孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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7-7 嫉妬の庭

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 騎士たちの機転のお陰で、アドニスから離れることが出来たサフィニア。

洗濯籠を小脇に抱えたまま、詰め所へ続く入り口を目指してトボトボと歩いていた。
籠の中には取り入れた洗濯物が風で揺れている。

(騎士の方たちがアドニス様を止めてくれて良かったわ……)

けれど、サフィニアの胸はズキズキ痛んでいた。

自分に笑顔を向けてきたアドニスに気付かないふりをして視線をそらせてしまったこと。
こちらへ向かってくることに気付いていたけど、背を向けてしまったこと。

それらが罪悪感として胸にこみあげてくる。

(アドニス様は王太子殿下なのに、私のような者まで気にかけて下さっている。それなのに失礼な態度をとってしまったわ……)

「でも、どうしてアドニス様は私に話しかけようとなさるのかしら……」

サフィニアは自分がアドニスに好意を寄せていることも、アドニスから好意を向けられていることにも気づいていなかったのだ。

アドニスの顔を思い浮かべると、胸の奥に何とも言えない感情が広がる。

会いたい気持ちは確かにあった。
けれど、もし目が合ってしまったら。
声をかけられてしまったら……きっとエリーゼとの約束を守ることが出来なかっただろう。

(それだけは、避けないと……)

サフィニアは空を見上げた。
頭上に浮かぶ白い雲は……どことなくアドニスの横顔に似て見えた――



****


その日の午後。

王城の書斎。

騎士団の訓練から戻って来たアドニスは椅子に腰掛け、黙々と仕事をこなしていたが……頭の中はサフィニアのことで一杯だった。

(あのとき、どう見ても彼女は俺を避けていた。何故なのだろう……俺は彼女に何か失礼なことをしてしまったのだろうか?)

――その時。

「アドニス様、仕事ばかりしていないで、たまには私とお出掛けしませんか?」

エリーゼに突然声をかけられ、アドニスは驚いて顔を上げた。

「……驚いたな。エリーゼ、いつの間にここへ来ていたんだい?」

するとエリーゼはむくれた。

「何を仰っているの? 先ほど、『失礼いたします』とお邪魔したではありませんか。それで『ああ』と返事をしてくださいましたよね?」

「そうだったね。ごめん」

笑顔で謝るも、全く記憶になかった。

「それだけお仕事に集中されていたということなのでしょうね」

エリーゼは所在無げにソファに座っている。その姿は小柄な身体で一生懸命働いているサフィニアとは大違いだった。

(彼女とは大違いだな……)

そこでアドニスはエリーゼに尋ねた。

「エリーゼ、もう長いこと家に帰っていないようだけど……いつまでもここにいていいのかい?」

すると途端にエリーゼの眉がつり上がる。

「まぁ、それでは私が邪魔者と言うことですか!?」

「いや、別にそういう訳じゃないよ」

アドニスは苦笑し、何気なく窓の外に目をやり……驚きの表情に変わる。

庭の一角にあるハーブの花壇の前に、サフィニアの姿があったからだ。

ガタンッ!

椅子が音を立てて引かれ、アドニスは立ち上がる。

「アドニス様? どうなさったの?」

エリーゼが尋ねるも、アドニスは返事をしない。
彼はそのまま、駆け足で部屋を出て行った。

「アドニス様……?」

エリーゼはぽかんとしたまま、彼の背中を見送る。

「一体どうしたのかしら? あんなに慌てた様子で出て行くなんて。一体窓の外に何が……まぁ!」

アドニスが見ていた窓の外へと視線を移したエリーゼの目が険しくなる。

「……あのメイド……!」

エリーゼの目に、サフィニアが花壇でハーブを摘み取っている姿が目に入った。
その姿を見た瞬間、エリーゼの胸に嫉妬の炎が宿る。

「まさか、アドニス様に会いに……!?」

そして案の定。

アドニスがサフィニアに向かって駆け寄る姿が、視界に映りこんだ。

「……っ!」

エリーゼは唇をギリギリと噛みしめた。

「何て生意気なメイドなの……。あれ程約束したのに、アドニス様に近づくなんて……どうやら痛い目に遭わないと分からないようね……」

エリーゼは憎悪の目でサフィニアを睨みつけるのだった――
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