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ケリーの章 ⑤ 待ちわびていたプロポーズ

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 私は初めてアゼリア様が残して逝った形見のワンピースに袖を通してみた。薄紫色の足首まである長い裾のワンピース。胸元と袖部分は白いレースのフリルがあしらわれ、お揃いでボレロがセットになっている。まさに貴族令嬢が好んで着るような…とても素敵なワンピースだった。

「アゼリア様は…このワンピースがお気に入りだったわ…」

鏡の前に立ち、ポツリと呟く。アゼリア様はとても美しい方だった。長く波打つ栗毛色の髪…まるで宝石の様な美しい緑の瞳に真っ白な肌…。それに比べると私は本当に平凡だった。髪は青みがかったストレートの黒髪に、ヘーゼルの瞳…肌の色は健康的に日焼けしたような色をしている。

「ヨハン先生…この姿を見たらどう思うかしら…」

ケリーにはやはり似合わないな、と言われる?それともお世辞で無理に似合うとでも言ってくれるだろうか?

「時間が無いから今更着替えるなんて出来ないし…」

私は覚悟を決めて階下へ降りて行くと、既にそこにはグレイの上下のスーツを着用したヨハン先生が待っていた。そして私の姿を見ると目を細めた。

「驚いたよ。ケリー。アゼリアのワンピース…すごく良く似合っている」

そして笑みを浮かべた。

「本当に…?本当に似合っていますか…?」

恐る恐る尋ねるとヨハン先生が頷いてくれた。

「うん、とても良く似合っているよ。考えて見れば…ケリーももう20歳。アゼリアと同じ年齢になったんだものね?」

「ヨハン先生…」

ヨハン先生にじっと見つめられ、思わず赤くなって視線を逸らせた。そう…いつの頃からだっただろう。私は優しくて素敵なヨハン先生に…恋をしていた。決して叶わない恋を…。

「さて、それじゃ早速出掛けようか?」

「はい、ヨハン先生」

そして私とヨハン先生は連れ立って、ここから歩いて僅か数分の場所にあるレストランへと向かった―。



****

 店内はとても天井が高く、テーブルで揺れるオレンジ色のキャンドルが幻想的なお洒落なレストランだった。ヨハン先生が言っていた通り、青いドレスを着た女性がピアノを弾いている。

「ヨハン先生、とてもお洒落なレストランですね」

私はピアノの演奏曲が聞こえるように小さな声で話しかけた。

「うん、そうだね…」

けれども何故かヨハン先生はソワソワしている。

「どうかしたのですか?ヨハン先生」

するとヨハン先生が言った。

「本当に…時が経つのは早いよね。ケリーが僕の処へ来て3年…もうすっかり大人の女性になった」

「ヨハン先生…?」

一体先生は何を言い出すのだろう?あ…!もしかして…?!先生、まさか…?

この時の私は…愚かにもある幻想を抱き…密かに期待してしまった。

ヨハン先生からの…プロポーズを―。



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