孤独な公女~私は死んだことにしてください

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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9-13 ジルベール 9

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 ――10時半。

 ジルベールは馬車の前に立っていた。
向かい側には母の姿もある。

「それでは、母上。
行ってきます」

「ジルベール、行ってらっしゃい。
誠心誠意、公女様に
今までの非礼をお詫びして
正直に全て話すのよ。
そのうえで、公女様から
婚約破棄をしていただくよう
お願いしなさい」

「……はい、分かりました。母上」

婚約破棄という言葉に、
ズキリと胸を痛めながら
ジルベールは頷く。

「それでは行ってきます」

ジルベールは馬車に乗り込むと、
母親に見送られながら離宮へ向かった。

****

ガラガラガラガラ……

「……」

ガタガタと揺れる馬車の中で
ジルベールは固く口を結んでいた。

(本当に、僕は……サフィニア様に
婚約破棄してもらわなければ
ならないのだろうか……)

「サフィニア様……」

銀色に光り輝く髪に、
愁いを帯びた翡翠の瞳。

まるで月の女神のように美しく、
それでいて可憐な姿。
鈴を鳴らすような奇麗な声……。

何もかもがジルベールの心を
つかんで離さなかった。
サフィニアと結婚すれば、
きっと穏やかで幸せな暮らしが
出来ただろう……。

(僕も、サフィニア様も……
ただの平民だったなら、
一緒になれたかもしれないのに……)

「サフィニア様……僕は……」

ジルベールの目には、
いつしか涙が滲んでいた――

****

 馬車が離宮に到着した。

ジルベールは馬車を降りると、
ごくりと息を飲み
震える手で扉をノックした。

――コンコン。

するとすぐに扉が開かれ、
フットマンが姿を現す。

「これは、ジルベール様。
ようこそおいでくださいました」

「おはようございます、
サフィニア様はいらっしゃいますか?」

「はい、少々お待ちください」

「お願いします」

フットマンが去って行くと、
ジルベールは「ふぅ」と息を吐いた。

(大丈夫……。
今日は父の暗示にかかってもいない。
それに、もう演技をする理由も無い。
正直な気持ちでサフィニア様と向き合って……
今までの非礼を詫び、
そして……婚約破棄を……)

「婚約破棄」という言葉を思うだけで、
悲しい気持ちが込み上げてくる。

本当はこれで終わりにしたくなかった。
もっとサフィニアと一緒に
過ごす時間が欲しかった。

けれど、それを望んではいけない。
そのことがとても辛かった。

(でも駄目だ。僕と一緒になると
サフィニア様の身が危険にさらされてしまう……
でも、最後に。もう一度だけ
どこかへ一緒に出掛けたい……)

そこまで考えたとき。

「ジルベール、お待たせしました」

エントランスにサフィニアの姿が現れた。

(サフィニア様!)

暗示に掛けられていない状態で会う
サフィニアは久しぶりだった。

自然とジルベールの顔に笑みが浮かぶ。

「おはようございます。
サフィニア様」

するとサフィニアの顔に訝し気な
表情が浮かぶ。

(え? サフィニア様?)

しかし、ヘスティアが現れると
いつもの穏やかな笑顔を向けてくる。
そのことがジルベールは
とても嬉しかった。

(そうだ……! 今日でもう終わりに
していただくのだから……
せめて最後くらい……!)

そこでジルベールは思い切って口にした。

「サフィニア様、この間は一緒に
出掛けることが出来ませんでしたので、
本日伺いました。
どこかへお出掛けしませんか?
サフィニア様のお好きなところなら
どこでもお供いたしますよ」

しかし、サフィニアの口から出たのは
断りを告げる言葉だった――

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