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10-2 サフィニアとジルベール 2
「10歳の頃に……?」
サフィニアは震える声で尋ねた。
「はい、そうです」
頷くジルベール。
「先生の話では……その頃が
一番ヘスティア嬢が幸せだったのでは
ないだろうかということでした。
サフィニア様と出会い、
侍女としての役目について
毎日がとても充実していた……
かけがえのない日々だったのだろうと」
「!」
サフィニアの肩が小さく跳ねる。
ヘスティアの中で自分の存在が
どれ程大きく占めていたのかを
改めて気付かされた。
そして、同時にヘスティアに対する
申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「……ごめんなさい、ヘスティア……」
サフィニアは眠っているヘスティアを見つめた。
ジルベールは続けた。
「ヘスティア嬢のご両親が迎えに来るまで
僕は離宮に仮住まいして、ずっと傍にいました。
とても一人にしておけなかったので……」
「離宮に……?
ウッド伯爵に反対されなかったの?」
サフィニアの質問に
ジルベールは一瞬苦笑した。
「確かに反対はされました。
ですが……もう父は当主ではありませんから」
「え?」
サフィニアの目が大きく見開かれる。
「父は、家族会議で当主の座を剥奪されました。
母も兄たちも、父の行いをこれ以上
見過ごすことはできないと判断したのです」
「!」
「暗示の件……サフィニア様への侮辱……
そして、馬車事故の件。
どれも家の名誉を著しく傷つける行為でした。
このままではウッド家そのものが潰れると
母と兄たちは判断したのです」
あまりの話に、サフィニアは言葉を失った。
「父は抵抗しましたが……
最悪、爵位剥奪は免れません。
何しろ、父は馬車事故まで
引き起こしていますから。
最終的には……父自身が
当主の座を降りることを認めました」
「そうだったの……」
サフィニアは他に掛ける言葉が
見つからなかった。
「ですから……僕はもう
父の許可を得る必要はありません。
ヘスティア嬢を守るために
離宮に滞在することも」
そこでジルベールはサフィニアを見つめた。
その瞳には半年間の苦しみから
解放された安堵の表情が浮かんでいる。
「今は長兄が当主の座に就き、
ウッド家の信頼回復のために
次兄と一緒に奔走している最中です。
……僕と母が、エストマン公爵様に
今回のことをすべて説明しましたから」
「……え?」
サフィニアは息を呑んだ。
「公爵様は父のことを
大層ご立腹されておりました。
『ウッド伯爵は今まで猫を被っていたのか』と
仰っていました」
「……そう、だったの」
サフィニアは視線を落とした。
ジルベールの説明だけで、気づいてしまった。
(やっぱり……私はお父様にとって
どうでも良い存在だったのね……)
その事実が、改めて突きつけられた気がした。
ジルベールもサフィニアの表情の変化に
気づいたのだろう。
ためらいがちに続けた。
「ラファエル様に人形を燃やされてから……
一週間ほどで、ヘスティア嬢のご両親が
離宮に迎えに来られました。
ですがヘスティア嬢は最後まで
『私はここを離れない。
サフィニア様の傍にいる』と
泣きながら抵抗して……」
「……」
サフィニアの胸がズキリと痛む。
ジルベールは拳を握りしめた。
「ですが、エストマン公爵からは
早急に離宮から出て行くように
命じられていましたので……
ご両親が強引にヘスティア嬢を……
連れ帰ったのです……」
「ヘスティア……」
サフィニアの目に再び涙が浮かぶ。
「ごめんなさい……ヘスティア……」
眠っているヘスティアの手を
そっと握りしめた。
ジルベールは苦しげに目を伏せ、続けた。
「その後……サフィニア様の葬儀が
しめやかに執り行われました。
ですが……僕は参列を許されませんでした。
あの時は……本当に悲しかったです」
「ジルベール……」
「だから……サフィニア様が
生きていらっしゃったと知った時は……
本当に……心の底から嬉しかったのです」
ジルベールは泣き笑いのような表情で
サフィニアを見つめた――
サフィニアは震える声で尋ねた。
「はい、そうです」
頷くジルベール。
「先生の話では……その頃が
一番ヘスティア嬢が幸せだったのでは
ないだろうかということでした。
サフィニア様と出会い、
侍女としての役目について
毎日がとても充実していた……
かけがえのない日々だったのだろうと」
「!」
サフィニアの肩が小さく跳ねる。
ヘスティアの中で自分の存在が
どれ程大きく占めていたのかを
改めて気付かされた。
そして、同時にヘスティアに対する
申し訳ない気持ちが込み上げてくる。
「……ごめんなさい、ヘスティア……」
サフィニアは眠っているヘスティアを見つめた。
ジルベールは続けた。
「ヘスティア嬢のご両親が迎えに来るまで
僕は離宮に仮住まいして、ずっと傍にいました。
とても一人にしておけなかったので……」
「離宮に……?
ウッド伯爵に反対されなかったの?」
サフィニアの質問に
ジルベールは一瞬苦笑した。
「確かに反対はされました。
ですが……もう父は当主ではありませんから」
「え?」
サフィニアの目が大きく見開かれる。
「父は、家族会議で当主の座を剥奪されました。
母も兄たちも、父の行いをこれ以上
見過ごすことはできないと判断したのです」
「!」
「暗示の件……サフィニア様への侮辱……
そして、馬車事故の件。
どれも家の名誉を著しく傷つける行為でした。
このままではウッド家そのものが潰れると
母と兄たちは判断したのです」
あまりの話に、サフィニアは言葉を失った。
「父は抵抗しましたが……
最悪、爵位剥奪は免れません。
何しろ、父は馬車事故まで
引き起こしていますから。
最終的には……父自身が
当主の座を降りることを認めました」
「そうだったの……」
サフィニアは他に掛ける言葉が
見つからなかった。
「ですから……僕はもう
父の許可を得る必要はありません。
ヘスティア嬢を守るために
離宮に滞在することも」
そこでジルベールはサフィニアを見つめた。
その瞳には半年間の苦しみから
解放された安堵の表情が浮かんでいる。
「今は長兄が当主の座に就き、
ウッド家の信頼回復のために
次兄と一緒に奔走している最中です。
……僕と母が、エストマン公爵様に
今回のことをすべて説明しましたから」
「……え?」
サフィニアは息を呑んだ。
「公爵様は父のことを
大層ご立腹されておりました。
『ウッド伯爵は今まで猫を被っていたのか』と
仰っていました」
「……そう、だったの」
サフィニアは視線を落とした。
ジルベールの説明だけで、気づいてしまった。
(やっぱり……私はお父様にとって
どうでも良い存在だったのね……)
その事実が、改めて突きつけられた気がした。
ジルベールもサフィニアの表情の変化に
気づいたのだろう。
ためらいがちに続けた。
「ラファエル様に人形を燃やされてから……
一週間ほどで、ヘスティア嬢のご両親が
離宮に迎えに来られました。
ですがヘスティア嬢は最後まで
『私はここを離れない。
サフィニア様の傍にいる』と
泣きながら抵抗して……」
「……」
サフィニアの胸がズキリと痛む。
ジルベールは拳を握りしめた。
「ですが、エストマン公爵からは
早急に離宮から出て行くように
命じられていましたので……
ご両親が強引にヘスティア嬢を……
連れ帰ったのです……」
「ヘスティア……」
サフィニアの目に再び涙が浮かぶ。
「ごめんなさい……ヘスティア……」
眠っているヘスティアの手を
そっと握りしめた。
ジルベールは苦しげに目を伏せ、続けた。
「その後……サフィニア様の葬儀が
しめやかに執り行われました。
ですが……僕は参列を許されませんでした。
あの時は……本当に悲しかったです」
「ジルベール……」
「だから……サフィニア様が
生きていらっしゃったと知った時は……
本当に……心の底から嬉しかったのです」
ジルベールは泣き笑いのような表情で
サフィニアを見つめた――
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