孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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7-17 サフィニアの救出

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 サフィニアの姿を確認したアドニスは持参してきたロープを手近な木に括り付けると、自分の腰にも巻き付け始めた。

その様子に驚く騎士たち。

「アドニス様? 何をしておられるのです?」

「もしかしてアドニス様が行かれるのですか?」

「そうだ。早く助けなければ」

返事をしながら、アドニスは何重にもロープを巻いていく。

「危険ですから、ここは我々が行きます」

「そうです、どうかお任せください!」

慌てて引き留めようとする騎士たちだったが、アドニスは首を振った。

「いや、俺が行く」

「ですが、危険では……!」

するとアドニスは声を張り上げた。

「下にいる彼女はもっと危険な状況なんだ!」

騎士たちの制止を振り切るとアドニスは穴に近づき、腰に巻いたロープを握りしめた。

「ゆっくり降ろしてくれ。頼む」

『……はい!』

騎士たちはロープを慎重に手繰り寄せながら、アドニスの身体をゆっくりと穴の中へと降ろしていく。

騎士の1人が穴に向けている松明の灯が揺れ、アドニスの長い影が土壁にユラユラと映し出されている。

「……っ」

冷たい空気がアドニスの肌を刺し、思わず顔をしかめる。

(こんな寒い場所で……!)

穴の底に近づくにつれ、湿った土の匂いが強くなり周囲の闇が濃くなっていく。

そしてついにアドニスはサフィニアの近くに降り立った。

「ソフィアさん!」

アドニスは枯葉の中に身を沈めているサフィニアを抱き上げ、揺すぶった。

「ソフィアさん! 目を開けてくれ!」

呼びかけても返事はない。
だが……微かに息をしているのが分かった。

「……良かった……生きている……」

アドニスは一瞬、強くサフィニアを抱きしめた。するとトクントクンと……微かな心臓の音が聞こえる。

「待たせてごめん‥…」

意識のないサフィニアに語り掛け、片腕で抱きかかえた。
そしてもう片方の手でロープを握りしめ、上を向いて大きな声で叫んだ

「引き上げてくれ!」

『はい!』

騎士たちは声を合わせ、力を込めてロープを引っ張っていく。
土壁がパラパラと崩れ……枯葉が舞う中、アドニスとサフィニアの身体がゆっくりと地上へと引き上げられていく。

アドニスがサフィニアを救出してくると、騎士たちは歓声を上げた。

「ソフィアさん……!」

大きな声で呼びかけ再度呼びかけるも、やはり返事はない。
サフィニアの身体は土で汚れ、肌は氷のように冷え切っている。
アドニスは自分の服が汚れるのも厭わず、サフィニアをしっかりと抱き上げた。

「すぐに城に戻るぞ!」

『はい!』

騎士たちは松明を掲げ、アドニスを先頭に森の出口を目指して歩き出した。
その後ろには二人のフットマン。
彼等は騎士たちに取り囲まれるようにして、俯きながら震えて歩いている。

「いいか、お前たち。城に戻ったら、じっくり尋問させてもらう。分かったな」

副隊長の厳しい声に、フットマンたちは顔を強張らせ、さらに肩をすくめた。

森の木々がザワザワと揺れ、冷たい風が吹き抜ける中。
落ち葉を踏みしめながら彼らは城へと戻って行った――


****


――その頃。

「ふわぁぁああ……何だか眠くなってきたわ」

エリーゼは読んでいた本をパタンと閉じると、欠伸をした。時計の針は22時を少し回っている。

「では、そろそろお休みの準備をいたしましょうか?」

刺繍をしている手を止め、バネッサは顔を上げた。

「そうね……あら?」

城の廊下に、大勢の足音が響いていることにエリーゼは気づいた。

「何だか、廊下が騒がしいわね……」

「……そうでしょうか? 気のせいではありませんか?」

再びバネッサは刺繍の続きを再開する。

「気のせいなんかじゃないわよ。ちょっと様子を見てくるわ」

エリーゼは立ち上がり、扉に近づき……そっと開けて廊下を覗き込んだ。

「!」

その瞬間、顔から血の気が引く。
何故なら土にまみれ、ぐったりとしたサフィニアをアドニスが険しい表情で抱きかかえて歩いている姿を目撃したからだ。
その後ろには沈痛な表情の騎士たちが続いている。

「う、嘘……」

エリーゼは慌てて扉を閉めると、バネッサの元へ駆け寄った。

「バネッサ! 一体どういうことなの!? い、今……アドニス様が、あのメイドを抱き上げて城へ帰って来たのよ!」

声を震わせながら詰め寄るエリーゼ。
だが、バネッサは刺繍の手を止めることなく言った。

「……あら、そうなのですか? まさかもう見つかったなんて。意外と早かったですね」

その言葉にエリーゼの顔から血の気が失せる。

「そ、それっていったいどういう意味……? あなた、私に言ったわよね? あのメイドは無事だって……なのに……!」

「だから無事だと言ったではありませんか」

「え……?」

バネッサは顔を上げ、笑みを浮かべた。

「つまり、落とし穴に落ちても死ななかったということですよ。それで無事だと告げたのです」

「バ、バネッサ……?」

その淡々とした口調に、エリーゼの背筋が凍りつく

「だ、だけど……い、今まであのメイドは落とし穴にいたのよね? こんな寒空の下で……」

「ええ、そうですね。一晩、頭を冷やさせようと思ったので」

「一晩って……! もし死んだらどうするつもりだったのよ!?」

「……あまり大きな声を出すと、話を聞かれてしまいますよ?」

「!」

バネッサの言葉に、エリーゼは慌てて両手で口を押さえた。

「運が良ければ助かる。悪ければ死ぬ。それだけのことではありませんか。……そして、あのメイドは運が良かった。つまり、そういうことです」

バネッサは何ということもない顔で、再び針を動かし始めた。

「だ、だけど……落とし穴を掘ったのは……」

「証拠はありませんよね? 森にはいくつも落とし穴があるかもしれない。あのメイドは自分で穴から這い上がって、別の穴に落ちた可能性だってあるわけですよね?」

「バ、バネッサ……」

「大丈夫です。エリーゼ様。私はあなたの味方です。黙っていれば、バレることはありませんから」

バネッサは冷たい笑みを浮かべ……エリーゼを見つめた――


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