188 / 566
第7章 12 オリエンテーリング ⑩
しおりを挟む
翌朝―セロニア学園高等学校2年生200名が宿泊所前に集められた。全員スクール指定のトレーニングウェアに運動靴を履いている。そして背中にナップザックに水筒、腕時計、コンパス、地図、雨合羽に携帯用食品として板チョコレートを持っている。
「では。これからオリエンテーリングを開始する。事前に説明したと思うが、今回のオリエンテーリングは大会形式で2人ペアで全員同時にスタートするからな。ペアになった者同士でどの道順で1番目のコントロールへ行くかをよく考えて、タイムを競いあうのだ。それでは全員スタート地点に並びなさいっ!」
学年主任の男性教諭が声を張り上げて学生達に説明を始めた。今日のヒルダは長い髪が邪魔にならないように後ろで一本にまとめている。
そんなヒルダに隣で並んでいたマイクは言う。
「大丈夫だよ、ヒルダ。僕達は一般生徒たちよりも回る場所が少ないんだ。それに事前に何所を進めば良いか決めてあるからヒルダはただ僕について来てくれればいいからね。」
そしてヒルダの小さな右手を握りしめてきた。
「・・・マイク、手を離してくれる・・・。繋がれていると歩きにくいから。」
帽子を目深に被ったヒルダがマイクに視線を合わせないように言うと、マイクの手を振り払った。そしてさり気なくマイクから距離を置く。
「分ったよ・・。ヒルダ。でもね、道が危ないところは僕が君をおんぶしてあげるから心配する事はないよ。」
「・・・大丈夫よ。どんな道も・・1人で歩くから。」
何所までもそっけない態度のヒルダにマイクは苛立ってきた。そしてヒルダの耳元で言う。
「ねえ・・・ヒルダ。君のペアは僕なんだ。それに僕がコースを決めているんだから・・僕の言う事を聞いておいた方が君の為だよ?」
「!」
一瞬ヒルダの目に怯えが走るのをマイクは見逃さなかった。
(そうだよ・・・君はもう僕の手の内なんだから・・。絶対にヒルダを服従させてやるんだ・・・。)
いつしか心の中でマイクは恐ろしいことを考えていた―。
「位置についてヨーイ」
ピーッ!!
スタートの笛が山林に響き渡り、生徒たちが一斉にスタートした。全員がペアになった者同士、地図を見ながら走り始めた。
「ヒルダ、僕たちは焦る必要は無いからね。ゆっくり行こう。」
マイクはヒルダに笑顔を向けるが、ずっとヒルダの表情は硬いままで、口を開こうとしない。
(何だよ・・!ようやく誰にも邪魔される事無く2人きりになれたって言うのに・・・!)
マイクにはある計画があった。マイクが選んだコースの一部にはヒルダの足では進むのが困難なポイントがいくつかあった。なのでここはマイクがヒルダを背負い、男らしい頼りになれる自分をアピールするつもりでいたのだ。
(いいさ。ヒルダ・・・強気でいられるのも今の内なんだからな・・。きっと君は僕に助けを求めるはずだ・・・。)
ヒルダはまさかマイクがそんな事を心の中で考えているとは夢にも思わずにいた。ただ、一刻も早くこのオリエンテーリングを終わらせたい気持ちしか頭には無かった。
歩き始めて1時間程が経過した頃・・・。
ヒルダは不安でいっぱいだった。何故なら200名もの生徒が参加している大会なのに、出発してからまだどのペアの姿も目にしていないからだ。
「ねえ・・マイク。本当に・・この道で合っているの?誰の姿も見ないのだけど・・。それに・・さっきから足場が随分悪いのだけど・・・。」
とうとう不安にかられたヒルダはマイクに尋ねた。ヒルダは途中で拾った長い棒を杖代わりに歩いている。
「大丈夫だよ、ヒルダ。この道で合ってるから。もう意地を張らないでおんぶしてあげるよ。ほら・・こっちにおいで、ヒルダ。」
「いいえ。大丈夫よ。1人で歩けるから・・。」
ヒルダは距離を詰めて来るマイクが怖くて数歩後ずさった。その時―
枯草が積もっていて分かりにくかったのだが、そこは斜面になっていた。ヒルダは足を滑らせて、そのまま斜面を下まで滑り落ちていく。
「キャアアアッ!!」
「ヒルダッ!!」
マイクは叫んで、慌てて斜面を覗き込むとがけ下へ滑り落ちて行くヒルダが見えた。
「ウッ・・・。」
ヒルダは滑り落ちた時に近くに生えていた巨木に身体を打ち付け・・・気絶してしまった。
「ヒルダーッ!!」
山林にマイクの声が響き渡った―。
「では。これからオリエンテーリングを開始する。事前に説明したと思うが、今回のオリエンテーリングは大会形式で2人ペアで全員同時にスタートするからな。ペアになった者同士でどの道順で1番目のコントロールへ行くかをよく考えて、タイムを競いあうのだ。それでは全員スタート地点に並びなさいっ!」
学年主任の男性教諭が声を張り上げて学生達に説明を始めた。今日のヒルダは長い髪が邪魔にならないように後ろで一本にまとめている。
そんなヒルダに隣で並んでいたマイクは言う。
「大丈夫だよ、ヒルダ。僕達は一般生徒たちよりも回る場所が少ないんだ。それに事前に何所を進めば良いか決めてあるからヒルダはただ僕について来てくれればいいからね。」
そしてヒルダの小さな右手を握りしめてきた。
「・・・マイク、手を離してくれる・・・。繋がれていると歩きにくいから。」
帽子を目深に被ったヒルダがマイクに視線を合わせないように言うと、マイクの手を振り払った。そしてさり気なくマイクから距離を置く。
「分ったよ・・。ヒルダ。でもね、道が危ないところは僕が君をおんぶしてあげるから心配する事はないよ。」
「・・・大丈夫よ。どんな道も・・1人で歩くから。」
何所までもそっけない態度のヒルダにマイクは苛立ってきた。そしてヒルダの耳元で言う。
「ねえ・・・ヒルダ。君のペアは僕なんだ。それに僕がコースを決めているんだから・・僕の言う事を聞いておいた方が君の為だよ?」
「!」
一瞬ヒルダの目に怯えが走るのをマイクは見逃さなかった。
(そうだよ・・・君はもう僕の手の内なんだから・・。絶対にヒルダを服従させてやるんだ・・・。)
いつしか心の中でマイクは恐ろしいことを考えていた―。
「位置についてヨーイ」
ピーッ!!
スタートの笛が山林に響き渡り、生徒たちが一斉にスタートした。全員がペアになった者同士、地図を見ながら走り始めた。
「ヒルダ、僕たちは焦る必要は無いからね。ゆっくり行こう。」
マイクはヒルダに笑顔を向けるが、ずっとヒルダの表情は硬いままで、口を開こうとしない。
(何だよ・・!ようやく誰にも邪魔される事無く2人きりになれたって言うのに・・・!)
マイクにはある計画があった。マイクが選んだコースの一部にはヒルダの足では進むのが困難なポイントがいくつかあった。なのでここはマイクがヒルダを背負い、男らしい頼りになれる自分をアピールするつもりでいたのだ。
(いいさ。ヒルダ・・・強気でいられるのも今の内なんだからな・・。きっと君は僕に助けを求めるはずだ・・・。)
ヒルダはまさかマイクがそんな事を心の中で考えているとは夢にも思わずにいた。ただ、一刻も早くこのオリエンテーリングを終わらせたい気持ちしか頭には無かった。
歩き始めて1時間程が経過した頃・・・。
ヒルダは不安でいっぱいだった。何故なら200名もの生徒が参加している大会なのに、出発してからまだどのペアの姿も目にしていないからだ。
「ねえ・・マイク。本当に・・この道で合っているの?誰の姿も見ないのだけど・・。それに・・さっきから足場が随分悪いのだけど・・・。」
とうとう不安にかられたヒルダはマイクに尋ねた。ヒルダは途中で拾った長い棒を杖代わりに歩いている。
「大丈夫だよ、ヒルダ。この道で合ってるから。もう意地を張らないでおんぶしてあげるよ。ほら・・こっちにおいで、ヒルダ。」
「いいえ。大丈夫よ。1人で歩けるから・・。」
ヒルダは距離を詰めて来るマイクが怖くて数歩後ずさった。その時―
枯草が積もっていて分かりにくかったのだが、そこは斜面になっていた。ヒルダは足を滑らせて、そのまま斜面を下まで滑り落ちていく。
「キャアアアッ!!」
「ヒルダッ!!」
マイクは叫んで、慌てて斜面を覗き込むとがけ下へ滑り落ちて行くヒルダが見えた。
「ウッ・・・。」
ヒルダは滑り落ちた時に近くに生えていた巨木に身体を打ち付け・・・気絶してしまった。
「ヒルダーッ!!」
山林にマイクの声が響き渡った―。
2
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる