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マルセルの章 ㉙ 君に伝えたかった言葉
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その日―
今日の俺は必死で働いた。何としても今夜は絶対に残業をするわけにいかなかったからだ。
「マルセル、今日は随分張り切って働いているのね?」
退勤時間がせまる中、同僚女性が声を掛けて来た。
「ああ、今夜は大事な用事があるから絶対に残業するわけにはいかないんだ」
書類に数字を書き込みながら返事をする。
「あら、そうなの?ひょっとして…女性と会うのかしら?」
「え?君…凄いな。何故分ったんだ?」
顔を上げて同僚女性を見た。
「ええ。何となく分ったわ。勘よ、勘」
「そうか、女性特有の勘ってやつか?」
「まぁそう言う事ね。それで、女性と今夜は会う予定があるのね?」
「あぁ、そうなんだ。彼女と…2人きりで大切な話をするんだ…何しろ俺の運命が関わって来るからな」
そう、イングリット嬢との結婚回避と言う大切な話が…。
「まぁ…そうだったの?!今夜は本当に大切な日だったのね…?」
何故か同僚女性はキラキラした目で俺を見て来る。
「ああ。絶対にしくじるわけにはいかないのさ」
「それなら尚更残業出来ないわね。よし、私も貴方の仕事手伝ってあげるっ!はい、急ぎの仕事があったら私に回して」
「え?あ、ああ…それじゃこの数字の合計金額を出してくれると助かるのだが…」
俺は数枚の書類を遠慮がちに彼女に回した。
「ええ。任せて!」
同僚女性はウィンクすると計算をし始めた。その姿を見ながら思った。
一体彼女はどうしてしまったのだろう…と―。
退勤時間になり、全ての仕事を終えた俺は素早くコートを着込むと、部署の人々に声を掛けた。
「申し訳ございません。本日はお先に失礼致します」
すると仕事を手伝ってくれた女性が声を掛けて来た。
「頑張ってね、マルセル。応援してるわ!」
「え?あ、ああ…ありがとう」
何だ?俺を応援してくれているのか?
「どうしたんだ?マルセル。今夜は何かあるのか?」
先輩社員が声を掛けて来た。
「ええ、大ありなんですよ。でもマルセルは急用があるので帰らせてあげましょう」
「はい、そうなんです。遅れて機嫌を損ねられて失敗したくはありませんので、これで失礼します」
頭を下げると俺は急いで会社を後にした。
そうだ、イングリット嬢は少々怒りっぽい所があるから、遅れるわけにはいかない。
通りに出ると俺は辻馬車を拾って、イングリット嬢の勤め先へと向かった―。
****
18時20分―
「少し早く着きすぎてしまったか…?」
腕時計を見ながらイングリット嬢の勤務先である【ラコルテ】で俺は待っていた。
そうだ…。何所の店で話し合いをしよう。やはり俺達の将来に関わる大事な話だから、どこか落ち着いた店で話した方が良いだろう…。そう言えば、最近この界隈でピアノの生演奏が聞けるレストランがオープンしたな。よし、その店に誘おう。
その時―
「マルセル様っ!」
ふり向くとそこにはいつもよりも念入りに化粧をし、いつもよりも装いの違うイングリット嬢が立っていた。
「イングリット嬢!待っていました。お会いしたかったですよ」
笑みを浮かべて彼女を見た。
「は、はい…わ、私も…ですわ」
何故かイングリット嬢の頬が赤く見える。…街灯の明かりのせいだろうか?
「イングリット嬢、今夜は2人にとって大切な話合いをする日ですから、落ち着いた雰囲気のある店に行きましょう。ちょうど良い店があるんです。どうでしょうか?」
「は、はい。マルセル様が選んで下さった店なら…どこでもよいですわ」
「そうですか?では参りましょう。割とここから近いので歩いて行ける距離ですから」
「はい。分りましたわ」
そして俺とイングリット嬢は2人並んで、店を目指した。
いつもよりもどこかしおらしいイングリット嬢に違和感を抱きながら―。
今日の俺は必死で働いた。何としても今夜は絶対に残業をするわけにいかなかったからだ。
「マルセル、今日は随分張り切って働いているのね?」
退勤時間がせまる中、同僚女性が声を掛けて来た。
「ああ、今夜は大事な用事があるから絶対に残業するわけにはいかないんだ」
書類に数字を書き込みながら返事をする。
「あら、そうなの?ひょっとして…女性と会うのかしら?」
「え?君…凄いな。何故分ったんだ?」
顔を上げて同僚女性を見た。
「ええ。何となく分ったわ。勘よ、勘」
「そうか、女性特有の勘ってやつか?」
「まぁそう言う事ね。それで、女性と今夜は会う予定があるのね?」
「あぁ、そうなんだ。彼女と…2人きりで大切な話をするんだ…何しろ俺の運命が関わって来るからな」
そう、イングリット嬢との結婚回避と言う大切な話が…。
「まぁ…そうだったの?!今夜は本当に大切な日だったのね…?」
何故か同僚女性はキラキラした目で俺を見て来る。
「ああ。絶対にしくじるわけにはいかないのさ」
「それなら尚更残業出来ないわね。よし、私も貴方の仕事手伝ってあげるっ!はい、急ぎの仕事があったら私に回して」
「え?あ、ああ…それじゃこの数字の合計金額を出してくれると助かるのだが…」
俺は数枚の書類を遠慮がちに彼女に回した。
「ええ。任せて!」
同僚女性はウィンクすると計算をし始めた。その姿を見ながら思った。
一体彼女はどうしてしまったのだろう…と―。
退勤時間になり、全ての仕事を終えた俺は素早くコートを着込むと、部署の人々に声を掛けた。
「申し訳ございません。本日はお先に失礼致します」
すると仕事を手伝ってくれた女性が声を掛けて来た。
「頑張ってね、マルセル。応援してるわ!」
「え?あ、ああ…ありがとう」
何だ?俺を応援してくれているのか?
「どうしたんだ?マルセル。今夜は何かあるのか?」
先輩社員が声を掛けて来た。
「ええ、大ありなんですよ。でもマルセルは急用があるので帰らせてあげましょう」
「はい、そうなんです。遅れて機嫌を損ねられて失敗したくはありませんので、これで失礼します」
頭を下げると俺は急いで会社を後にした。
そうだ、イングリット嬢は少々怒りっぽい所があるから、遅れるわけにはいかない。
通りに出ると俺は辻馬車を拾って、イングリット嬢の勤め先へと向かった―。
****
18時20分―
「少し早く着きすぎてしまったか…?」
腕時計を見ながらイングリット嬢の勤務先である【ラコルテ】で俺は待っていた。
そうだ…。何所の店で話し合いをしよう。やはり俺達の将来に関わる大事な話だから、どこか落ち着いた店で話した方が良いだろう…。そう言えば、最近この界隈でピアノの生演奏が聞けるレストランがオープンしたな。よし、その店に誘おう。
その時―
「マルセル様っ!」
ふり向くとそこにはいつもよりも念入りに化粧をし、いつもよりも装いの違うイングリット嬢が立っていた。
「イングリット嬢!待っていました。お会いしたかったですよ」
笑みを浮かべて彼女を見た。
「は、はい…わ、私も…ですわ」
何故かイングリット嬢の頬が赤く見える。…街灯の明かりのせいだろうか?
「イングリット嬢、今夜は2人にとって大切な話合いをする日ですから、落ち着いた雰囲気のある店に行きましょう。ちょうど良い店があるんです。どうでしょうか?」
「は、はい。マルセル様が選んで下さった店なら…どこでもよいですわ」
「そうですか?では参りましょう。割とここから近いので歩いて行ける距離ですから」
「はい。分りましたわ」
そして俺とイングリット嬢は2人並んで、店を目指した。
いつもよりもどこかしおらしいイングリット嬢に違和感を抱きながら―。
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