孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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8-4 旅立つ前に

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 焚火の炎がぱちぱちと音を立て、オレンジ色の光が2人の顔を照らしていた。

サフィニアとレオンは、誰にも聞かれないように小声で今後の計画を立てている真っ最中だった。

「ここには2カ月しか暮らしていないので、私の荷物は殆どありません。用意するのにさほど時間はかからないです。お金も宰相様から頂いたので大丈夫だと思います」

サフィニアは革袋を開けると、ぎっしりと金貨が詰まっていた。

「まぁ……宝石まで入っているわ」

サフィニアは眼を見開く。

「これはすごい大金ですね……こんなに沢山の金貨、生まれて初めて見ます。……だけど、それだけ宰相様は本気だということなのでしょうね……」

レオンはサフィニアをどこか寂し気な眼差しで見つめる。

「私もそう思います。エリーゼ様とも宰相様とも約束した以上、早急にここを出た方が良いでしょうね……」

「騎士団施設の人たちには……どうするつもりです? 話をされるのですか?」

するとサフィニアは首を振った。

「ここを出て行くと言えば、多分反対されると思います。だから……書置きだけして去るつもりです」

サフィニアの言葉には悲しみが満ちている。

「サフィニア様……」

「明日、買い物に行くと偽ってここを出て行こうと思っているんです」

「え……? もう明日、旅立たれるのですか?」

驚きで目を見開くレオン。

「……あ、そうでしたね。レオンさんにも都合がありましたよね……」

「いえ、僕のことなら大丈夫です。元々教会には居候だったのですから。また旅に出ると言ってお別れすればよいだけです。だからどうか気になさらないでください」

「レオンさん……」

「でも、そういうことでしたら、僕が明日荷馬車をよういして、お迎えに上がりましょう」

「でしたらこの金貨を使ってください」

サフィニアが麻袋を差し出すと、レオンは慌てて首を振る。

「い、いえ。このお金はサフィニア様が宰相様から頂いたものです。どうぞサフィニア様自身が持っていてください。……それでは、金貨1枚だけ預からせていただけますか? これで本日荷馬車を用意しますから」

「お願いします。レオンさん」

サフィニアは金貨を1枚手渡した。

「それで……明日何時頃お迎えに伺えばよろしいでしょうか?」

「そうですね……11時にこちらに来られそうでしょうか?」

「はい、大丈夫です。では明日の準備のために、本日はここで失礼させていただきます」

レオンはベンチから立ち上がった。

「本当にありがとうございます、レオンさん」

「いえ、サフィニア様のお役に立てるなら……光栄です」

夕日のせいか、レオンの顔はいつにもまして赤く染まっていた――


****


 レオンと別れた後、サフィニアは出来上がった炭と乾燥させた薬草を詰め所にいるマーサへ渡した。

「ありがとう、ソフィアちゃん。助かったわ」

笑顔で頭を撫でてくれるマーサに、思わず胸が熱くなる。

(ママ……!)

亡き母の面影を重ねてしまい、目が潤んでくる。

「あら……? どかしたの?」

サフィニアの様子がおかしいことに気付いたマーサは心配そうに尋ねてきた。

「いえ、ちょっと目にゴミが入ったみたいで……でも、もう大丈夫です」

「そう? ならいいけど……」

「あの……少し部屋の片づけをしてきてもいいですか? 足が不自由だったので、掃除が行き届いてなくて」

(これ以上ここにいると、増々涙が出てきそうになるもの……)

絶対に泣かないと決めていたサフィニアは、泣きそうになる気持ちを堪えて訴えた。

「ええ、いいわよ」

「それでは失礼いたします」

会釈をして詰め所を出ると、サフィニアは杖をつきながら自室に戻った――


――パタン……

部屋に戻ったサフィニアは扉を閉じ、ため息をついた。

「ふぅ……良かった……何とか涙を抑えることが出来たわ」

ハンカチで涙が滲みかけていた目頭を押さえると窓際のライティングデスクに向かい、短い手紙をしたためた。
何度か涙が滲みかけ、手元が震えそうになりながらサフィニアは文字を綴り……ペンを置いた。

「書けたわ……」

書いた手紙を読み直す。

『短い間でしたが、今まで本当にお世話になりました。 この場所で過ごした日々は、私にとってかけがえのない大切な思い出です。 どうか皆様、いつまでもお元気でいてください』

理由は何一つ書かず、ただ感謝の言葉だけが綴られた手紙だった。

「ごめんなさい……理由を書けなくて」

誰に言うともなくポツリと呟くサフィニア。
手紙を引き出しにしまうと、次に荷物の整理を始めた。

殆ど私物を持たないサフィニアの荷造りは、本当に簡単な物だった。
全ての荷物が、麻のクロスに全て納まってしまったのだ。

「荷物が少なくて助かったわ……これなら買い物に持って行っても違和感がないもの」

サフィニア派荷造りしたクロスをギュッと握りしめると、俯いて肩を震わせた。

「……アドニス様……」

ポツリと呟くその声は……涙声だった――


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