183 / 219
7-17 サフィニアの救出
しおりを挟む
サフィニアの姿を確認したアドニスは持参してきたロープを手近な木に括り付けると、自分の腰にも巻き付け始めた。
その様子に驚く騎士たち。
「アドニス様? 何をしておられるのです?」
「もしかしてアドニス様が行かれるのですか?」
「そうだ。早く助けなければ」
返事をしながら、アドニスは何重にもロープを巻いていく。
「危険ですから、ここは我々が行きます」
「そうです、どうかお任せください!」
慌てて引き留めようとする騎士たちだったが、アドニスは首を振った。
「いや、俺が行く」
「ですが、危険では……!」
するとアドニスは声を張り上げた。
「下にいる彼女はもっと危険な状況なんだ!」
騎士たちの制止を振り切るとアドニスは穴に近づき、腰に巻いたロープを握りしめた。
「ゆっくり降ろしてくれ。頼む」
『……はい!』
騎士たちはロープを慎重に手繰り寄せながら、アドニスの身体をゆっくりと穴の中へと降ろしていく。
騎士の1人が穴に向けている松明の灯が揺れ、アドニスの長い影が土壁にユラユラと映し出されている。
「……っ」
冷たい空気がアドニスの肌を刺し、思わず顔をしかめる。
(こんな寒い場所で……!)
穴の底に近づくにつれ、湿った土の匂いが強くなり周囲の闇が濃くなっていく。
そしてついにアドニスはサフィニアの近くに降り立った。
「ソフィアさん!」
アドニスは枯葉の中に身を沈めているサフィニアを抱き上げ、揺すぶった。
「ソフィアさん! 目を開けてくれ!」
呼びかけても返事はない。
だが……微かに息をしているのが分かった。
「……良かった……生きている……」
アドニスは一瞬、強くサフィニアを抱きしめた。するとトクントクンと……微かな心臓の音が聞こえる。
「待たせてごめん‥…」
意識のないサフィニアに語り掛け、片腕で抱きかかえた。
そしてもう片方の手でロープを握りしめ、上を向いて大きな声で叫んだ
「引き上げてくれ!」
『はい!』
騎士たちは声を合わせ、力を込めてロープを引っ張っていく。
土壁がパラパラと崩れ……枯葉が舞う中、アドニスとサフィニアの身体がゆっくりと地上へと引き上げられていく。
アドニスがサフィニアを救出してくると、騎士たちは歓声を上げた。
「ソフィアさん……!」
大きな声で呼びかけ再度呼びかけるも、やはり返事はない。
サフィニアの身体は土で汚れ、肌は氷のように冷え切っている。
アドニスは自分の服が汚れるのも厭わず、サフィニアをしっかりと抱き上げた。
「すぐに城に戻るぞ!」
『はい!』
騎士たちは松明を掲げ、アドニスを先頭に森の出口を目指して歩き出した。
その後ろには二人のフットマン。
彼等は騎士たちに取り囲まれるようにして、俯きながら震えて歩いている。
「いいか、お前たち。城に戻ったら、じっくり尋問させてもらう。分かったな」
副隊長の厳しい声に、フットマンたちは顔を強張らせ、さらに肩をすくめた。
森の木々がザワザワと揺れ、冷たい風が吹き抜ける中。
落ち葉を踏みしめながら彼らは城へと戻って行った――
****
――その頃。
「ふわぁぁああ……何だか眠くなってきたわ」
エリーゼは読んでいた本をパタンと閉じると、欠伸をした。時計の針は22時を少し回っている。
「では、そろそろお休みの準備をいたしましょうか?」
刺繍をしている手を止め、バネッサは顔を上げた。
「そうね……あら?」
城の廊下に、大勢の足音が響いていることにエリーゼは気づいた。
「何だか、廊下が騒がしいわね……」
「……そうでしょうか? 気のせいではありませんか?」
再びバネッサは刺繍の続きを再開する。
「気のせいなんかじゃないわよ。ちょっと様子を見てくるわ」
エリーゼは立ち上がり、扉に近づき……そっと開けて廊下を覗き込んだ。
「!」
その瞬間、顔から血の気が引く。
何故なら土にまみれ、ぐったりとしたサフィニアをアドニスが険しい表情で抱きかかえて歩いている姿を目撃したからだ。
その後ろには沈痛な表情の騎士たちが続いている。
「う、嘘……」
エリーゼは慌てて扉を閉めると、バネッサの元へ駆け寄った。
「バネッサ! 一体どういうことなの!? い、今……アドニス様が、あのメイドを抱き上げて城へ帰って来たのよ!」
声を震わせながら詰め寄るエリーゼ。
だが、バネッサは刺繍の手を止めることなく言った。
「……あら、そうなのですか? まさかもう見つかったなんて。意外と早かったですね」
その言葉にエリーゼの顔から血の気が失せる。
「そ、それっていったいどういう意味……? あなた、私に言ったわよね? あのメイドは無事だって……なのに……!」
「だから無事だと言ったではありませんか」
「え……?」
バネッサは顔を上げ、笑みを浮かべた。
「つまり、落とし穴に落ちても死ななかったということですよ。それで無事だと告げたのです」
「バ、バネッサ……?」
その淡々とした口調に、エリーゼの背筋が凍りつく
「だ、だけど……い、今まであのメイドは落とし穴にいたのよね? こんな寒空の下で……」
「ええ、そうですね。一晩、頭を冷やさせようと思ったので」
「一晩って……! もし死んだらどうするつもりだったのよ!?」
「……あまり大きな声を出すと、話を聞かれてしまいますよ?」
「!」
バネッサの言葉に、エリーゼは慌てて両手で口を押さえた。
「運が良ければ助かる。悪ければ死ぬ。それだけのことではありませんか。……そして、あのメイドは運が良かった。つまり、そういうことです」
バネッサは何ということもない顔で、再び針を動かし始めた。
「だ、だけど……落とし穴を掘ったのは……」
「証拠はありませんよね? 森にはいくつも落とし穴があるかもしれない。あのメイドは自分で穴から這い上がって、別の穴に落ちた可能性だってあるわけですよね?」
「バ、バネッサ……」
「大丈夫です。エリーゼ様。私はあなたの味方です。黙っていれば、バレることはありませんから」
バネッサは冷たい笑みを浮かべ……エリーゼを見つめた――
その様子に驚く騎士たち。
「アドニス様? 何をしておられるのです?」
「もしかしてアドニス様が行かれるのですか?」
「そうだ。早く助けなければ」
返事をしながら、アドニスは何重にもロープを巻いていく。
「危険ですから、ここは我々が行きます」
「そうです、どうかお任せください!」
慌てて引き留めようとする騎士たちだったが、アドニスは首を振った。
「いや、俺が行く」
「ですが、危険では……!」
するとアドニスは声を張り上げた。
「下にいる彼女はもっと危険な状況なんだ!」
騎士たちの制止を振り切るとアドニスは穴に近づき、腰に巻いたロープを握りしめた。
「ゆっくり降ろしてくれ。頼む」
『……はい!』
騎士たちはロープを慎重に手繰り寄せながら、アドニスの身体をゆっくりと穴の中へと降ろしていく。
騎士の1人が穴に向けている松明の灯が揺れ、アドニスの長い影が土壁にユラユラと映し出されている。
「……っ」
冷たい空気がアドニスの肌を刺し、思わず顔をしかめる。
(こんな寒い場所で……!)
穴の底に近づくにつれ、湿った土の匂いが強くなり周囲の闇が濃くなっていく。
そしてついにアドニスはサフィニアの近くに降り立った。
「ソフィアさん!」
アドニスは枯葉の中に身を沈めているサフィニアを抱き上げ、揺すぶった。
「ソフィアさん! 目を開けてくれ!」
呼びかけても返事はない。
だが……微かに息をしているのが分かった。
「……良かった……生きている……」
アドニスは一瞬、強くサフィニアを抱きしめた。するとトクントクンと……微かな心臓の音が聞こえる。
「待たせてごめん‥…」
意識のないサフィニアに語り掛け、片腕で抱きかかえた。
そしてもう片方の手でロープを握りしめ、上を向いて大きな声で叫んだ
「引き上げてくれ!」
『はい!』
騎士たちは声を合わせ、力を込めてロープを引っ張っていく。
土壁がパラパラと崩れ……枯葉が舞う中、アドニスとサフィニアの身体がゆっくりと地上へと引き上げられていく。
アドニスがサフィニアを救出してくると、騎士たちは歓声を上げた。
「ソフィアさん……!」
大きな声で呼びかけ再度呼びかけるも、やはり返事はない。
サフィニアの身体は土で汚れ、肌は氷のように冷え切っている。
アドニスは自分の服が汚れるのも厭わず、サフィニアをしっかりと抱き上げた。
「すぐに城に戻るぞ!」
『はい!』
騎士たちは松明を掲げ、アドニスを先頭に森の出口を目指して歩き出した。
その後ろには二人のフットマン。
彼等は騎士たちに取り囲まれるようにして、俯きながら震えて歩いている。
「いいか、お前たち。城に戻ったら、じっくり尋問させてもらう。分かったな」
副隊長の厳しい声に、フットマンたちは顔を強張らせ、さらに肩をすくめた。
森の木々がザワザワと揺れ、冷たい風が吹き抜ける中。
落ち葉を踏みしめながら彼らは城へと戻って行った――
****
――その頃。
「ふわぁぁああ……何だか眠くなってきたわ」
エリーゼは読んでいた本をパタンと閉じると、欠伸をした。時計の針は22時を少し回っている。
「では、そろそろお休みの準備をいたしましょうか?」
刺繍をしている手を止め、バネッサは顔を上げた。
「そうね……あら?」
城の廊下に、大勢の足音が響いていることにエリーゼは気づいた。
「何だか、廊下が騒がしいわね……」
「……そうでしょうか? 気のせいではありませんか?」
再びバネッサは刺繍の続きを再開する。
「気のせいなんかじゃないわよ。ちょっと様子を見てくるわ」
エリーゼは立ち上がり、扉に近づき……そっと開けて廊下を覗き込んだ。
「!」
その瞬間、顔から血の気が引く。
何故なら土にまみれ、ぐったりとしたサフィニアをアドニスが険しい表情で抱きかかえて歩いている姿を目撃したからだ。
その後ろには沈痛な表情の騎士たちが続いている。
「う、嘘……」
エリーゼは慌てて扉を閉めると、バネッサの元へ駆け寄った。
「バネッサ! 一体どういうことなの!? い、今……アドニス様が、あのメイドを抱き上げて城へ帰って来たのよ!」
声を震わせながら詰め寄るエリーゼ。
だが、バネッサは刺繍の手を止めることなく言った。
「……あら、そうなのですか? まさかもう見つかったなんて。意外と早かったですね」
その言葉にエリーゼの顔から血の気が失せる。
「そ、それっていったいどういう意味……? あなた、私に言ったわよね? あのメイドは無事だって……なのに……!」
「だから無事だと言ったではありませんか」
「え……?」
バネッサは顔を上げ、笑みを浮かべた。
「つまり、落とし穴に落ちても死ななかったということですよ。それで無事だと告げたのです」
「バ、バネッサ……?」
その淡々とした口調に、エリーゼの背筋が凍りつく
「だ、だけど……い、今まであのメイドは落とし穴にいたのよね? こんな寒空の下で……」
「ええ、そうですね。一晩、頭を冷やさせようと思ったので」
「一晩って……! もし死んだらどうするつもりだったのよ!?」
「……あまり大きな声を出すと、話を聞かれてしまいますよ?」
「!」
バネッサの言葉に、エリーゼは慌てて両手で口を押さえた。
「運が良ければ助かる。悪ければ死ぬ。それだけのことではありませんか。……そして、あのメイドは運が良かった。つまり、そういうことです」
バネッサは何ということもない顔で、再び針を動かし始めた。
「だ、だけど……落とし穴を掘ったのは……」
「証拠はありませんよね? 森にはいくつも落とし穴があるかもしれない。あのメイドは自分で穴から這い上がって、別の穴に落ちた可能性だってあるわけですよね?」
「バ、バネッサ……」
「大丈夫です。エリーゼ様。私はあなたの味方です。黙っていれば、バレることはありませんから」
バネッサは冷たい笑みを浮かべ……エリーゼを見つめた――
348
あなたにおすすめの小説
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を
桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。
政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。
二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。
だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。
聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。
その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。
やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく……
ーーーーーーーー
初作品です。
自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる