目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第1章 3 白髪の男子学生との再会 (イラスト有り)

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3

珍しい白髪の男子学生、色素の抜けた様な灰色の瞳・・・・。確か、彼はライアンとケビンの親友で・・・名前は確か・・・。

「おい、何だ?フード越しに人の顔をジロジロ見て・・・。そんなにこの俺の容姿が珍しいか?」

不機嫌そうな、何処か吐き捨てるような言い方をする彼。確かに彼は黒髪にオッドアイの瞳の公爵とは対照的に別の意味で人目を引く容姿をしているかもしれない。

「い、いえ。何でもありません。すみません・・不躾に見てしまって。それでは失礼します。」

私はそのまま正門へ向かって歩き出し・・・再び呼び止められた。

「おい、何処へ行くんだ?」

「あ、あの・・ま、町へ・・。セント・レイズシティへ行くつもりです・・・。」

「何?お前・・・この学院の学生じゃ無いのか?校則で決まっているだろう?週末しか町へ行けない事くらい・・。」

「い、いえ。私はこの学院の学生では無いので。」
咄嗟に嘘をついてしまった。

「何?それじゃお前・・・不法侵入者か?」

途端に男子学生の顔が険しくなる。

「ち、違います!」
必死で否定する。

「それじゃ・・・お前は誰だ?」

「わ、私は今年・・こ、この学院に入学希望をしていて、今日は・・け、見学に来たんです。で、でもうっかり迷子になってしまって・・・タクシーも手配するのを忘れていて・・それで歩いて町まで行こうと思っていたんです!」
・・・必死だとは言え、我ながらよくここまでペラペラと嘘をつけるものだと感心してしまう。

「ふ~ん・・・。」

明らかに疑わしそうな目を向ける彼だが・・・やがて言った。

「今年・・入学希望って事は、移動魔法は使えないんだな?」

「は、はい。」

「それで、歩いて町まで行こうとしていたと?」

「はい・・・その通りです・・・。」

すると・・・・。
「プッ」

え?
見ると、何とあのぶっきらぼうの彼が口元を押さえて笑いを堪えているではないか。

「全く・・・馬鹿な女だな・・・。ここから歩いて町まで行く?無謀な話だ。歩いて等行けるはずがないだろう?」

ええ?!そ、そうなの?

「いいか、この先に広がる森には恐ろしい獣たちの住処となっているんだ?それを女がたった1人で森を抜けるなんて・・。」

歩いて行けない・・・?そ、そんな・・・それではこの先私は一体どうしたらいいのだろう?この学院に残れば、あっという間にソフィー達に捕まってしまうに違いない。
「ど、どうしよう・・・。」
思わず口に出して呟いてしまった。もう・・・ここまでなの・・?

「はあ~っ」

突然目の前の男性が大袈裟なほどに大きなため息をついた。え?そんなに呆れられた?

「全く・・・世話が焼けるな・・。仕方が無い、俺が転移魔法でお前を『セント・レイズシティ』まで連れて行ってやるよ。」

「え・・・?ほ、本当に・・・いいんですか?!」
私はフード越しに笑顔で彼を見つめると言った。

「な・・・断って来るかと思ったが・・・あっさり俺の提案を受けるとは・・。」

「お願いです、お礼ならきちんとしますから・・・。どうか私を『セント・レイズシティ』まで連れて行って下さい。」

「分かったよ・・・。」

男子学生は右手を私に差し出してきたので、私は遠慮なしに彼の手を握りしめた。

「・・・・。」

何故か呆れたように私を見る。

「あの、何か?」

「い、いや・・・随分図々しい女だよな・・・。初対面の男の手を平気で握り締めるなんて・・。」

「す、すみません。」
慌ててパッと手を離す。だ・・・駄目だ・・・私・・。余りにも男性に対して免疫があり過ぎるんだ・・・・!

「馬鹿、離すと転移魔法を使えないだろう?」

今度は彼の方から私の手を取ると言った。

「はい・・・すみません。」

彼はチラリと私の方を見ると言った。

「よし、では飛ぶぞ。気分が悪くなったらちゃんと言えよ。転移魔法で意外と酔ってしまうやつが多いんだ。」

へえ~そうなんだ、知らなかった。だけど・・・。
「私なら大丈夫です。」
即答すると、彼は口角を上げて言った。

「言ったな?」

そして彼は私の手を握り、転移した—。


「へえ~・・・。口先だけだと思っていたけど・・・本当に平気だったんだな。」

彼は意外そうな口ぶりで私を見た。

「ええ、言ったでしょう?」

私はフードを目深に被り直すと言った。

「・・・・。」

そんな私をじっと見つめる彼。

「あの・・・何か?」

「いや、何でも無い。」

「それでは私はこれで・・・。」

「ちょと待て。」
頭を下げて立ち去ろうとすると、何故か防寒着の裾を掴まれた。

「あの・・・?な、何か・・・?」
どうでもいいから放してほしい。今にも自分の正体がバレてしまいそうで、実は先程から怖くて堪らなかったのだ。

「お礼・・・今貰っておこう。」

「はい?!」
突然この人は何を言い出すのだろう?

「何だ?その態度は・・・。さっきお礼ならきちんとすると言っただろう?あれは嘘か?」

何故か不機嫌そうに腕組みをして私を見下ろしている。

「い、いえ・・・決してそのようなつもりでは・・・。ま、また今度会った時に・・・と思ったので・・。」

「急ぎの用事でもあったのか?だとすると、妙な話になってくるぞ?もしあらかじめ予定が入っているなら、最初から迎えのタクシー位手配しておくべきだろうからな?」

「は、はい・・・そうです・・。」
う、何だ。この目の前の男性は・・・。理詰めで相手を追い詰めて来るタイプなのだろうか?

「実は・・・今、あまりあの学院には・・・いたくないんだ・・・。」

突然彼は声のトーンを落とした。

「え・・・?」
何だろう、ひょっとすると・・彼と話をすれば重要な情報を得られるかもしれない・・・!

「あ・・これからあの学院を受験するような奴に聞かせる話じゃ無かったな・・。悪かった、今の話は忘れてくれ。それじゃ、俺は行くよ。」

「待って下さいっ!」
手を振って立ち去ろうとする彼の服の裾をいつの間にか私は掴んでいた。

「え?」

驚いた風にこちらを振り向く彼。そうだ・・・名前・・思い出した。彼の名前は確か・・デヴイットだ―。


「あ、あの。ほんの少しだけ、ここで待っていてくださいね。」

私はデヴィットを店の前まで連れて来ると店先に立たせた。

「質屋・・・?」

デヴィットは眉を潜めて看板を見ている。

「は、はい。あの、そんなに長くはお待たせしませんから。」

私は強引にデヴィットを質屋に連れて来ていた。実は・・・あまり手持ちのお金に余裕が無かったので、先程自分で切った髪をこの質屋で売ろうと思い、やってきたのだ。

「ま、まあ別に構わないが・・・。」

デヴィットはそう言いつつも、明らかに機嫌が悪そうだ。急がなければ・・・!
私は店のドアを開けた—。


「お待たせしました。」

私は店から出てきた。・・・今度はフードを外して。実は先程店内で、カラーヘアスプレーを使って、髪を金色に染めたのだ。最も瞳の色はどうしようも無いが、今の私の髪の長さも肩に触れる程度しか無いので、恐らく私がジェシカだと気付かれる事は無いだろう、うん。

「・・・・。」

すると、何故かデヴィットは呆けたような顔で私を見ている。一体どうしたのだろう?

「あの・・?何か?」
デヴィットに近寄り、顔を見上げると何故かフイと視線を逸らされてしまった。

「?」

「フードで顔を隠しているから、一体どんな顔かと思えば・・・。」

何故か小声でブツブツ呟いているのが聞こえて来た。

「あの・・・。」

再度デヴィットに話しかけた途端。

グウ~・・・・・・

私のお腹の鳴る音が響き渡った―。




2

「そんなにお腹が空いているとはな~。」

デヴィットは面白そうに私を見ながら後ろをついて歩いてくる。

「ええ。そうです。いいですよ・・・好きなだけ笑って下さい。」
拗ねた調子で私は言った。何せ、私のお腹が鳴った直後にデヴィットは大笑いしたのだから。
「でも、もう少し女性の心理を理解してあげないと・・・モテませんよ?」
最期にこれだけは言っておいた。

「いや、別に俺は女にモテたいとは思っていないから・・。」

「それはつまり、もうお付き合いしている女性がいると言う事ですね。だとしたら私と一緒にいると色々不味い事になりそうじゃないですか。」
彼女がいる男性と関わると碌な目に遭うものでは無い。

「いや、別に俺は付き合ってる相手はいないぞ。」

「そうなんですか?」
まあ、中には恋愛には一切興味が無い人がいてもおかしくは無いか・・・。

「それで、今何処へ向かってるんだ?何か美味しいものを食べさせてくれるって、さっき話していただろ?」

「はい。この路地を行った先に・・・美味しい食べ物を出している屋台があるんですよ。」

私はデヴィットを見上げて、にっこり笑った。
そう、今からマイケルさんの屋台・・・・『ラフト』を食べに行くのだ。ついでにマイケルさんにジョセフ先生の事を尋ねてみよう。

「ふ~ん・・・『ラフト』ねえ・・。」

デヴィットは頭に腕を組みながら言った。

「そう言えば、お互い自己紹介がまだだったな。」

「そう言えばそうでしたね。」
最も私は・・彼の名前がデヴィットだと知ってるけども。自己紹介ねえ・・・そこで私は、ハッとなった。ま・・・まずい・・・私の名前・・・・言えるはずが無い!ど、どうしよう・・・!

「俺はデヴィット・リバーって言うんだ。お前の名前は?」

「あ・・・わ、私は・・ハルカ・カワシマです。」
咄嗟に自分の本当の名前を口走ってしまった・・・・。

「ふ~ん・・・変わった名前だな。」

さして興味が無さそうにデヴィットが言う。

「ええ、だから別に覚えて頂かなくても結構ですよ。」

「なんだよ、それ。」

デヴィットが訳が分からないとでも言わんばかりの顔つきで私を見た。
そう、本当ならなるべく『セント・レイズ学院』の関係者とは関わりたく無い。だけど・・・今はそれ以上にもっと情報を収集したい・・!


「あ!『ラフト』屋さん!」

懐かしい、あの屋台が見えて来た。つい嬉しくなって私は笑顔でデヴィットに言った。

「デヴィットさん!あれです!あれが美味しい『ラフト』を食べさせてくれる屋台ですよ!早く行きましょう!」

「・・・あ、ああ・・・。」

何故か、一瞬硬直した態度を取るデヴィット。・・・何だろう・・?あの店に何か心当たりでもあるのだろうか・・・?


「デヴィットさんはこの椅子に座って待っていてくださいね。」

私は屋台の前のテーブル席にデヴィットを座らせ、じっと座って待つように言った。なにせ、デヴィットが一緒であれば、色々マイケルさんと話が出来ないからだ。

「俺が取りに行かなくてもいいのか?」

席に着いたデヴィットが言う。

「まあ別にいいじゃないですか。先程のお礼を兼ねているんですから。」

私はそう言い残すとマイケルさんの元へと向かった。

「こんにちは。」

「はい、こんにちは。」

マイケルさんは忙しそうにラフト作りに追われている。

「あの、ラフトを2枚下さい」

「はい、承知しました。」


「・・・お客さん、あの・・・何か御用でしょうか・・・?」

マイケルさんは顔を上げて私を見た。あ・・・いけない、あまりにもマイケルさんが気付いてくれないので、ジロジロ見過ぎてしまった。
いいよね・・・マイケルさんにならちょっと尋ねてみても・・・。
「あ、あの・・・『セント・レイズ学院』の学生さんの中で・・このお店の常連客の人って・・・いましたか?」

「え?」

マイケルさんはポカンとした顔で私を見つめる。あああっ!や、やっぱり今の質問はあまりにも唐突過ぎたかも!いきなりあんな事質問されれば、誰だってそうなるよね?!
「あ、あの・・・い・今の話は・・わ、忘れてください・・・っ!」

しかし、マイケルさんは私の顔をじ~っと見つめ・・・フッと笑った。
え?今の笑みは・・・?

「そう言えば・・・今思い出したよ・・・。どうして今まで忘れていたんだろうな・・・・。」

独り言のように呟くマイケルさん。

「え?」

唐突にマイケルさんが話始めた。

「栗毛色の長い髪の毛が印象的だった・・・それは綺麗なお嬢さんが・・・よく買いに来てくれましたよ。そう、今の貴女のように紫色の‥綺麗な瞳のお嬢さんが・・。」

「・・・っ!」
思わず胸が詰まりそうになった。

「・・そ、その・・お客さんて・・・マイケルさんから見て・・・どんな・・人でしたか?」

「・・・今学院内では・・・どうも彼女の事を飛んでもない悪女だという噂が広まっている様ですが・・・。」

ああ・・・やっぱりそうだったんだ・・・!

「でも、俺から見た彼女は、噂のような悪女では無かったとはっきり言いきれますよ。」

言いながらマイケルさんは私を見てにっこり笑い、突然私に耳打ちしてきた。

「一緒にいるのは『セント・レイズ学院』の学生さんだね。・・・この屋台は夕方4時になったら一度閉めるんだ。もし都合がつくなら・・・その時間にここへ来れるかい?」

「!!」

私は驚いてマイケルさんを見た。彼は・・・優し気な瞳で私を見ている。

「はい・・!」

「はい、お待たせ、『ラフト』2枚焼けたよ!」

マイケルさんはさらに『ラフト』をよそいながら言った。

「さあ、泣いていると一緒にいる彼に疑われる。笑うんだよ。」

パッと顔を上げると、マイケルさんが私を見て微笑んだ。

「また後でね。お嬢さん。」

お嬢さん・・・・マイケルさんはいつもそうやって私を呼んでいた。分かったんだ・・・私が・・ジェシカ・リッジウェイだという事が・・・!

「はい、また後で!」

私は笑顔で言うと、『ラフト』を受け取ってデヴィットの元へ戻った。


「・・・随分遅かったな。」

席に着くと何故か不機嫌そうな顔をしている。

「ええ?そ、そうですか?」
そんなに待たせたかなあ・・?余程お腹が空いていたのかな?

「・・・常連なのか?」

「何がですか?」

「随分あの店の男と親し気に話をしていたから。」

「ええ・・・と・・・まあ・・・常連と言う程ではありませんけど・・多少は・・。」
私は胡麻化すために愛想笑いをした。
「ほ、ほら。冷めてしまいますから・・この『ラフト』は出来立ての熱々が一番美味しいんですよ?」

「分かった・・・。」

2人で向かい合わせにお皿の上の『ラフト』を食べる。・・・それにしても意外だ。
あの時はこんな風に今、2人で向かい合って『ラフト』を食べる事になるとは思いもしなかったし。
「あの・・・デヴィットさん。」
私は食べながら遠慮がちに尋ねた。



「何だ?」

「差し支えなければ・・・何故先程、今あまりあの学院に居たくないって思ったのか・・・教えて頂けませんか?」

「!」

一瞬デヴィットの身体が硬直した。

「・・・のせいだ・・・。」

「え?」

「そう・・・・今、この学院があんな事になっているのは・・・全てあの女の責任なんだ・・・っ!」

怒りの為か、肩を震わせながら言う。

「あ、あの女って・・・・?」

や、やっぱり・・・それって 私の事なのだろうか・・・?
私はテーブルの下で自分の両手をギュッと握りしめた。もう・・・あの学院では私は『魔界の門』を開けた憎むべき存在として・・・懸賞を掛けられて・・・皆から追われる対象でしか無いのだろうか・・。

「他の連中はどう思っているのかは分からないが、俺は絶対にあの女が今、こんな事態になってしまった全ての元凶だと思っている。」

デヴィットは憎悪の籠った目で言った。

「ソフィー・ローラン・・・・あの女は・・・正に悪魔だ・・・。」

え?
ジェシカ・リッジウェイでは無く・ソフィー・ローラン・・・・?
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