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マルセルの章 ⑦ 君に伝えたかった言葉
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「どうぞ、お乗り下さい」
イングリット嬢は自分の乗ってきた馬車まで案内すると俺に言った。
「…いえ、どうぞ先にお乗り下さい」
俺は彼女をエスコートするべく右手を差し出した。
「…ありがとうございます」
差し出した右手に手を置くとイングリット嬢は馬車に乗り込んだ。そして俺もその後に続く。すると馬車の扉は閉じられ、ガラガラと音を立てて走り始めた―。
「カイザード王子様のお話は伺いましたか?」
馬車が走り始めるとイングリット嬢が尋ねてきた。
「はい、聞きました。医者になる為に『キーナ』の国へ行くそうですね」
「ええ、そうです。あの国は世界で一番医術が進んでいる国ですからね…俺の父もあの国の医学部出身なので」
「そうですか…ところで何故マルセル様は医者にならなかったのですか?」
「!」
何とも答えにくい質問をしてくる女性だと思った。…アゼリアとは全く真逆のタイプだ。アゼリアは物静かで、周りの空気を読み…余計な事は一切尋ねない、本当に俺にとって理想の女性だったのに…。
「マルセル様?どうなさったのですか?」
俺が黙ってしまった為に、イングリット嬢が尋ねてきた。
「いえ…何故医者を目指さなかったと言うと…人の生死に関わる仕事に…つきたくなかったからですよ」
「え…?」
「今でこそ、父は患者を診る立場ではなく…研究者としての立ち位置にありますけど、俺が子供の頃は病院の勤務医として働いてたんです。そして、助けられなかった患者が出た日は…酷く落ち込んで部屋にこもって自分を責める姿を目にしていたんです」
「…そんな事が…」
イングリット嬢が目を見開いて俺を見た。
「そんな父の姿を見て育ったので…どうしても人の生き死にに関わる仕事には就きたくは無かったのですよ」
「…申し訳ございません!」
すると突如、イングリット嬢が頭を下げてきた。
「え?急にどうしたのですか?何故謝罪をするのですか?」
するとイングリット嬢は頭を下げたまま言った。
「本当に申し訳ございません…。私は子供の頃からあまり空気を読むことが出来ず、思った事をすぐに口に出してしまう人間なのです。その為に人から敬遠されがちなのは分かっているのですが…どうしても疑問に思ったことは尋ねないと気がすまなくて…」
イングリット嬢があまりに素直に謝ってきたので、少々驚きながらも俺は彼女に声を掛けた。
「イングリット嬢…どうか顔を上げて下さい。そんなに気にしないで下さい。別に何とも思っておりませんので」
「…本当ですか…?」
「ええ。本当です」
笑みを浮かべて言うと、ようやく安堵したかのようなため息を彼女はついた。
「ああ…そうですか。良かったです。敬遠されてしまったかと思い、心配になってしまったものですから。何しろ、これからマルセル様に助力を仰ぎたいことがございましたので」
何だって?助力を仰ぎたい…?
「え…?それはいったいどういう意味なのでしょうか?」
何となく嫌な予感を感じ、尋ねた。
その時―
ガタン
馬車が停車した。
「…?」
不思議に思い、窓を眺めるとイングリット嬢が言った。
「到着致しました、マルセル様」
イングリット嬢が声を掛けてきた―。
イングリット嬢は自分の乗ってきた馬車まで案内すると俺に言った。
「…いえ、どうぞ先にお乗り下さい」
俺は彼女をエスコートするべく右手を差し出した。
「…ありがとうございます」
差し出した右手に手を置くとイングリット嬢は馬車に乗り込んだ。そして俺もその後に続く。すると馬車の扉は閉じられ、ガラガラと音を立てて走り始めた―。
「カイザード王子様のお話は伺いましたか?」
馬車が走り始めるとイングリット嬢が尋ねてきた。
「はい、聞きました。医者になる為に『キーナ』の国へ行くそうですね」
「ええ、そうです。あの国は世界で一番医術が進んでいる国ですからね…俺の父もあの国の医学部出身なので」
「そうですか…ところで何故マルセル様は医者にならなかったのですか?」
「!」
何とも答えにくい質問をしてくる女性だと思った。…アゼリアとは全く真逆のタイプだ。アゼリアは物静かで、周りの空気を読み…余計な事は一切尋ねない、本当に俺にとって理想の女性だったのに…。
「マルセル様?どうなさったのですか?」
俺が黙ってしまった為に、イングリット嬢が尋ねてきた。
「いえ…何故医者を目指さなかったと言うと…人の生死に関わる仕事に…つきたくなかったからですよ」
「え…?」
「今でこそ、父は患者を診る立場ではなく…研究者としての立ち位置にありますけど、俺が子供の頃は病院の勤務医として働いてたんです。そして、助けられなかった患者が出た日は…酷く落ち込んで部屋にこもって自分を責める姿を目にしていたんです」
「…そんな事が…」
イングリット嬢が目を見開いて俺を見た。
「そんな父の姿を見て育ったので…どうしても人の生き死にに関わる仕事には就きたくは無かったのですよ」
「…申し訳ございません!」
すると突如、イングリット嬢が頭を下げてきた。
「え?急にどうしたのですか?何故謝罪をするのですか?」
するとイングリット嬢は頭を下げたまま言った。
「本当に申し訳ございません…。私は子供の頃からあまり空気を読むことが出来ず、思った事をすぐに口に出してしまう人間なのです。その為に人から敬遠されがちなのは分かっているのですが…どうしても疑問に思ったことは尋ねないと気がすまなくて…」
イングリット嬢があまりに素直に謝ってきたので、少々驚きながらも俺は彼女に声を掛けた。
「イングリット嬢…どうか顔を上げて下さい。そんなに気にしないで下さい。別に何とも思っておりませんので」
「…本当ですか…?」
「ええ。本当です」
笑みを浮かべて言うと、ようやく安堵したかのようなため息を彼女はついた。
「ああ…そうですか。良かったです。敬遠されてしまったかと思い、心配になってしまったものですから。何しろ、これからマルセル様に助力を仰ぎたいことがございましたので」
何だって?助力を仰ぎたい…?
「え…?それはいったいどういう意味なのでしょうか?」
何となく嫌な予感を感じ、尋ねた。
その時―
ガタン
馬車が停車した。
「…?」
不思議に思い、窓を眺めるとイングリット嬢が言った。
「到着致しました、マルセル様」
イングリット嬢が声を掛けてきた―。
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