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第2章 14 お通夜の席で
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その騒ぎは突然起こった―。
私とお姉ちゃんは進さんのお通夜に出席していた。大勢人々が集まり、立食形式の丸テーブルを囲んで、誰もがその早すぎる死と、憎いひき逃げ犯について語っている。
「お姉ちゃん・・大丈夫・・?」
たった数日でげっそり痩せてしまったお姉ちゃん。進さんに突き飛ばされて出来た頬の傷にはガーゼが貼られ、みるかにとても痛々しい。
そして喪服を着たその姿は痩せてしまったお姉ちゃんの身体を、より一層際立たせている。化粧をしていないその素顔も青ざめて、まるで今のお姉ちゃんは死人のように見えてしまう。
「う、うん・・・。大丈夫よ・・・鈴音ちゃん・・。進さんのご両親の所にご挨拶に行ってくるわね・・・。」
お姉ちゃんの足元はふらふらしておぼつかない。心配になった私は言った。
「ねえ、お姉ちゃん・・・私も一緒に挨拶に行こうか?」
しかしお姉ちゃんは首を振った。
「ううん、大丈夫よ。鈴音ちゃんはここにいて。今から行ってくるから・・・。」
そしてお姉ちゃんは人込みをかき分け、喪服を着た進さんのご両親のもとへ向かった。その後ろ姿を見届けながら私は呟いた。
「お姉ちゃん・・・大丈夫かな・・。」
そして立食テーブルでお皿に海苔巻きを取ろうとした時、騒ぎが起こった。
ガチャーンッ!!
突然食器が激しく割れる音が響き渡り、何やら女性の金切り声のような悲鳴が聞こえ、人々は一斉に音の方向を振りむいた。私も騒ぎを聞き・・・その中心にいる人物を見て目を見開いた。
なんと、お姉ちゃんが床の上に座り込み、足元には割れたグラスが散らばっている。グラスの中には水が入っていたのだろう。お姉ちゃんの体は水で濡れ、床にシミを作っている。そしてお姉ちゃんの眼前には進さんのお母さんがヒステリックに叫びながら進さんのお父さんに背後から羽交い絞めにされていた。
「お姉ちゃんっ!!」
私は急いでお姉ちゃんの元へ駆けつけ、ガタガタと震える体を抱きしめた。
「この・・・人殺しっ!!あんたをかばったから・・・進は・・・進は死んでしまったのよっ!返しなさい・・・私の息子を返しなさいよっ!!」
「やめなさいっ!落ち着くんだ母さんっ!進が死んだのは忍さんのせいじゃないだろうっ?!憎むなら・・・ひき逃げ犯を憎むんだっ!!」
進さんのお父さんは必死で止めながら訴えている。しかし進さんのお母さんには全くその声は届かず、まるで獣のような咆哮をあげながら今にも姉にとびかかろうとしていた。
そ、そんな・・・。
私は進さんのお母さんの変貌ぶりが信じられなかった。あんなにやさし気でニコニコしていた人だったのに・・・その姿はまるで別人だった。髪はぼさぼさで、着物は乱れ、血走った目で吠えている・・まさに正気を失っていた。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」
お姉ちゃんはまるで子供のようにボロボロと泣きながら震えている。私はそんなお姉ちゃんを進さんのお母さんの視界から隠すように抱きしめていると、騒ぎを聞きつけたのか葬儀場の人たちと警備員の人たちが駆けつけてきた。5人がかりで抑え込まれた進さんのお母さんは観念したのか、おとなしくなり・・・そのまま意識を失ってしまった。
急いで担架が運び込まれ、お母さんは乗せられた。そして葬儀場の人たちによってどこかへ運ばれていく。その様子を黙って見届けていたお父さんはやがて私たちの方を振り向くと言った。
「すまないが・・・忍さんを見ると家内が興奮するんだ。悪いが・・・もう帰ってくれるかい。そして・・明日の葬式にも・・・来ないでくれ。頼む。」
お父さんは私たちに頭を下げてきた。
「分かりました。そのように致します。」
私は泣きながら震えているお姉ちゃんを抱きしめ、立ち上がらせると言った。
「お姉ちゃん・・・帰ろう?」
私はお姉ちゃんを抱きかかえるようにして、人々の好奇の目にさらされながら、葬儀場を後にした―。
私とお姉ちゃんは進さんのお通夜に出席していた。大勢人々が集まり、立食形式の丸テーブルを囲んで、誰もがその早すぎる死と、憎いひき逃げ犯について語っている。
「お姉ちゃん・・大丈夫・・?」
たった数日でげっそり痩せてしまったお姉ちゃん。進さんに突き飛ばされて出来た頬の傷にはガーゼが貼られ、みるかにとても痛々しい。
そして喪服を着たその姿は痩せてしまったお姉ちゃんの身体を、より一層際立たせている。化粧をしていないその素顔も青ざめて、まるで今のお姉ちゃんは死人のように見えてしまう。
「う、うん・・・。大丈夫よ・・・鈴音ちゃん・・。進さんのご両親の所にご挨拶に行ってくるわね・・・。」
お姉ちゃんの足元はふらふらしておぼつかない。心配になった私は言った。
「ねえ、お姉ちゃん・・・私も一緒に挨拶に行こうか?」
しかしお姉ちゃんは首を振った。
「ううん、大丈夫よ。鈴音ちゃんはここにいて。今から行ってくるから・・・。」
そしてお姉ちゃんは人込みをかき分け、喪服を着た進さんのご両親のもとへ向かった。その後ろ姿を見届けながら私は呟いた。
「お姉ちゃん・・・大丈夫かな・・。」
そして立食テーブルでお皿に海苔巻きを取ろうとした時、騒ぎが起こった。
ガチャーンッ!!
突然食器が激しく割れる音が響き渡り、何やら女性の金切り声のような悲鳴が聞こえ、人々は一斉に音の方向を振りむいた。私も騒ぎを聞き・・・その中心にいる人物を見て目を見開いた。
なんと、お姉ちゃんが床の上に座り込み、足元には割れたグラスが散らばっている。グラスの中には水が入っていたのだろう。お姉ちゃんの体は水で濡れ、床にシミを作っている。そしてお姉ちゃんの眼前には進さんのお母さんがヒステリックに叫びながら進さんのお父さんに背後から羽交い絞めにされていた。
「お姉ちゃんっ!!」
私は急いでお姉ちゃんの元へ駆けつけ、ガタガタと震える体を抱きしめた。
「この・・・人殺しっ!!あんたをかばったから・・・進は・・・進は死んでしまったのよっ!返しなさい・・・私の息子を返しなさいよっ!!」
「やめなさいっ!落ち着くんだ母さんっ!進が死んだのは忍さんのせいじゃないだろうっ?!憎むなら・・・ひき逃げ犯を憎むんだっ!!」
進さんのお父さんは必死で止めながら訴えている。しかし進さんのお母さんには全くその声は届かず、まるで獣のような咆哮をあげながら今にも姉にとびかかろうとしていた。
そ、そんな・・・。
私は進さんのお母さんの変貌ぶりが信じられなかった。あんなにやさし気でニコニコしていた人だったのに・・・その姿はまるで別人だった。髪はぼさぼさで、着物は乱れ、血走った目で吠えている・・まさに正気を失っていた。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」
お姉ちゃんはまるで子供のようにボロボロと泣きながら震えている。私はそんなお姉ちゃんを進さんのお母さんの視界から隠すように抱きしめていると、騒ぎを聞きつけたのか葬儀場の人たちと警備員の人たちが駆けつけてきた。5人がかりで抑え込まれた進さんのお母さんは観念したのか、おとなしくなり・・・そのまま意識を失ってしまった。
急いで担架が運び込まれ、お母さんは乗せられた。そして葬儀場の人たちによってどこかへ運ばれていく。その様子を黙って見届けていたお父さんはやがて私たちの方を振り向くと言った。
「すまないが・・・忍さんを見ると家内が興奮するんだ。悪いが・・・もう帰ってくれるかい。そして・・明日の葬式にも・・・来ないでくれ。頼む。」
お父さんは私たちに頭を下げてきた。
「分かりました。そのように致します。」
私は泣きながら震えているお姉ちゃんを抱きしめ、立ち上がらせると言った。
「お姉ちゃん・・・帰ろう?」
私はお姉ちゃんを抱きかかえるようにして、人々の好奇の目にさらされながら、葬儀場を後にした―。
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