目覚めれば、自作小説の悪女になっておりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第6章 7 謎の聖剣士

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それから約1時間後・・・。
デヴィットとアラン王子が気落ちした様子で『ワールズ・エンド』へ戻ってきた。

「あ~あ・・・・。見てごらんよ、あの2人の様子・・・。きっと全員から協力を断わられたんじゃ無いかな?」

ダニエル先輩が妙に冷静な声で言う。

「ああ・・・。確かにそんな気がする。まあ・・・誰だって命が惜しいからな。無理も無いだろう。」

ヴォルフの言う事も最もだ。誰だって命は惜しい。今まで彼等が門を守っていたのはそこに魔物が現れなかったからだ。だからこそ・・いつ魔物が出現してもおかしくない世界に変わってしまった場所で・・・見張りなどやりたくは無いだろう。第一彼等はいくら『聖剣士』だと言っても、所詮は・・・まだ学生なのだから。

 私達の元へ着くと、デヴィットが口を開いた。

「皆・・・すまなかった。必死で頼んでは見たのだが・・・誰も首を縦に振ってはくれなかったんだ・・・。これも俺の人徳不足だ。」

デヴィットは頭を下げた。
いやいや・・・それ以前に、デヴィット。貴方は聖剣士に選ばれたにも関わらず、聖女ソフィーに忠誠を誓わず・・あ、これは誓わなくて正解だったか。第一、聖剣士の訓練に一度も参加した事が無いのだから。誰も信頼なんかしないだろう。それなのに・・・聖剣士の姿で皆の前に現れて、説得しようって方がそもそも無茶だと思うのだけど・・・。でもその無茶ぶりをお願いしたのは私なのだ。

「くっそ~・・・・。あいつ等・・・この俺が王子なのを知っていてあんな態度を取るなんて・・・。こうなったら俺の国から兵を呼び寄せて、あいつ等を脅して無理や見張りをさせるしか無いか・・・。」

あのですね、アラン王子。初めから兵を呼べるのであれば、何も聖剣士達を脅すのに兵を使わないで、この場所で、門を見張って貰うのが一番効率的だと思いますけど?

とはいうものの・・・とても2人に今の私の考えを告げる事は出来なかった・・。

「ねえ、そう言えばさあ・・・ノアにグレイ・ルークは今どうしてるのさ?」

ダニエル先輩が何かを思い出したかのようにアラン王子とデヴィットに尋ねた。

「ああ。グレイとルークは町に魔物が現れても対処出来るように学院と町を繋ぐ門の前で待機している。ノアは学院の門を守っているんだ。」

「ふ~ん。そうなんだ。それじゃ後でノアと役割分担交換してこようかな。」

「うん・・・。ところであの男・・・。」

不意にヴォルフが背後を振り返った。

「え?」
私もヴォルフと同じように振り返り、息を飲んだ。なんとそこにはあの鉄仮面の人物が私達の方を見つめて離れた場所で立っていたのだ。しかも驚いたことに彼は聖剣士の姿をしている。

「ああっ!あの男は・・・!」

ダニエル先輩が声を上げた。

「うるさいっ!ダニエル!お前はまた女みたいな声をあげて・・・っ!」

デヴィットがダニエル先輩に文句を言う。う~ん・・どうやってもデヴィットはダニエル先輩を女性のように仕立てたいようだ。別に私から言わせるとダニエル先輩の今の声だって、全然女性らしくは感じなかったのだが・・・デヴィットにはそうきこえたのだろうか?

「何だよっ!今の声の何処が女みたいなんだよっ!君はどうやっても僕を女の様な男にしたいみたいだなっ!」

・・・案の定、ダニエル先輩がデヴィットに文句を言う。いやいや、そんな事より、彼だ。あの鉄仮面の男性は・・・聖剣士だったのか・・・。てっきり聖剣士はデヴィットとアラン王子以外は・・・全員私の敵だと思っていたが、彼は私によくしてれた。聖剣士の中には・・そういう人物もいるのだろうか?
だけど・・何故かあの聖剣士を見ていると、心がざわつく。

「お、おい・・・・。何であの聖剣士はこっちを見ているんだ・・・・?ひょっとすると俺達を狙っているのか・・・?」

妙に怯えた様子のアラン王子に私は尋ねた。

「どうしたのですか?アラン王子。彼は・・・すごくいい人ですよ?」

「な・・何っ?!ジェシカッ!お前・・・あいつを知っているのか?!」

アラン王子が私の肩をガシイッと掴むと凄い形相で言った。

「おい、俺もそんな話は初耳だぞ?どう言う事だ?!」

デヴィットも驚ている。

「ジェシカ・・・あいつはね、君を探しに神殿に行った時に僕たちを襲って来た聖剣士の1人なんだよ。・・・とにかく滅茶苦茶に強かった・・・。」

ダニエル先輩は顔を青ざめさせながら言う。

「ああ・・確かに・・・何かあいつからは只物は無い気配が漂っているな・・・。魔族の俺には良く分かる。」

ヴォルフまで妙な事を言い出した。

「で、でも・・・本当に彼は親切でしたよ。私が監獄塔に入れられた時も食事を持って来てくれたり、嵐の晩は・・私の様子を見に来てくれたので。」

「何いッ?!ジェシカ・・お、お前・・・牢屋に閉じ込められたのか?!」

アラン王子が掴んでいた私の両肩に力を入れた。い・・・痛いんですねど・・。

「ま・・・まさかあのドミニクに入れられたのかっ?!くっそ・・よくも俺のジェシカを・・・っ!」

「おい、何だ。俺のジェシカって・・・・。それよりもジェシカ・・・お前、また牢屋に入れられてしまったのか?」

「ちょっとっ!ヴォルフッ!またって・・・一体どう言う意味なのさ?まさか魔界でジェシカを牢屋に閉じ込めたりなんかしていないよねえっ?!」

男4人は・・・私をそっちのけで言い合いを始めてしまった。
全く・・・この世界の男性陣は口論するのが好きだなあ・・・。そんな彼等を放っておいて私は鉄仮面を被った彼の元へと足を向けた。


鉄仮面の聖剣士は私が近寄ると、何故かビクリと肩を震わせた。・・?

「あの・・・この間は色々お世話になりました。」
改めて頭を下げる。

「・・・・。」

仮面の聖剣士はやはり無言のままだ。
「後・・・、折角私を心配して嵐の晩に監獄塔に来て頂いたのに・・・あんな・・追い返すような真似をして・・すみませんでした。」
すると彼は視線をサッと逸らせた。
・・多分・・あの後何が私と公爵の間で行われたのか・・・気付いているのだろう。
私は続けた。
「こちらに・・・来て頂いたと言う事は・・・この場所で見張りをして頂けると・・・解釈しても宜しいのでしょうか?」
すると黙って頷く聖剣士。

「本当ですか?どうも有難うございます。あ、そう言えば自己紹介が未だでしたね。私は・・ジェシカ・リッジウェイと申します。よろしくおねが・・・。」

そこまで言いかけた時・・・突然聖剣士が私の右腕を掴んで引き寄せると強く抱きしめて来た。
え・・?
その聖剣士は身体が震えている。・・・一体どうしたというのだろう?
「あ、あの・・・。」

私が言いかけた時、男性陣から叫び声が上がった。

「あ・・・っ!貴様・・・ジェシカに何をやってるんだっ!」

デヴィットが叫んで駆け寄って来ると聖剣士から私をもぎ取ると憎悪の込めた目で睨み付けた。そして後から駆けつけて来たアラン王子やダニエル先輩も2人とも睨み付けている。
ただ一人・・・ヴォルフを除いては。
何故か・・・ヴォルフだけは首を捻ってじっと聖剣士を見つめている。

「デヴィットさん、お話したい事があるので離してくださいっ!」

私が言うと、不承不承デヴィットは身体を離した。

「あの、こちらの聖剣士様がここで魔物の見張りをして下さるそうです。良かったですね。」

「「「「・・・・。」」」」

なのに全員返事をしない。

「あの・・・?どうかしましたか?」

「俺は反対だ。」

デヴィット。

「ああ、俺も反対だな。」

アラン王子。

「彼には命を狙われたからね・・・。」

ダニエル先輩。

「何だか、その男から怪しい雰囲気を感じるぞ?」

ヴォルフまで・・・。

「な・・何言ってるんですか?皆さん。今は・・一人でも多くの見張りをして下さる方が必要なんですよ?」

「そんな事を言っても・・俺はその聖剣士と一緒に見張りなんかしたく無いからな。」

デヴィットが腕を組みながら言う。

「ああ、俺も・・何故か知らないが、虫が好かない。」

「ア、アラン王子っ?!」
何て大人げない事を・・・。

「うん、僕も・・何だかこの聖剣士は・・うまく言えないけど・・嫌だよ。」

「その男・・・強いんだろう?だったら今から半日交代でその男1人で見張って貰ったらどうだ?」

ヴォルフがとんでもないことを言う。

「「「ああ、それがいい。」」」

何故かそれに賛同する3人。

「な・・・何て事言うんです?!・・・。分かりました。それなら私がこちらの方と一緒に番をします。」

私が言うと、全員がギョッとした顔をする。

「駄目だっ!駄目に決まっているだろう!危険過ぎるッ!」

デヴィット。

「そうだ!絶対に認めないぞっ!」

アラン王子。

ダニエル先輩もヴォルフも続いて反対したのだが・・・結局どうしても反対するならもう貴方達とは口を聞きませんと言ったら、全員がようやく納得してくれた。

こうして私は、この鉄仮面の聖剣士と半日の間、一緒に門の見張りをする事が決まっ
たのだった―。



2


私が鉄仮面剣士と2人で門の見張りをすると言うと、デヴィットやアラン王子、ダニエル先輩から果てはヴォルフまでもがそれなら私と一緒に門の見張りをすると言い出したのを何とか説得し、代わりに破壊された門はどうすれば元通りに戻せるのか方法を全員で手分けして調べて貰うようにお願いすると、ようやく彼等は納得し、その場を引いてくれた。

 そして日が暮れ・・・今私は仮面の剣士と2人で焚火の前に座っている。
鉄仮面の聖剣士と門の見張りをする事になったけれども・・・・。

「申し訳ございません。一緒に門の見張りをするなんて言いましたけど、私は魔法も剣も一切使えず、単なる役立たずのお荷物かもしれませんが・・・。」

私は仮面の剣士に言った。

「せめて、火の番と・・・寝ずの番はしますので。どうぞお休みになって下さい。」

しかし仮面剣士は首を振ると、木の幹に寄りかかり、黙って木の枝を折って火にくべている。
なんか・・・不思議な感覚だ。彼は一切口を開く事が無いので、会話はいつも私だけ一方通行。沈黙の時間も長いのに、ちっともそれが苦では無い。
側にいるだけで安心感も与えてくれる、そんな不思議な感覚に囚われる。

暫く黙って炎を見つめていると、不意に彼が立ちあがった。

「あ、あの・・何処へ行くんですか?」

すると彼はジェスチャーで私に残るように身振り手振りをする。
「あの・・・ここで待っていればいいんですか?」
私が尋ねると、彼は頷いて森の奥へと入っていく。私は焚火に手をかざすと・・いつの間にかウトウトし始め・・・ついには眠りに就いてしまった・・・。

ああ・・・寒い。
身を縮こませていると、不意に周囲が温かくなるのを感じる。
その時、遠くでオオカミの遠吠えが聞こえた。え?オオカミッ?!
慌てて飛び起きると、私の身体の上に毛布が掛けられており、すぐ側では彼が私を見下ろしていた。

「あ・・・す、すみません。寝ずの番をしますなんて言っておきながら・・。」
慌てて起き上がろうとする、彼はそれを手で制し、私に横になるようにジェスチャーで訴えて来た。そして彼はそっと髪の毛に触れて来た。

「・・・・。」
彼は私を見下ろしながら、黙って頭を撫でている。まるでもっと休んでいろと言ってる様に・・・。

「貴方は・・・誰ですか?」
彼が答えないのは知っていたけれども・・・尋ねてみた。
しかし、彼は何も答えない。いや・・・もしかすると言葉を話す事が出来ないのかもしれない。それなら・・・。

「あの・・・言葉を話せないなら・・・筆談しませんか?」
私は起き上がると、持っていた自分のリュックからメモ帳とペンを取り出し、彼に手渡した。

「・・・。」

それを黙って受け取る仮面の剣士。

「それじゃ私が質問するので、その紙に書いて下さいね。」

彼は困った素振りを見せていたが・・・やがて頷いてくれた。よし、これで質問すれば、少しはこの相手の事が分かるかもしれない。

「ええと・・・まずは貴方のお名前を教えて下さい。」

すると彼は首をかしげて・・・紙に何か書き始めた。

『分からない』

え・・・分からない・・・?

「ま、まさか記憶喪失ですか・・・?」

しかし彼は首を振り、先程書いた文字を指さす。

「記憶喪失かどうかも分からないのですか・・・。」
う~ん・・・・困ったなあ。これでは何を聞いても分からないの答えしか返って来ない。よし、少し質問の内容を変えてみようかな。

「貴方は・・・この学院の聖剣士・・ですか?」

すると今度は彼は何か文字を書き始めた。

『多分、そう。』

「それでは・・・ソフィーに忠誠を誓った聖剣士ですか?」

『それは違う』

彼は書いたメモを渡してきた。ソフィーの聖剣士では無い・・・?

「貴女は・・・ソフィーの事を信頼していますか?」
暫く彼は何か考え事をしていたが・・・やがて何か書き始めた。

『信頼はしていない。だが、命令には逆らえなかった。』

命令・・・まさか・・・この人も公爵のように・・暗示にかけられている・・・?
いや、それ以前に私が一番気になるのは・・何故、この聖剣士だけが鉄仮面を被っているか・・・。
ま、まさかこの人は・・・?

「か、仮面を・・・仮面を外して下さいッ!!」

気が付けば私は彼の仮面に手を伸ばしていた。しかし・・・。彼は激しく首を振ると抵抗する。
そして・・・

「う・・・。」

急に唸りだすと、仮面の下からポタポタと血が垂れて来た。

「っ!」
ま、まさか・・・。

彼は苦しそうに唸ると地面に倒れてしまい、荒い呼吸を吐いている。

「も・・・もしかすると・・・その仮面・・外せないんですか・・・?」

地面に倒れ込んだ彼に尋ねると、首を縦に振る。

「無理に外そうとすると・・今みたいな事になると・・・?」

またしても彼は肯定した。仮面の下からは血が滲み、彼の来ている聖剣士の服を血で濡らしていた。

「ご・・・ごめんなさい・・・。わ、私・・・何も・・知らなくて・・・。」

倒れている彼の側に座ると私は涙を流して謝った。そんな私を彼は・・・苦しいはずなのに手を伸ばして、そっと頭を撫でて来る。まるで・・慰めているかのように。

「ごめんなさい、もう・・仮面を外して下さいなんて言いません。貴方が苦しむなら・・・質問するのもやめにします。だから・・・早くその痛みから解放されますように・・・。」

私は・・・彼が起き上がれるようになるまで彼の右手をずっと両手で握り締め続けていた—。

 1時間後・・・ようやく起き上がれるようになった彼は自分の方から少しずつ筆談で今の自分の状況を書き始めた。
今彼自身が理解出来るのは、この鉄仮面を被っていると不思議な事に飢えも喉の渇きも全く感じないと言う事、そして外そうとすると、仮面が頭部を締め付け、激痛を伴うと言う事。また、ソフィーの言いつけに背いても同じ現象が自分の身に起きると言う事・・・。更に言葉を話す事も出来なくなったと彼は教えてくれた。
彼の話曰く、ある時気が付いてみると自分は仮面を被らされ、それまでの自分の記憶を一切失っていたという事だった。

・・・私の中では、ひょっとするとこの人物はマシューなのでは無いかと思っていたのだが・・・これでは全く確認のしようが無い。彼は・・・マシューかもしれないし、もしかするとレオの可能性だってある。もしくは私が全く知らない人物の可能性だって・・・。
彼は筆談で語ってくれた。ソフィーがこの仮面を付けると自分の力を何倍にも高めてくれるので、せいぜい自分の役に立つように言われたそうだが・・・。どうしても自分はソフィーの言いなりになるのが嫌で、ずっと抵抗し続け、その度に仮面によって苦しめられ・・そんな自分をいつも助けてくれていたのが、ソフィーによって囚われていたある女性だと言う事を教えてくれた。

え・・・?ソフィーに捕らえられている女性・・・ま、まさか・・・。

「あ、あの・・・!その女性と言うのは・・・『アメリア』という名前では無いですか?!」

しかし、彼は首を振ってメモを書いてよこした。

『名前は知らない』

「そ・・・それじゃ・・・眼鏡・・・眼鏡はかけていませんでした?髪の色は・・・私の色よりは濃くて・・・髪の毛はおさげにしていて・・・。」

すると、それを黙って聞いていた彼は・・・頷いた。
間違いない・・・っ!ソフィーに捕らえられ・・・鉄仮面によって苦しんでいた彼を助けていた人物は・・・アメリアだ。ついに・・アメリアの情報を手に入れる事が出来た。
私は夢の内容を思い出していた。夢の中で私は・・・鍵を握り締め、誰かを助け出していた。
あの人物は・・・アメリアだったんだ―。
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