許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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39 遅れた教室  

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「先生、こちらです。」

私は黒い皮のドクターズバッグを手にした医務室の先生をヘンリーが乗っている馬車が待機している場所まで連れてきた。けれどもどこにも馬車の姿はない。

「テア。ヘンリーの乗っている馬車はどれなんだい?」

医務室の先生が不思議そうに尋ねてきた。

「あら・・・変ですねえ・・。正門の脇に馬車を止めておいたはずなんですけど・・?」

きょろきょろ見渡していると。左側から大きな声が聞こえてきた。

「お嬢様ーっ!こちらですっ!」

振り返ると、そこには少し離れた場所にある大木の下で馬車を止めたヘンリーの御者が帽子を取って大きく腕を振っている様子が目に入った。

「あ、先生。あちらの馬車です。行きましょう。」

先生は黙ってうなずくと駆け足で馬車へ向かった。私はその後を歩いてついていく。



「ううう・・・。」

遅れて到着すると、馬車の中からヘンリーのうめき声が聞こえている。扉は閉められているが、多分中で治療が行われているのだろう。
そこへ御者が私にお礼を言ってきた。

「お嬢様、どうもありがとうございました。先生を連れて来て下さって。」

「いいのよ、お礼なんて。当然のことだもの。それにしても・・馬車を移動させたのね。」

「はい、ヘンリー様がここは暑いからどこか木陰に移動しろとおっしゃったので・・。」

「そうだったのね。」

そして馬車の方をチラリとみると御者に言った。

「私のカバンはまだ馬車の中よね?だからヘンリーの治療が終わるまでここで待たせてもらわ。」

今は治療中だろうから馬車の扉を開けることは出来ないだろうし・・。すると御者が言った。

「あ、それなら大丈夫です。俺が預かっていますから。」

そして彼は御者台に行くと、ハンドル付きのカバンを持ってきてくれた。

「こちらがお嬢様のカバンですよね?」

「まあ、ありがとう。貴方が私のカバンを預かってくれていたのね?」

左手で受け取るとお礼を言った。

「え、ええ・・・そ、そうですね・・。」

しかし、彼は何故か歯切れ悪く答える。

「それじゃ、私は先に教室へ行くからヘンリーに伝えておいてね?」

「え?先に行かれるのですか?ヘンリー様を待たないのですか?」

彼は驚いたように私を見た。

「え?ええ・・・。」

確かに今までの私ならヘンリーを待っていたかもしれない。だけど私はヘンリーによく思われていないことが分かったし、キャロルとヘンリーの恋を応援しようと決めたのだから、いつまでも許婚としてでしゃばるわけにはいかない。だから私は言った。

「ヘンリーは今日、いやいや私を屋敷迄迎えに来てくれたのだから、少しは解放してあげないと気の毒だもの。それじゃ、行ってきます。」

「あ、はい。行ってらっしゃいませ。」

私は御者に手を振ると教室へと向かった―。



****

誰一人学生がいない、シンと静まり返った教室が並ぶ廊下を歩き、私は自分のクラスの前で立ち止まった。入学2日目の1時限目はカリキュラムの説明の時間で、廊下の窓から教室を覗き込むと、全員真剣な顔で初老の男性教授の話を聞いている。

ス~・・

深呼吸して緊張を和らげると、私は教室のドアをガチャリと開けた。
すると一斉にクラス中の視線が私に集中する。その中で私はキャロルを見つけた。彼女はちいさく手招きをしている。

う・・き、緊張する・・・。

「どうしたんだね?君は・・遅刻かな?」

「はい、遅れて申し訳ござません。テア・シャルダンと言います。」

「ひょっとして・・その怪我が原因かね?遅れてきたのは?」

「いえ、違います。」

「フム・・分かった。では空いている席に座りなさい。」

教授はそれだけ言うと、また黒板の方に向き直った。学生たちも皆黒板に視線を移したけれども、キャロルだけは私の方を向いて手招きしている。そこで私は目立たないようにキャロルの傍へ行くと右隣にストンと座り、カバンをそっと椅子に下した。

「テア・・あまりにも遅いから心配してしまったわ。」

キャロルは小声で言う。

「ごめんなさいね。医務室の先生をヘンリーの馬車迄案内するのに時間がかかってしまったから。」

「そうだったの?それで・・・ヘンリーの具合はどうなの?」

やはりキャロルはヘンリーを心配している。

「それがね・・途中で先生が馬車に向かって駆けだしたから私は後から追いついたのよ。そうしたらすでに馬車の扉が閉じられていて、中で診察が始まっていたから、私は席に教室へ来たのよ。」

「まあ。そうだったの?」

「ええ・・いつもならヘンリーを待つところだったのだけど・・待たないで先に来てしまったわ。」

するとキャロルが言った。

「ええ、そうよ。それでいいのよテア。もう・・貴女はヘンリーから離れるべきよ。」

キャロルは真剣な目で私を見た―。


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