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22 遠い道のり
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二つの樽に並々とワインを注ぐと、エドモントは私に声を掛けてきた。
「俺とラルフで酒場に行ってきますので、ユリアナ様はこちらでジェイクさんとお待ち下さい」
「え? でも……」
「もう深夜を回っています。この荷馬車は一時的に借りた物なので、返さなければなりません。つまり、帰りは徒歩になるということです。この森は夜中には狼がうろついています。歩いて帰るにはとても危険です」
「あ…‥そうだったわね」
以前の私だったら、別に狼がいても剣を扱えたので問題は無かった。けれど、今のこの身体は剣を持つのも難しい。
「ついていけば……足手まといになってしまうわね」
「……申し訳ありませんが、そういうことです」
エドモントが頷く。
「我々だけで大丈夫ですから、どうぞお休みになっていてください」
ラルフが笑顔で話しかけてくる。
「ジェイクさん、ユリアナ様を宜しくお願いします」
エドモントがジェイクに声を掛けた。
「ええ。分かりました。ユリアナ、二人がああ言ってるのだからここで二人の帰りを待とう」
「……はい。分かりました」
無力な自分を歯がゆく思いながら、頷いた。
****
「それではエドモント、ラルフ。お願いね」
隠れ家の出入口までジェイクと二人で見送りに出ると、私は彼等に声を掛けた。
「ええ。お任せ下さい」
「では行ってきます」
そして二人は荷馬車に乗って、先程の酒場へと向かった。
****
「ユリアナ、自分の部屋で休まないのか?」
ジェイクが部屋に戻らない私を見て声を掛けてきた。
「はい。やはり……2人に任せておいて、自分だけ休むわけにはいきませんから」
「そうか。なら俺も付き合うよ。彼らを待つ」
ジェイクは向かい側の椅子に掛けた。
「え? でも……」
「別にいいのさ。どのみち頭が冴えて眠れそうにないしね。……ところでユリアナ」
「はい」
「あの夢の後、他に何か思い出したことは無いかな?」
その目は真剣だった。
「い、いいえ。特には何も……」
「そうか……」
ため息をつくジェイクは非常に残念そうだった。でも何故そんなことを尋ねて来るのだろう? ひょっとして彼が呟いた『ミレーユ』という女性と何か関係があるのだろうか……?
「あの、ジェイクさん……」
言いかけた時、ジェイクが言葉を重ねてきた。
「やはり、今後の為に馬と荷馬車を調達した方が良さそうだな」
「え?」
「これからベルモント家の騎士達の行方を捜すには、やはり足は必要だろう? 毎回毎回、馬車を借りるのも大変だし‥‥…」
「そうですね。それは確かに言えますね」
「帰ってきたら彼らに相談してみよう。……ところでユリアナ。ベルモント家を破滅させた者達に報復したら……次はどうするつもりだ?」
その次……? 私は少し考えて答えた。
「それは……この国を平和に導くことです」
「平和に……する?」
ジェイクが目を見開いて私を見る。
「はい、そうです。この戦争……もしかするとベルモント家が影響しているのではないかと思うのです。戦争を起こす為にベルモント家が邪魔だった。そこで私たちは滅ぼされたのではないかと考えています」
「成程」
頷くジェイク。
「ベルモント家を破滅させた彼らがいなくなれば、きっとこの国は平和になるはずです」
「そうだな。俺もそう思う。……その日が来るまで、最後まで付き合わせてくれるよな?」
「はい、もちろんです」
私は笑顔で頷いた。
遠い道のりになるかもしれないけれど――
「俺とラルフで酒場に行ってきますので、ユリアナ様はこちらでジェイクさんとお待ち下さい」
「え? でも……」
「もう深夜を回っています。この荷馬車は一時的に借りた物なので、返さなければなりません。つまり、帰りは徒歩になるということです。この森は夜中には狼がうろついています。歩いて帰るにはとても危険です」
「あ…‥そうだったわね」
以前の私だったら、別に狼がいても剣を扱えたので問題は無かった。けれど、今のこの身体は剣を持つのも難しい。
「ついていけば……足手まといになってしまうわね」
「……申し訳ありませんが、そういうことです」
エドモントが頷く。
「我々だけで大丈夫ですから、どうぞお休みになっていてください」
ラルフが笑顔で話しかけてくる。
「ジェイクさん、ユリアナ様を宜しくお願いします」
エドモントがジェイクに声を掛けた。
「ええ。分かりました。ユリアナ、二人がああ言ってるのだからここで二人の帰りを待とう」
「……はい。分かりました」
無力な自分を歯がゆく思いながら、頷いた。
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「それではエドモント、ラルフ。お願いね」
隠れ家の出入口までジェイクと二人で見送りに出ると、私は彼等に声を掛けた。
「ええ。お任せ下さい」
「では行ってきます」
そして二人は荷馬車に乗って、先程の酒場へと向かった。
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「ユリアナ、自分の部屋で休まないのか?」
ジェイクが部屋に戻らない私を見て声を掛けてきた。
「はい。やはり……2人に任せておいて、自分だけ休むわけにはいきませんから」
「そうか。なら俺も付き合うよ。彼らを待つ」
ジェイクは向かい側の椅子に掛けた。
「え? でも……」
「別にいいのさ。どのみち頭が冴えて眠れそうにないしね。……ところでユリアナ」
「はい」
「あの夢の後、他に何か思い出したことは無いかな?」
その目は真剣だった。
「い、いいえ。特には何も……」
「そうか……」
ため息をつくジェイクは非常に残念そうだった。でも何故そんなことを尋ねて来るのだろう? ひょっとして彼が呟いた『ミレーユ』という女性と何か関係があるのだろうか……?
「あの、ジェイクさん……」
言いかけた時、ジェイクが言葉を重ねてきた。
「やはり、今後の為に馬と荷馬車を調達した方が良さそうだな」
「え?」
「これからベルモント家の騎士達の行方を捜すには、やはり足は必要だろう? 毎回毎回、馬車を借りるのも大変だし‥‥…」
「そうですね。それは確かに言えますね」
「帰ってきたら彼らに相談してみよう。……ところでユリアナ。ベルモント家を破滅させた者達に報復したら……次はどうするつもりだ?」
その次……? 私は少し考えて答えた。
「それは……この国を平和に導くことです」
「平和に……する?」
ジェイクが目を見開いて私を見る。
「はい、そうです。この戦争……もしかするとベルモント家が影響しているのではないかと思うのです。戦争を起こす為にベルモント家が邪魔だった。そこで私たちは滅ぼされたのではないかと考えています」
「成程」
頷くジェイク。
「ベルモント家を破滅させた彼らがいなくなれば、きっとこの国は平和になるはずです」
「そうだな。俺もそう思う。……その日が来るまで、最後まで付き合わせてくれるよな?」
「はい、もちろんです」
私は笑顔で頷いた。
遠い道のりになるかもしれないけれど――
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