孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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8-12 再会、そして……

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 ガタガタと汽車の揺れに合わせて、サフィニアはふと目を覚ました。

向かいの席ではセザールが腕を組み、窓に寄りかかるようにして眠っている。
いつも冷静で隙のない彼の姿が、今は少しだけ無防備に見えた。

「……セザール?」

そっと声をかけてみたが、目を覚ます気配はない。
その時、肩に掛けられていた外套に気付いた。

「これは……セザールの……?」

セザールが自分に掛けてくれたのだと悟り、サフィニアの顔に笑みが浮かぶ。

「ありがとう、セザール」

外套を外すとセザールにかけ直し、代わりにストールを羽織る音を立てないように席を立った――


「風が冷たくて気持ちいいわ……」

デッキに出ると冷たい空気が頬を撫でた。
汽車は蒸気を上げながら海外線を走っている。水平線の向こうからは、朝日が昇り始めて空を朱に染めていた。

「奇麗……レオンさんも同じ景色を見ているのかしら……?」

かつて二人で海を眺めた時のことが脳裏に蘇り、再び胸が締め付けられる。

「レオンさん……」

ポツリと呟いたその時。

「サフィニア様っ!」

背後から大きな声が響き、サフィニアは驚いて振り向いた。
すると肩で息をし、取り乱した様子のセザールがデッキの入り口に立っている。

「セザール……? そんなに慌ててどうしたの?」

するとセザールは一瞬泣きそうに顔を歪め、駆け寄ってくるとサフィニアを強く抱きしめてきた。

「!」

突然の抱擁にサフィニアは戸惑う。

「セ、セザール……?」

「……良かった……」

くぐもった声が聞こえる。

「え?」

「目を覚ましたら……サフィニア様のお姿が見えなくなっていたので……昨夜、あまりにも思いつめた様子だったので……何か良からぬことがあったのではないかと……」

いつも落ち着いたセザールしか見たことがなかっただけに、サフィニアは驚いた。

「まさか……私が命を絶ったと思ったの……?」

「……はい」

サフィニアは首を振った。

「そんなこと、もう二度としないわ。安心して」

その言葉にセザールは我に返り、慌ててサフィニアから身体を離すと深々と頭を下げた。

「申し訳ございません。いくら驚いていたとはいえ、勝手に抱きしめてしまいました」

「いいの、気にしないで。勝手に席を立ったりしてごめんなさい。少しだけ外の空気を吸ってみたかったの」

「そうでしたか……でも、外は冷えます。車内へ戻りましょう。後一時間ほどで王都に到着すると思いますから」

「分かったわ」

サフィニアは頷き、セザールに連れられて車内へと戻っていった――


****


太陽が完全に姿を現した頃、汽車は王都に到着した。

蒸気を吐き出す機関車の音に混じって、人々のざわめきが広がる。

「サフィニア様、足元にお気を付けください」

セザールは二人分の荷物を抱え、サフィニアを気遣いながらホームへと降り立った。

「すごい。人が、こんなに沢山いるわ」

大勢の人混みに驚き、サフィニアは思わず足を止める。

「はい、王都には多くの人々が出入りしています。はぐれないように僕についてきてくださいね」

「ええ」

二人はごった返す駅舎を抜けると外へ出た。
駅前も多くの人々で賑わっている。

「王宮騎士団施設までは辻馬車を拾っていくの?」

サフィニアが尋ねると、セザールは首を振った。

「いいえ、迎えの馬車が来ているはず……あ、あれです! 参りましょう」

駅前広場に停まっていたのは、黒漆の車体に金の縁取りが施された立派な馬車だった。
扉には王室の紋章が刻まれ、二頭立ての白馬が銀の馬具を輝かせている。

「こ、こんな立派な馬車……乗れないわ」

見思わず気後れするサフィニア。
みすぼらしい服装の自分が乗るには、あまりにも立派過ぎた。

「ですが、アドニス様の御意向です。お乗りください」

「……分かったわ」

セザールが扉を開けると、サフィニアは緊張した面持ちで馬車に乗り込んだ。続いて彼も乗り込み、扉が閉まる。

ガラガラガラガラ……

二人を乗せた馬車はゆっくりと城へ向かって走り始めた――


****


「もう二度とここには戻ってこないつもりだったのに……不思議なものね。ほんの数日ここを出たばかりなのに、懐かしい気持ちになるなんて……」

窓の外を眺めながらサフィニアが呟くと、セザールは微笑んだ。

「そうなのですね? でも懐かしい気持ちになっていただいて嬉しいです」

しかしその心の奥では、まだサフィニアに告げていない重大な隠し事をしていることに申し訳ない気持ちで一杯だった――


やがて馬車は城に到着し、サフィニアは顔を曇らせた。 

「……あの、王宮騎士団施設に行くのではなかったの?」

「はい。アドニス様は城の応接室でお待ちになっているからです」

(城にはエリーゼ様と宰相様がいるわ……だけど……もう、逃げるのは終わりにするのよ)

「そう……分かったわ」

サフィニアは自分に言い聞かせると、馬車を降りた。

「では、参りましょう」

緊張の面持ちでセザールに伴われ、サフィニアは城の中へ足を踏み入れた――


****


 二人並んで長い廊下を歩き、重厚な扉の前でセザールは足を止めると扉をノックした。

「アドニス様、セザールです。失礼いたします」

そして扉を大きく開け放った瞬間――

「サフィニア!」

応接室の奥からアドニスが駆け寄ってきた。

「!」

突然本当の名前を呼ばれ、サフィニアは驚いて硬直する。

「良かった……戻ってきてくれたんだね……」

笑顔でサフィニアを見つめるアドニス。

「は、はい……ただいま戻って参りました。ですがサフィニアって……」

戸惑いながら返事をしたとき。

「サフィニア……? サフィニア様!?」

部屋の奥から聞き覚えのある声が響き渡り、顔を上げたサフィニアは衝撃で目を見開く。

「ヘスティア……? ジルベール……?」

視線の先には、こちらを見つめるヘスティアとジルベールの姿があった――
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