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7-8 再会の影
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「え……? 王宮へですか?」
詰め所に戻り、休憩を終えたサフィニアの顔に困惑の色が浮かぶ。
「そうなのよ。王宮の花壇に香辛料で使うハーブがあるの。今、ハーブに詳しい使用人の手が足りなくてね。ソフィアちゃんは詳しいでしょう? 取りに行ってもらえないかしら」
マーサは手を合わせて頼んできた。
本当は王宮へ行きたくはなかった。
けれど、これも仕事。しかもメイド長直々の頼みなら断るわけにはいかない。
「分かりました。では行ってきます。何のハーブを摘んでくれば良いですか?」
「これよ」
マーサは小さなメモ紙を手渡してきた。
そこには3種類のハーブが記されていた。
「マジョラム。セイボリー。ローズマリーですね」
「ええ、そうよ。分かるかしら?」
「はい、分かります。では行ってまいります」
サフィニアはメモをエプロンポケットにしまうと、詰め所を後にした。
(王宮はとても広いからアドニス様に会うはずないわ。でも急がないと……)
****
王宮の南庭にある花壇に到着したサフィニアは、目的のハーブを探しだすと丁寧に摘み取り始めた。
マジョラムの柔らかな葉をそっと摘み、セイボリーの茎を籠に収めていく。
「後は……ローズマリーね」
そう呟いた瞬間――
バタバタと石畳を叩く足音が背後から近づいてきた。
「ソフィアさん!」
「……え?」
振り返ると、息を切らせたアドニスが立っていた。
風に乱れた髪をかき上げながら、彼はまっすぐにサフィニアを見つめている。
「良かった……ようやくソフィアさんに会えた。元気だったかい?」
「アドニス様……」
今朝、失礼な態度をとってしまったのに、そのことには少しも触れないアドニスの気遣いがサフィニアの胸を締め付ける。
「は、はい。元気……です。アドニス様も……お元気そうで何よりです……」
俯いたサフィニアの手には、摘みかけのハーブが握られている。
「もしかしてハーブを摘んでいたのかい? 手伝うよ」
「いいえ! 大丈夫です、後はローズマリーだけですから」
「ローズマリー……」
アドニスは辺りを見渡し、すぐに目を留めた。
「……あった、これだね」
花壇に近づくと、ローズマリーの枝を摘み始める。
「そ、そんな。殿下にそのような……自分で摘めますから」
しかしアドニスは摘み終えたローズマリーを、サフィニアに差し出すと笑顔を向ける。
「殿下じゃないよ」
「え……?」
「前にも言っただろう? アドニスだよ。ソフィアさんにはそう呼んでもらいたいな」
サフィニアは目を見開いた。
(い、一体それはどういう意味なの……?)
「あ……」
その時。
サフィニアの手からローズマリーの枝がこぼれ落ちた。
風が吹き抜け、髪が風になびく。
乱れた前髪が頬にかかり、サフィニアは銀の髪を慌てて手で押さえる。
するとアドニスが距離を詰めてきた。
「あ、あの!?」
戸惑うサフィニアの前で、アドニスの手がふわりと銀髪に触れる。
「!」
思わずビクリとすると、アドニスの顔に戸惑いが浮かぶ。
「ご、ごめん。驚かせてしまったかな……ただ、髪に花がついていたから」
見ると、アドニスはローズマリーの小さな花びらを手にしていた。
「あ、ありがとうございます……」
顔を真っ赤に染めて俯いたその瞬間――
「アドニス様!」
鋭い声が庭に響き渡った。
振り向くと、エリーゼが険しい顔でこちらへ近づいてくる。
(エリーゼ様……! どうしよう、見られてしまったわ……!)
サフィニアの顔が青ざめる。
「エリーゼ……どうしたんだい?」
アドニスの問いに、エリーゼは眉を吊り上げて叫んだ。
「それはこちらのセリフです! 酷いじゃありませんか! どうして私を置いて、ここへ来たのです!? まさかそのメイドに会いに来たと言う訳ではないですよね!?」
「そうだよ。久しぶりに会えたから、話をしたくてね」
アドニスの返事に、エリーゼの苛立ちはさらに膨らむ。
「そこのメイド! ちょっとアドニス様に優しくされてるからって、いい気になるんじゃないわよ!」
エリーゼに怒鳴られ、サフィニアは後ずさる。
「エリーゼ、彼女を責めるのはやめるんだ」
「アドニス様は黙っていて! 今、私はこのメイドに話しているのよ!」
エリーゼの怒りは、サフィニアに向けて鋭く突き刺さる。
「いい? いくらアドニス様を恋慕っても所詮、お前はメイド。アドニス様とは釣り合うはずないのよ!」
「!」
サフィニアの目が見開かれる。
釣り合わないのは分かっていた、が……面と向かって言われるとさすがに堪えた。
「やめるんだ! エリーゼ!」
アドニスが制したその瞬間――
「ち、違います!」
サフィニアは大きな声を上げた。
「違うって何が違うのよ」
「アドニス様はこの国の王太子様です。こ、恋慕うなんて恐れ多いです……そ、それに私には別に好きな男性がおりますから……」
(何だって……!?)
その言葉にアドニスは青ざめる。が……サフィニアを睨みつけているエリーゼは気づいていない。
「あら? それじゃ誰だっていうの? セザールさん? ……そんなはずないわよね……。あの人はお前より、ずっと年上の成人男性だし、何より子爵家の当主だもの。それじゃ、あの時花壇で一緒にいた人物かしら?」
サフィニアはレオンのことを言われているのは分かっていたが、それには答えず会釈した。
「あ、あの……ハーブを摘み終えたので、私はこれで失礼いたします」
籠を抱え直すと、サフィニアは急ぎ足でその場を離れていった。
アドニスは、その後ろ姿を悲しげな瞳で見つめていた。
その視線に気づいたエリーゼは、唇を噛みしめる。
(本当に……なんて目障りなの……好きな男性がいると言ったけど、嘘に決まってる。アドニス様は信じたみたいだけど……騙されるものですか。一刻も早くあのメイドをなんとかしないと……)
エリーゼの嫉妬の炎はますます激しくなるのだった――
詰め所に戻り、休憩を終えたサフィニアの顔に困惑の色が浮かぶ。
「そうなのよ。王宮の花壇に香辛料で使うハーブがあるの。今、ハーブに詳しい使用人の手が足りなくてね。ソフィアちゃんは詳しいでしょう? 取りに行ってもらえないかしら」
マーサは手を合わせて頼んできた。
本当は王宮へ行きたくはなかった。
けれど、これも仕事。しかもメイド長直々の頼みなら断るわけにはいかない。
「分かりました。では行ってきます。何のハーブを摘んでくれば良いですか?」
「これよ」
マーサは小さなメモ紙を手渡してきた。
そこには3種類のハーブが記されていた。
「マジョラム。セイボリー。ローズマリーですね」
「ええ、そうよ。分かるかしら?」
「はい、分かります。では行ってまいります」
サフィニアはメモをエプロンポケットにしまうと、詰め所を後にした。
(王宮はとても広いからアドニス様に会うはずないわ。でも急がないと……)
****
王宮の南庭にある花壇に到着したサフィニアは、目的のハーブを探しだすと丁寧に摘み取り始めた。
マジョラムの柔らかな葉をそっと摘み、セイボリーの茎を籠に収めていく。
「後は……ローズマリーね」
そう呟いた瞬間――
バタバタと石畳を叩く足音が背後から近づいてきた。
「ソフィアさん!」
「……え?」
振り返ると、息を切らせたアドニスが立っていた。
風に乱れた髪をかき上げながら、彼はまっすぐにサフィニアを見つめている。
「良かった……ようやくソフィアさんに会えた。元気だったかい?」
「アドニス様……」
今朝、失礼な態度をとってしまったのに、そのことには少しも触れないアドニスの気遣いがサフィニアの胸を締め付ける。
「は、はい。元気……です。アドニス様も……お元気そうで何よりです……」
俯いたサフィニアの手には、摘みかけのハーブが握られている。
「もしかしてハーブを摘んでいたのかい? 手伝うよ」
「いいえ! 大丈夫です、後はローズマリーだけですから」
「ローズマリー……」
アドニスは辺りを見渡し、すぐに目を留めた。
「……あった、これだね」
花壇に近づくと、ローズマリーの枝を摘み始める。
「そ、そんな。殿下にそのような……自分で摘めますから」
しかしアドニスは摘み終えたローズマリーを、サフィニアに差し出すと笑顔を向ける。
「殿下じゃないよ」
「え……?」
「前にも言っただろう? アドニスだよ。ソフィアさんにはそう呼んでもらいたいな」
サフィニアは目を見開いた。
(い、一体それはどういう意味なの……?)
「あ……」
その時。
サフィニアの手からローズマリーの枝がこぼれ落ちた。
風が吹き抜け、髪が風になびく。
乱れた前髪が頬にかかり、サフィニアは銀の髪を慌てて手で押さえる。
するとアドニスが距離を詰めてきた。
「あ、あの!?」
戸惑うサフィニアの前で、アドニスの手がふわりと銀髪に触れる。
「!」
思わずビクリとすると、アドニスの顔に戸惑いが浮かぶ。
「ご、ごめん。驚かせてしまったかな……ただ、髪に花がついていたから」
見ると、アドニスはローズマリーの小さな花びらを手にしていた。
「あ、ありがとうございます……」
顔を真っ赤に染めて俯いたその瞬間――
「アドニス様!」
鋭い声が庭に響き渡った。
振り向くと、エリーゼが険しい顔でこちらへ近づいてくる。
(エリーゼ様……! どうしよう、見られてしまったわ……!)
サフィニアの顔が青ざめる。
「エリーゼ……どうしたんだい?」
アドニスの問いに、エリーゼは眉を吊り上げて叫んだ。
「それはこちらのセリフです! 酷いじゃありませんか! どうして私を置いて、ここへ来たのです!? まさかそのメイドに会いに来たと言う訳ではないですよね!?」
「そうだよ。久しぶりに会えたから、話をしたくてね」
アドニスの返事に、エリーゼの苛立ちはさらに膨らむ。
「そこのメイド! ちょっとアドニス様に優しくされてるからって、いい気になるんじゃないわよ!」
エリーゼに怒鳴られ、サフィニアは後ずさる。
「エリーゼ、彼女を責めるのはやめるんだ」
「アドニス様は黙っていて! 今、私はこのメイドに話しているのよ!」
エリーゼの怒りは、サフィニアに向けて鋭く突き刺さる。
「いい? いくらアドニス様を恋慕っても所詮、お前はメイド。アドニス様とは釣り合うはずないのよ!」
「!」
サフィニアの目が見開かれる。
釣り合わないのは分かっていた、が……面と向かって言われるとさすがに堪えた。
「やめるんだ! エリーゼ!」
アドニスが制したその瞬間――
「ち、違います!」
サフィニアは大きな声を上げた。
「違うって何が違うのよ」
「アドニス様はこの国の王太子様です。こ、恋慕うなんて恐れ多いです……そ、それに私には別に好きな男性がおりますから……」
(何だって……!?)
その言葉にアドニスは青ざめる。が……サフィニアを睨みつけているエリーゼは気づいていない。
「あら? それじゃ誰だっていうの? セザールさん? ……そんなはずないわよね……。あの人はお前より、ずっと年上の成人男性だし、何より子爵家の当主だもの。それじゃ、あの時花壇で一緒にいた人物かしら?」
サフィニアはレオンのことを言われているのは分かっていたが、それには答えず会釈した。
「あ、あの……ハーブを摘み終えたので、私はこれで失礼いたします」
籠を抱え直すと、サフィニアは急ぎ足でその場を離れていった。
アドニスは、その後ろ姿を悲しげな瞳で見つめていた。
その視線に気づいたエリーゼは、唇を噛みしめる。
(本当に……なんて目障りなの……好きな男性がいると言ったけど、嘘に決まってる。アドニス様は信じたみたいだけど……騙されるものですか。一刻も早くあのメイドをなんとかしないと……)
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