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第14話 二度目の悪役令嬢の高笑い

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 私は信じられない気持ちでノエル様を見た。まさか・・・ノエル様の家は私が嫁ぐ時に持たされる持参金が無ければ生活できない程・・生活に困窮していたのだろうか?それでノエル様はご両親から私と絶対に婚約を破棄しないように言い含められて・・?
それなら、お父様に相談して私がノエル様と結婚する時に持たされるはずの持参金を援助という形でチェスター家に渡すことはできないだろうか?
私が色々思案していると、再びノエル様が声を掛けてきた。

「ねえ。聞いてる?フローラ。僕は絶対に君とは婚約破棄したくないんだ。」

必死で訴えてくるノエル様を見て私はだんだん気の毒になってきた。お可哀相なノエル様・・・。持参金が必要な為に私と別れる事も出来ないのでクリスタ様と結ばれる事も叶わない・・・。ひょっとするとクリスタ様がいつまでも病弱なのも愛する人と結ばれない苦しみが、心だけでなく、身体も蝕んでしまっているのかも。
それならやはりすぐにノエル様とクリスタ様の前から私は消えなければならない。
でもそうなるには私が見るに堪えないくらの悪い女を演じなければノエル様のご両親は納得しないかもしれない。あれほどの性悪女なら結婚を無理強いさせるわけにはいかなと思えるほどに・・。
 それでは・・今から悪役令嬢を演じさせて頂きます。でもそうするには病床におられるクリスタ様の前で演じるわけにはいかない。

コホンと咳払いをすると私は言った。

「ノエル様。少し廊下に出て頂けませんか?お話したいことがございますので。」

「う、うん。分かったよ。」

私たちはドアを開けて部屋の外へ出た。

「それで、フローラ。話って何?」

ノエル様は真剣な瞳で私を見つめてくる。ああ・・・そのノエル様の瞳に映される姿が常に私だったら良かったのに・・。でも、それは叶わぬ願い。私が好きなのはノエル様だけど、ノエル様が好きな女性は私ではないのだから。

私は深呼吸した―。

「オーホッホッホッ!」

突然の高笑いにノエル様は明らかに驚いたように肩をびくりと震わせ、私を見た。

「な?何?!またその笑い?一体どうしちゃったの?フローラ?」

「ノエル様、何故もっとちゃんとクリスタ様を看てあげないのですか?クリスタ様が喘息の発作を起こされたのはノエル様がクリスタ様のお身体の事を考えておられなかったからですよ?貴方のクリスタ様へのお気持ちはそれっぽっちのものだったのですか?」

「え?そ、そんな事は無いよ。僕はいつだってクリスタの事はきちんと考えているし、彼女の健康状態も看ているつもりだよ?」

ノエル様の言葉を聞きながら、私は密かに傷ついていた。やはりノエル様はクリスタ様の事を大切に思っているのだと言う事が様々と感じられたからだ。

「さようでございましたか。それではこの先も是非そうして下さいませ。」

「え?」

「ですから、ノエル様が本来お傍に置くべきお方はクリスタ様だと言う事です。」

「ちょ、ちょっと待って・・・。フローラ、君・・一体何を言ってるの?」

ノエル様の顔が青冷めている。

「まだお分かりにならないのですか?ノエル様が本来選ぶべきお相手は私では無く、クリスタ様と言う事です。ご理解頂けましたか?」

私はわざと冷たい視線でノエル様を見つめた。でも・・・本当ならこんな真似はしたくないのに・・・。

「ねえ、フローラ。君は何か勘違いしているようだね?確かにクリスタは僕にとって大切な存在だけど、フローラ。君の事も僕は大切に思っているよ?クリスタよりもずっと大事に思っているんだよ?」

けれどもノエル様が必死に訴えれば訴える程、私の心は悲しくなっていく。あんな台詞を言う程に、チェスター家は追い詰められているのだろうか?
こうなれば私は徹底的に悪役令嬢を演じ、ノエル様に嫌われなければ・・・。

私は深呼吸しすると、ノエル様を見つめて口を開いた―。
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