に会えるとは限らないのに・・・。
溜息をついてベンチに座って空を見上げる。
相変わらず気が滅入るような空だ。そう、まるで魔界で見上げた空のような・・・。
あれからノア先輩はどうなったのだろう。だけど・・・ノア先輩ならきっと大丈夫。何故かは分からないが、私はそう思えた。恐らく、ノア先輩は魔界へ誘拐されたセント・レイズ学院の学生が『ワールズ・エンド』で見つかった・・・とでもきっと世間から認識されるに違いない。
今、一番まずい状況に立たされているのが私だ。
魔界へ行くと、人間界から記憶どころか、最初から存在しなかったように認識されてしまうのに、何故ソフィーは私の記憶を無くしていなかったのだろう?それに・・・どうして私が今日『ワールズ・エンド』へ現れる事を予測出来た?これも全て聖女による力なのだろうか?だけどソフィーの使う魔法はまるで魔族の使う闇の魔法にしか見えなかった。
私は今すごく孤独だ・・・・・。初めてこの世界にやって来た時もそう感じたが、今はその時の比では無い。この学院にいる人達誰もが、全員私の敵にしか思えないのだから。私は大分精神を病んでしまっているのかもしれない。
本当は『ワールズ・エンド』で夢の通り、大人しく掴まるつもりでいた。だけど、フレアからマシューが生きているかもしれないと聞かされたら・・・どうしても一目彼に会うまでは流刑島へ送られたくないという重いが強く、私はとうとうここまで来てしまった。
その時、旧校舎へ誰かが入って来る足音が聞こえ、私は咄嗟に校舎の中へ逃げ込んだ。そして窓からそっと中を伺うと、そこには腕章をつけた2人の男子学生が掲示板に何かを貼っている姿を目撃した。
・・・何やら話声が聞こえて来る。一体何を話しているのだろう・・・。気付かれないように身を縮め、ソロリソロリと外へ向かい出口付近で身を沈めた。
「・・・後、何箇所にこのポスターを貼ればいいんだ?」
「う~ん・・・残りまだ100枚以上はあるぞ・・・。一体聖女様様はどれくらいこのポスターを作ったんだよ・・・。」
「しかし・・・凶悪そうな顔しているよな・・・。このジェシカ・リッジウェイって女は。」
な、何?わ、私?!一体どういう事なの?!もしかして・・・あのポスターは私の事が書かれているの?
2人の会話はまだ続いている。
「それにしても・・・聞き覚えが無い名前だよな。本当にこの学院にいたのか?」
「何でも聖女様の話によると魔界に行った者は、その報いが来るらしいぜ。この世界からそれまでの存在を消されてしまうらしい。だけど、魔界から戻って来るらしいから・・・それで捕まえる為にこのポスターを作らせたんだろう?」
「よし、それじゃ残りのポスターを貼りに行こうぜ。」
言いながら2人の学生はその場を後にした。
彼等の足音が完全に聞こえなくなってから、私はフードをより一層目深に被ると、急いで掲示板を確認しに行った。
「え・・・う、嘘でしょう・・?何、この絵は・・・。」
そのポスターにはデカデカと私の絵が描かれていた。が・・・しかし、その絵はとても私と似ても似つかないものだった。
紫色の瞳はあっているが、この人物は目が細く、まるで狐のように吊り上がっている。口も一文字に締まり、口角の端が上がってずる賢そうな笑みを浮かべている。これはどこからどう見ても・・・意地の悪い悪女にしか見えない。
この絵の唯一似ている所と言えば、長く、ウェーブのあるこの髪型位だ。
「な、何て酷い絵なの・・・。で、でも・・・髪型が・・・こ、これはまずいわ・・・」
ジェシカの髪はこの学院でも珍しい位に長い。私が書いた小説のジェシカは自分の長く美しい栗毛入りの髪が一番のお気に入りで、とても大切にしていた。だけど・・・私はジェシカでは無い。今はこの髪型のせいでピンチに追いやられている。な、何とか・・・しなければ・・・!
私は肩から下げていたリュックをベンチに降ろすと、何か使えそうなものは無いか探し始めた。
あった!
念の為にと荷物の中に入れてあった鋏が見つかった。私は自分の髪の毛をひとまとめにして左手で持つと、迷うことなく鋏を入れた―。
「これで・・よしと。」
私は余っていたリネンの生地に先程自分が切り落とした髪の束をを入れて縛るとリュックの中にしまった。
そして改めてフードを目深に被ると、人目を避けるようにしながら「セント・レイズ学院」の門に向かって歩き始めた。
この学院とセント・レイズシティを繋ぐ『門』は閉ざされている。そして私には他の人達のように転移魔法を使う事が出来ない。そうなると・・・
「歩くしか無いわ。」
私は自分を奮い立たせるために口に出した。大丈夫、根性があればきっと・・・町まで歩いて行ける・・はず・・・。
兎に角、セント・レイズシティに着いたらジョセフ先生の家を訪ねてみよう。それに気がかりなのはレオの事だ。何とかウィル達のいる島へ渡る方法も考えて・・・。
ブツブツ言いながら下を向いて歩いていると、急に前方から声をかけられた。
「おい、そこのフードを被った女。何処へ行くつもりなんだ?」
し、しまった!考え事をしながら歩いていたから・・・堂々と学院の敷地内を歩いていた!今の私はお尋ね者なのに・・・・・。
そう、実はあのポスターには驚くべきことに懸賞がかけられていたのだ。商品はお金ではなく、何と単位のプレゼント。この私を捕えた人物には自分が一番苦手とする科目の単位を無試験で貰えるのだ。こんな事、許されるはずが無い!
絶対にソフィーの仕業に決まっている。しかし、ソフィーのこんな無茶苦茶な要求を呑む学院も十分問題がある。もはや・・・この学院はソフィーによって支配されているに違いない。
等と・・・めまぐるしく考えていたら、再び声を掛けられた。
「おい、お前の事だよ、聞いてるのか?」
男性の声が先程よりもイラつきを見せているので私は慌てて下を向きながら返事をした。
「い、いえ。大丈夫です。ちゃんと聞こえてますから・・・。」
言いながら私は相手に自分の顔が見えない程度に顔を向けた。
え・・・・この人は、確か—?
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数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
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2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
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1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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