悪役令嬢は高らかに笑う

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
1 / 17

序章

しおりを挟む
「オーホッホッホッ!御機嫌よう!ノエル様、クリスタ様!本日はとても良いお日柄ですわねっ!」

休日の昼下がり―。
ここは美しいバラが咲き乱れる我が屋敷の庭園。
ガゼボの中で座ってお茶を飲みながら仲睦まじげに話しをしているのは、私の大好きな婚約者ノエル様と彼の幼馴染である美しいクリスタ様。
そんな2人の前に、青空の下で目も痛くなるような真っ赤なドレスを身に着けて現れた私は左手に扇子を持ち、右手を腰に当て、耳障りなキンキン声で高笑いをした。

「や、やあ・・・フローラ・・・。」

栗毛色の美しい髪のノエル様が引きつった笑顔で私を見て挨拶する。

「こ、今日は・・・フローラ様・・。」

クリスタ様・・・。
この方はノエルの幼馴染で遠縁の血筋の方である。ノエル様と同様の栗毛色の巻き毛の髪は、私の様に真っ黒でストレートな髪と違ってとても美しく・・・羨ましい。

「お2人と御一緒に、お茶でも頂こうかと思っていたのですけど・・・どうやら一足遅かったようですわね?」

私は2人の前に並べられた紅茶と焼き菓子の皿を眺めながら言った。

「ち、違うんだよ!フローラ、誤解だよ!」

コバルトブルーの瞳を瞬かせながら、ノエル様は首を大袈裟に振って否定する。

「そ、そうです。偶然ここで出会って、何故か偶然メイドの方が現れてティーセットを用意してくれたんですっ!信じて下さいっ!」

クリスタ様も両手を組んで必死になって私に訴えて来る。

「まーあ、お2人供!そのようなお話、この私が信じると思いましてっ?!偶然出会って、偶然ここでお話をしていたら、これまた偶然にメイドがお茶のセットを持って現れるなんて・・。でも、もう結構ですわ!どうぞお2人で仲良くお茶でも飲みながらお話して下さいませっ!邪魔者の私はこれで退散させて頂きますわ。オーホッホッホッ!」

そしてクルリと背を向け、手に持っていた日傘をさすと私は扇子で自分を仰ぎながら立ち去って行く。

「あ!待ってフローラッ!誤解なんだってばっ!」

「そうですっ!フローラ様っ!お待ちになってっ!」

必死で呼びかける2人を無視して私はバラ園の中を歩いて出て行く。歩きながら私は呟いた。

「偶然・・・?それは当然よ。だって全部私が2人の為に手を回した事なのだもの。」

私は互いの名前を使って、ノエル様とクリスタ様をあのガゼボに呼び出した。
そして2人が揃ったところへ、お茶のセットを届けるようにメイドにお願いしたのだから。そこへ私が現れて、悪役令嬢の役を2人の前で演じて立ち去る・・・。全ては計画通り事が運んだだけの事。

きっとこれでまた、ノエル様の私への好感度が下がってクリスタ様に気持ちが傾いていくはず。

「うん、これでいいのよ。後悔なんかしていないわ。」

私は空を仰ぎ見ると呟いた。

だって・・・私は2人に取っては恋仲を邪魔する存在にしか過ぎない。

いわゆる悪役令嬢なのだから―。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

9時から5時まで悪役令嬢

西野和歌
恋愛
「お前は動くとロクな事をしない、だからお前は悪役令嬢なのだ」 婚約者である第二王子リカルド殿下にそう言われた私は決意した。 ならば私は願い通りに動くのをやめよう。 学園に登校した朝九時から下校の夕方五時まで 昼休憩の一時間を除いて私は椅子から動く事を一切禁止した。 さあ望むとおりにして差し上げました。あとは王子の自由です。 どうぞ自らがヒロインだと名乗る彼女たちと仲良くして下さい。 卒業パーティーもご自身でおっしゃった通りに、彼女たちから選ぶといいですよ? なのにどうして私を部屋から出そうとするんですか? 嫌です、私は初めて自分のためだけの自由の時間を手に入れたんです。 今まで通り、全てあなたの願い通りなのに何が不満なのか私は知りません。 冷めた伯爵令嬢と逆襲された王子の話。 ☆別サイトにも掲載しています。 ※感想より続編リクエストがありましたので、突貫工事並みですが、留学編を追加しました。 これにて完結です。沢山の皆さまに感謝致します。

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?!  ※少しだけ内容を変更いたしました!! ※他サイト様でも掲載始めました!

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

悪役令嬢は断罪されない

竜鳴躍
恋愛
卒業パーティの日。 王太子マクシミリアン=フォン=レッドキングダムは、婚約者である公爵令嬢のミレニア=ブルー=メロディア公爵令嬢の前に立つ。 私は、ミレニア様とお友達の地味で平凡な伯爵令嬢。ミレニアさまが悪役令嬢ですって?ひどいわ、ミレニアさまはそんな方ではないのに!! だが彼は、悪役令嬢を断罪ーーーーーーーーーーしなかった。 おや?王太子と悪役令嬢の様子がおかしいようです。 2021.8.14 順位が上がってきて驚いでいます。うれしいです。ありがとうございます! →続編作りました。ミレニアと騎士団長の娘と王太子とマリーの息子のお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/mypage/content/detail/114529751 →王太子とマリーの息子とミレニアと騎士団長の娘の話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/449536459

処理中です...