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2 木陰の下で眠る許嫁
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「テアーッ!」
大きなトランクケースを船員さんに運ぶのを手伝ってもらいながらキャロルが他の乗船客に交じって手を振りながら降りてきた。
「キャロルッ!」
人混みをかき分けながらキャロルのもとへ駆け寄ると、ちょうど船員さんが彼女のトランクケースをすべて降ろして足元に置いた時だった。
「はい、お嬢さん。トランクケース、全部で5つだったよね?」
若い船員さんがキャロルに言う。
「はい、そうですっ!」
「どうもありがとうございます!」
私とキャロルは交互に船員さんにお礼を言うと、彼は笑顔で去って行った。2人きりになると私とキャロルは互いに顔を見合わせた。
「キャロル・・・。」
「テア・・・。」
「「久しぶりーっ!」」
私とキャロルはひしっと抱き合おうと再会を喜び合った。キャロルと私の付き合いは、早いもので15年程になる。私は毎年夏休みになると母の実家で休暇を過ごしてきた。その隣に住んでいたのが男爵家令嬢、キャロル・スミスだった。
彼女とは夏休みだけの関係だったけれども1か月に3回の文通は欠かしたことがない。キャロルからの手紙は私にとって宝物でもあった。
「本当に、キャロルは相変わらず美人ね。金のふわふわした髪に海のような青い瞳・・羨ましいな。こっちの学校に来るってことで大勢のボーイフレンドたちに泣かれたんじゃないの?」
私の言葉にキャロルは首を振ると言った。
「まさか~・・・私にはボーイフレンドなんかいなかったわよ?女友達しかいなかったもの。大体田舎だから男の人だってあまりいなかったし・・・。」
キャロルは謙遜するけれども私は知っている。皆キャロルの存在が高嶺の花過ぎるので、誰もが声をかけられなかったということを。
「それで?テアの自慢の許嫁は何処にいるの?今日一緒に来てるんでしょう?」
キャロルはキョロキョロとあたりを見渡しながら尋ねてきた。
「ああ・・それがね・・・あまりにも暑いからって・・・ほら、向こうに芝生が見えるでしょう?」
私は指さすと言った。
「ええ、綺麗に刈り込まれた芝生が見えるわね。」
「木もたくさん生えているでしょう?」
「ええ、生えているわ。あ・・・もしかして・・。」
キャロルは木の下で寝そべっている人物に気が付いた。
「あそこに寝転がっている人が・・テアの許嫁なの?」
「うん、そうなの・・。待っててね。今呼んでくるから。彼にも荷物を運ぶの手伝ってもらわないといけないものね。」
「ええ・・確かに私達だけじゃ無理かも・・。」
キャロルは足元に並んでいるトランクケースを見ながら言う。
「それじゃ、彼を呼んでくるから待っていてね。」
「ええ、よろしくね。」
私は踵を返すと、私はキャロルを待たせてはいけないと思い、炎天下の中をヘンリーが眠っている芝生目指して走った。
「ヘンリー。ねえ、ヘンリー。」
ヘンリーはすっかり眠りこんでいて、なかなか起きてくれない。
「ねえ、お願い。起きてってば。」
ヘンリーの肩を掴んで揺すぶると、ようやく目を開けてくれた。
「フワアア・・・・。」
彼は大きく伸びをすると私に言った。
「なんだよ・・・せっかく気持ちよく眠っていたのに・・。」
「うん、寝ていたところ悪いんだけど・・・キャロルが暑い中で待ってるの。お願い、荷物が多すぎて私達だけじゃ運べないから来てくれる?」
「やれやれ・・・結局俺は荷物を運ぶ動員として駆り出されたってわけだな?」
ヘンリーは文句を言いながら立ち上がった。でも・・・なんだかんだ言いながら私のお願いを最後まで聞いてくれるんだよね・・・。
「で?そのキャロルってどこにいるんだ?」
ヘンリーが尋ねてきた。
「ほら、あそこにこっちを向いて立っている人がいるでしょう?彼女がキャロルよ。」
「よし・・分かった。それじゃ行くか。」
私とヘンリーはキャロルのもとへ向かって歩き出した。
そして・・・
この出会いが私たち3人の運命を大きく変えることになるとは、この時の私はまだ想像もしていなかった―。
大きなトランクケースを船員さんに運ぶのを手伝ってもらいながらキャロルが他の乗船客に交じって手を振りながら降りてきた。
「キャロルッ!」
人混みをかき分けながらキャロルのもとへ駆け寄ると、ちょうど船員さんが彼女のトランクケースをすべて降ろして足元に置いた時だった。
「はい、お嬢さん。トランクケース、全部で5つだったよね?」
若い船員さんがキャロルに言う。
「はい、そうですっ!」
「どうもありがとうございます!」
私とキャロルは交互に船員さんにお礼を言うと、彼は笑顔で去って行った。2人きりになると私とキャロルは互いに顔を見合わせた。
「キャロル・・・。」
「テア・・・。」
「「久しぶりーっ!」」
私とキャロルはひしっと抱き合おうと再会を喜び合った。キャロルと私の付き合いは、早いもので15年程になる。私は毎年夏休みになると母の実家で休暇を過ごしてきた。その隣に住んでいたのが男爵家令嬢、キャロル・スミスだった。
彼女とは夏休みだけの関係だったけれども1か月に3回の文通は欠かしたことがない。キャロルからの手紙は私にとって宝物でもあった。
「本当に、キャロルは相変わらず美人ね。金のふわふわした髪に海のような青い瞳・・羨ましいな。こっちの学校に来るってことで大勢のボーイフレンドたちに泣かれたんじゃないの?」
私の言葉にキャロルは首を振ると言った。
「まさか~・・・私にはボーイフレンドなんかいなかったわよ?女友達しかいなかったもの。大体田舎だから男の人だってあまりいなかったし・・・。」
キャロルは謙遜するけれども私は知っている。皆キャロルの存在が高嶺の花過ぎるので、誰もが声をかけられなかったということを。
「それで?テアの自慢の許嫁は何処にいるの?今日一緒に来てるんでしょう?」
キャロルはキョロキョロとあたりを見渡しながら尋ねてきた。
「ああ・・それがね・・・あまりにも暑いからって・・・ほら、向こうに芝生が見えるでしょう?」
私は指さすと言った。
「ええ、綺麗に刈り込まれた芝生が見えるわね。」
「木もたくさん生えているでしょう?」
「ええ、生えているわ。あ・・・もしかして・・。」
キャロルは木の下で寝そべっている人物に気が付いた。
「あそこに寝転がっている人が・・テアの許嫁なの?」
「うん、そうなの・・。待っててね。今呼んでくるから。彼にも荷物を運ぶの手伝ってもらわないといけないものね。」
「ええ・・確かに私達だけじゃ無理かも・・。」
キャロルは足元に並んでいるトランクケースを見ながら言う。
「それじゃ、彼を呼んでくるから待っていてね。」
「ええ、よろしくね。」
私は踵を返すと、私はキャロルを待たせてはいけないと思い、炎天下の中をヘンリーが眠っている芝生目指して走った。
「ヘンリー。ねえ、ヘンリー。」
ヘンリーはすっかり眠りこんでいて、なかなか起きてくれない。
「ねえ、お願い。起きてってば。」
ヘンリーの肩を掴んで揺すぶると、ようやく目を開けてくれた。
「フワアア・・・・。」
彼は大きく伸びをすると私に言った。
「なんだよ・・・せっかく気持ちよく眠っていたのに・・。」
「うん、寝ていたところ悪いんだけど・・・キャロルが暑い中で待ってるの。お願い、荷物が多すぎて私達だけじゃ運べないから来てくれる?」
「やれやれ・・・結局俺は荷物を運ぶ動員として駆り出されたってわけだな?」
ヘンリーは文句を言いながら立ち上がった。でも・・・なんだかんだ言いながら私のお願いを最後まで聞いてくれるんだよね・・・。
「で?そのキャロルってどこにいるんだ?」
ヘンリーが尋ねてきた。
「ほら、あそこにこっちを向いて立っている人がいるでしょう?彼女がキャロルよ。」
「よし・・分かった。それじゃ行くか。」
私とヘンリーはキャロルのもとへ向かって歩き出した。
そして・・・
この出会いが私たち3人の運命を大きく変えることになるとは、この時の私はまだ想像もしていなかった―。
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