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アゼリア&カイの章 ⑬ また…会えたね(アゼリアside)
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その日の夜―
私とケイトは夜の町に出ていた。
2人でカフェレストランで食事をしながらケイトの様子を伺った。
「…」
ケイトは心ここにあらずと言った様子でぼんやりとパスタを口に運んでいる。
「ケイト…」
声を掛けると、ケイトは我に返った様子で私を見た。
「あ、ごめんなさい。今何か言った?」
「ううん…声を掛けただけなのだけど…大丈夫?」
「え?う、うん。大丈夫よ」
「そう…?」
けれどとても私の目には大丈夫そうには見えなかった。医術歴史記念館の建物を見た瞬間、ケイトはおかしくなってしまった。
「ヨハン先生」と何度もその名を呼びながら泣き崩れてしまったのだ。結局、ケイトは心の準備が出来ていないからこの中には入れないと泣きながら訴えてきた。そして1人だけで中に入って貰いたいと言ってきたのだ。ケイトの事が心配だったけれども彼女を外に残し、後ろ髪を引かれる思いで私は1人記念館の中へ入り…ついに手がかりをつかんだ。
『アゼリアの丘』と呼ばれる場所にカイザード医師とマルセル医師が医術を志すきっっかけとなった女性のお墓があるということを。
そして彼女の名前はアゼリアと言い、白血病で無くなった女性だったという事を―。
「ケイト、私は明日『アゼリアの丘』へ行ってみようと思っているのだけど、貴女はどうする?一緒に行く?」
するとケイトは首を振った。
「ごめんなさい…。私は明日は心の準備をした上で、医術歴史記念館にもう一度足を運んでみようと思うの…。あの中に入れば、どうして自分が取り乱してしまったのかが分かる気がして…」
「そう?分かったわ。それじゃ…明日は別行動になるわね」
「ええ、そうね…ごめんなさい」
ケイトは申し訳な下げに言う。
「いいのよ、気にしないで」
私はケイトに微笑んだ―。
****
翌日―
私は1人でタクシーに乗っていた。
『お客さん、観光でこの町に来たのですか?』
窓の外を眺めていると運転手さんに声を掛けられので私は返事をした。
「ええ、そうなんです。実はこの町には有名な2人のお医者様の出身地なのですよね?」
「ええ、そうなのですよ。何でも愛する女性の命を奪った白血病の治療法を見つける為に王族の地位を捨てて医者になった高名なカイザード医師とマルセル医師の出身地なのですよ。このお二方のお陰で劇的に医術が発展したと言われていますからね。何ともロマンチックな話です」
「ええ、そうですね」
運転手の話に相槌を打つ。
「えっと、それでどちらまででしたっけ?」
「はい、『アゼリアの丘』に行きたいのです」
「ああ、やはりそうでしたか。カイザード医師とマルセル医師が医者を目指すきっかけとなった女性のお墓ですよね?アゼリア様はとても美しい方だったそうですよ。何でも緑の神秘的な瞳だったそうです」
緑の瞳…私と同じだ。それに名前まで…。これは何かの偶然なのだろうか?
「あ!着きましたよ!『アゼリアの丘』です!」
不意に運転手が大きな声を上げた。
「あれが…アゼリアの丘…」
私の目に、緑の芝生に覆われた美しい丘が映った―。
****
美しい丘を登りながら、私の心臓はドキドキと早鐘を打っている。
自分でも不思議だった。何故こんなにも胸が高鳴るのだろう。けれどもこの丘を登りきればその謎が解けそうな気がする。
やがて美しいアゼリアが咲き乱れる光景が見えてきた。そしてお墓の前には誰かがいる。
「え…?」
そこに立っていたのは男の人だった。右手には大輪の赤いバラの花束が握りしめられている。
パキッ
足元の小枝が折れて青年が振り向く。
「あ…!」
その青年は私を見ると目を見開いた。
「アゼリア…」
誰…?
けれど、私はこの人を知っている。ずっと…ずっと探し求めていた気がする。気付けば、口から勝手に言葉が紡ぎ出されていた。
「カイ…?」
するとカイは笑みを浮かべて私を見ると言った。
「アゼリア…また君に会えたね」
優しい笑みを浮かべてカイがこちらへ向かって歩いてくる。そして私も彼の方へ向かって歩き始め…いつしか私達は駆け出していた。
そして次の瞬間―
私はカイの胸に強く抱きしめられていた。
「会いたかった…アゼリア…。本当に会いたかったよ…。アゼリア…。愛している…僕が愛する女性はこの世でただ1人…君だけだよ…」
カイが夢の中で何度も聞いた台詞と同じ言葉を私の耳元で囁いてくれる。
そう、私はずっとずっとカイだけを探し求めていたのだ。
「カイ…私も…この世で愛する人は貴方だけよ…」
「アゼリア…」
そしてカイは抱きしめていた身体を離すと、そっと私の頬に手を添え…徐々に顔が近付いてくる。
カイ…。
瞳を閉じると、唇が重ねられる。
私達は…抱き合いながら『アゼリアの丘』の上でキスを交わした―。
私とケイトは夜の町に出ていた。
2人でカフェレストランで食事をしながらケイトの様子を伺った。
「…」
ケイトは心ここにあらずと言った様子でぼんやりとパスタを口に運んでいる。
「ケイト…」
声を掛けると、ケイトは我に返った様子で私を見た。
「あ、ごめんなさい。今何か言った?」
「ううん…声を掛けただけなのだけど…大丈夫?」
「え?う、うん。大丈夫よ」
「そう…?」
けれどとても私の目には大丈夫そうには見えなかった。医術歴史記念館の建物を見た瞬間、ケイトはおかしくなってしまった。
「ヨハン先生」と何度もその名を呼びながら泣き崩れてしまったのだ。結局、ケイトは心の準備が出来ていないからこの中には入れないと泣きながら訴えてきた。そして1人だけで中に入って貰いたいと言ってきたのだ。ケイトの事が心配だったけれども彼女を外に残し、後ろ髪を引かれる思いで私は1人記念館の中へ入り…ついに手がかりをつかんだ。
『アゼリアの丘』と呼ばれる場所にカイザード医師とマルセル医師が医術を志すきっっかけとなった女性のお墓があるということを。
そして彼女の名前はアゼリアと言い、白血病で無くなった女性だったという事を―。
「ケイト、私は明日『アゼリアの丘』へ行ってみようと思っているのだけど、貴女はどうする?一緒に行く?」
するとケイトは首を振った。
「ごめんなさい…。私は明日は心の準備をした上で、医術歴史記念館にもう一度足を運んでみようと思うの…。あの中に入れば、どうして自分が取り乱してしまったのかが分かる気がして…」
「そう?分かったわ。それじゃ…明日は別行動になるわね」
「ええ、そうね…ごめんなさい」
ケイトは申し訳な下げに言う。
「いいのよ、気にしないで」
私はケイトに微笑んだ―。
****
翌日―
私は1人でタクシーに乗っていた。
『お客さん、観光でこの町に来たのですか?』
窓の外を眺めていると運転手さんに声を掛けられので私は返事をした。
「ええ、そうなんです。実はこの町には有名な2人のお医者様の出身地なのですよね?」
「ええ、そうなのですよ。何でも愛する女性の命を奪った白血病の治療法を見つける為に王族の地位を捨てて医者になった高名なカイザード医師とマルセル医師の出身地なのですよ。このお二方のお陰で劇的に医術が発展したと言われていますからね。何ともロマンチックな話です」
「ええ、そうですね」
運転手の話に相槌を打つ。
「えっと、それでどちらまででしたっけ?」
「はい、『アゼリアの丘』に行きたいのです」
「ああ、やはりそうでしたか。カイザード医師とマルセル医師が医者を目指すきっかけとなった女性のお墓ですよね?アゼリア様はとても美しい方だったそうですよ。何でも緑の神秘的な瞳だったそうです」
緑の瞳…私と同じだ。それに名前まで…。これは何かの偶然なのだろうか?
「あ!着きましたよ!『アゼリアの丘』です!」
不意に運転手が大きな声を上げた。
「あれが…アゼリアの丘…」
私の目に、緑の芝生に覆われた美しい丘が映った―。
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美しい丘を登りながら、私の心臓はドキドキと早鐘を打っている。
自分でも不思議だった。何故こんなにも胸が高鳴るのだろう。けれどもこの丘を登りきればその謎が解けそうな気がする。
やがて美しいアゼリアが咲き乱れる光景が見えてきた。そしてお墓の前には誰かがいる。
「え…?」
そこに立っていたのは男の人だった。右手には大輪の赤いバラの花束が握りしめられている。
パキッ
足元の小枝が折れて青年が振り向く。
「あ…!」
その青年は私を見ると目を見開いた。
「アゼリア…」
誰…?
けれど、私はこの人を知っている。ずっと…ずっと探し求めていた気がする。気付けば、口から勝手に言葉が紡ぎ出されていた。
「カイ…?」
するとカイは笑みを浮かべて私を見ると言った。
「アゼリア…また君に会えたね」
優しい笑みを浮かべてカイがこちらへ向かって歩いてくる。そして私も彼の方へ向かって歩き始め…いつしか私達は駆け出していた。
そして次の瞬間―
私はカイの胸に強く抱きしめられていた。
「会いたかった…アゼリア…。本当に会いたかったよ…。アゼリア…。愛している…僕が愛する女性はこの世でただ1人…君だけだよ…」
カイが夢の中で何度も聞いた台詞と同じ言葉を私の耳元で囁いてくれる。
そう、私はずっとずっとカイだけを探し求めていたのだ。
「カイ…私も…この世で愛する人は貴方だけよ…」
「アゼリア…」
そしてカイは抱きしめていた身体を離すと、そっと私の頬に手を添え…徐々に顔が近付いてくる。
カイ…。
瞳を閉じると、唇が重ねられる。
私達は…抱き合いながら『アゼリアの丘』の上でキスを交わした―。
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