216 / 219
9-14 ジルベール 10
しおりを挟む
ガラガラと揺れる馬車の中。
ジルベールとヘスティアは
向かい合わせに座っていた。
「申し訳ございません、
ジルベール様。
まさかサフィニア様が
お断りされるとは思わなくて……」
ヘスティアが申し訳なさそうに
頭を下げる。
「いえ。いいんですよ。
……多分、サフィニア様は
僕と出掛けるのがイヤだったのでしょう。
でも、そう思われても当然です。
何しろ今までの僕は酷い男でしたから」
ジルベールは自虐的に笑った。
「……そのことなのですが、
ジルベール様。
今日はどうなさったのです?
何だかいつもとは別人のように見えますが?」
「! 気づきましたか……!」
「はい、勿論です。恐らく
サフィニア様も気づかれていたと思います。
戸惑っておられたようですから」
「そう……でしたか」
ジルベールは俯き、掌を強く握りしめた。
(そうだ……
僕はヘスティア嬢にも
嘘をついていたことになる。
もう正直に何もかも話そう……!)
そこでジルベールは顔を上げた。
「ヘスティア嬢、
僕の話を聞いていただけますか?」
「……はい、お願いします」
ヘスティアはコクリと頷いた――
****
ジルベールは
今までの経緯をヘスティアに話した。
父親から平民の血を引く
サフィニアとの婚約を絶対に認めないと言われ、
婚約破棄を言わせるために
冷たくしろと命じられたこと。
ただし、ヘスティアに好意があるように
振舞えと命令されたことは告げずに。
自分は役者を目指しており、
心を痛めながらも最初は演技として
サフィニアに冷たい態度をとっていたこと。
けれど……。
いつの間にか父親から暗示をかけられ、
自分の意志とは関係なくサフィニアに
辛く当たってしまっていたことを……。
「そ、そんな……」
ヘスティアの顔がみるみる青ざめていく。
「それでは、あの馬車事故の時も
そうだったのですか!?
ジルベール様のお父様が仕組んだ
事故だったのですか!?」
興奮のあまり、
ヘスティアは勢いよく立ち上がった。
「落ち着いて下さい、ヘスティア嬢。
事故のことは父が絡んでいるのかは分かりません。
ですが……父があの場にいたことは
間違いありません。
サフィニア様が気に入って
手に取ったブローチを、
父は知っていたので」
「そうですか……それであのブローチを
サフィニア様にプレゼントするときに、
あえて私と選んだと言って渡されたのですね?
サフィニア様を傷つけるために」
「その通りだと思います……
いくら暗示に掛けられていたとはいえ……
僕が言ったことに変わりはありませんから……」
ジルベールは俯き、肩を震わせた。
「それでは、今日は暗示に
掛けられていないのですね?」
「はい、そうです!」
ヘスティアの質問に
ジルベールは大きく頷いた。
「父は暫く家には帰ってきませんし、
母が香炉を壊してくれました。
それに父の手口は分かりました。
もう同じ目に遭うことは絶対ありません。
ですが……母にも言われました。
サフィニア様の結婚には反対だと」
「そうですね。私もそう思います。
サフィニア様に危害を加えようとする
ウッド家に、大切なサフィニア様を
嫁がせるわけには参りませんから」
ヘスティアは座り直すと、
毅然と言い放った。
「……分かっております」
「いくらジルベール様が
サフィニア様を慕っておいででも……
貴方は何度もサフィニア様を
傷つけてきましたからね」
ヘスティアの言葉、一つ一つが
矢のようにジルベールの胸に
突き刺さってくる。
「はい……その通りです。
今まで散々傷つけてしまったお詫びをして……
きちんと事情を説明してサフィニア様から
婚約破棄をしていただきます」
「そうですか」
ヘスティアは深いため息をついた。
「でも、いきなりサフィニア様に
婚約破棄を申し出るのは
おやめいただけますか?」
「え? 何故ですか?」
ジルベールは、サフィニアが自分に
好意を抱いていることに気づいていなかった。
「それ……は……サフィニア様は……」
「え? サフィニア様がどうかしましたか?」
するとヘスティアは首を振った。
「いえ、何でもありません。
いきなりそのようなことを告げれば、
サフィニア様がショックを受けると思うからです。
せめて少しでも良い思い出を……
サフィニア様に作って差し上げたいのです。
それともジルベール様は、
このまますぐにサフィニア様と
お別れをしても良いのですか?」
ジルベールの脳裏にサフィニアの姿がよぎる。
(僕は……我儘な願いかもしれないけれど、
サフィニア様の笑顔を心に刻みつけて、
お別れしたい……!)
「ヘスティア嬢、お願いがあります。
サフィニア様が好みそうな
アクセサリーを選ぶお手伝いを
していただけますか?」
ジルベールは深く頭を下げた――
ジルベールとヘスティアは
向かい合わせに座っていた。
「申し訳ございません、
ジルベール様。
まさかサフィニア様が
お断りされるとは思わなくて……」
ヘスティアが申し訳なさそうに
頭を下げる。
「いえ。いいんですよ。
……多分、サフィニア様は
僕と出掛けるのがイヤだったのでしょう。
でも、そう思われても当然です。
何しろ今までの僕は酷い男でしたから」
ジルベールは自虐的に笑った。
「……そのことなのですが、
ジルベール様。
今日はどうなさったのです?
何だかいつもとは別人のように見えますが?」
「! 気づきましたか……!」
「はい、勿論です。恐らく
サフィニア様も気づかれていたと思います。
戸惑っておられたようですから」
「そう……でしたか」
ジルベールは俯き、掌を強く握りしめた。
(そうだ……
僕はヘスティア嬢にも
嘘をついていたことになる。
もう正直に何もかも話そう……!)
そこでジルベールは顔を上げた。
「ヘスティア嬢、
僕の話を聞いていただけますか?」
「……はい、お願いします」
ヘスティアはコクリと頷いた――
****
ジルベールは
今までの経緯をヘスティアに話した。
父親から平民の血を引く
サフィニアとの婚約を絶対に認めないと言われ、
婚約破棄を言わせるために
冷たくしろと命じられたこと。
ただし、ヘスティアに好意があるように
振舞えと命令されたことは告げずに。
自分は役者を目指しており、
心を痛めながらも最初は演技として
サフィニアに冷たい態度をとっていたこと。
けれど……。
いつの間にか父親から暗示をかけられ、
自分の意志とは関係なくサフィニアに
辛く当たってしまっていたことを……。
「そ、そんな……」
ヘスティアの顔がみるみる青ざめていく。
「それでは、あの馬車事故の時も
そうだったのですか!?
ジルベール様のお父様が仕組んだ
事故だったのですか!?」
興奮のあまり、
ヘスティアは勢いよく立ち上がった。
「落ち着いて下さい、ヘスティア嬢。
事故のことは父が絡んでいるのかは分かりません。
ですが……父があの場にいたことは
間違いありません。
サフィニア様が気に入って
手に取ったブローチを、
父は知っていたので」
「そうですか……それであのブローチを
サフィニア様にプレゼントするときに、
あえて私と選んだと言って渡されたのですね?
サフィニア様を傷つけるために」
「その通りだと思います……
いくら暗示に掛けられていたとはいえ……
僕が言ったことに変わりはありませんから……」
ジルベールは俯き、肩を震わせた。
「それでは、今日は暗示に
掛けられていないのですね?」
「はい、そうです!」
ヘスティアの質問に
ジルベールは大きく頷いた。
「父は暫く家には帰ってきませんし、
母が香炉を壊してくれました。
それに父の手口は分かりました。
もう同じ目に遭うことは絶対ありません。
ですが……母にも言われました。
サフィニア様の結婚には反対だと」
「そうですね。私もそう思います。
サフィニア様に危害を加えようとする
ウッド家に、大切なサフィニア様を
嫁がせるわけには参りませんから」
ヘスティアは座り直すと、
毅然と言い放った。
「……分かっております」
「いくらジルベール様が
サフィニア様を慕っておいででも……
貴方は何度もサフィニア様を
傷つけてきましたからね」
ヘスティアの言葉、一つ一つが
矢のようにジルベールの胸に
突き刺さってくる。
「はい……その通りです。
今まで散々傷つけてしまったお詫びをして……
きちんと事情を説明してサフィニア様から
婚約破棄をしていただきます」
「そうですか」
ヘスティアは深いため息をついた。
「でも、いきなりサフィニア様に
婚約破棄を申し出るのは
おやめいただけますか?」
「え? 何故ですか?」
ジルベールは、サフィニアが自分に
好意を抱いていることに気づいていなかった。
「それ……は……サフィニア様は……」
「え? サフィニア様がどうかしましたか?」
するとヘスティアは首を振った。
「いえ、何でもありません。
いきなりそのようなことを告げれば、
サフィニア様がショックを受けると思うからです。
せめて少しでも良い思い出を……
サフィニア様に作って差し上げたいのです。
それともジルベール様は、
このまますぐにサフィニア様と
お別れをしても良いのですか?」
ジルベールの脳裏にサフィニアの姿がよぎる。
(僕は……我儘な願いかもしれないけれど、
サフィニア様の笑顔を心に刻みつけて、
お別れしたい……!)
「ヘスティア嬢、お願いがあります。
サフィニア様が好みそうな
アクセサリーを選ぶお手伝いを
していただけますか?」
ジルベールは深く頭を下げた――
321
あなたにおすすめの小説
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を
桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。
政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。
二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。
だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。
聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。
その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。
やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく……
ーーーーーーーー
初作品です。
自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる