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2章12 誘いと断り
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馬車が屋敷に到着した。
「今日は送ってくれてありがとう」
「うん。気にしなくていいよ」
笑顔で頷くリオンを見て、ふと思い立った。
「ねぇリオン。折角久しぶりに家に来たのだから、寄っていかない? とっておきのお茶と焼き菓子があるの」
本当はすぐに試験に向けて勉強をしておきたいところだが、このままリオンを帰すのは悪い気がした。
それに魔力の暴走や婚約解消の件。どれも大事な内容だから、もう少し話し合いが必要だ。
それなのに……。
「ごめん、ユニス。今日は駄目なんだ。ロザリンと会う約束が出来ちゃったんだよ」
リオンは申し訳無さそうに謝ってきた。
「え? ロザリンと?」
その言葉にドキリとする。
まさか、あの時に……?
「放課後、学校のエントランスでユニスを待っていたらロザリンに会ったんだよ。それで、この後ロザリンの家に遊びに行くことになっているんだ。だから、今日は寄れない。……本当にごめん」
「そう……ロザリンと会うのね」
まさか、もうロザリンの家に遊びに行く関係になっていたとは思わなかった。
私とは殆ど会うことが無くなり、その代りに彼女と……。
「ユニス、どうかした?」
「ううん、どうもしないわ。それじゃ、ロザリンを待たせるわけにはいかないわよね。もう行ってあげて?」
「うん。それじゃあね」
リオンは手を振ると馬車に乗り込んで扉を閉めようとし……。
「リオン!」
私は咄嗟に声をかけた。
「何?」
「あ、あの……私と婚約解消したら……もしかしてロザリンと……?」
「う~ん。どうなんだろう? でもロザリンの両親から一度だけ、そんな話はされたことがあるよ」
「え?」
その話に耳を疑った。
私達はまだ婚約解消していないのに、既にロザリンの両親と会って婚約の話が出ていたなんて。
リオンの相手はヒロインになるはずだったのに……。
「ユニス、どうかしたの? 具合でも悪いの?」
リオンが心配そうに尋ねてきた。
「う、ううん。大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
本当は気分は最悪だった。
「ならいいけど。それじゃ、もう僕は行くね」
「うん、引き止めてごめんなさい」
リオンは頷き、扉を閉めると馬車はすぐに走り去っていった。
「リオン……」
遠ざかって行く馬車を私は寂しい気持ちで見送った。リオンと離れるのはヒロインが登場する6年後。
まさか、こんなに早くその日が訪れるとは思わなかった。
「……考えてもしょうがないわね。どうせ遅かれ早かれリオンから離れようと思っていたのだから」
リオンを乗せた馬車が見えなくなったところで、わたしは屋敷の中へ入った――
****
「お母様、ただいま帰りました」
リビングにいる母に声をかけた。
「お帰りなさい、ユニス。さっき窓の外からハイランド家の馬車が見えたけど、リオンと帰ってきたの?」
「はい、そうです」
まさか母に見られているとは思わなかった。
「どうして家に上がって貰わなかったの? 久しぶりに来てくれたっていうのに」
母が尋ねるのは当然だ。
だって、私とリオンは婚約者同士なのだから。
「あの……実はあまり体調が良くなくて、それで心配したリオンが馬車で送ってくれたんです。リオンも今日は用事があったので、すぐに帰っていきました」
すると母が心配そうな表情を浮かべた。
「え? ユニス、まだ具合が悪い?」
「いえ、もう大丈夫です。途中で気分も良くなりましたから。リオンに送ってもらえて助かりました」
「そうだったのね。本当にリオンは優しい良い子ね」
「はい」
とてもではないけれど、リオンから婚約解消を告げられているとは今の段階では伝えられなかった。
「あの、私それじゃ宿題があるので、部屋に行きますね」
これ以上、平常心で母の前に立っていられそうにない。
「分かったわ。今日の夕食はユニスの好きな料理よ」
「本当ですか? 楽しみです」
それだけ答えると、私は足早に自室へ向かった。
心の中で、母に謝罪しながら――
「今日は送ってくれてありがとう」
「うん。気にしなくていいよ」
笑顔で頷くリオンを見て、ふと思い立った。
「ねぇリオン。折角久しぶりに家に来たのだから、寄っていかない? とっておきのお茶と焼き菓子があるの」
本当はすぐに試験に向けて勉強をしておきたいところだが、このままリオンを帰すのは悪い気がした。
それに魔力の暴走や婚約解消の件。どれも大事な内容だから、もう少し話し合いが必要だ。
それなのに……。
「ごめん、ユニス。今日は駄目なんだ。ロザリンと会う約束が出来ちゃったんだよ」
リオンは申し訳無さそうに謝ってきた。
「え? ロザリンと?」
その言葉にドキリとする。
まさか、あの時に……?
「放課後、学校のエントランスでユニスを待っていたらロザリンに会ったんだよ。それで、この後ロザリンの家に遊びに行くことになっているんだ。だから、今日は寄れない。……本当にごめん」
「そう……ロザリンと会うのね」
まさか、もうロザリンの家に遊びに行く関係になっていたとは思わなかった。
私とは殆ど会うことが無くなり、その代りに彼女と……。
「ユニス、どうかした?」
「ううん、どうもしないわ。それじゃ、ロザリンを待たせるわけにはいかないわよね。もう行ってあげて?」
「うん。それじゃあね」
リオンは手を振ると馬車に乗り込んで扉を閉めようとし……。
「リオン!」
私は咄嗟に声をかけた。
「何?」
「あ、あの……私と婚約解消したら……もしかしてロザリンと……?」
「う~ん。どうなんだろう? でもロザリンの両親から一度だけ、そんな話はされたことがあるよ」
「え?」
その話に耳を疑った。
私達はまだ婚約解消していないのに、既にロザリンの両親と会って婚約の話が出ていたなんて。
リオンの相手はヒロインになるはずだったのに……。
「ユニス、どうかしたの? 具合でも悪いの?」
リオンが心配そうに尋ねてきた。
「う、ううん。大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
本当は気分は最悪だった。
「ならいいけど。それじゃ、もう僕は行くね」
「うん、引き止めてごめんなさい」
リオンは頷き、扉を閉めると馬車はすぐに走り去っていった。
「リオン……」
遠ざかって行く馬車を私は寂しい気持ちで見送った。リオンと離れるのはヒロインが登場する6年後。
まさか、こんなに早くその日が訪れるとは思わなかった。
「……考えてもしょうがないわね。どうせ遅かれ早かれリオンから離れようと思っていたのだから」
リオンを乗せた馬車が見えなくなったところで、わたしは屋敷の中へ入った――
****
「お母様、ただいま帰りました」
リビングにいる母に声をかけた。
「お帰りなさい、ユニス。さっき窓の外からハイランド家の馬車が見えたけど、リオンと帰ってきたの?」
「はい、そうです」
まさか母に見られているとは思わなかった。
「どうして家に上がって貰わなかったの? 久しぶりに来てくれたっていうのに」
母が尋ねるのは当然だ。
だって、私とリオンは婚約者同士なのだから。
「あの……実はあまり体調が良くなくて、それで心配したリオンが馬車で送ってくれたんです。リオンも今日は用事があったので、すぐに帰っていきました」
すると母が心配そうな表情を浮かべた。
「え? ユニス、まだ具合が悪い?」
「いえ、もう大丈夫です。途中で気分も良くなりましたから。リオンに送ってもらえて助かりました」
「そうだったのね。本当にリオンは優しい良い子ね」
「はい」
とてもではないけれど、リオンから婚約解消を告げられているとは今の段階では伝えられなかった。
「あの、私それじゃ宿題があるので、部屋に行きますね」
これ以上、平常心で母の前に立っていられそうにない。
「分かったわ。今日の夕食はユニスの好きな料理よ」
「本当ですか? 楽しみです」
それだけ答えると、私は足早に自室へ向かった。
心の中で、母に謝罪しながら――
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