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第5章 1 いざ、神殿へ
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1
「ジェシカ・・・。」
公爵がいなくなり、2人きりの空間になった所で、デヴィットが私の方を振り向いた。
「は、はい・・・。」
「あれは・・・ドミニク公爵だよな?俺の見間違いで無ければ・・・。」
「そ、そうです・・。」
「俺には・・お前達がキスし合っているように見えたが?」
デヴィットの言葉にカッと頬が染まるのを感じた。そしてデヴィットはそれを見逃さなかった。
無言で私に近付いてくると、両手で頬に手を添えて自分の方へ向けさせると彼は言った。
「ジェシカ・・・。お前とドミニク公爵は・・・ひょっとして・・・深い仲になったことがある・・のか・・?」
その言葉に私はますます顔が赤くなるのを感じ・・・一方のデヴィットは顔色が真っ白になっていく。
「う・・・嘘・・・だろう・・?」
しかし、私はその言葉に首を振った。もう・・・隠していても仕方が無い。
すると何を思ったか、デヴィットは立ち上がると部屋を出て行こうとする。
「ま・・・待って!何処へ行くんですか?!」
デヴィットの袖を掴んで私は言った。
「・・・ダニエル達を起こしてくる。」
デヴィットは私の方を振り向きもせずに言うと、部屋を出て行ってしまった。
そして現在―
「あ、あの・・・・。」
今私の目の前には右から順にグレイ、ルーク、デヴィット、ダニエル先輩、マイケルさんがソファを何故か一列に並べて座っている。
そして私はテーブルを挟んで、1人彼等と向き合う形で座らされている。
「「「「「・・・・・」」」」」
全員私の事をじっと見つめている・・・が、デヴィット以外は困惑した表情で私を見ている。
重苦しい沈黙を破ったのは・・やはりデヴィットだった。
「ジェシカ。・・・説明して貰おうか?」
腕組みしながらジロリと私を射抜くような瞳で見つめるデヴィット。
「え・・・・?せ、説明・・・ですか・・・?」
何故?何故私は今こんな形でまるで尋問の様な事をされているのだろう?
「そう、説明だ。あそこにいたのは・・・新しく生徒会長になったドミニクだよな。」
「は、はい・・・。そうですが・・・。」
ううう・・。まるで針のむしろ状態だ。
「ねえ・・ところでこれは一体何の真似なの?」
すると突然ダニエル先輩が手を上げて質問して来た。え?何も分からずにここに座らされているの?!
「うん、俺も不思議に思っていた。何故俺達はここに座らされているのかな・・・?」
マイケルさんも不思議そうな顔をしている。
「「あの・・・一体これはどういう事ですか?」」
おおっ!出たっ!グレイ&ルークのシンクロ率は正にマックス状態だ。
「お前たちは黙っていろ!」
そしてそんな彼等を一喝するデヴィット。う~ん・・・やはり似ている。アラン王子とデヴィットは何処か・・似ている。
「「はい・・・。」」
おお~返事までグレイとルークはハモるのか・・・。等と感心していると・・・。
「ジェシカ、余所見をするな。」
「すみません・・・。」
まるで学校の先生のように注意してくるデヴィット。
「ねえ。何でこんな事してるのか分からないけど、ジェシカが可哀そうじゃ無いか。それより僕はお腹が空いたよ。朝食を食べに行きたいんだけどな。」
ダニエル先輩の言葉にマイケルさんも言った。
「いいねえ。このホテルの1Fのレストランに皆で食事に行かないかい?」
「いいですね。行きます。」
グレイが手を上げる。
「では早速行きましょう。」
ルークが立ち上ると、私とデヴィット以外の全員が立ち上った。
「さあ、ジェシカ。僕達と一緒に食事に行こう。」
ダニエル先輩が笑顔で手を差し伸べてきたので、私はその手を取ろうとし・・・。
「ジェシカッ!」
デヴィットの右腕が突然光り、私の左腕も輝きだした。え?な、何で突然?!
そして気付けば私はデヴィットの腕に中にいた。
「え?デヴィットさん?!」
「おい!デヴィット!ジェシカを放せよ!これからジェシカは僕達と朝食を食べに行くんだから。」
ダニエル先輩が怒って抗議するとデヴィットは言った。
「・・・悪いが朝食はお前達だけで行ってくれ。俺は・・・ジェシカと話があるから。」
言うとデヴィットは突然転移魔法を使い・・・気付けば私はホテルの外に立っていた。
デヴィットは無言で私の身体を離すと言った。
「・・・少し・・歩かないか・・?」
その声は・・・とても寂し気に聞こえた。
「はい・・・分かりました・・・。」
デヴィットは私の数歩前を歩き、私は俯いて彼の後ろを歩いている。
そのまま少し歩き続けると、デヴィットは1軒のカフェの前で足を止めた。
「朝食でも・・・食べるか?」
そして私を振り返った。
デヴィットは窓際の丸テーブルから、じっと窓の外を眺めている。
そんな彼の横顔を黙って見つめる私・・・それにしても何故?どうしてこの店に来たの?このカフェは・・デヴィットが愛を告白して来たカフェじゃないの。
デヴィットは一体・・・何を考えて私をこの店に連れてきたのだろう?いや・・・それとも私の考えすぎ?たまたま今回もこの店を選んだだけだとか・・・?どっちにしろ居心地が悪い事、この上ない。
「どうしてなんだ・・・。」
突然デヴィットが私の方を振り向くと言った・
「・・?」
どうして?それは私の台詞なのだけど・・?
「どうして・・お前の周りには大勢の男達が・・群がってくるんだ?・・最も俺も人の事を言えた義理じゃないが・・・やはり・・お前の持つ『魅了』の魔力のせいなんだろうか・・?」
「それは・・・。」
そこまで言って、私は口を閉ざしてしまった。そんな事は・・・私が一番知りたいことなのに。何故この小説の中の悪女である私に・・本来、小説のヒロインであるソフィーの魔力が備わっているかなんて・・・。
「すまない・・・お前に・・そんな話しても・・・困るよな・・・。ハハ・・馬鹿だよな。俺って・・・自分だけが特別かと思っていたけど・・・考えてみればお前には愛している男だっているって言うのに・・・。」
自嘲気味に笑うデヴィットに・・・私は何と声を掛ければ良いか分からなかった。
「た、確かに・・・公爵とは・・関係を1度持ちましたが・・・そ、それは・・別に愛とか・・・そう言った類の物では無いですから・・・。」
言葉を新調に選びながらデビットに語る。
「その当時・・・・ドミニク様は・・・今と同様にソフィーに操られていたんです・・・。私は・・すごく怖かった・・・。このままドミニク様が私を今に捕らえて・・死刑宣告をするのでは無いかって・・・。でも、その暗示を解いてくれたのがマシューだったんです。
「え・・?」
そこで初めてデヴィットは困惑の表情で私を見た。
「わ・・・私、マシューに言われたんです・・。もっとドミニク様を受け入れて、安心感を与えてあげれば暗示が解けていくだろうって・・・。それで・・私は休暇の日に公爵に会いに行ったんです。一緒に過ごせば・・公爵の混濁した記憶と暗示が解けるかなって思って・・。そして・・その時に公爵に言われたんです。私だけの聖剣士になれないかって。でもその時は・・もうマシューが私の聖剣士だったので返事が出来なくて・・。」
デヴィットは黙って私の話を聞いている。
「で、でも・・・ドミニク様は苦しんでいました。時折ソフィーの声が聞こえてきて・・私をもっと憎めと訴えて来るって・・・だけど・・・私の姿を見たり、声を聞いてると・・その忌まわしい声が遠ざかっていくって・・・。だから・・私にもっと触れたいってドミニク様が・・・・。私自身も・・ドミニク様の暗示が解けないと・・身の危険を感じて、それで・・・。後は・・・。」
俯いてデヴィットの出方を待つ。
「・・・・。」
デヴィットは・・何を考えて聞いているのだろうか?私の事を身持ちが悪い女だと思って聞いているのだろうか?段々目頭が熱くなっていく・・・。
「私の事・・・軽蔑しますか?」
半分涙目になり、デヴィットを見上げるとようやく彼は自分の感情を露わにした。
「この・・・馬鹿ッ!軽蔑なんて・・・するはず無いだろう?!お前は・・お前自身の身を守る為に・・・ドミニクと関係を持ったんだろう?」
「デヴィットさん・・・。」
「すまない・・・。あれは・・単なる俺の嫉妬だったんだ。俺は・・勘違いしていた。自分だけが特別と思っていたけど・・考えて見ればジェシカ。お前にとっての特別は・・マシューだったんだものな。」
「あ・・・。」
マシューの名前を口に出されて・・私は黙ってしまった。
デヴィットはそんな私を見てフッと笑った。
「でも・・・アラン王子にしろ、ドミニク公爵にしても・・・偶然にお前は聖剣士と聖女の誓いを交わしていたんだな・・・。恐らく前代未聞じゃないのか?1人の聖女が複数の聖剣士と誓いを交わすなんて。最も・・・今のところ正式な聖女と聖剣士の関係を持つのは俺だけどな?」
「デ・デヴィットさん・・。」
突然彼は何て事を口に出すのだろう。思わず彼の言葉に頬を染めると、デヴィットはフッと笑みを浮かべた。
「だが・・これはある意味チャンスかもしれないぞ?アラン王子もドミニクもお前の聖剣士であることに間違いはない。そうじゃ無ければお互いの紋章が輝きあうなんて事はないからだ。聖剣士と聖女の誓いは絶対だ。きっと・・・ソフィーの暗示なんか・・・ねじ伏せられるに決まってる!」
「ほ・・・本当・・・ですか・・?」
私はデヴィットの顔をじっと見つめた。
「ああ、だから・・・ジェシカ。お前が・・・アラン王子の暗示を解くんだ。いや・・恐らくお前にしか出来ないだろう。だとしたら・・日が経つにつれて暗示を解くのが厄介になってきそうだから・・よし、早速だが・・・今日、これから神殿へ侵入するか?」
「はい!」
「よし、それじゃ・・・・朝食を食べたらすぐに・・・ホテルへ戻って、皆に話そう。」
「ありがとうございます・・・。デヴィットさん・・・。」
俯くと、テーブルの上に置いてい両手にデヴィットがそっと触れて来ると言った。
「言っただろう?俺はお前の聖剣士だ。聖女のお願いは・・・どんな事でも聞き入れる。当然の事だ。」
そしてデヴィットは笑みを浮かべた—。
2
時刻は午後2時—
今、私達は神殿付近の岩陰に身を隠す様にして内部の様子を伺っている。
「前回、俺達が潜り込んだ時間は午後4時で・・・アラン王子は神殿の最上階にいたんです。」
グレイが説明する。
「ふ~ん。なるほどな・・・。しかし・・やはり昼間は夜に比べると圧倒的に見張りの数が少ないな。」
デヴィットは神殿を注視しながら言う。
「それは当たり前じゃ無いの?だって一応今は授業中なんだし・・・・でも、あんな怪しい連中の授業なんて受けるだけ、はっきり言って時間の無駄だね。多分全校生徒の半分はボイコットしてるんじゃないのかな?真面目に出てる学生はソフィーの息のかかった連中だけなんじゃないの?」
ダニエル先輩がつまらなそうに言う。
「そうですね。俺達も授業に出るのはやめていたから・・・。」
ルークの何気なく呟いた言葉に驚いた。
「え?その話・・・本当なの?」
「ああ、本当だ。ジェシカ・・・お前と仲の良い女子学生達がいただろう?彼女達も全員授業に出るのをボイコットしてるようだぞ?今はお互いの寮の部屋で互いに勉強を教え合っているらしい。
「そうなんだ・・・・。」
彼女達に会いたい。でも今は・・・。
「そ、そんな事より・・・ジェシカ。お前・・・男装しても・・そ、その可愛いな・・。すごく良く似合っているよ。」
頬を染めて言うグレイ。
「グレイ・・ありがとう。」
男装を褒められるのは少し複雑な気分だ。
「ジェシカ。もっと俺の近くに来い。」
突然デヴィットが私の腕を引き寄せて自分の腕に囲い込んできた。
「な、な、何ですか?一体?」
デヴィットは私を抱き締めながら言う。
「いいか、俺の側から離れるなよ?今、こうして側にいれば互いの絆が深まる。そうすれば神殿で万一離れ離れになっても、ジェシカの気配を感じ取れれば、お前を俺の腕に引き寄せることが出来るからだ。」
「なるほど、便利な物ですね。」
その様子を見ていたダニエル先輩が頬を膨らませる。
「チエッ!聖剣士だか、何だか知らないけど・・・こんな事なら僕も誘いに乗って聖剣士になってれば良かったよ。そうしたらジェシカの一番になれたのにさ。」
「ええ?!ダニエル先輩・・・聖剣士のスカウト話が来ていたんですか?」
ダニエル先輩の言葉に驚いた。
「スカウトって単語は良く分からないけど・・・。そうだよ、ジェシカ。僕はね・・・とても強いんだからね?」
ダニエル先輩は自信たっぷりに言う。
「ああ・・・そうなんだ。ジェシカ。ダニエルはな・・・女のような話し方、女のような外見のくせに・・・さらに女のように華奢な身体つきをしていても・・強いんだ・・・。」
デヴィットは溜息をつきながら言う。何だろう・・・やけに女を連呼している気がする。それに・・私から見ればダニエル先輩は十分男らしく見えるけど・・背だって私よりずっと高いし、細見だけど筋肉はついて引き締まっているし・・・。だけどデヴィットからは女性的に見えるのだろうか?
「ちょっと・・・女のようなくせにって・・・一体どういう意味さ。僕はれっきとした男だし、そんな風に言われたのは君が初めてだよ!」
ダニエル先輩がデヴィットに抗議し、しまいに2人は言い争いを始めた。
う~ん・・・この2人・・本当に気が合わなそうだなあ・・・。
「まあまあ。落ち着いて下さいよ、そんな事よりも今は兜を被っている見張りの兵士を探さないと・・・。」
グレイが2人を宥めている。うん、流石はグレイ。彼がいればこのチーム?もまとまるかもしれない。
「おい!1人見つけたぞ!兜を被った兵士が!」
岩陰から様子をうかがっていたルークが言う。見ると神殿の入口の左端の方に手持ち無沙汰にしている兵士がいた。
「「「「・・・誰が行く?」」」」
突然4人の男性陣は互いの顔を見渡した。
「俺は・・出来れば最後までジェシカの側から離れたくない。」
デヴィット。
「僕だってそうだ、ジェシカが心配だからね。」
ダニエル先輩。
「「お、俺達も・・・。」」
グレイとルークが言いかけ・・・。
「よし、お前達、どちらか行ってこい。」
デヴィットが言う。
「ええ?!」
「そ、そんなっ!!」
グレイと、ルークは互いに悲鳴混じりの声を上げる。あ~あ・・・気の毒に・・・。仕方が無い・・・。
「ごめんね。グレイ、ルーク。お願い・・・出来る?」
2人に頭を下げると、途端に彼等は態度を変えた。
「大丈夫だ、俺達に任せろ。よし、俺が一番に行ってくる。」
グレイが名乗りをあげた。
「いいか、見張りの兵士は殺すなよ?失神だけさせておけ。」
デヴィットが何やら物騒な事を言っている。
「何言ってるんですか。殺す訳無いでしょう?恐ろしい事言わないで下さいよ・・・。」
ブツブツとグレイは文句を言いながらも自分の気配を消す魔法をかけると・・・あら不思議!グレイの姿が消えてしまった。
「え?グレイ?何処に行ったの?」
私がキョロキョロ辺りを見渡すと突然、背後から声が聞こえた。
「ジェシカ、ここにいるぞ。」
そして何故か抱き寄せられる。
「おい!どさくさに紛れて何をしている!さっさと行って来い!」
デヴィットに一喝され・・・渋々グレイは見張りの兵士の元へと・・・向かったようだ。
私達は物陰に潜んでその様子をじっと伺っていると・・・。
「ウッ!」
風に乗って兵士の短いうめき声が聞こえ・・・次の瞬間、兵士は床に倒れ込む。
そして目に見えない何者かに引きずられるように建物の陰に消えていく・・・。
「どうやらうまくいったようだね。」
その様子を見届けていたダニエル先輩が言う。
「ああ、そうだな。あいつ・・中々やるな。よし、後で褒めてやろう。」
ニヤリと口元に笑みを浮かべ、デヴィットが言った。
それから待つ事数分・・・兵士が迷わずこちらに向かって駆けよって来る。
恐らく、グレイだろう。
私達の元へ来るとグレイは兜を脱いで言った。
「どうです?うまくいったでしょう?」
「ああ。お前、中々やるじゃ無いか、褒めてやろう。」
言いながらワシャワシャとグレイの髪を激しくなでるデヴィット。・・・何だかお兄ちゃんみたいだ・・・。
「よし、グレイ。引き続き他に兜を被った兵士がいないか探して来るんだ。見つかったら俺達に手招きしろよ。」
完全にその場を仕切るデヴィット。でも誰一人文句は言わない。・・・中々リーダーシップのある人だなあ・・・。
「そして・・・当然次に行くのはお前だからな。ルーク。」
ビシイッとルークをデヴィットは指さすのだった・・・。
その後は順調にルーク。そして次にダニエル先輩、デヴィットが鎧を手に入れた。
残りは私一人なのだが・・・。
「う~ん・・・。困ったな・・・。」
デヴィットが腕組みして考え込んでいる。
「だけど、仕方が無いよ・・・。ジェシカのように背の低い兵士はいないんだから・・・。」
ダニエル先輩は溜息をついた。
「「・・・・。」」
一方のグレイとルークは無言で私を見ている。そう、全員が神妙な面持ちで私を見るのは・・・それは、兵士の鎧が大きすぎると言う事だった・。
まるでサイズが合わず、ブカブカで違和感この上ない。兜だって重くて大きすぎて頭がぐらつき、まともに歩く事もままならないのだ。
「ど、どうしましょう・・・。何としてもアラン王子に近付かなくてはならないのに・・。」
うう・・・。これも全てジェシカの身長が極端に低いせいだ・・・。
「どうする、デヴィット。」
ダニエル先輩の言葉にデヴィットは言った。
「・・・こうなったら・・・強引にアラン王子を誘拐して・・ジェシカの元へ連れてくるしか・・・無いか・・?」
「ええっ!駄目ですよ!そんな事をしたら大騒ぎになりますっ!」
グレイがすかさず反対する。
「そうですよ、大体アラン王子は大人しく誘拐されれるような人間ではありません。」
ルークの言葉に私も思った。うん・・確かに俺様王子は大人しく誘拐されるような人間じゃないな・・・・。
全員で考えあぐねいていると、何とマイケルさんがこちらに向かってくる姿が目に入った。
「やあ。皆。鎧は手に入れたんだね。」
マイケルさんは笑顔で私達の元へやってくるとすぐに岩陰に身を隠す。
「馬鹿ッ!マイケル!何故ここへ来た?!ホテルにいろと言っただろう?」
おおっ!つ、ついに・・・デヴィットが4歳も年上のマイケルさんを馬鹿呼ばわりしてしまった!
しかし、当の本人はそんな事全く気にしない素振りで言った。
「君達がお嬢さんの件で困ってるんじゃないかと思ってね・・・。マジックショップでアイテムを買って来たんだ。ほら、これは自分の気配を完全に隠すドリンクだよ。そしてこのマントはね、羽織ると完全に視界から消え去る事が出来るマントなんだよ・・。」
言いながらマイケルさんがマントを羽織ると、あっという間に姿が消えてしまった。
「凄いじゃ無いか、マイケル。この俺でさえ、今・・お前の姿を見破れなかった。これなら・・・所詮寄せ集めの兵士共には絶対にバレるはずはない!よし、ジェシカにはこのアイテムを使わせよう!」
デヴィットは言った。
そして・・・私は気配を消すドリンクを飲み、マントを羽織ると、デヴィット達と共に神殿に足を踏み入れた—。
「ジェシカ・・・。」
公爵がいなくなり、2人きりの空間になった所で、デヴィットが私の方を振り向いた。
「は、はい・・・。」
「あれは・・・ドミニク公爵だよな?俺の見間違いで無ければ・・・。」
「そ、そうです・・。」
「俺には・・お前達がキスし合っているように見えたが?」
デヴィットの言葉にカッと頬が染まるのを感じた。そしてデヴィットはそれを見逃さなかった。
無言で私に近付いてくると、両手で頬に手を添えて自分の方へ向けさせると彼は言った。
「ジェシカ・・・。お前とドミニク公爵は・・・ひょっとして・・・深い仲になったことがある・・のか・・?」
その言葉に私はますます顔が赤くなるのを感じ・・・一方のデヴィットは顔色が真っ白になっていく。
「う・・・嘘・・・だろう・・?」
しかし、私はその言葉に首を振った。もう・・・隠していても仕方が無い。
すると何を思ったか、デヴィットは立ち上がると部屋を出て行こうとする。
「ま・・・待って!何処へ行くんですか?!」
デヴィットの袖を掴んで私は言った。
「・・・ダニエル達を起こしてくる。」
デヴィットは私の方を振り向きもせずに言うと、部屋を出て行ってしまった。
そして現在―
「あ、あの・・・・。」
今私の目の前には右から順にグレイ、ルーク、デヴィット、ダニエル先輩、マイケルさんがソファを何故か一列に並べて座っている。
そして私はテーブルを挟んで、1人彼等と向き合う形で座らされている。
「「「「「・・・・・」」」」」
全員私の事をじっと見つめている・・・が、デヴィット以外は困惑した表情で私を見ている。
重苦しい沈黙を破ったのは・・やはりデヴィットだった。
「ジェシカ。・・・説明して貰おうか?」
腕組みしながらジロリと私を射抜くような瞳で見つめるデヴィット。
「え・・・・?せ、説明・・・ですか・・・?」
何故?何故私は今こんな形でまるで尋問の様な事をされているのだろう?
「そう、説明だ。あそこにいたのは・・・新しく生徒会長になったドミニクだよな。」
「は、はい・・・。そうですが・・・。」
ううう・・。まるで針のむしろ状態だ。
「ねえ・・ところでこれは一体何の真似なの?」
すると突然ダニエル先輩が手を上げて質問して来た。え?何も分からずにここに座らされているの?!
「うん、俺も不思議に思っていた。何故俺達はここに座らされているのかな・・・?」
マイケルさんも不思議そうな顔をしている。
「「あの・・・一体これはどういう事ですか?」」
おおっ!出たっ!グレイ&ルークのシンクロ率は正にマックス状態だ。
「お前たちは黙っていろ!」
そしてそんな彼等を一喝するデヴィット。う~ん・・・やはり似ている。アラン王子とデヴィットは何処か・・似ている。
「「はい・・・。」」
おお~返事までグレイとルークはハモるのか・・・。等と感心していると・・・。
「ジェシカ、余所見をするな。」
「すみません・・・。」
まるで学校の先生のように注意してくるデヴィット。
「ねえ。何でこんな事してるのか分からないけど、ジェシカが可哀そうじゃ無いか。それより僕はお腹が空いたよ。朝食を食べに行きたいんだけどな。」
ダニエル先輩の言葉にマイケルさんも言った。
「いいねえ。このホテルの1Fのレストランに皆で食事に行かないかい?」
「いいですね。行きます。」
グレイが手を上げる。
「では早速行きましょう。」
ルークが立ち上ると、私とデヴィット以外の全員が立ち上った。
「さあ、ジェシカ。僕達と一緒に食事に行こう。」
ダニエル先輩が笑顔で手を差し伸べてきたので、私はその手を取ろうとし・・・。
「ジェシカッ!」
デヴィットの右腕が突然光り、私の左腕も輝きだした。え?な、何で突然?!
そして気付けば私はデヴィットの腕に中にいた。
「え?デヴィットさん?!」
「おい!デヴィット!ジェシカを放せよ!これからジェシカは僕達と朝食を食べに行くんだから。」
ダニエル先輩が怒って抗議するとデヴィットは言った。
「・・・悪いが朝食はお前達だけで行ってくれ。俺は・・・ジェシカと話があるから。」
言うとデヴィットは突然転移魔法を使い・・・気付けば私はホテルの外に立っていた。
デヴィットは無言で私の身体を離すと言った。
「・・・少し・・歩かないか・・?」
その声は・・・とても寂し気に聞こえた。
「はい・・・分かりました・・・。」
デヴィットは私の数歩前を歩き、私は俯いて彼の後ろを歩いている。
そのまま少し歩き続けると、デヴィットは1軒のカフェの前で足を止めた。
「朝食でも・・・食べるか?」
そして私を振り返った。
デヴィットは窓際の丸テーブルから、じっと窓の外を眺めている。
そんな彼の横顔を黙って見つめる私・・・それにしても何故?どうしてこの店に来たの?このカフェは・・デヴィットが愛を告白して来たカフェじゃないの。
デヴィットは一体・・・何を考えて私をこの店に連れてきたのだろう?いや・・・それとも私の考えすぎ?たまたま今回もこの店を選んだだけだとか・・・?どっちにしろ居心地が悪い事、この上ない。
「どうしてなんだ・・・。」
突然デヴィットが私の方を振り向くと言った・
「・・?」
どうして?それは私の台詞なのだけど・・?
「どうして・・お前の周りには大勢の男達が・・群がってくるんだ?・・最も俺も人の事を言えた義理じゃないが・・・やはり・・お前の持つ『魅了』の魔力のせいなんだろうか・・?」
「それは・・・。」
そこまで言って、私は口を閉ざしてしまった。そんな事は・・・私が一番知りたいことなのに。何故この小説の中の悪女である私に・・本来、小説のヒロインであるソフィーの魔力が備わっているかなんて・・・。
「すまない・・・お前に・・そんな話しても・・・困るよな・・・。ハハ・・馬鹿だよな。俺って・・・自分だけが特別かと思っていたけど・・・考えてみればお前には愛している男だっているって言うのに・・・。」
自嘲気味に笑うデヴィットに・・・私は何と声を掛ければ良いか分からなかった。
「た、確かに・・・公爵とは・・関係を1度持ちましたが・・・そ、それは・・別に愛とか・・・そう言った類の物では無いですから・・・。」
言葉を新調に選びながらデビットに語る。
「その当時・・・・ドミニク様は・・・今と同様にソフィーに操られていたんです・・・。私は・・すごく怖かった・・・。このままドミニク様が私を今に捕らえて・・死刑宣告をするのでは無いかって・・・。でも、その暗示を解いてくれたのがマシューだったんです。
「え・・?」
そこで初めてデヴィットは困惑の表情で私を見た。
「わ・・・私、マシューに言われたんです・・。もっとドミニク様を受け入れて、安心感を与えてあげれば暗示が解けていくだろうって・・・。それで・・私は休暇の日に公爵に会いに行ったんです。一緒に過ごせば・・公爵の混濁した記憶と暗示が解けるかなって思って・・。そして・・その時に公爵に言われたんです。私だけの聖剣士になれないかって。でもその時は・・もうマシューが私の聖剣士だったので返事が出来なくて・・。」
デヴィットは黙って私の話を聞いている。
「で、でも・・・ドミニク様は苦しんでいました。時折ソフィーの声が聞こえてきて・・私をもっと憎めと訴えて来るって・・・だけど・・・私の姿を見たり、声を聞いてると・・その忌まわしい声が遠ざかっていくって・・・。だから・・私にもっと触れたいってドミニク様が・・・・。私自身も・・ドミニク様の暗示が解けないと・・身の危険を感じて、それで・・・。後は・・・。」
俯いてデヴィットの出方を待つ。
「・・・・。」
デヴィットは・・何を考えて聞いているのだろうか?私の事を身持ちが悪い女だと思って聞いているのだろうか?段々目頭が熱くなっていく・・・。
「私の事・・・軽蔑しますか?」
半分涙目になり、デヴィットを見上げるとようやく彼は自分の感情を露わにした。
「この・・・馬鹿ッ!軽蔑なんて・・・するはず無いだろう?!お前は・・お前自身の身を守る為に・・・ドミニクと関係を持ったんだろう?」
「デヴィットさん・・・。」
「すまない・・・。あれは・・単なる俺の嫉妬だったんだ。俺は・・勘違いしていた。自分だけが特別と思っていたけど・・考えて見ればジェシカ。お前にとっての特別は・・マシューだったんだものな。」
「あ・・・。」
マシューの名前を口に出されて・・私は黙ってしまった。
デヴィットはそんな私を見てフッと笑った。
「でも・・・アラン王子にしろ、ドミニク公爵にしても・・・偶然にお前は聖剣士と聖女の誓いを交わしていたんだな・・・。恐らく前代未聞じゃないのか?1人の聖女が複数の聖剣士と誓いを交わすなんて。最も・・・今のところ正式な聖女と聖剣士の関係を持つのは俺だけどな?」
「デ・デヴィットさん・・。」
突然彼は何て事を口に出すのだろう。思わず彼の言葉に頬を染めると、デヴィットはフッと笑みを浮かべた。
「だが・・これはある意味チャンスかもしれないぞ?アラン王子もドミニクもお前の聖剣士であることに間違いはない。そうじゃ無ければお互いの紋章が輝きあうなんて事はないからだ。聖剣士と聖女の誓いは絶対だ。きっと・・・ソフィーの暗示なんか・・・ねじ伏せられるに決まってる!」
「ほ・・・本当・・・ですか・・?」
私はデヴィットの顔をじっと見つめた。
「ああ、だから・・・ジェシカ。お前が・・・アラン王子の暗示を解くんだ。いや・・恐らくお前にしか出来ないだろう。だとしたら・・日が経つにつれて暗示を解くのが厄介になってきそうだから・・よし、早速だが・・・今日、これから神殿へ侵入するか?」
「はい!」
「よし、それじゃ・・・・朝食を食べたらすぐに・・・ホテルへ戻って、皆に話そう。」
「ありがとうございます・・・。デヴィットさん・・・。」
俯くと、テーブルの上に置いてい両手にデヴィットがそっと触れて来ると言った。
「言っただろう?俺はお前の聖剣士だ。聖女のお願いは・・・どんな事でも聞き入れる。当然の事だ。」
そしてデヴィットは笑みを浮かべた—。
2
時刻は午後2時—
今、私達は神殿付近の岩陰に身を隠す様にして内部の様子を伺っている。
「前回、俺達が潜り込んだ時間は午後4時で・・・アラン王子は神殿の最上階にいたんです。」
グレイが説明する。
「ふ~ん。なるほどな・・・。しかし・・やはり昼間は夜に比べると圧倒的に見張りの数が少ないな。」
デヴィットは神殿を注視しながら言う。
「それは当たり前じゃ無いの?だって一応今は授業中なんだし・・・・でも、あんな怪しい連中の授業なんて受けるだけ、はっきり言って時間の無駄だね。多分全校生徒の半分はボイコットしてるんじゃないのかな?真面目に出てる学生はソフィーの息のかかった連中だけなんじゃないの?」
ダニエル先輩がつまらなそうに言う。
「そうですね。俺達も授業に出るのはやめていたから・・・。」
ルークの何気なく呟いた言葉に驚いた。
「え?その話・・・本当なの?」
「ああ、本当だ。ジェシカ・・・お前と仲の良い女子学生達がいただろう?彼女達も全員授業に出るのをボイコットしてるようだぞ?今はお互いの寮の部屋で互いに勉強を教え合っているらしい。
「そうなんだ・・・・。」
彼女達に会いたい。でも今は・・・。
「そ、そんな事より・・・ジェシカ。お前・・・男装しても・・そ、その可愛いな・・。すごく良く似合っているよ。」
頬を染めて言うグレイ。
「グレイ・・ありがとう。」
男装を褒められるのは少し複雑な気分だ。
「ジェシカ。もっと俺の近くに来い。」
突然デヴィットが私の腕を引き寄せて自分の腕に囲い込んできた。
「な、な、何ですか?一体?」
デヴィットは私を抱き締めながら言う。
「いいか、俺の側から離れるなよ?今、こうして側にいれば互いの絆が深まる。そうすれば神殿で万一離れ離れになっても、ジェシカの気配を感じ取れれば、お前を俺の腕に引き寄せることが出来るからだ。」
「なるほど、便利な物ですね。」
その様子を見ていたダニエル先輩が頬を膨らませる。
「チエッ!聖剣士だか、何だか知らないけど・・・こんな事なら僕も誘いに乗って聖剣士になってれば良かったよ。そうしたらジェシカの一番になれたのにさ。」
「ええ?!ダニエル先輩・・・聖剣士のスカウト話が来ていたんですか?」
ダニエル先輩の言葉に驚いた。
「スカウトって単語は良く分からないけど・・・。そうだよ、ジェシカ。僕はね・・・とても強いんだからね?」
ダニエル先輩は自信たっぷりに言う。
「ああ・・・そうなんだ。ジェシカ。ダニエルはな・・・女のような話し方、女のような外見のくせに・・・さらに女のように華奢な身体つきをしていても・・強いんだ・・・。」
デヴィットは溜息をつきながら言う。何だろう・・・やけに女を連呼している気がする。それに・・私から見ればダニエル先輩は十分男らしく見えるけど・・背だって私よりずっと高いし、細見だけど筋肉はついて引き締まっているし・・・。だけどデヴィットからは女性的に見えるのだろうか?
「ちょっと・・・女のようなくせにって・・・一体どういう意味さ。僕はれっきとした男だし、そんな風に言われたのは君が初めてだよ!」
ダニエル先輩がデヴィットに抗議し、しまいに2人は言い争いを始めた。
う~ん・・・この2人・・本当に気が合わなそうだなあ・・・。
「まあまあ。落ち着いて下さいよ、そんな事よりも今は兜を被っている見張りの兵士を探さないと・・・。」
グレイが2人を宥めている。うん、流石はグレイ。彼がいればこのチーム?もまとまるかもしれない。
「おい!1人見つけたぞ!兜を被った兵士が!」
岩陰から様子をうかがっていたルークが言う。見ると神殿の入口の左端の方に手持ち無沙汰にしている兵士がいた。
「「「「・・・誰が行く?」」」」
突然4人の男性陣は互いの顔を見渡した。
「俺は・・出来れば最後までジェシカの側から離れたくない。」
デヴィット。
「僕だってそうだ、ジェシカが心配だからね。」
ダニエル先輩。
「「お、俺達も・・・。」」
グレイとルークが言いかけ・・・。
「よし、お前達、どちらか行ってこい。」
デヴィットが言う。
「ええ?!」
「そ、そんなっ!!」
グレイと、ルークは互いに悲鳴混じりの声を上げる。あ~あ・・・気の毒に・・・。仕方が無い・・・。
「ごめんね。グレイ、ルーク。お願い・・・出来る?」
2人に頭を下げると、途端に彼等は態度を変えた。
「大丈夫だ、俺達に任せろ。よし、俺が一番に行ってくる。」
グレイが名乗りをあげた。
「いいか、見張りの兵士は殺すなよ?失神だけさせておけ。」
デヴィットが何やら物騒な事を言っている。
「何言ってるんですか。殺す訳無いでしょう?恐ろしい事言わないで下さいよ・・・。」
ブツブツとグレイは文句を言いながらも自分の気配を消す魔法をかけると・・・あら不思議!グレイの姿が消えてしまった。
「え?グレイ?何処に行ったの?」
私がキョロキョロ辺りを見渡すと突然、背後から声が聞こえた。
「ジェシカ、ここにいるぞ。」
そして何故か抱き寄せられる。
「おい!どさくさに紛れて何をしている!さっさと行って来い!」
デヴィットに一喝され・・・渋々グレイは見張りの兵士の元へと・・・向かったようだ。
私達は物陰に潜んでその様子をじっと伺っていると・・・。
「ウッ!」
風に乗って兵士の短いうめき声が聞こえ・・・次の瞬間、兵士は床に倒れ込む。
そして目に見えない何者かに引きずられるように建物の陰に消えていく・・・。
「どうやらうまくいったようだね。」
その様子を見届けていたダニエル先輩が言う。
「ああ、そうだな。あいつ・・中々やるな。よし、後で褒めてやろう。」
ニヤリと口元に笑みを浮かべ、デヴィットが言った。
それから待つ事数分・・・兵士が迷わずこちらに向かって駆けよって来る。
恐らく、グレイだろう。
私達の元へ来るとグレイは兜を脱いで言った。
「どうです?うまくいったでしょう?」
「ああ。お前、中々やるじゃ無いか、褒めてやろう。」
言いながらワシャワシャとグレイの髪を激しくなでるデヴィット。・・・何だかお兄ちゃんみたいだ・・・。
「よし、グレイ。引き続き他に兜を被った兵士がいないか探して来るんだ。見つかったら俺達に手招きしろよ。」
完全にその場を仕切るデヴィット。でも誰一人文句は言わない。・・・中々リーダーシップのある人だなあ・・・。
「そして・・・当然次に行くのはお前だからな。ルーク。」
ビシイッとルークをデヴィットは指さすのだった・・・。
その後は順調にルーク。そして次にダニエル先輩、デヴィットが鎧を手に入れた。
残りは私一人なのだが・・・。
「う~ん・・・。困ったな・・・。」
デヴィットが腕組みして考え込んでいる。
「だけど、仕方が無いよ・・・。ジェシカのように背の低い兵士はいないんだから・・・。」
ダニエル先輩は溜息をついた。
「「・・・・。」」
一方のグレイとルークは無言で私を見ている。そう、全員が神妙な面持ちで私を見るのは・・・それは、兵士の鎧が大きすぎると言う事だった・。
まるでサイズが合わず、ブカブカで違和感この上ない。兜だって重くて大きすぎて頭がぐらつき、まともに歩く事もままならないのだ。
「ど、どうしましょう・・・。何としてもアラン王子に近付かなくてはならないのに・・。」
うう・・・。これも全てジェシカの身長が極端に低いせいだ・・・。
「どうする、デヴィット。」
ダニエル先輩の言葉にデヴィットは言った。
「・・・こうなったら・・・強引にアラン王子を誘拐して・・ジェシカの元へ連れてくるしか・・・無いか・・?」
「ええっ!駄目ですよ!そんな事をしたら大騒ぎになりますっ!」
グレイがすかさず反対する。
「そうですよ、大体アラン王子は大人しく誘拐されれるような人間ではありません。」
ルークの言葉に私も思った。うん・・確かに俺様王子は大人しく誘拐されるような人間じゃないな・・・・。
全員で考えあぐねいていると、何とマイケルさんがこちらに向かってくる姿が目に入った。
「やあ。皆。鎧は手に入れたんだね。」
マイケルさんは笑顔で私達の元へやってくるとすぐに岩陰に身を隠す。
「馬鹿ッ!マイケル!何故ここへ来た?!ホテルにいろと言っただろう?」
おおっ!つ、ついに・・・デヴィットが4歳も年上のマイケルさんを馬鹿呼ばわりしてしまった!
しかし、当の本人はそんな事全く気にしない素振りで言った。
「君達がお嬢さんの件で困ってるんじゃないかと思ってね・・・。マジックショップでアイテムを買って来たんだ。ほら、これは自分の気配を完全に隠すドリンクだよ。そしてこのマントはね、羽織ると完全に視界から消え去る事が出来るマントなんだよ・・。」
言いながらマイケルさんがマントを羽織ると、あっという間に姿が消えてしまった。
「凄いじゃ無いか、マイケル。この俺でさえ、今・・お前の姿を見破れなかった。これなら・・・所詮寄せ集めの兵士共には絶対にバレるはずはない!よし、ジェシカにはこのアイテムを使わせよう!」
デヴィットは言った。
そして・・・私は気配を消すドリンクを飲み、マントを羽織ると、デヴィット達と共に神殿に足を踏み入れた—。
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