里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
8 / 72

第8話 嫌がらせのティータイム

しおりを挟む
「失礼致します。お茶とケーキをお持ち致しました」

扉を開けて中へ入ると深々と頭を下げて、2人を見た。大きな窓に囲まれたサンルームでガーデン用の丸テーブルにデニムと見合い相手の女性が向かい合わせに座っている。デニムはヘーゼルの瞳でじっと私を見ると言った。

「遅かったな。すぐに私と令嬢にお茶とケーキを持ってきなさい」

「はい、かしこまりました」

デニムの自分の事を『私」と言ったことに若干鳥肌を立てつつ、私はワゴンを押して2人のそばにより、お見合い相手の令嬢をチラリとみた。その令嬢は両頬にそばかすが残った、まだ少女と見まごうような外見だった。どう見てもデニムや私達よりは10歳程若く見える。どうしてこんなに若いのにデニムと見合いしているのか私には理解できなかった。

「失礼致します」

丁寧に挨拶すると私は彼らに背中を向けるような形でワゴンの上でお茶の用意を始めた。ティーカップに予めポットに作っておいたアップルティーを注ぎ入れ、デニムにバレないようにさっと角砂糖3個をペーパーの上に取り出し、ポケットにしまった。
そしてデニムのカップには渋い茶葉の絞り汁入りのアップルティーを入れ、見合い相手には普通にアップルティーを入れた。そしてデニムのシフォンケーキにはケーキの表面にバレないように薄っすら塩をまぶして、ペーパーですりこんだ。

「お待たせ致しました。」

2人分のお茶のセットをトレーに乗せると、私は振り向き声をかけた。

「どうぞ」

コトンコトンと2人の前にそれぞれお茶の入ったカップとシフォンケーキの皿を置く。それを見た令嬢が嬉しそうに言う。

「まあ…なんて美味しそうな紅茶とケーキなんでしょう?」

するとデニムが言った。

「ハハハ…我がコネリー家のシェフは腕が一流なんですよ。さ、どうぞ食べてみて下さい。」

全身に鳥肌が立つような甘ったるい声で令嬢に話しかけるデニム。私は2人の邪魔にならないように後ろに下がって様子を見守った。
令嬢は丁寧な手付きでフォークでシフォンケーキをカットすると口に運ぶ。

「フフ…とっても美味しいですわ。甘さも上品ですね?しかもふわふわで口溶けも良いです」

なかなか褒め上手の令嬢だ。

「ハハハ…美味しいでしょう。紅茶も飲んでみて下さい。フルーティーでとてもさっぱりした味ですから」

「はい、頂きます」

令嬢は次にアップルティーをコクンと飲むと、ホウとため息をつく。

「紅茶もとても美味しいですね?」

「ええ、そうでしょう?どれ、私も食べてみることにしましょう」

デニムは破顔すると、塩がすり込まれたシフォンケーキを口に入れた。

「ムグッ!!」

途端にものすごい顔をするデニム。それは確かにしょっぱいだろう。何しろすり込んだ塩は海塩よりも塩辛い岩塩をすり込んだのだから。

「どうされましたか?デニム様?」

見合い相手の令嬢が不思議そうな顔をしてデニムを見る。

「い、いや…な、何でもありません!」

そして慌てて紅茶の絞り汁入のアップルティーを口に入れ、激しくむせこむ。

「ゴホッ!!ゲホッ!!」

おおっ!吹き出すかと思ったのに飲み込んだ!意外と根性があるのだろうか?

「キャアッ!!大丈夫ですかっ?!デニム様っ!」

しかし、デニムはそれに答えず、私をものすごい目で睨みつけると怒鳴りつけた。

「おいっ!貴様…っ!!」

「デ、デニム様…?」

するとその態度にお見合い相手の令嬢はすっかり怯えた様子でデニムを見ている。

「あ…い、いえ。今のはですね…?」

デニムは令嬢を見て笑みを浮かべるが、今更手遅れだった。

「あ、あの…お茶もお菓子も頂きましたし…私、そろそろおいとまします」

すっかり青ざめてしまった令嬢はガタンと席をたった。

「え?もうお帰りになるのですか?まだお見合いを始めて30分も経過していないのに?」

デニムは驚いて令嬢の右手を掴んだ。

「匕ッ!!」

令嬢の顔に怯えが走り、彼女は叫んだ。

「イヤアッ!は、離してっ!」

デニムがパッと手を離すと令嬢は後ずさりながら言う。

「し、失礼しますっ!」

そして逃げるようにサンルームから走り去って行った―。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さくら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

処理中です...