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第9話 椅子の方が大事
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「おい!メイド!お前…一体どういうつもりなんだよっ!お前のせいで…見合い相手に逃げられてしまっただろうっ?!」
デニムはガバッと椅子から立ち上がる拍子に、よほど動揺していたのか、椅子ごと背後に倒れてしまった。
ガターンッ!!
「痛ってーっ!!」
デニムは倒れた時にしたたかに腰を打ち付けたようで、床の上でもんどりうっている。
あっ!あのガーデニングの椅子…アンティーク品でものすごく価値が高いのにっ!
床に転がり腰を抑えて痛みに耐えるデニムの脇をすり抜けて私は椅子に駆け寄った。
「た、大変!椅子がっ!」
慌てて椅子を元通りに立てると、どこかに傷は無いか念入りに調べる。
「おい!メイドッ!椅子なんかより俺の身体を心配するのが先だろう?!あ、いたたた…」
背後にいたデニムは腰をさすりながら何とか起き上がったようだ。
「良かった…無事だったわ…」
幸いアンティーク椅子に傷は一つもついていなかった。ほっと息を吐いたとき、背後から耳障りな声が聞こえてきた。
「おい!そんな椅子なんかどーでもいい!何故貴様は俺の身体を心配しないっ?!貴様は主が怪我をしているのに無視をしたなっ?!」
全くたかが椅子ごとひっくり返っただけで大袈裟な…。私は溜息をついた。大体そんな椅子ですって?この椅子の価値がこの男に分るはずは無いだろう。このガーデニングテーブルセットは我が家の御先祖様が当時、まだあまり知名度が高くなかった家具職人に頼んで作ってもらった家具なのだ。オークションに掛ければ多分1年間は遊んで暮らせる額になるというのに。
「おい!貴様…今ため息をついただろう!なんて嫌な奴なんだ…!誰から給料を貰っていると思ってるっ?!」
「奥様ですけど?」
背中を向けたまま語る。
「・・・へ?」
「お、お前…今何て言った?」
背後で間の抜けた声を出したデニムに振り返ると、もう一度はっきり言った。
「ええ、いいでしょう。何度でも言って差し上げます。このお屋敷の使用人たちのお給料は全て奥様の御実家から支払われているのです」
「な…何だってっ?!そ、そんな…う、嘘だろうっ?!」
やはりこの夫はこの屋敷の経済状況を全く把握出来ていないようだ。まあ26歳にもなって未だに領地経営を知らずに、毎日毎日近隣に領地を構える貴族達とカードゲームに興じる日々。なので義父と私の2人で領地の経営を行っていたのだ。勿論このことは義母ですら知らない。
そもそもこの目の前にいる男は大体何故私と自分が結婚するに至ったのかを理解しているのだろうか?
「デニム様はコネリー家が置かれている状況を何もご存じないようですね?この領地が今どれだけ逼迫しているかを。私達のお給料はデニム様と奥様が結婚されるまでの半年間を無給で働かされていたのですよ?それが奥様と結婚されたことで私達にお給料が支払って頂けるようになったのですから」
そう、私は自分の事だから良く知っている。嫁いできた時、まさかこの屋敷の使用人たちが無給で働かされていたとは夢にも思わなかった。
「そ、その話…ほ、本当なのか…?」
デニムは声を震わせて尋ねてきた。今の話が相当ショックだったのだろう。自分がお見合いの席でしょっぱいケーキを食べさせられたことや、渋ーい紅茶を飲まされたせいでお見合い相手に逃げられた事を忘れている。この分だとケーキを用意したシェフも多分おとがめなしだろう。
「本当か嘘かは大旦那様にお尋ね下さい。恐らく大旦那様は今執務室でお仕事をされているはずですから。では私はこれで失礼致します」
ペコリと頭を下げるとテーブルの上のお茶やお皿を次々に片付けてワゴンに乗せると私はサンルームを出て行った。
廊下を歩きながら私はほくそむ。
それにしても…フフフ!あのお茶とケーキを口に入れた時のデニムの表情が忘れられない。何て愉快なんだろう。今まで2年間ないがしろにされてきた私の怒りを今こそ知らしめる時がやって来たのだ。
私はウキウキしながらワゴンを押して厨房へと戻って行った―。
デニムはガバッと椅子から立ち上がる拍子に、よほど動揺していたのか、椅子ごと背後に倒れてしまった。
ガターンッ!!
「痛ってーっ!!」
デニムは倒れた時にしたたかに腰を打ち付けたようで、床の上でもんどりうっている。
あっ!あのガーデニングの椅子…アンティーク品でものすごく価値が高いのにっ!
床に転がり腰を抑えて痛みに耐えるデニムの脇をすり抜けて私は椅子に駆け寄った。
「た、大変!椅子がっ!」
慌てて椅子を元通りに立てると、どこかに傷は無いか念入りに調べる。
「おい!メイドッ!椅子なんかより俺の身体を心配するのが先だろう?!あ、いたたた…」
背後にいたデニムは腰をさすりながら何とか起き上がったようだ。
「良かった…無事だったわ…」
幸いアンティーク椅子に傷は一つもついていなかった。ほっと息を吐いたとき、背後から耳障りな声が聞こえてきた。
「おい!そんな椅子なんかどーでもいい!何故貴様は俺の身体を心配しないっ?!貴様は主が怪我をしているのに無視をしたなっ?!」
全くたかが椅子ごとひっくり返っただけで大袈裟な…。私は溜息をついた。大体そんな椅子ですって?この椅子の価値がこの男に分るはずは無いだろう。このガーデニングテーブルセットは我が家の御先祖様が当時、まだあまり知名度が高くなかった家具職人に頼んで作ってもらった家具なのだ。オークションに掛ければ多分1年間は遊んで暮らせる額になるというのに。
「おい!貴様…今ため息をついただろう!なんて嫌な奴なんだ…!誰から給料を貰っていると思ってるっ?!」
「奥様ですけど?」
背中を向けたまま語る。
「・・・へ?」
「お、お前…今何て言った?」
背後で間の抜けた声を出したデニムに振り返ると、もう一度はっきり言った。
「ええ、いいでしょう。何度でも言って差し上げます。このお屋敷の使用人たちのお給料は全て奥様の御実家から支払われているのです」
「な…何だってっ?!そ、そんな…う、嘘だろうっ?!」
やはりこの夫はこの屋敷の経済状況を全く把握出来ていないようだ。まあ26歳にもなって未だに領地経営を知らずに、毎日毎日近隣に領地を構える貴族達とカードゲームに興じる日々。なので義父と私の2人で領地の経営を行っていたのだ。勿論このことは義母ですら知らない。
そもそもこの目の前にいる男は大体何故私と自分が結婚するに至ったのかを理解しているのだろうか?
「デニム様はコネリー家が置かれている状況を何もご存じないようですね?この領地が今どれだけ逼迫しているかを。私達のお給料はデニム様と奥様が結婚されるまでの半年間を無給で働かされていたのですよ?それが奥様と結婚されたことで私達にお給料が支払って頂けるようになったのですから」
そう、私は自分の事だから良く知っている。嫁いできた時、まさかこの屋敷の使用人たちが無給で働かされていたとは夢にも思わなかった。
「そ、その話…ほ、本当なのか…?」
デニムは声を震わせて尋ねてきた。今の話が相当ショックだったのだろう。自分がお見合いの席でしょっぱいケーキを食べさせられたことや、渋ーい紅茶を飲まされたせいでお見合い相手に逃げられた事を忘れている。この分だとケーキを用意したシェフも多分おとがめなしだろう。
「本当か嘘かは大旦那様にお尋ね下さい。恐らく大旦那様は今執務室でお仕事をされているはずですから。では私はこれで失礼致します」
ペコリと頭を下げるとテーブルの上のお茶やお皿を次々に片付けてワゴンに乗せると私はサンルームを出て行った。
廊下を歩きながら私はほくそむ。
それにしても…フフフ!あのお茶とケーキを口に入れた時のデニムの表情が忘れられない。何て愉快なんだろう。今まで2年間ないがしろにされてきた私の怒りを今こそ知らしめる時がやって来たのだ。
私はウキウキしながらワゴンを押して厨房へと戻って行った―。
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